日本特撮 A la carte(1992年冬)

ゴジラの大ヒットにこれから
の東宝特撮に期待しよう

 1214日に公開された『ゴジラVSキングギドラ』(脚本・監督:大森一樹、特技監督:川北紘一)は、1415日共にほとんどの劇場が満席で、最終的には20億円の興収になるのでは、という大ヒットとなった。東宝は93年正月映画として、シリーズ第19作にあたる『ゴジラVSモスラ』を決定しており(劇場で特報フィルムを見て驚いた人も多いだろう)、スタッフの苦闘とガンバリを知る人間のひとりとして、この次回作へとつながる大ヒットを喜びたい。
 カラー・ページでも合成シーンの秘密と題して、メイキングについて少し触れたが、川北紘一特技監督に特撮の狙いをインタビューしたので、それを紹介してみたい。
「円谷さんが撮った昔のキングギドラをすべて見直してみて、実はギドラがそんなに飛んでないのに気がついた。それにギドラのアップがない、このふたつは、今回、絶対やってみよう、と思っていた。なぜ飛んでいないのかといえば、やはり、操演が難しかったんだろうと思う----それは今回、思い知ったから(笑)。だから、福岡のシーンでは、街の上空をヘリコプターで飛んで、江口(憲一キャメラマン)とギドラになりきって、あそこを壊そう、ここを壊そうと空中撮影して、そこに影を入れたり、ギドラを合成したりして、実景も特撮班で撮ってみた。群衆シーンも運動会ばかりじゃ寂しいから、実景の逃げてるシーンにギドラをどんどん合成して、あとはスケール・アップした25分の1のミニチュア・セットで破壊シーンを撮れば成立できるだろう、と思っていた。福岡は、基本的に実景にギドラを合成して、空中からギドラが街を破壊していくというテーマを決めて撮影した。逆に、新宿では、セット中心で実景は使わない……そういう設計は、はっきり決めたほうがいいんだよ」
 例えば、『ゴジラVSビオランテ』では、大阪ツイン・タワー周辺の攻防戦シーンは、地面が見えたら1番ステージに建てたセットで、地面が見えなかったらすべてオープン撮影で、と決めて撮影設計がなされていた。ツイン・タワーを崩すシーンもオープン撮影である。オープン撮影はライティングも透明感のあるシャープさを生めるし、火や煙の散り方もセットとはまるで違う----では、なぜ今回の新宿周辺のはセットなのか、それは、
「ギドラが飛ぶので、操演の苦労が並大抵じゃない。クレーンですべてやる訳にはいかないので、ステージのセットでやろうと決めていた」
と、川北監督は語る。
『ゴジラVSビオランテ』では、2カメラだったのを、今回は、3カメラの態勢をしいたという。江口憲一撮影監督、合成撮影の桜井景一キャメラマン、Bカメラの大根田俊充キャメラマンの3人である。
「もともと俺はカットが多いんだけど、今回も3カメラをまわし続けた。江口がメインで、桜井はギドラの顔のアップを、大根田さんはクレーンに乗って俯瞰ショットを狙った。新都庁舎のところで、ギドラが落ちてきてゴジラにのしかかるところは、その3カメラで狙った。あのシーンは、ステージじゃ6メートルぐらいしかない、それを何百メートルの落下感を出すため、その3カメラの映像を繰り返し見せることで、時間空間を伸ばして大きさを出した。カメラのポジションも、毎回4人で話し合って、自在にアングルを固定化せず、自由に撮ることで、意外性のある映像を今回はかなり意識してやってみた」
 札幌のゴジラとメーサー・タンク部隊の攻防戦シーンでは、パン撮影でメーサー・タンクの光線を追って見せるという撮影も見せている。
「あのカットは、Bカメラの大根田さんが撮ったんだけど、メーサー・タンクから発射される光線をパンして、ゴジラにパンすると、ババババッと火花散るというカットだった。でも、光線はもちろんないし、うまくゴジラが映った時、ババババッと火薬の弾着があうかどうか、何たってハイ・スピード撮影で、それがノーマル・スピードに戻ったタイミングを狙って撮影するんだから難しい。でも、ああいうメーサー・タンクが出す光線をパンして、ゴジラにあたってババババッと火花が散るという1カットがカッコいい訳で、大変だった札幌のシーンもああいう撮影がひきしめていると思う」
 カラー・ページでも触れたが、今回は、さらにフロント・プロジェクション合成で、特撮と本編を融合させるカット割りに挑戦している。
「ゴジラが画面に向かって光線を吐くカットを今回、撮ってるけど、あれは大森さんのほうから、土屋嘉男さんのカラミのシーンもあるけど、“客観の光線ばかりじゃなくて、主観の光線も作ってみましょう”と、最初に提案があって、光線も芝居させてみるか、とやってみたカット。こういう意図はとても大事なことだ。ゴジラの見た主観、ギドラの見た主観を狙ったのも同じで、ああいうカットを連続させることで、特撮と本編が連動してくる。だから、土屋嘉男さんとゴジラが見つめ合うシーンも、フロント・プロジェクションで放射能火炎を合成したゴジラを合成して、そのあと、土屋さんが放射能火炎に飲み込まれて、包まれる合成を加えるという3段階の合成にしてある。ああいう風にしないと、光線に土屋さんが包まれないんで気持ちよくないからね(笑)」
 929日に東京国際映画祭で上映された『ゴジラVSキングギドラ』だが、川北組の作業は1020日まで、約3週間続いていた。フィルムに映ってしまっているギドラや飛行機、円盤のワイヤーや合成のマスクズレを直すリテイク作業を続けていたのである。川北特技監督はこう語る。
「公開までまだ時間もあったし、ビデオやLDになった時のことを考えるとやはり直したかったからね。ワイヤー消しの合成やマスクズレの直しは、約40カットくらいかな。俺は、前にも『大空のサムライ』や『零戦燃ゆ』でもやってたんだけどね。その時、思ったのは、特撮だとワイヤーが見えてしまうと、そのカットがどんなによくてもNGにして捨ててた。でも、仕上げの時間さえあれば、消す技術はあるんだし、ワイヤーを消すことで、いいカットをNGから救う手だってあるはずだということ。『ターミネーター2』のヘリに飛び乗るバイクも後で吊ってるワイヤーを消してる訳だし、これからはそういう発想も必要だと思う。今回は公開まで、完成から2ヶ月あったという仕上げの時間は本当によかったと思う」
 ラゴス島の恐竜のシークエンスでは、オープン撮影で川北特技監督自ら沖縄で買い込んできた建材ネットで葉ごしのランダムな照明を当てて、南海のジャングルの味に挑んでみた。こういう美術、照明の工夫は、いつか大きな実を結ぶだろう。
 準備中の『ゴジラVSモスラ』は、まだまだこれからの段階だが、川北特技監督にはこういう案があった。
「今回のゴジラは、実は首と肩が一緒になっていて、飛ぶ怪獣と戦うには、あまり首を自在に上へ曲げることができなかった。メカニカルなマペットのゴジラで、それはカバーしたんだけど、次回作のモスラでは、首と肩のところに二段階に曲がる着ぐるみを新たに作ることで、もっとアクティブに着ぐるみでも出せる動きやすさをゴジラのほうにも考えてみたい。フロント・プロジェクション合成や70㎜フィルムを使う合成、ブルーバック合成、アニメ合成と、今回いろいろなチャレンジもできたし、また、その成果を踏まえて。見ているだけでもおもしろい特撮を考えていきたい。いろいろやれるんだという実感はありますよ(笑)」
 思えば、日本映画は娯楽映画のジャンル・ムービーを次々と失ってきた。残っているジャンル・ムービーは、東映の現代やくざもの、松竹の山田洋次監督の寅さんを中心とした人情喜劇もの、東宝の「ゴジラ」シリーズの3本しかない。
 かつて、映画が“娯楽の王者”と言われたのは、そこに数々のエンターテインメントのジャンル・ムービーが結集していたからである。
 ラブ・ストーリーのアイドル青春映画、悲恋を主題に観客の涙をしぼった純愛映画、血湧き肉躍るアクション映画、スケール感たっぷりの戦争映画、さまざまなタイプの時代劇、夏の名物だった怪奇・怪談映画、楽しいミュージカル、愉快なコメディー映画、見ていて笑いながらふと身につまされる人情喜劇、エロティックでいつつ時に人間性をえぐるロマンポルノ、男と女のタギリを見せる任侠・ヤクザ映画、子供が大好きなアニメーション映画、破壊スペクタクルが見せ場の特撮映画……その中にあって、東宝の「ゴジラ」シリーズや怪獣映画は、映画だけが表現できる巨大怪獣が私たちの住む街に乱入して、痛快に暴れまくるスーパー・イメージを見せ続けてくれた娯楽映画中の娯楽映画であった。
 これは確信を持って言いたいのだが、日本映画を本当に復興させるためには、小津安二郎でも、溝口健二でも、黒澤明でもなく、そういう名匠、巨匠もジャンル・ムービーの頂点を突き抜ける形で、“人間の映画”として作品を成立させている事実に気がつくべきものと思う。ジャンル・ムービーの力を取り戻さなければ、観客を呼び込むことはできないのだ。
 1215日、東京・新宿コマ東宝で、満席で立ち見の中にまじって、『ゴジラVSキングギドラ』のクライマックスの伊福部音楽のコンサート会場かと見まがう映像と音楽の交感にシビレながら思ったのは、“これは映画だ!!”という実感であった。帰って行く親子連れの何とも顔に赤みがさした小学生たちの興奮----それは紛れもなく25年前の私たち第1期怪獣ファンと同じだと思う。ジャンル・ムービー再生をかけて製作を続ける東宝特撮に大きく期待してしまうのである。

東京大地震のイベント映画

 成城の東宝砧スタジオの近くにある東宝ビルト・スタジオでは、11月下旬から現在の東京を地震が襲うスペクタクル特撮『太陽が裂ける日』(仮題)の撮影が入っている。
 消防庁がスポンサーで、923月に立川市に開館する防災センターで上映するために15分間の長さに15千万円をかけたイベント用ムービーである。20分の1サイズの大型ミニチュアをオープンの野外セットで組み、撮影していく大がかりなもので、気になるスタッフは、絵コンテ・監督は、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー』の絵コンテを担当、『ミカドロイド』の特撮監督だった樋口真嗣がつとめ、本編と特撮両方の演出を手がけている。広がりのある美術は、『ガンヘッド』、『ゴジラVSビオランテ』、『ゴジラVSキングギドラ』のマープリング所属の大澤哲三美術監督が手がけ、20分の1という大サイズで、細やかな窓ガラス割れから、電柱ナメや建物の壊しにさまざまな工夫を見せている。撮影は『プルシアンブルーの肖像』の特撮パートの大岡新一撮影監督と石渡均キャメラマンで、陽光あふれる昼間の大都会を襲う恐怖の地震の映像に現代の味わいを加味しようと精力的に撮影が続いている。今回は、何と特殊美術の助手は、ご存知原口智生で、『スターウルフ』以来という特美の小物や電柱、自動車と元々美術出身だった腕を本編と特撮の両方へ見せている。操演は、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー』の亀甲船の根岸泉で、建物の砕け散る窓ガラスやはがれる壁面、走っていく地割れと人間がからまないエフェクト特撮から人間がらみの操演と凝ったエフェクトを繰り広げている。製作は、国際放映とシネ・セル。
 クランク・アップは1228日で、12月に合成、仕上げを完了して、3月防災センターの開館と共に上映の予定である。上映の詳しい日程は次号でお知らせしたいと思う。
 東宝の川北紘一組も1112月は、イベント用の博覧会映像を撮影していたが、おもしろい映像があれば、その都度紹介していきたいと思う。
 樋口真嗣監督にとっては、特撮に惹かれた最初が中野昭慶特技監督の『日本沈没』である、とかつて語っていたが、待ちに待っていた素材であり、合成、ナメの構図による広がり、本編と特撮連動と、いかなる映像に仕上げてくれるか、1日に昼間のシーンだけなため、13カットと入念な準備と設計による撮影が続いている。絵コンテをいくつかお見せして完成シーンは、次回、カラー・ページでお見せしたいと思う。
 ビデオ用映画のVシネマにも、ようやく特撮ものの企画が出始めている。
 バンダイ、東映の共同製作によるのが『真・仮面ライダー/序章』(原作:石ノ森章太郎、脚本:宮下準一、小野寺丈、スーパーヴァイザー:雨宮慶太、特技監督:矢島信男、監督:辻理、924月発売)、『大予言/復活の巨神』(脚本:江連卓、監督:小林義明、特撮監督:矢島信男、キャラクターデザイン:雨宮慶太、925月発売)の2本。
『仮面ライダー』のほうは、ファンが夢にまで見たリアル版の改造人間イメージをしっかりと作ってみよう、という製作意図で、真の仮面ライダー像を見せられるか。
 巨大コングロマリットが仕かけた分子的外科手術のバイオテクノロジーとサイバネティックスが生んだサイボーグ兵士計画、敢然とその人類への野望の前に立ちはだかる風祭真(石川功久)。
 まさに、ヤング・アダルトへ向けて放たれた『仮面ライダー』で、石ノ森章太郎らしい“青春ものの苦悩”もしっかりと描かれている。マニアックなファン層を狙うのも大切だが、ビジュアル的な宣伝の部分で、ロンリー・ヒーローのカッコよさとスゴ味のような(かつての松田優作の『遊戯』シリーズのように)大人っぽいビジュアルと宣伝をぜひ販売のバンダイには考えてもらいたい。思えば、『仮面ライダー』も20周年で、熱烈なファンがしっかりとライダーを中心に東映変身ヒーローへの熱い想いを書く時期にきたのだろう。
『大予言/復活の巨神』は、オリジナルの物語で、UFOや地球を壊滅させるパワーを持つ大巨神とどこまで特撮のイメージが広げられるか、完成シーンを見るのが楽しみである。
 ジェリー・アンダーソンの写真集は、ほぼ7割の編集を完了。3月下旬には刊行できそうだ。日本初公開写真満載なので、乞うご期待!!

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.591992


日本特撮 A la carte(1991年秋)

日本映画界にも久々に見応え
のある特撮作品がそろった!

 81日、特撮クランク・アップ、816日、本編クランク・アップ、916日、0号試写で進行していた東宝映画の『ゴジラVSキングギドラ』(脚本・監督:大森一樹、特技監督:川北紘一、1214日公開)が完成した。929日には、東京国際映画祭で招待参加上映されたので、一足早く見たファンもいるだろう。
 合成の手数がこれだけかかっている特撮映画は久しぶりで、本編(人間の芝居部分)のモニターCG、光線銃ほかの合成約70カット、フロントプロジェクション合成17カット、ブルーバック合成10カット、特撮シーンのアニメ合成、マットアート、本編と合成は、実に200カットを超え、全300カット強の合成カットが続出する。キングギドラが初登場した『三大怪獣地球最大の決戦』(64、監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)の時、3つの口から光線を吐くギドラのアニメ合成の光線原画は、部屋の隅に積んでおいたら、作業終了時、2メートルの高さに達した、という話を聞いたことがあるが、キングギドラの光線はそれほどエスカレートしやすいのだ。光線の合成は、日本エフェクト・センターが担当、アニメの原画は、ライトハウスが描きあげている。
『ゴジラVSビオランテ』(89、監督:大森一樹、特技監督:川北紘一)時に実現した70㎜フィルムに合成を完成させ、自由にその中でパン移動できる東京現像所の70㎜合成も、今回、富士のすそ野に着陸したマザー円盤と自衛隊(自衛隊の装甲車からパンアップすると、マザーが見えてくる。芦ノ湖のビオランテよりも空気感のある距離感がうまく圧巻の名シーンとなった)の2カット、超科学センター前の小型円盤“KIDS”の全3カットで使用。すばらしい効果をあげている。
 本編で円盤内の光線銃の撃ち合いシーンは、東京現像所に川北紘一特技監督、合成撮影の桜井景一キャメラマンが乗り込み、川北監督自らコマ単位で編集、エフェクトを指示していて光線銃に不思議な味わいをつけ加えた。合成出身の川北監督ならではのエピソードだろう。
 過去に、未来に、ラゴス島にベーリング海、福岡、札幌、十勝原野に、新宿新都庁と、次々に舞台が移っていく脚本も、いったいどうなることかと思っていたのだが、作曲の伊福部昭音楽監督がプロフェッショナルな効果音楽で、1シーン、1シーンをエモーショナルにグレード・アップ、トップの円盤シーンをオープニング・タイトルと規定して、ダイナミックなアップ・テンポの曲想で見せ、頭5分をきっちり盛りあげて、見ていてこれは期待させてくれました。
 キングギドラ誕生シーンの話は、三枝未希や動物学者の真崎教授が説明するのだが、これは未来人のウィルソンたちが、「フッフフ、あれが放射能でギドラに変身するバイオ・プログラミングされた生物だとは気がつかなかったと見える」とか、言ったほうが自然だったのでは……。理屈をつけるのもいいんですが、あまり理屈落ちになると、大怪獣のパワーが減退してしまいますから。
 札幌をゴジラが襲うナイト・シーンは、今回、唯一のゴジラ夜間シーンで、札幌時計台の鐘の音が鳴る中、ラゴス島の恐竜の音楽モチーフをバックに、ゴジラが迫り、『〜ビオランテ』時にほとんど見せ場のなかったメーサー・タンクのアップ用の大型モデルを存分に見せて、ゴジラの都市アタックの新イメージに取り組んでいる。地下街の天井をゴジラが踏み抜いたり、北海道の牧場をゴジラが進み、手前を放牧されている牛が逃げたりと、ゴジラの情景を描くシークエンスと合成に今まで東宝特撮にはなかった新イメージを狙っていて、この特撮スタッフの果敢な画面作りを大きく支持しておきたい。
 特撮の江口憲一キャメラマンは、移動車、クレーン、宙を走るゴンドラによるギドラ主観、天井の照明を吊る荷重からビル爆破を見おろしたり、手持ちのカメラで移動車に乗ったり、と躍動感の撮影を繰り広げ、2カメラ、3カメラは当たり前で、久しぶりに怪獣の激闘シーンを撮りあげた。オープンのギドラの光線のエフェクトが1カットあれば……と、ぜいたくに思ってしまいました。
 円盤関係はすべて合成で、さぞや本編班はやりにくかったと思う。大道具で昇降口くらいは、製作側が作れる予算を配分するべきだろう。大道具の円盤の足部にいる主人公たちとか、小型円盤は小さかっただけに、それだけで本編のパワーがあがったのに!
 予算は公称14億円だが、宣伝費、間接費込みで実質製作費は、約7億円である。よくぞこの予算でやったものだと思う。東宝の製作、興業サイドは、せめて10億円を保持して、このジャンルを育ててほしい。この作品は、本来、正月作品の中で、もっともわかりやすい娯楽作品指向であり、かなりのヒットを見込めると思うのだが、新作『ゴジラ』以来、『ゴジラVSビオランテ』、『ゴジラVSキングギドラ』と、予算が縮小している現実が、実は、このジャンルをもうひとつ飛躍させない最大の原因なのだ。
 つくづく思うのは、やはり、怪獣が私たちの住む街(日常)に乱入して暴れまくる映画は、おもしろい、という事実だ。その特撮スペクタクルと合成シーンの数々に溜飲をさげるファン、目を皿のようにして見つめる子どもが何人もいるだろう。私は劇場で、もちろん10数回は見ます。東京のどこかの劇場でお会いしましょう。
 東宝は、『ゴジラVSキングギドラ』の前にもう1本、特撮映画が公開される。1116日公開の『超少女REIKO』(脚本・監督:大河原孝夫、主演:観月ありさ)である。
 ある高校に続発する怪奇現象。生徒会長の緒方(大沢健)を中心に6人のESP研究会を結成、祖母から霊能力を引きついでいる九藤玲子(観月ありさ)もその仲間になり、怪奇現象を起こす女子高生の亡霊と対決する。果たして、次第にパワーをあげる亡霊にREIKOたちは立ち迎えるのか……。
 第13回城戸賞(87)を受賞した脚本を黒澤明、岡本喜八監督の助監督出身の作者自身の大河原孝夫監督が初演出。人気アイドルである観月ありさの周りを小泉今日子、佐藤浩市、菅井きん、佐藤B作、筒井道隆のベテラン勢が固めている。サイキック・バトルの視覚効果を『ヒルコ/妖怪ハンター』(91、監督:塚本晋也)の浅田英一、特殊メイクを織田一清が手がけて、約100カットの特撮シーンが展開される。アイドル青春映画は、東宝お得意のジャンルだが、ホラー、オカルト・タッチをどう溶けこませるか。日本映画が取り込んでこなかったジャンルだけに、期待したい新作映画である。
 もう『宇宙船』読者にはおなじみの雨宮慶太監督の劇場用新作『ゼイラム』(製作:ギャガ・コミュニケーション)も1214日、新宿シネパトスほかで、公開決定となった。 予想にたがわぬシャープな合成とガン・エフェクト、アクション、アイデアのおもしろさで、私の周りの「戦隊」シリーズのファンは、『こんな作品が見たかった!!』と、大絶賛である。オプチカル・ワークに独特のタッチが出ていて、ゼイラムの奇怪なムードとラストへ盛りあげていくクライマックスのバトル演出がアクション作品のおもしろさを満喫させてくれる。ストーリーをゼイラムVSバウンティ・ハンター+巻き込まれるノン気な電気工ふたりとシンプルにしいて、個々の武器(架空世界のゾーンや銃、光線で捕獲するセーブガン、まるでカプセル怪獣のリリパット)のディテールを厚く多彩なアイデアで見せていく工夫が光っている。ドラマ的な線の細さがどうしても気になってしまうのだが、それが雨宮監督の狙いの香りもあり、手に汗握る特撮アクションを撮り終えて、彼が次にどんな作品に挑むのかを待ちたい。この作品は、劇場で見なくては特撮ファンとは言えない、ぜひ、劇場で見ていただきたい。

ビデオ各社の野心作

 ビデオ用のVシネマもブームを過ぎて、かえって1本、1本の企画を練りあげた野心的なシリーズが増えてきている。特撮ファンは、これから楽しめる作品が続出しそうである。
 東宝ビデオのシネ・パック第1弾の118日発売、レンタル開始の原口智生脚本・監督作品『ミカドロイド』(製作:円谷映像・東宝ビデオ・東北新社)のビデオを見ることができた。
 16ミリ試写、35ミリ試写も見たのだが、映像のシャープさとフィルムの粒状、音響設計のステレオ効果を使い切った繊細な音響演出は、ビデオが一番よく、音のよさでいかに作品がグレード・アップするかを実感した。昭和151940)年の東京オリンピックを目指して青春の想いを燃やしていた3人の青年は、軍の人造人間改造計画にリストアップされ、改造されてしまう。その人造人間が現代の東京の地下によみがえり……原口監督は、その3人に対比して、ごく平凡な現代のふたりの男女の青年を事件に巻き込ませる。エモーショナルな哀しみと非情のアクションが交錯する。特撮作品は、片方でこういう現実の裏に隠された“もうひとつの日本”を見せる演出法がある。『ミカドロイド』が見せようとしたのは、人間を殺し、隣で人間がいつ死んでもおかしくない45年前の現実である。私たちの社会は、私たちの心は、本当にそこから変わったのだろうか。私たちの心はひょっとしたら、もっと冷酷に……と、さまざまな想いが浮かびあがる。録音スタッフが用意したロボット調のミカドロイドの足音、作動音、それを原口監督が捨てたのは、ミカドロイドが人間だからだ。人を殺しながら、彼が鉄のヨロイの中で泣いたとしてもそれはひと言も聞こえない。その心は泣いているはずだというセンスにこの作品に惹かれてしまうのである。
 実相寺昭雄監督総監修のビデオ・シリーズ『実相寺昭雄の不思議館』も来年4月からバンダイより発売が決定、そのワンエピソード『受胎告知』(脚本:実相寺昭雄)を演出中の実相寺昭雄監督を撮影現場へ訪ねた。
「今、現場から企画が出てもそれがいろいろな意見でだんだん(方向が)スライドしていく。そのへんが金は出すけど口も出すという形になってきた。それに対して、現場のスタッフから出てくる企画を予算は少ないけれど、全スタッフで支えて映像にしたらどうなるのか。監修しても、筋にしても、テンポにしても、なるべく修正しないようにしている。各自の個性がおもしろい効果を出している。もう10本が完成しているけど、我々を取り巻く不思議をいろいろな形で映像化したい。今撮ってる僕の脚本でも宇宙人は出てくるんだけど、宇宙人が不思議じゃなくて、これだけ日常生活の中で知らない人が訪ねてきたり、電話だけで物が買えたり、どこか人間に対してマヒしている。そこの不思議さを出したい。怪奇的な作品ばかりじゃないんです」
 31セットにして、ひとまず12話を製作。コダイ・グループの実相寺組スタッフが全面参加。高い技術力で個性あふれる世界を広げていく。52本は作りたい、と笑う実相寺監督とコダイ(株)の製作レポートを毎号取りあげていくので、乞うご期待!
 東北新社ギャラクシーワン製作、キングレコード1021日発売の『くノ一忍法帖』(監督:津島勝)は、予想以上に忍者アクションも盛りあがり、エロティックな原作の山田風太郎「忍法帖」のタッチもビデオ合成で撮りあげている。製作協力の「必殺」シリーズ、『鬼平犯科帖』の京都映画は、11月松竹系公開の『必殺!5 黄金の血』(監督:舛田利雄)を現在撮影中だが(料亭の山本陽子演じるオカミが相場で大金をつかみ、政治家へワイロを贈り……と、大阪の女相場師をモデルに舛田利雄監督が「必殺」世界を送り出す。東映正月映画の『江戸城大乱!』も同監督が正統派の殺陣を繰り広げ、この2本はかなりおもしろうそうだ)、正攻法のスタッフとJACがうまく組むとこんな効果が出るという佳作、これは、ぜひシリーズとして、風太郎「忍法帖」のビデオ世界を広げてほしい。
『二十世紀少年読本』、『フィガロ・ストーリー』と日本映画のカラを破ろうと、新作を作り続けている林海象監督は、今、新しい企画でアジア各国を飛びまわっている。
 アジア6ヶ国の監督が連作する多国籍ムービー『アジアン・ビート』製作のためで、日本、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、香港の若手監督がそれぞれの国を舞台に共通のTOKIOという青年主人公を使って連作しよう、という企画である。すべてフィルムで完成、各国では劇場公開して、ビデオでも発売するのだが、映画を超えるビデオ作品の新路線である。
 企画・原案・エクゼクティブ・プロデューサーとして参加している林海象から各国の監督に出された条件は、次の4つであった。
1「日本人でありながら日本人になじまない青年・TOKIOを主人公として登場させること」
2TOKIOには草薙という女ボスがいて、暗黒街にくわしい彼女からの依頼でアジア各国の調査やトラブルの解消にあたり、事件に巻き込まれ、その報酬で生計をたてていく」
3TOKIOは「過去にマリアという少女に恋したことがあり、今でも失った彼女の行方を捜している」
4「以上の3点だけの設定をバックに、あとは自由に、あまり日本にとらわれることなく、それぞれのTOKIOのドラマを作りあげてほしい」
 この条件さえクリアすれば、あとは自由で、ミステリーあり、ラブ・ロマンス、本物の軍隊まで動員するアクションと多彩なミステリー作品群が誕生する。
 日本編『アイ・ラブ・ニッポン』(監督:天願大介)は、日本へ潜入したフィリッピンの少女・バナナが持つ秘密書類を追う右翼集団との追跡戦の中で、日本の“もうひとつの顔”が浮かびあがってくる。異色のミステリー作品で、佐野史郎、十軒寺梅幹、鰐淵晴子という林海象作品おなじみの役者陣の怪演が見モノ。925日より創美企画からビデオ発売。以下、11月から各作品が発売されていく。

【初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.581991秋】

日本特撮 A la carte(1991年夏)

見逃すな
ソルブレイン!!

 まるで『特捜最前線』(77)というストーリーのハードさでファンを驚かせ続けている『特救指令ソルブレイン』が、6月になって完全3部作の連続ストーリーを完成させた。前作のウインスペクター・チームをゲストに、NATOが開発した自由に誰にも変身できるスパイ・ロボット(堀田眞三というキャスティングが絶品!)が日本に潜入、回路が誤作動してしまった自爆装置を開発者に直してもらおうとしたり、秘密裏に破壊しようとするウインスペクターの非情さ、実はサイボーグだったという家族の写真で見せるロボコップもかくやの情感のたかまり……と、正直TVの前で手に汗握ってしまった。少女から堀田眞三への変身も、細かいカット割り、わずかのラバー処理で実にそれらしく、実は特殊メイクの原口智生氏と見ていて、「これなら特殊メイクはいらないですよ」と感心するばかり。東映特撮、恐ルベシ! 未見の人は、バンダイからオモチャ屋ルートで、この3部作が1本でビデオ化されているので、ぜひ御一見を。特撮ファン必見!!

『満月』と『ゴジラ〜』で
大忙しの大森一樹監督

 9月中旬松竹洋画系で公開される大森一樹脚本・監督の『満月』(原作:原田康子、主演:時任三郎、原田知世、ほか)の試写を見ることができた。
 300年前の江戸時代初期、北海道の松前藩で起こったアイヌ民族の反乱の調査に潜入した津軽藩の武士・杉坂小弥太は、松前藩からの脱出に失敗、2年間をアイヌの村落で隠れ暮らした。コタンの老婆が1年間の期限なら故郷へ戻れると、仲秋の名月の下、コタンの秘法であるまじないが行われるが、何と出現したのは、300年後の現代の北海道。知り合った高校の生物教師・野平まり(原田知世)の家に居候する小弥太だが、いつしかふたりは……というファンタスティック・ラブ・ストーリー。仲秋の名月から光が伸びていく合成は数カットあるが(合成は日本エフェクト・センター)、あまり合成に頼らないラブ・ストーリーのタッチが軽快で、原田知世、時任三郎が伸びやかな演技を繰り広げている。『ゴジラVSキングギドラ』クランク・イン直後の大森一樹監督に取材してみた。
「アメリカ映画の水準を、どこかクリアーしたい気分があって、この映画も『スプラッシュ』みたいな感じを狙った作品です。あまり合成は使う気はなくて、松竹側からも、こんな合成予算少なくていいんですか、と言われましたよ。ラストの月をよぎる城からの脱出シーンとかは狙ってますけどね。ああいう映画らしい開放感は必要ですから。原田君もあのシーンはおもしろかった、と言ってましたね」
 ふたりの演技について。
「小弥太役は、ずいぶん悩んだんですが、時任君はできあがったらぴったりでした。常に背筋を伸ばしていたり、演技ではなく、雰囲気で見せなきゃいけない難しい役をよくがんばってくれたと思う。原田君はどうしても『時をかける少女』のイメージがあるんだけど、新しいキャラクターを作ってくれたと思う。“いや、して”とかキスを求めるシーンもよかったし、ふたりのラブ・ストーリーの気持ちの揺れをしっかり演じてくれました」
 惹かれながら、1年後の別れが約束されているふたり、ファンタスティックな設定がふたりのラブ・ストーリータッチを際立たせてくれる訳で、日本映画には珍しいムードを生み出している。大森監督は、機会があればこういうファンタジーの要素を入れたラブ・ストーリーはこれからもやってみたいと語る。日本映画には、こういう特撮を前面に出さぬやり方のほうが実りが大きいかもしれない。
「映画は夢物語で、現実の中で起こる夢も含めて、現実の苦しさや切なさは、映画で見せるのは、もういいんじゃないか、という気がするんです。まりという娘も祖母と暮らしていて、あれが母親だと生っぽくなってしまう。月を見ておばあちゃんとふたりで月見するシーンも、ラストに撮ったんですけど、モラルとか“そういうことは、はしたないことですよ”と教えてくれるのはおばあちゃんで、こういう構図が物語を支えていく。映画の夢の語り方は、いろいろあると思いますね」
 特撮に頼らないファンタジーの開放感のある作品タッチを見ていただきたい。
 カラー・ページでも詳報を伝えている『ゴジラVSキングギドラ』(1214日東宝系公開)は、520日特撮クランク・イン、618日本編クランク・インで、順調に撮影が進んでいる。大森一樹監督はこう語る。
「前の『ゴジラVSビオランテ』は、はっきり狙った作品ですが、今回はいろいろな要素を入れ込んだ脚本にしてあります。前回の若狭のクライマックスが時間切れの感じがしていたので、今回はクライマックスの新宿都庁のラスト・バトルを最初に撮って、スタッフが疲れないうちにやろう、と川北さんとは話しました。ラッシュを見て、おもしろい仕上がりになっているし、ゴジラと戦う中川安奈にどれだけ感情移入できるか、すべての撮影はこれからです」
 新宿都庁の攻防戦シーンのラッシュは、伊福部昭音楽監督、田中友幸プロデューサーと一緒に見たそうで、音楽はすべて新作で、ラッシュを伊福部昭に見てもらってから作曲するそうで、東宝ファンにとっては、音楽面でも大いに期待できるだろう。
 川北紘一特技監督率いる特撮班は、新宿都庁周辺のゴジラ、メカギドラ攻防シーン、南洋の孤島を舞台にした恐竜・ゴジラザウルスの特撮プール&ジャングルのオープン撮影、福岡の市街地を襲うキングギドラ、札幌のゴジラ・アタックと、第9ステージに『ビオランテ』のような特撮フル・セットを作らず、各シーン、カットごとにセットを作りかえ、短いショットとカメラをクレーン、宙を走るゴンドラ、移動車、天井の照明用の二重から見おろしてと、江口憲一キャメラマンのアクティブな撮影がとても刺激的だ。
 キングギドラと航空自衛隊との空中戦も用意されていて、絵コンテを見せてもらったが、、多彩な視点が気持ちよく、特撮の“目で楽しむ”見せ場が実に多い作品になりそうである。操演スタッフは、ベテラン・松本光司技師の指揮の下、『鳥人戦隊ジェットマン』の操演スタッフも加わり、新しいキングギドラとメカニックの飛行イメージに挑戦している。
 特撮のメイン・スタッフは、江口憲一キャメラマン、斉藤薫照明監督、大沢哲三美術監督の『ガンヘッド』、『ゴジラVSビオランテ』スタッフに、合成撮影の桜井景一キャメラマン(『大空のサムライ』、TV版『日本沈没』)が加わり、夜間シーン中心だった『ビオランテ』の都市シーンとは違うアクティブなゴジラの特撮を作るべく、精力的な撮影が続いている。

初メガホンの原口智生の
『ミカドロイド』

 東宝ビデオのビデオ用映画シネ・パック第1弾として、118日に発売決定となった原口智生脚本・監督の『ミカドロイド』(製作:円谷映像・東宝ビデオ・東北新社)が完成、52日に初号試写が行われた。
 昭和20年の第二次世界大戦末期、本土決戦用に秘密開発された日本軍の人造人間ジンラ計画……。空襲で埋没した研究所の中で、人造人間は生き続けていた。45年の時を経て、東京の地下によみがえる人造人間。ふと地下迷宮に入り込んだ現代の男女ふたりが出会うものは……という、現代が忘れてきた悪夢がよみがえるという異色ホラー作品である。原口監督の指名で、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』の絵コンテ・樋口真嗣が特技監督となり、東宝ビルトのオープンで撮影された東京空襲シーンの迫力(ワイド・レンズで煙のフォルムを変えるという細かさ!)、爆風を受けてミカドロイドの落下傘が開くというミニチュア特撮、デン・フィルムが手描き移動マスクで抜いた合成2カットと、入念に計算しぬいた特撮がドラマを盛りあげ、人間兵器に改造された青年たちのエモーショナルな情感をしっかり描きあげている。原口智生監督にその狙いを聞こう。
「今まで特殊メイクの仕事で知り合ったスタッフと徒党を組んでやりたかった映画です。僕が監督するので、特殊メイクの映画と思う人もいるようですが、それは全くなくて、長年、温めていた企画です。
 操演は亀甲船の根岸さん。岡崎の背から突き出すメカニック・アームはワイヤーワーク、建物の崩しは仕掛け、とオーソドックスな技術で充分おもしろい映像が撮れると確信できました。はやりやスタイルで撮るのではなくて、操演や技師のパートがいて絵が動くという実感があった。
 火薬や弾着効果も、手榴弾の爆発やミニチュアの爆破は太平特殊効果の久米功さん、銃撃戦のエフェクトと弾着はビッグショットの納富喜久男さんと、本来ありえない業界の双璧の方にやってもらい、そのメリハリが画面にいい効果を出していると思います。
 特撮の撮影は、東宝映像美術の桜井景一キャメラマン、照明は東映テレビの矢島信男組で、『仮面ライダーBLACK』、『鳥人戦隊ジェットマン』の林方谷照明監督とぜいたくな組み合わせで、シーン自体は多くないんですが、特撮映画らしいムードを少ないカット数で作りあげてくれました。
 樋口ちゃんとは相性が合いすぎて、今の技術でもおもしろい映像が作れることを実証したかった。だから、ふたりとも、特撮マニア的なショットは全然なくて、地味だけど入れることで本編をいかす特撮カットを狙ったつもりです」
 水野伸一美術監督は、人造人間の地下研究所をまるで『メトロポリス』、『ガス人間第一号』の鉄骨むき出しセットに作り出している(バックに換気用の巨大なプロペラがまわるなど、凝りに凝った本編セットである)。
 撮影、照明は、『ケルベロス/地獄の番犬』の間宮庸介キャメラマン、保坂芳美照明監督で、大半が地下駐車場、地下迷宮というダーク・トーンをクリアーにドラマ化している。
 オール・アフレコの撮影態勢もこういう造型主体の作品では、自然で効果音を極力排したストイックな音響演出が川井憲次作曲のふくらみのある情感のメロディーをいかしている。特撮アクション作品の、ひとつの解答と言える出来である。若い特撮ファンにぜひ見てもらいたい佳作であろう。
 ビデオ用のオリジナル映画は、各社企画が続いているが、忍者アクションものの山田風太郎原作の『くの一忍法帖』の撮影に、東北新社が入っている。製作協力:松竹芸能・京都映画という「必殺」シリーズや、テレビ東京系で絶好調の『鞍馬天狗』のスタッフで、脚本:石川孝人、監督:津島勲と時代劇を撮り続けてきたベテラン・スタッフだけに風太郎忍法帖をどう映像化するか。これはつい期待してしまう。
 女に変身する伊賀忍法“くの一化粧”、子供を腹から腹へ移す信濃忍法“やどかり”、女の体に乗り移る伊賀忍法“日影、月影”、男の体をセックス中にカサカサに精気を吸い取る真田“忍法筒涸らし”……というエロティックな風太郎忍法帖をどこまで映像化できるか----お手並み拝見である。
 カラー・ページで毎号紹介してきた『ゼイラム』(製作:ギャガ・コミュニケーションズ、監督:雨宮慶太)は、撮影を終了して、合成作業に6月下旬入っている。ある意味では、『ミカドロイド』と材料的に似ながら、演出が対極の作品で、『未来忍者』もかくやの合成、光線の嵐という作品に仕上がりそうだ。仕上げが遅れていて、未見なので詳細は控えておきたい。プロップや造型でこのジャンルをどこまでグレード・アップできるか、楽しみな作品である。
 ヒーロー・コミュニケーションズ企画で、バンダイ、丸紅、松竹ほか、台湾、香港の映画会社など、9社の協同出資によるのがスクリーミング・マッド・ジョージ&スティーブ・ワン監督の『ガイバー』で、817日松竹洋画系で公開される。
 宇宙人によって作られた生物兵器こそ人類であった、という原作ストーリーを、アメリカに舞台を移して映像化。マッド・ジョージの特殊メイクは、獣人兵であるゾアノイドをグロテスクに立体化。ユーモラスなギャグを散りばめるあたりが、いかにも両監督の資質だろう。
 ガイバーの逆回転も使用した変身シーンがすばらしいイメージで、ヒーロー・ファンは仰天するであろう。
 ただ、ゾアノイドの戦いとアクションが、あまりにカンフー一辺倒で、東映特撮アクションのスピード感をもう少し導入したほうが、特殊メイクとアクションもいきたのではないだろうか!? リアル版仮面ライダーの改造人間のアクションというのは、特撮ファンにとって長い間の夢であったが、特殊メイク+カンフーだけでは、少し物足りない。この肌触りに、シャープなアクション撮影が組み合わさった時、新しい時代がはじまるのだろう。特撮ファンは、この作品を見て、ぜひ考えてみてほしい。

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.571991

日本特撮 A la carte(1991年冬)

目がはなせない
ビデオムービーの新作

 東映ビデオのVシネマを先陣にして、にっかつビデオ、パック・イン・ビデオ、ジャパン・ホーム・ビデオ、大映ビデオ、バンダイ、東宝ビデオ、と各社がビデオ用新作ムービーの企画に乗り出している。ガン・アクションとバイオレンスの二本柱が中心のアクション路線だが、そればかりでは2年もしないうちに、ユーザーに飽きられてしまうだろう。
 サイキック&オカルティズムの新路線をぜひ検討すべきで、予算枠と制作日数の拡大も含めて、新ジャンルの模索と実践がプロデューサーの腕の見せどころとなろう。オカルティズムは、特殊メイクだけでは成立できず、本編の芝居部分と脚本の構築で特撮を支えていく正攻法の作劇を熟考してほしい。今年の新企画のいくつかを見ると、そのチャレンジが始まっており、特撮ファンにとって目の離せない1年になりそうだ。
『星空のむこうの国』(86)、『四月怪談』(88)と、日常とファンタスティックなストーリーを合体させて見せた小中和哉監督がビデオ用新作ムービーを完成。ジャパン・ホーム・ビデオから91426日に発売される『ラッキー・スカイ・ダイアモンド(LSD)2/ドラッグレス』(税抜14110円)がそれで、脚本は『邪願霊』(88/監督:石井てるよし)、『ウルトラマンG』(90)、『TARO!』(91/監督:石井てるよし)を手がけた実兄・小中千昭のオリジナル脚本。
 東京の各地で、次々と若い女性が変死する。その影に“アンフィニ・ソサエティー”という自己開発セミナーが浮かび、人間の体内にある麻薬と結合する媒介物質“エンドルフィン”を合成、ドラッグ現象を誘発させる謎の儀式が浮かびあがっていく。TVレポーターの清水圭一(加藤基伸)がそのセミナーを追うが……というドキュメンタリー・タッチのドラマで、意図的にビデオ撮影で作品設計を行い、異様なリアルをドラマの中に作り出した大力作である。
 小中和哉監督はこう語る。
「“映画の縮小再生産”という今のビデオ用映画の流れに対立する、ビデオだからこそ成立する作品が狙いです。そのために全編ビデオ撮影で、CCDキャメラという親指大のビデオ・キャメラやS-VHS、8ミリビデオと、隠し撮り風にも撮影してます。ビデオ撮影は、ドラマに向かないという人もいますが、兄が脚本を書いた『邪願霊』のラインを一歩進めて、ドキュメンタリーのタッチの中にドラマの可能性を広げていく。前から兄と考えていたストーリーを使っています。ラストのトリップ・シーンは、ビデオ機材ならではの手法で、CGも使ってますし、僕の作品では8ミリの「青カビ」シリーズの実験的なスタイルに似通っているかもしれませんね。アクション路線以外の、現実にリンクするホラー・ストーリーの味が出せたらいいんですが……」
『TARO!』<ようやく913月東映洋画系で『ハッピーエンドの物語』(監督:栃原広昭)と併映で公開が決定した。中頃までのストーリーの広がりが快調!>で、新興宗教の宗教ブームのタッチを見せた小中千昭脚本は、チャネリングやストレス発散の精神解放セミナーの異様なブームを取り込み、現在にリンクするSFタッチの日常に潜むダーク・ゾーンをかいま見せる。人間が体内に持つ麻薬とジョイントするブイになる物質“エンドルフィン”というアイデアの冴え(似たような物は実在する。麻薬が体内に入ると、麻薬とつながるソケットが生まれ、麻薬がなくなっても、ソケットが麻薬を求める----それが禁断症状といわれているのだ)、ビデオ映像がハンデにならない作劇とダイアローグ、日本のSF映像は、こういうタッチを消化しぬいたところから始まると思う。
『星空のむこうの国』、『四月怪談』の対極の作品だが、ビデオ撮影でも『妖怪天国』(86/監督:手塚眞)の志賀葉一キャメラマンの的確な映像が硬質なドラマを支えていく。ステディ・カム、手持ちカメラ、CCDカメラと撮影方法も実験的な作品である。『世にも奇妙な物語』(90/CX)やホラー映画ファンにもぜひ見てもらいたい作品である。
 対して、ふんだんに特撮とガン・エフェクト、特殊メイク、ハイ・ビジョン合成とサイキック・アクションの新作映画として製作されたのが、バンダイ、円谷映像共同製作の『超高層ハンティング』(原作:夢枕獏、監督:服部光則)。撮影は、『テラ戦士ΨBOY』(85/監督:石山昭信)、『プルシアンブルーの肖像』(86/監督:多賀英典)、『ウルトラQ ザ・ムービー』(90/監督:実相寺昭雄)の特撮撮影の大岡新一キャメラマン。
 1980年代に、突如、現れた亜人類“アナザー”。念波を武器に人類の中に紛れ込んで暗躍するアナザーに対抗すべく誕生した超能力集団“サイコシスト”。果たして、アナザーの正体とは何なのか……。操演を『帝都物語』(88/監督:実相寺昭雄)、『ウルトラマンG』(90)の亀甲船<『帰ってきたウルトラマン』(71/TBS)の操演・小笠原亀氏を中心にした特殊効果の会社>が手がけ、ガン・エフェクトのビッグ・ショットと共に、ハイビジョン合成とも連動してハイパー・サイキック・アクションに挑む。914月以降に松竹洋画系で公開予定で、12月現在合成シーンの仕上げを精力的にこなしている。
 1215日に完成したのが、バンダイ、フジテレビ共同製作の押井守監督作品の劇場映画『ストレイ・ドッグ/ケルベロスの島』(913月、松竹洋画系公開)。『紅い眼鏡』(87)の前章にあたる姉妹編ともいうべき映画で、台湾と香港ロケで手中にしたロケーション映像が、組織を脱走して追われる主人公・都々目紅一(千葉繁)と乾(藤木義勝)の袋小路ともいうべきラスト・ステージのムナしさと華を表し、川井憲次作曲のアコースティックな音楽がむせび泣くようなメロディーを刻みつける。
 劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』(89)よりも、『御先祖様万々歳!』(89)に近い、ダイアローグのジャム・セッションが続出、セリフを信じないがゆえに、セリフを機関銃のように放ち続けるダイアローグ演出が押井守世界を浮かびあがらせる。『うる星やつら』(81/CX)や劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』と対になる。押井守監督世界で、この万華鏡のようにくるくる変わるダイアローグの視点の交錯が現代の私たちを浮かびあがらせる手法が実にユニーク。実相寺昭雄監督もそうだが、なかなか観客の思うようには踊ってくれません。ファンたるもの、ついていくにはどうかは、惚れ込み方ひとつであろう。ただ、このフィルムに満ちた空虚な哀しみは、やはり、映画館で体験してほしい。
『ハリマオ』(89/監督:和田勉)を製作した西武資本のセディックが諸星大二郎の原作で描く『ヒルコ/妖怪ハンター』(91/監督:塚本晋也、主演:沢田研二)は、ファン大望の映画化で、“ジュリー”こと沢田研二が稗田礼二郎をいかに演じるか、期待されよう。『鉄男』(89)で衝撃的デビューとなった塚本晋也監督は、スーパー1616ミリと35ミリを併用、ハイビジョン撮影も使って、古代神話に隠された恐るべき秘密に迫る。特殊メイクも若手アーティストを集め、一家言を持つ監督だけに、3月の公開が楽しみ。イザナギ、イザナミの息子蛭子あたりのストーリーが中心になるようで、画面は見てのお楽しみといっておこう。松竹富士配給。

いよいよスタート
原口智生の『ミカドロイド』

 2年前から特殊メイクのアーティストであるFUN HOUSEの原口智生があたためていたビデオ企画が9117日から25日間の撮影予定でクランク・インする。タイトルは、『ミカドロイド』(脚本・監督:原口智生)。第二次世界大戦中、本土決戦用に準備されていた人造人間計画……その亡霊が45年の時を超えて、東京の地下によみがえった……。
 原口智生は、『帝都物語』から『妖怪天国』(86/監督:手塚眞)、『ウルトラQ ザ・ムービー』、Vシネマ『クライム・ハンター 怒りの銃弾』(89/監督:大川俊道)などの特殊メイクを担当してきたが、海外の映画際に何回か参加して、ゾンビ物や吸血鬼といった古典的モンスターが作り方ひとつで、今でも通用していることに我が意を得て、正攻法に日本で怪奇映画、ゾンビ物を作ってみたいと考え続け、ゾンビ物からフランケンシュタイン人造人間とキャラクターを煮詰めて完成させてものだ。製作は、円谷映像、東北新社、東宝ビデオの三社だ。
 撮影は、『紅い眼鏡』、『ストレイ・ドッグ/ケルベロスの島』の間宮庸介キャメラマン、美術監督は、『ウルトラQ ザ・ムービー』の水野伸一美術監督、原口氏の依頼で、『帝都物語』、『ウルトラQ ザ・ムービー』の絵コンテ、樋口真嗣が特撮監督を担当、ロー・バジェットの中、斬新なカット・ワークによるミニチュア、合成シーンにチャレンジする。
 物語の大半は、地下に広がる旧軍の地下洞と秘密研究所で、その迷路のようなセットをフル・セットで大映のスタジオに制作、その中でラビリンスのような広がりと奥行き、そして、日常の裏に潜む“私たちが忘れてきた悪夢”をどうクリアーに映像化できるか。原口&樋口両氏による絵コンテを見せてもらったが、シンプルにしてストレート。若手スタッフのこだわりがどう映像化できるか、916月発売予定だが、いずれ詳しく撮影報告しよう。
 林海象監督の新作は、日産自動車提供、ヘラルド・エース製作の『月の人』(脚本・監督:林海象)で、日米仏合作映画『フィガロ・ストーリー』、オムニバスの三パートの一編。
 現代の東京を舞台に、満たされぬ思いを持つひとりの少女が街を放浪するスケッチ風のイメージと、彼女のマンションの窓から飛来してくる月の人とのラブ・ストーリーというファンタスティック・ムービー。
 撮影・長田勇市、照明・長田達也、美術監督・木村威夫の『夢みるように眠りたい』(86)、『二十世紀少年読本』(89)と同じスタッフが林海象監督とショート・ストーリーの切れ味をめざす。
 長田勇市キャメラマンは、現代の実景シーンに意欲的なロケーション撮影を繰り返し、ノスタルジック一辺倒といわれる林作品への批判を迎え撃つかまえである。121日からクランク・イン、1229日クランク・アップ、911月中に完成予定。公開は、916月ころ洋画系で行われる予定だ。ほかの2パート部分も含めて公開前に、12月末撮影を取材に行くので、取りあげたい。
 金子修介監督の『咬みつきたいドラキュラより愛をこめて』(915月東宝系公開)の初号試写を11月下旬に見ることができた。
 コメディーというより、ドラキュラ物のバスティーシュともいうべき良質のユーモアが散りばめられ、全編飽きることなく楽しめた佳作であった。金子監督は、どうしてもマニアなので、この種の題材はパロディーになってしまうのでは、と危惧していたが、抑制された演出と川上皓市キャメラマンの流麗なキャメラ・ワーク、量感とふくらみのある音楽が全編にホラー・コメディーの気品を生んだ。
 緒形拳の吸血鬼ぶりは、ブロンドの髪の毛のバージョンは『?』という感じだったが、怪力、そして、飛行シーン、鏡に映らないイメージとドラキュラのパワーをセリフではなく、映像ですべてクリアーしてみせたことで映画自体をグレード・アップ。
 今年はさらに、6月東宝洋画系公開の新作映画と連投する金子修介監督だが、こういうタイプのアベレージ・ヒッターは珍しく、2本に1本は軽快なタッチで古くからのファンも楽しませてほしい。特撮や特殊メイクも本編によく消化されているのも大きな収穫であった。
 東宝映画の91年ラインナップに、大森一樹脚本、監督の『ゴジラ対キングギドラ』(特技監督:川北紘一)が発表された。今年の夏、クランク・インの予定だが、ストーリーはまだまだこれから煮詰める第一稿段階である。キングギドラはいいが、操演スタッフでクリアーできるのか、新しいモーション・コントロールのような撮影で描くのか……すべてはこれからである。怪獣映画は、人間とその街に乱入してくる巨大モンスターをダイナミックに融合させる映画の中の映画である。本来、成立しない人間と巨大モンスターのドラマを映画空間だけが現実化できる。だから、私たちは、特撮映画や怪獣映画にひかれるのだ。すでに、亡びたジャンルというタワケた(それなら映画そのものも亡びているのだ)意見もあるが、力あふれる映像は常識をくつがえす。あきらめてはいられないのだ!
(文中敬称略)

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.551991