円谷英二の映像世界〜『宇宙大戦争』

『宇宙大戦争』 昭和341959)年度作品 93分 カラー 東宝スコープ


 『宇宙大戦争』(59/監督:本多猪四郎)は、『地球防衛軍』(57/監督:本多猪四郎)の姉妹編ともいうべき作品である。地球を狙うナタール遊星人の円盤群と地球防衛軍のロケット部隊が宇宙空間に攻防戦を繰り広げる東宝最初の宇宙特撮。『地球防衛軍』とともに、本多演出の本編、円谷演出の特撮、伊福部昭の戦闘マーチが宇宙空間でのドッグ・ファイトに強烈なイメージを生み出した。
 宇宙空間に浮かぶ月の方向から3機の円盤が飛来するところから物語は始まる。
 地球の衛星軌道上に浮かぶ宇宙ステーションJSS3”“1965というテロップ。続くカットで、月方向から向かってくる3機の円盤……
 JSS3は、東京の宇宙科学センターに定時連絡中、またしても怪電波に妨害を受ける。しかも、今回は怪電波だけでなく、円盤が攻撃をしかけてきたのだ。
 JSS3の乗員は、慌ただしく迎撃態勢に入った。ステーションの上部から円盤に向け、光線弾が発射される。しかし、円盤に当たっても、バリヤーにはね返されてしまう。そして、円盤も強力な光線砲(冷却放射線)によりJSS3への攻撃を開始した!
 轟音がJSS3の内部に響き渡った。SOSが発信される中、JSS3は凍結状態となり、閃光を発して宇宙空間の中で大爆発する!!
 四散するJSS3の爆発光や相互の撃ち出す光線は、アニメーションで処理された。アニメの閃光の後、後にはわずかの破片しか残らなかったのである。そこにタイトル。リズミカルな音楽とともに、3機の円盤が悠々と宇宙空間を飛び続けるシーンが続く。
『宇宙大戦争』は、特撮ミニチュアとともに、本編の美術陣が大奮戦した作品としても優れている。湾曲しているJSS3の床面、網の目のようになったハシゴと、実にリアルな物であった。これはのちほど触れるスピップ号船内、そして、月面探検車、宇宙センター、宇宙服と、全編に発揮された。東宝初の宇宙物のため、美術陣も慎重に、この素材に取り組んだのであろう。
 その時、日本は夜であった。
 東海道線の上り急行が、深夜の闇を疾走していく。この列車は、すべてミニチュアで描かれる。メカニックの重量感を調整するためで、東宝特撮にとっては『ゴジラ』(54/監督:本多猪四郎)以来の手法である。
 鉄橋が円盤の光線で浮上、列車が川へと転落する、という描写が続いた。
 怪事件は、日本だけにとどまらなかった。パナマ運河では船が運河にのりあげ、ナポリでは急速に気温低下が起こり、河川の水が天空に逆流して噴きあがった……(このシーンは、写真風の作画で表現されている)。
 世界の異変を調べるため、日本の国際宇宙科学センターに全世界の科学者が集まり、その原因が協議された。そして、その結論は、地球外の生物による科学的な攻撃である、という驚くべきものであった。
 物体の温度を急速に低下させると、その物体の重力は減少し、地球自転の遠心力により舞いあがる。この原理を応用して、絶対零度の光線を照射、物体を冷却して無重力にする破壊兵器冷却線が撃ち込まれた結果なのだという。人類は、この外界からの侵略者に立ち向かう決心を固めた。
 そして、この冷却線を武器とする宇宙人に対する新兵器熱線砲が地球防衛軍の手によって、開発が成功していた。
 原子力R六〇〇を使用した熱線砲をテスト試射する勝宮一郎博士(池部良)。先端のパラボラ状の発射口から、強力な熱線(アニメーション)が照射され、試射場に並ぶ地球最強の金属であるスピップ号にも使用した合金板を撃ち抜いていく。
 しかし、宇宙人の魔手はこの会議場にも伸びていた。インドのアーメッド教授(ジョージ・ワイマン)が宇宙人に脳波コントロールされ、熱戦砲を奪おうとしたのだ。教授は捕まりそうになるや、勝宮の恋人・白石江津子(安西郷子)を人質に、「地球は、遊星ナタールの支配下になるのだ!」とうそぶく。
 追いつめられた教授は飛来した円盤に助けを求めるが、円盤は怪光線を照射、アーメッド教授の肉体を消滅、後には、人型の影と一片の金属板が残るだけであった。アーメッド教授は、この小さな金属板を頭に埋め込まれ、宇宙人の電波で操られていたのだ。
 もはや、一刻の猶予も許されなかった。かねてから、各国の協力で建造中であった原子力宇宙船スピップ一号艇スピップ二号艇をナタール人の基地と化している月面に打ちあげ、月攻撃敢行を決定したのである。
 搭乗員は、一号艇に日本の宇宙物理学の権威・安達博士(千田是也)を長として、勝宮、白石江津子、熱線銃の開発で活躍した岩村幸一(土屋嘉男)以下8名。二号艇は、アメリカのリチャードソン博士(レン・スタンフォード)を長とする外人科学者グループ、木暮技師(伊藤久哉)の8名で編成された。
 科学センター発進ポートにその勇姿を現す宇宙船・スピップ号。このシーンは、手前に開発準備で忙しい作業車や作業員を配し、広大な飛行ポートにそびえ立つ発進台にスピップ2艇というパノラミックな合成を駆使した構図で描かれ、ワイド画面ならではの特撮空間を生み出していた。

 出発前日、夜の東京にお別れを言おうと銀座に向け、スポーツカーを走らせる岩村を遊星ナタールの魔手が襲った。スクリーン・プロセスに青や赤の異様な光が走り、疾走する車。これはスクリーン・プロセスの暗さを逆利用し、不条理ともいうべきイメージ映像を作り出した。
 ナタール人の声が響く。
「止マランゾ。ソノママ、ジットシテイルノダ。苦シイカ……モウシバラクノシンボウダ。オ前ノ頭脳ノ中ニ我々ノ生命ヲ植エツケルノダ。オ前ハ今後、我々ガ電波デ命ジルママニ、行動シナケレバナラナイ。サァ、手術ハ終ワッタ。遊星ナタールノ新シイロボットヨ、サァ、行ケ、行ケ! 行ケ!」
 苦悶する土屋嘉男の表情が圧巻で、気づくと銀座にいて、こめかみからうっすらと血が流れているなど、本多監督のサスペンスあふれる演出が物語を盛りあげる。
 翌朝、青空にそびえるスピップ2艇の映像が、この岩村のロボット化シーンをさらに印象的なものにしている。
 地球の全希望を肩にスピップ号乗員は、それぞれの船に乗り込んでいく。2艇の搭乗員の乗る乗用車が、スピップ号がそびえ立つ発進ポートで、二手にわかれ、自分の船に向かっていくなど、合成画面を感じさせない、実にリアルな映像である。
 スピップ号は、縦に立っているため、操縦席は上を向いている。乗員が艇内の司令室に入ってくるシーンは、真上からカメラで下を見下ろし、ハッチが開くや、ハシゴで入ってくるなど、いかにも宇宙物というイメージである。この本編セットの充実が画面を支えるのだ。
 いよいよ発進。まず、手前のスピップ一号艇から発進する。噴射煙をあげ、画面内を上昇して消えていく一号艇。二号艇は、まだ噴射中で浮上していない。そして、一号艇の本編を挟み、同じ映像で二号艇がはるかにゆっくりと上昇していく。
 これは、二号艇が一号艇より奥にいるためで、そのスピードの違いで奥行きを出しているのだ。このシーンなどは、1カットですむところを、本編を挟むことで、2カットにしているわけで、これはのちの月面着陸もまるで同じで、手前に着陸してくる一号艇一号艇の本編一号艇の奥にゆっくりと降下、着陸してくる二号艇と、奥行きを生むと同時に、本編と特撮を有機的につなぐ典型的な円谷特撮のカット・ワークと言えるだろう。
 青空の中をぐんぐんと上昇していくスピップ号をカメラが上にパンしながら追いかける。これは『地球防衛軍』のマーカライト・ジャイロと同じで、吊り橋の下で実際の青空をバックにロケットを引っぱりあげていた。
 次のシーンでは、宇宙空間を進むスピップ号2艇が描かれる。大気圏脱出とともに、噴射を止め、慣性飛行に入る2艇。
 宇宙空間を進むスピップ2艇は、移動車にカメラをのせ、あるいはカメラを固定して撮影された。
 宇宙レーダーが始動され、船体の周囲にアンテナが突きだした。前方に星間物質があり、緊張する乗組員。しかし、それは敵ではなく、宇宙ステーションの残骸と宇宙に放り出されたステーションの犠牲者であった。スピップ号2艇の乗員は、心から冥福を祈った。凍りついたように宇宙を飛ぶ乗員(人形)。音楽が哀しい旋律を奏でる。
 出発後、72時間を経過、30万キロ定点を通過したが、なぜか今まで何の妨害もなかった。
 しかし、月より怪電波が発信され、岩村は苦痛に顔を歪め持ち場を離れた。その時、宇宙レーダーが前方に接近する物体を捉える。遊星ナタールの円盤が放った誘導兵器だ。600キロ彼方から超スピードで、2艇の航路上を突き進んでくる。スピップ号は、熱線砲の発射準備に入った。
 隕石状の宇宙魚雷だ。スピップ号2艇からジグザグ状の熱線が発射され、宇宙魚雷は次々と粉砕されていく。斜め前方から進むスピップ号を見る映像。光線を発射しながらスピップ号は前進する。一発で当たらず、二度、三度と宇宙魚雷の周りにはずれ、そして、命中して爆発するなど、メリハリのついた攻撃描写である。
 それでも、次々と飛来する宇宙魚雷。岩村はナタール人の指令を受け、熱線砲のエネルギー・バルブをしめ始める。岩村を介抱しに行った岡田隊員(桐野洋雄)は、岩村が狂ったようにバルブをしめているのを見て止めに入る。ふたりは格闘になり、その間、熱線砲の発射は不可能になる。
 一号艇の操縦室は大騒ぎだ。宇宙魚雷は、航路上を一直線に突き進んでくる。安達博士は、サイド・ロケットの噴射を命令、イスにしがみつく乗組員。サイド・ロケットが噴射、スーッと横に移動した宇宙船の元の位置を通過していく宇宙魚雷のショットなど、宇宙ならではの描写が光る。
 急激な移動で壁に叩きつけられる岩村と岡田。気絶した岩村を担ぎ、岡田は操縦室へとやってきた。岩村が動力炉を切っていたという話に驚く安達博士や勝宮。岩村に睡眠薬を注射して、耐圧室に閉じ込め、スピップ号2艇は予定を変更、月面への強行着陸を決定した。

 月面へ近づき、反転エンジンを始動するスピップ号2艇。上下の補助ロケット(光学合成で処理)で、180度転回、メイン・エンジンを下に降下していく2台の宇宙船。この反転イメージは、月世界探検物のSF映画の代表作であるジョージ・パルの『月世界征服』(50/監督:アーヴィング・ビシェル)の完璧なリメイクと言っていい。円谷英二のパルへのオマージュだったのだろうか。合成も実にきれいで、月面降下を実感させる。
 急降下していくスピップ号2艇。メイン・エンジン全開。超スピードが次第に弱まっていく。主翼から突きだしてくる着陸脚。
 スピップ一号艇、スピップ二号艇は次々と着陸した。
 自動防衛装置が入れられ、荒木隊員が一号艇の防衛任務に就き、岩村を残したまま全隊員が月面へと降り立った。それぞれの船体からおろされてくる月面探検車。
 月面探検車2台に分乗した安達博士たちは、ナタールの月面基地捜索へと向かう。前進する月面探検車。キャタピラで自走するミニチュア・モデルである。
 そのころ、耐圧室でイスの上にベルトで縛られていた岩村は、遊星ナタールの「オ前ハ宇宙艇ヲ爆破スルノダ」という指令を受け、脱出行動を開始する。前進する探検車は飛来する円盤を目撃、敵に気づかれぬように無線制限をしながら前進を続けた。計器を見て、ハッとする勝宮。風圧計が動いている----空気があるのだ。
 探検車はエアー・クッションを使用し、浮上して前進を開始する。巨大な山岳地帯も浮上して飛び抜けていく。2台で並んで飛ぶシーンが出色のイメージである。
 円盤が上空を何台も飛び、ナタールの基地が近くにあるのは明かであった。これ以上、探検車で行くのは危険だ。徒歩で前進する安達博士や勝宮たち。
 そのころ、イスから脱出した岩村は、荒木隊員を襲い、一号艇の爆破準備を進めていく。
 月面の岩石地帯を進む勝宮たち。この地上シーンは、実在の岩石地帯で撮られているが、ダークトーンで統一され、随所にふんだんに使用されている作画による月面描写の合成が月世界のイメージを生み出した。目立たないが作画の合成が画面に広がりを与えた、優れた合成シーンと言えるだろう。
 一行は、ナタール基地の排気口と思われる洞窟を発見、そこまで探検車を前進させ、洞窟の中へと入っていく。
 岩村は、一号艇の爆破準備を完了、二号艇へと向かう。
 洞窟を抜けると、眼下にナタールの月面基地が広がっていた。火口壁を巧みに利用した大円盤基地で、中央に半透明の材質で作られた半球型のドームがあり、その下には離陸体制の円盤群が並んでいた。脇の建物には、まだ未完成のものもある。一種の移動基地のようだが、叩くなら今がチャンスであった。
 勝宮は、潜入させてくれ、と進言するが、安達博士は許さなかった。熱線砲を運んでくるように命令、伝令として洞窟へ入った江津子と勝宮が宇宙人に遭遇するシーン、一号艇の爆破シーンが続いていく。
 安達博士たちに向けて、基地から声が響いてくる。接近は気づかれていたのか!?
 「地球人ヨ。警告ヲ無視シタカラニハ、モウ帰レンゾ。君タチハ、ワガ偉大ナル遊星ナタールノ奴隷ニナッテモラワネバナラン!」
 10秒地球時間の間に降伏しなければ攻撃する、というナタール基地。熱線砲を持った木暮隊員が間に合い、ついに安達博士たちは攻撃を開始した!
 崖の一角にあいた洞窟から照射される熱線ビームが基地に命中する。攻撃するナタール基地。基地から発射されたビームは崖をなめ、轟音をたてて岩が崩れ落ちる。
 この攻撃シーンが、本編と特撮を有機的につなぐ東宝特撮ならではのものである。
攻撃する熱線砲。
反撃する基地。
光線がなめて爆発する崖。
 崩れ落ちる岩石が目の前を落ちる中(抜群の反射光もうまい)、攻撃する本編の熱線砲。
 と、リズミカルに編集されていく。さらに、探検車を浮上させた勝宮が山の頂き越しに探検車の熱線砲で攻撃、基地が反撃すると、山の陰に隠れ、光線が走り、炸裂する山岳部といった光線砲の応酬を全編に流れる伊福部昭によるBGMのマーチが盛りあげる。
 ナタール基地は、猛攻撃に煙をあげて大破し、二号艇を爆破しようとしていた岩村は、ハッと我に返った。
 基地を大破させ、目的を半ば達成した安達博士たちは、地球への帰還を決意する。浮上する探検車(エアー・クッションの噴射は、このシーンでは霧を吹き出して見せている)。
 空気帯を抜け、月面上を進む探検車を追撃する円盤群----探検車と空中の円盤の戦いが始まる。次々と撃墜されていく円盤。2号車がキャタピラをやられ、一号車に全員乗り込み、スピップ号を目指す勝宮たち。
 ところが、一号艇が木っ端微塵になっているのを見て、愕然となる。自動防御装置を働かせていた以上、円盤の攻撃によるものではない……もしや岩村が! 二号艇に全員が乗り込み、探検車が引きあげられていく中、江津子が岩棚の上の岩村隊員を発見する。「岩村!」と叫ぶ勝宮。岩村は、スピップ号をひとりで守るつもりだったのだ。
「勝宮。一号機を爆破したのは俺だ。宇宙人のロボットにされたんだ。奴らは俺が食い止める。さぁ、早く出発しろ!!
 岩村隊員は、別れの言葉を叫び、携帯用熱線銃のエネルギーを最大にあげた。飛来する円盤と戦い続ける岩村----上昇していくスピップ二号艇。奮戦する岩村だが、円盤の怪光線を浴び、蒸発して消えていったのである……

 スピップ号が地球に帰還し、地球上は沸きかえった。やがて、飛来するであろうナタール遊星人を途中の宇宙空間で撃滅すべく、全世界の工業力を動員し、宇宙戦隊が作られることになる。試作中であった小型宇宙ロケットを急遽、有人戦闘ロケットに改造、来襲する円盤を要撃する作戦に乗り出した。
 続々と生み出される戦闘ロケット集団は、アメリカのテキサス平原に、ソ連のシベリア平原に、さらに、科学センター発進基地に次々と集結していった。
 そして、ついに遊星ナタールの円盤群が飛来する日がやってきた。
 戦闘ロケットの第一集団が発進していく。
 戦闘シェルターから次々と発進していくロケット群。そのころ、哨戒戦闘機隊長(野村浩三)が、宇宙航路A点で飛来する円盤群を発見した。防衛指令(高田稔)は、第二戦闘集団の発進を命じた。
 伊福部昭の戦闘マーチにのり、次々と発進していくシベリアと科学センターのロケット群。垂直に上昇していくロケット群の数がものすごい。地球をバックに、3機のロケット群が扇状になって、手前に突き抜けていく。
 この宇宙ロケット群とナタール遊星人の円盤群との宇宙戦がクライマックスとなる。
 左側から右上へと飛行する地球軍。右側から左へ向かう円盤群と、基本的な方向を決めつつ、画面を、光線を発射しながら超スピードで通り抜けていくロケットと円盤が、宇宙戦を実感させていく。事実、『スター・ウォーズ』(77/監督:ジョージ・ルーカス)の登場まで、これほど多数の宇宙戦闘機同士の宇宙戦というものは、世界のSF映像でも、この『宇宙大戦争』だけだったのではないだろうか?
 ジグザグ状の地球軍による光線、直線の円盤による光線と、光学合成の光線もきれいに整理されている。実物大の宇宙ロケットの操縦席とパイロットが映ると、バックの宇宙空間でも光線やロケット、円盤が乱れ飛ぶ。光線で粉砕される円盤、ロケット、飛来する宇宙魚雷と、一撃離脱戦法を基本イメージに、宇宙のドッグ・ファイトが続く。約420秒、東宝特撮の中でも、もっとも血湧き肉躍るメカニック戦のひとつである。
 ついに、円盤と大型円盤が地球に侵入した。東京に飛来する大型円盤は、そのドームから下の街に反重力光線を照射、木っ端微塵にビルが砕け、空中に吹きあげられていく。これは、発砲スチロール製のビルを圧搾空気の噴射で、噴き飛ばした。上空から見下ろしたロングの映像で、街が光線で緑に染まり、吹き飛んでいくところが迫真的である。
 科学センターは、強力な大型熱線砲を準備していた。小型円盤は、かすめただけで格納庫に向けて墜落。吹き飛ぶ格納庫。そして、大型円盤も大型熱線砲の攻撃を受け、バラバラに砕け散り、ナタール遊星人の宇宙侵略は、ここに防がれた。
『宇宙大戦争』は、『地球防衛軍』の一段上の大きなスケールを狙った宇宙SFだが、映画としての物語の密度は、やはり『地球防衛軍』に一歩譲る感がある。特撮は、宇宙艇の操演と合成、そして、光学合成の光線のフォルムのバラエティの豊富さ、スピードとタイミングのうまさが目をひいた。ジェット機戦のスケール・アップであるクライマックスの宇宙戦のスピード感も見事だったと思う。この宇宙ドッグ・ファイトは、円谷特撮の画面のコンテ・ワーク、構想力、編集のテクニックを知る最適なシーンであろうと思う。

初出 実業之日本社『円谷英二の映像世界』(竹内博、山本眞吾・編)円谷英二主要作品解説 昭和581983)年12月刊行】
*一部表記を変更し、訂正を加えました(管理人)



円谷英二の映像世界〜『地球防衛軍』

『地球防衛軍』 昭和321957)年度作品 88分 カラー 東宝スコープ


 昭和321957)年、日本映画界は、ワイド・スクリーン、シネマ・スコープの時代へと突入し、各社ともステージの拡大、新築が相次いだ。東宝も純国産のワイド・スクリーン用のレンズを開発、月1本の割合で新作が製作された。その5番目の作品が、東宝特撮初の東宝スコープ映画『地球防衛軍』(57/監督:本多猪四郎)である。音響面においても、立体音響を東宝で初めて取り入れた画期的な作品であり、日本SF映画史上逸することのできない傑作である。
 巻頭、東宝マークにかぶって伊福部昭による戦闘マーチが流れる。画面にミステリアンの宇宙ステーションが現れて、タイトルのスーパー・インポーズ。宇宙空間をカメラが移動し、飛行する円盤を捉える。地球のアップでタイトルが終わると、ファースト・ショットは、満天の星空である。そのままカメラは下方にパンし、ある村の夏祭りの情景が映し出される。ここから物語は始まる。
 村の若い連中や娘たちが集まって、楽しそうに盆踊りに興じている。東京の天文台に勤める白石亮一(平田昭彦)、渥美譲治(佐原健二)、譲治の恋人で、亮一の妹でもある白石江津子(白川由美)、亮一の恋人・岩本広子(河内桃子)も見物に交じって、のどかなひとときを過ごしていた。「踊ろうか」と、譲治は誘うが、亮一は無言でその場を立ち去る。後を追う譲治は、亮一に広子との婚約解消の理由を問いただした。富士のすそ野のこの村に引きこもるという亮一。譲治が驚いて理由を問いただしても、亮一はただ言葉を濁すだけだった。と、亮一は遠くを見て、身をこわばらせた。
「すまん、先に帰っててくれ!」
 言い残すと、亮一は走り出した。その方角を見ると、空が赤く染まっているではないか。山火事だ。と同時に、そんなところへまたなぜ亮一は? 何をする気なのだ!?
 踊りの群衆も山火事に気づき、会場は騒然となった。村の若い衆3人(大村千吉、加藤春哉、重信安宏)が自転車で火事場へと向かう川向こうの森を、群衆が見つめるのが特撮ショットで、森の炎が川の水面に反映して、ゆらめいているという光景を見せる。
 村の財産である村有林を守ろうと、自転車に乗った件の3人がやってくる。そこへ、亮一が現れ「あの火は危ないんだ。近づかないほうがいい」。しかし、3人は亮一の制止を振り切って燃える山に近づいた。そして、その時になって3人は、山の燃え方がおかしいのに気がついた。森が燃えているというより、木々は枝を残して、根元のほうからものすごい勢いで火を噴いていたのだ。3人は、登ってきた坂を転がるように逃げ出した。だが、炎の勢いは、あっという間に3人を包み込み、退路を断ってしまった。3人のあげる悲鳴もみるみる炎に包まれて消えていった。このシーンは本編の特撮だが、異様な山火事の描写として出色であり、特に、3人が炎に囲まれてからは、圧巻の一語に尽きる。
 亮一は依然として、炎に包まれた森を見つめている。その炎の発色は、赤というより白熱を感じさせ、妙に印象に残る。また、地面が溶けているのか、マグマ状に泡立って燃えており、すさまじい熱のすごさを感じさせる。炎の勢いに、亮一はなすすべもなく見守るだけだった。

 数日後、村にとどまった亮一から、研究レポートである一通の報告書を託されて、譲治は中央天文台へと帰ってきた。亮一の報告書の表紙には、“ミステロイドの研究”という文字が記されていた。
 火星と木星(劇中の台詞では土星)の間にある細かい小惑星の群れは、もともとはひとつの遊星(惑星)だった、というのが亮一の説であった。亮一はその謎の星を“ミステロイド”と名づけたのである。報告書に目を通した天文台長・安達謙治郎博士(志村喬)は、驚いたように呟いた。「これは珍しいことがあるもんだね。あの自尊心の強い男が中途で投げ出しているよ」。
 その時、電話が鳴って、譲治が呼び出された。電話の内容に驚く譲治。白石のいる村で大きな山崩れが起こったというのだ。
 一転、画面は富士のすそ野に広がる村落地帯を映し出す。村が地鳴りをあげて地面の中に吸い込まれていく。畑が崩れ、藁葺きの家がのみ込まれ、樹木が、神社の鳥居が、次々と地面をめくりあげながら沈んでいく。それは、山崩れというより、異様な地盤沈下を見るようである。
 この特撮シーンは、『空の大怪獣ラドン』(56/監督:本多猪四郎)で見せた山岳部の地盤沈下をさらにパワーアップしたものである。
----ラドン』では、それが単なる山でしかなかったが、今回は、家に道路、林、神社と、山間の村落がそのまま立体的に作られている。しかも一気にではなく、次々と地面に吸い込まれるように沈んでいくあたりは、実に効果的である。
 譲治は、その山崩れの調査団の一員として、現地を訪れることになった。現場に向かう車の中で、宮本警部(佐田豊)がただならぬことを言った。「大きな声では言えませんが(この山崩れは)人工的なものかもしれません」。現場で多量の放射能が検出された、というのだ。もし、この異変が人工的なものであるとしたならば、誰が、また、何の目的で……!?
 村は見るも無惨に変貌していた。数日前までこの村にいた譲治にとって、それは信じられぬ光景だった。調査を指揮する防衛隊員(中丸忠雄)によると、まるで電気洗濯機に入れてかき混ぜたようで、村中の配置が狂っているという。発見された鳥居や家は、元の位置から数百メートルも離れた場所にあった。その日、ガイガー・カウンターは放射能に対して、鈍い反応しかみせなかった。
 譲治は、宮本警部や川田巡査(大友伸)に同行してもらい、周囲の調査を開始した。異常現象はすぐに発見された。大量の魚が死に、川面に浮いている。原因を探ろうと川上に行くと、地面が燃えるような熱を持ち出す。この描写は、川田巡査の「何か焦げ臭いですな」というセリフから、ジープのタイヤが煙をあげているショット、そして、川田巡査が地面に手を触れて「あっ、熱いですよ」と、声をあげることで表現される。
 ガイガー・カウンターも強く反応し出した。「あっ、何だ!」、前方を指し示す譲治。道路が通る山の斜面が土埃をあげ始めると、中から異様な怪物(モゲラ)が姿を現した。全身金色に輝くメタリック・ボディ。全身を揺さぶりながら巨大な2本足で前進してくる。電波音を発し、頭部のアンテナがまわる。息をのむ譲治。宮本警部、川田巡査は銃を抜き、後退する。宮本警部が道の脇の割れ目に落ちた。警部を助け出す譲治。ジープの陰に隠れ、発砲する川田巡査。ビクともしない怪物。譲治は、さがるように言うが、川田巡査は発砲を続ける。怪物の目が白く発光するや、その両目から怪光線が発射された。光線を受け、ジープは炎上(ミニチュアではなく、実写に炎を合成)、川田巡査も道連れとなった。怪物は燃えあがるジープ(ミニチュア)を蹴飛ばし、前進を続ける。譲治は宮本警部ともうひとりの巡査を連れ、一目散に逃げ出すのがやっとだった。

 怪物出現の報に、街の警察署では、早速、対策本部が設置される。ここで、譲治に戸川署長(草間璋夫)が「いったい何でしょう? 現場では拳銃でも駄目だと言っていましたが……」と、困惑して聞くシーンがある。登場人物たちが、彼らの世界に乱入してきた怪物に対して、先入観を持っていないのだ。東宝特撮怪獣映画の初期作品に特徴的な感覚である。
 そこへ新たな報告が、対策本部に入った。怪物が、街にほど近い北川発電所に現れたという。出動を要請された陸上防衛隊も続々と到着、対策本部長は、町民に避難命令を発令した。怪物・モゲラは街に近づきつつあった。高圧電線を倒し(と同時に、家の灯りが消える!)、前進を続けるモゲラ。
 避難民は、国鉄の鉄橋を越えた川の向こう岸へと誘導されていく。鉄橋が対策本部のたてた防禦線であった。避難する人々を守って発砲を続ける警官隊。モゲラの怪光線が道を燃えあがらせる。街もモゲラの怪光線に包まれていく。手前に民家があり、その向こう側にモゲラのいる構図の中で、消防車の放水が家やモゲラにかかるシーンは、屋外のオープン・セットで撮影された。民家の屋根が燃える炎でいぶすような煙をあげる。水の飛翔を受け、闇の中に金色に浮かびあがるモゲラの異様な存在感。
 譲治も、彼を訪ねてきていた江津子とともに、避難する途中であった。譲治は、思わず呟く。「これは、白石の調査していたことと何か関係があるのかもしれない」。避難民に叫び続ける防衛隊のアナウンスが響く。「急いで鉄橋を渡って下さい。ここが防禦線です。急いで鉄橋を渡って下さい!」
 譲治たちが避難民に合流するあたりから『地球防衛軍』のメイン・テーマが流れる。防衛隊の機械化部隊が鉄橋の周辺に到着、怪物を迎え撃つべく布陣を敷いた。多連装ロケット砲車、迫撃砲、無反動砲、重機関銃、ライフルを持つ防衛隊の戦闘準備が進んでいく。その時、鉄橋を渡り終えた譲治と江津子は、傍らの山の上空を通過する円盤状の飛行物体を目撃する。鉄橋を渡る避難民が続く中、鉄橋の後方にモゲラがその姿を現した。
 防衛隊の攻撃が始まった。耳をつんざく砲撃の音が山間部にこだまする。モゲラは、両目から怪光線を発射、ロケット砲車を燃えあがらせた。砲撃などではビクともしない。火炎放射器の攻撃も加えられる。本編と特撮の絶妙なコンビネーションがここで展開される。本編の防衛隊員が火炎放射器(本物)を発射し、その炎を右になめるや、特撮の炎を右になめて、画面にモゲラが入ってくる。本編と特撮を同じスピードで右にカメラを動かすことでつなぎ、また、モゲラから炎を左になめ、炎からさらに火炎を発射している防衛隊員へと、特撮→本編への逆のつなぎもみせてくれる。
 また、この攻防戦は、ワイド画面を存分に使った構図によって、新鮮な画面を作り出してもいる。画面右端の鉄橋を避難民が渡っていく中、モゲラが暴れている合成シーンなど、そのいい例である。
 モゲラは、防衛隊の猛攻にもビクともしなかったが、鉄橋にしかけられたダイナマイトが、橋を渡ろうと足をかけたモゲラを鉄橋ごと吹き飛ばした。砕け散った鉄橋とともに、川へと崩れ落ちるモゲラ。さしもの怪物もその動きを止め、その猛威は防がれた。
 怪物の調査が行われ、その数日後、国会でも特別委員会が開かれた。証人席に立った譲治は、爆破した怪物が地球上で発見されたことのない合金で作られたロボットであり、電波で何者かに操縦されていた、という事実を明かし、事件はさらに波紋を投げかけることとなった。

 その夜、中央天文台の安達博士は月面を観測中、月の裏側から謎の物体が飛来するのを発見した。白石亮一が提出していた報告書には、何者かが人工衛星の宇宙ステーションを中継して、月と地球を往復しているとの推論が書かれていた。安達博士は、白石報告書を公表し、ミステリアンの地球侵入の危機を広く世界に訴えた。
 安達博士は調査団の団長となり、白石報告書が地球のミステリアンの円盤基地と指摘していた富士山麓・西湖の再調査に赴いた。
 調査団が現地に到着して、調査を開始しようとした時、湖水を隔てた山陰から土煙をあげながら台地が盛りあがり始めた。息をのむ安達博士や調査団。盛りあがった台地は崩れ始め、その中に球型のドームが徐々に姿を現してくる。ドームは、半球の形になるまで回転を続けると停止し、中から流暢な日本語が流れ始めた。「地球の皆さん、無用な争いは避けようではありませんか。次の5人の人と話し合いをしたいと思います。安達謙治郎……渥美譲治……」
 突然、自分の名前を呼ばれて呆然とする5人の科学者だったが、相手の正体を知るだけでも行くべきだという安達博士の意見で、護衛の防衛隊員を説得、5人でドームへと向かう。ドームへと真っ直ぐに伸びた道を5人が進む合成シーンがすばらしい。ドームの登場シーンも、ドームだけがせり出してくるのではなく、台地ごとせりあがり、回転の力が土をはね飛ばして、その全貌を見せるなど、工夫のあとが見られる。
 5人がドームへ近づくと、壁面の一部が明るく光った。そこに入っていくと、壁は素通しになって、5人は中へと入っていく(見事な合成ショット!)。ドーム内部の廊下は、すべて白色不透明なプラスチックのような光沢で、照明設備がないのに、どこからともなく白い光線が入り込んでいた。
 安達博士ら5人は、ある一室に招ぜられ、多数の幹部を引きつれたミステリアン統領(土屋嘉男)に会見、彼らの正体と地球来訪の真意を伝えられた。
 彼らは、白石亮一が推定した通り、10万年以前に自らの星を原子兵器戦争によって粉砕させた、第5遊星ミステロイドの住人で、破滅寸前に火星に脱出した人々の子孫だった。彼らの要求は、ドームから半径3キロの土地と、種族保存のため地球人の女性との結婚を認めてほしいということだった。そして、結婚相手として5人の女性の引き渡しを要請した。すでに、3人は捕らえられ、残りのふたりは、江津子と広子であった。あの祭りの夜、ミステリアンは、彼女たちの写真を写していたのだった。
 事件の対策本部は防衛庁に移され、ドームから帰った安達博士の報告を中心に、種々の議論が戦わされた。対策委員会の結論は、早急に勝利を得られないにしても、全力をあげて自衛の行動に移るべし、というものであった。ミステリアンと地球防衛軍の戦いは、ここに幕を切って落とされたのだ。

 ミステリアン対地球防衛軍の戦闘は、およそ次のような大きなブロックにわけて描かれた。
1 陸上防衛隊の大砲、戦車隊、地対地ミサイル、航空防衛隊のF86F、F104など、ジェット機編隊などの通常兵器による攻撃。
2 空中軍艦ともいうべきアルファ号、ベーター号による強力なナパーム攻撃。
3 新兵器・マーカライト・ファープを先陣に、ついには、電子砲を装備した第2ベーター号も加わる防衛軍の総攻撃。
 それぞれの間にミステリアンの円盤が都市上空に現れ、「無益な戦いはやめようではありませんか」と、呼びかけたり、譲治や江津子の見ているテレビにミステリアンの仲間になっている亮一から「戦争をやめるように」と通信が入ったり、ミステリアンの円盤に拉致される江津子や広子、ミステリアンがドームの周囲120キロ四方の占領を通告、地球人退去を迫るなど、本編のドラマが挿入されていく。以下、その3つのブロックを詳述して、この次第に盛りあがっていく科学攻防戦の映像イメージに触れていこう。

  1
 富士山麓に集結した防衛隊の攻撃がミステリアン・ドームに向けて開始された。大砲、戦車隊、ロケット砲部隊の攻撃が続く(実写の戦車や大砲、ミニチュアの戦車、大砲、ロケット砲が巧みに挿入される)。ミステリアン・ドームは、激しい弾幕に包まれた。しかし、ドームは白く光り、何の変化もない。
 肉薄前進する戦車隊(ミニチュア)、上空ではジェット機編隊の攻撃も始まった。応戦するミステリアン・ドーム。ドームから照射された雷状の怪光線は、大砲や戦車を次々ととらえ、アメ細工のように溶かしていく。
 この攻撃シーンで印象的なのは、ミステリアン・ドームを攻撃するジェット機からのカメラ・アングルだ。はるか彼方の上空からミステリアン・ドームに迫り、通過するまでを移動撮影で見せる。ドーム上空にたなびく爆煙をカメラが突き抜けていくショットのイメージには目をみはるものがある。
 攻撃はさらに続く。前進する戦車。ミニチュアだけでなく、実物大の戦車の模型が作られ、砲塔上部のハッチから指揮官が顔をのぞかせ、背景を合成して前進、発砲するシーンが作られた。果敢に攻撃する戦車も、ミステリアンの攻撃にとらえられてしまう。戦車は、砂地獄にのみ込まれるように、突如、回転しながら地面に吸い込まれていく。実物大模型でも背景をグルグルさせる次のショットとのつなぎの的確さ、そして、戦車が地面にのまれる瞬間、ミニチュアの戦車の砲塔から指揮官の人形が操演で、脱出しようとジャンプする描写が続く。
 ドームばかりでなく、ミステリアンの円盤も飛来、その光線攻撃にジェット機編隊は、一機、また一機と撃墜させられていく。この攻撃シーンでは、それぞれの光線、ミサイル、大砲、ロケット砲、爆弾、戦車砲と火薬の爆発のフォルムが違えてあり、画面を縦横に爆発が包みながら、なお散漫になるのを防いでいる。
 防衛隊による地球軍の第一次攻撃は失敗に終わった。通常兵器では手も足も出ないのだ。

  2
 この危機に、日本からの要請に応えて国際会議が開かれ、各国の科学者が続々と到着。地球防衛軍司令部が設置された。
 第二次攻撃の主役は、空中軍艦“アルファ号”と“ベーター”号である。後半の総攻撃(第三次)準備中、船体の下方、基地の滑走路に作業中の人間が合成され、このメカニックの巨大さを強調している。その発進シーンは、8686Dが滑走路手前に並ぶ合成シーンで、現行の戦闘機の向こう側にホバー発進するアルファ号を描くという構図だ。空中に浮上したアルファ号は、着陸脚を収容して、後方の主力エンジンを発火、勇躍ミステリアン・ドームへと向かう。ドームの上空に侵入してくるアルファ号、ベーター号。ドーム上空で左右から交叉するアルファ号、ベーター号やアルファ号が画面左奥に現れ、排気煙を残しながら大きく弧を描き、画面中央前方に迫り、再び画面左に向かっていく旋回場面、さらにカットが切り替わると、今度は画面右から奥へと回り込んでいくベーター号と、そのスピード、飛行音、旋回する構図と、円谷映像の結晶の続出である。
 ミステリアンは、ドームから怪光線を照射する一方、円盤にアルファ号、ベーター号を迎え撃たせる。アルファ号は急上昇し、3機編隊の円盤を追撃する。機首の速射砲が火を吹き、その弾幕の中を逃げる円盤群をカメラがパンしながら追いかけていく感覚は、まさに空中撮影のそれである。ミニチュア・セットの空間にもかかわらず、円谷は、その中にダイナミックな通常のカメラ・ワークの発想とセンスを持ち込んでいるのである。
 ベーター号の攻撃が始まる。3000度の高熱を放つ、ナパーム・ミサイルの発射だ。まず、ベーター号の船体のアップを見せ、ミニチュアのミサイル発射。次のショットは、ロングで画面下方にミステリアン・ドームがあり、空中を飛ぶベーター号から作画合成で、光の点として表現されたミサイルがベーター号から次々とドームへと目指して飛ぶ。作画ならではのスピード感と絶妙な軌跡。次の瞬間、ミステリアン・ドームの数倍の高さに噴きあがる白熱の火柱。
 譲治たちのいる監視所は、爆風と、強烈な振動に襲われる。激しい戦闘がドームからはるか彼方のこんな地点にまでおよんでいるのだ。この本編を挿入することで、ドームVSベーター号の激戦が実感できるのだ。攻撃前に閃光防御用のゴーグルをかけたりする人間側の描写などもその効果のひとつである。
 アルファ号に乗る杉本航空指令(小杉義男)は、ベーター号に攻撃続行を命令した。しかし、ドームから発射され、大空をひとなめした怪光線は、空中のベーター号をとらえ、ベーター号は、その場で大爆発を起こして砕け散った。残るアルファ号は、やむなく帰投することになった。

  3
 呆然とドームを見つめる譲治。「3000度の高熱を与えてもビクともしない。いったい、あのドームは何でできているんだろうか」。「やっぱりミステリアンには勝てないんでしょうか……」宮本警部の声が譲治に重くのしかかった。と、彼らふたりのいる谷間に突風が巻き起こった。譲治は、その奥を不審気にのぞき込むのだが……(そこはミステリアン要塞の工事地区からの排気口になっているのだ)。
 そのころ、ミステリアン・ドームは、要塞として地下工事が完了目前であった。すでにミステリアン統領は、後500地球時間で要塞が完成することを亮一に告げていた。「これさえ完成すれば、東日本は我々の意のままだ。」亮一はこの時、ミステリアンの真の目的に初めて気がついたのだ。
 一方、地球防衛軍には、焦りと困惑の色がみなぎっていた。ミステリアンは、要塞完成が近づき、ついに、その野望を明らかにした。ドームを中心とした周囲120キロのミステリアン所有と、その範囲内に立ち入る地球人は実力で排除すると通告してきたのだ。
「こうなったら原水爆の使用しか……」と、呟く川波博士(村上冬樹)に、安達博士は猛反対する。そんなことをしたらミステリアンの二の舞ではないか。そこへ、インメルマン博士から新発明“マーカライト・ファープ”のアイデアが持ち込まれた。それは、直径200メートルの巨大レンズ状で、敵の怪光線に匹敵する熱線を発射するとともに、逆に、敵の光線をそのまま吸収して、送り返すことができる強力な熱線兵器であった。しかし、その有効射程距離は1.5キロで、敵の間近に建設するしかない。防衛軍は対応策を練り、全力で作戦準備にかかった。アルファ号にマーカライト・ファープの原理を応用、怪光線を防ぐことも検討されることになった。
 地球防衛軍本部は、120キロ四方の住民を避難させ、総攻撃の準備に入った。科学戦闘班の電子砲は完成していないが、ここ数日間の円盤の行動から見て、要塞の完成が間近であることは明かであった。電子砲がなくても、マーカライト・ファープで、ダメージを与えることができれば、活路を見出せるかもしれない。電子砲完成が急がれる中、ついに、攻撃の日が決定した。
 譲治は、拉致された江津子たちを救おうとするが、攻撃決定はズラせず、やむなく先日発見したミステリアン要塞の工事地区から、ひとりドームへと向かった。
 地球防衛軍の総攻撃が始まった。巨大なロケット、マーカライト・ジャイロが基地を飛び立っていく。青空をマーカライト・ジャイロがどこまでも上昇していくこのシーンは、奥多摩の吊り橋でマーカライト・ジャイロのミニチュアを吊り、撮影された。特撮の吊り(操演)は、上からピアノ線で吊るため、真上にカメラを向けると、セットの天井が映るので、向けられないという弱点を逆手にとったショットである。
 ミステリアン・ドームの上空には、アルファ号が飛来し、注意をひきつけてミステリアン・ドームの光線を浴びるが、ビクともしない。船体にマーカライト処理を施した、アルファ号の光線吸収は完璧であった。その間に、ブースターを切り離し、ミステリアン・ドームのあるすそ野へと近づくマーカライト・ジャイロ。マーカライト・ジャイロは、空中でカプセルを爆破し、マーカライト・ファープを空中に放出した。巨大なパラボナ・アンテナを傘のように上に向け、真下にロケット噴射しながら垂直降下してくるスーパー・メカニック。4本の脚にはキャタピラがあり、着地するや、パラボナをドームのほうへとあわせていく。地球防衛軍の新兵器、マーカライト・ファープだ。
「第1号機、接敵前進!」
 川波博士の遠隔操作で、マーカライト・ファープは前進を開始した。画面一番手間にマーカライト・ファープの脚部があり、前進するシーンは脚部のみのミニチュアを使用。その向こう側、画面後景中央に、もう一台が降下してくる。計3台のマーカライト・ファープが、並んで攻撃するシーンでは、一台目のマーカライト・ファープは、2メートルほどの大型モデル。奥に降下した2台目は、手前のおおよそ半分、1メートルもないモデルだ。遠近感を逆手にとって、奥行きを生むミニチュア特撮の代表例である。
 マーカライト・ファープから、次々に光線が発射された。中央の青い光源が光るや、そのパラボラ状のカサからエネルギーの噴流のように熱線の束が照射された。ドームは光線を受け、白熱を発し始めた。ドームから発射された怪光線が地面をまるで地走りのように走り、マーカライトを狙うすさまじい映像感覚。飛び交うマーカライトとドームの光線に、ミサイルの攻撃も加わり、マーカライトの青白い熱線が左右から次々とドームに襲いかかっていく。ミステリアンはそれに対抗して、予想外の反撃に出た。西湖の水面に異変が起き、突然、水流が噴きあがった。数百メートルの高さまで噴きあがった水流は、マーカライトの一台に襲いかかり、押し倒す。その濁流は、麓の街まで押し寄せ、街ひとつを完全に押し流してしまった。

 双方の光線の激しい応酬が続くなか、ミステリアン・ドームの中では、人間が慌ただしく移動していく。特撮でドームの中央にあるエレベーターなども見せる。譲治は、機械を見まわっていたミステリアンのひとりを捕まえ、人質はどこにいる、と案内させようとする。そのころ、捕らえられていた女性たちは、ひとりの幹部(黄色)ミステリアンに連れ出されていた。女性たちを見つけられなかった譲治は、ドームの動きを止めようと、管制装置のメカに光線銃を発射した。しかし、連続発射をしているうちに、エネルギーが切れ、駆けつけたミステリアンの兵士たちに捕らえられてしまった。幹部のミステリアンは譲治を受け取り、連行していく。しかし、その行き先は譲治が侵入した場所で、そこには江津子や広子たち、とらわれの女性が全員待っていた。
 広子はこの幹部ミステリアンの声を聞いて、愛する亮一だと気づいた。素顔を見せた亮一は、一緒に逃げよう、という譲治や広子に答えて言った。「間もなく要塞が完成すると、ボタンひとつで東京は灰になってしまう。オレは、ミステリアンに騙されていたんだ!」。亮一は、書き終えた報告書の続きを譲治に託し、すがりつく広子を振り切って、ドームに戻っていく。トンネルの彼方から亮一の声が響いてきた。「高度な科学も、その使用を誤ると悲惨だ。地球は、ミステリアンの悲劇をくり返すな!」。トンネルの向こうで爆発が起こり、譲治は皆を連れて外へと向かった。
 マーカライト・ファープとミステリアン・ドームとの戦いは続いていた。マーカライトの有効時間は75分。後、わずかという時、ようやく完成した電子砲を装備して、2ベーター号は一路、決戦場へと向かい、戦闘空域に突入。マーカライトが後1分で失効するという時、ついに攻撃を開始した。電子砲が発射される。そのパワーを見せるため、それまで緑色のドーム光線や青白いマーカライト光線を見せていたのでは、と思わせるような真っ赤な激流のような光線がドーム全体をおおって、すさまじい光を放った。
 しかし、ドームはまだ倒れない。苦闘の上下動や回転を続けるも、活動を停止しなかった。だが、その内部は、先の譲治による破壊で大きなダメージを受け、応急修理した管制装置を、いままた亮一が光線銃で機能停止に追い込んだため、壊滅状態にあった。駆けつけるミステリアン兵士も光線銃で消してしまう亮一。その心の怒りを表すかのように、彼の握りしめる光線銃からは光線がほとばしり続ける。彼が科学の理想を信じ、夢をかけ、望みをかけたミステリアンは、地球を我がものにしようとする侵略者にすぎなかったのだ。
 外では、マーカライト・ファープと強力な電子砲の攻撃を受け、内では、心臓部を破壊されたドームは、断末魔の状態であった。急激に室温が上昇し、熱に弱いミステリアンは、バタバタと倒れていく……。
 ミステリアン統領は幹部を連れ、円盤で宇宙ステーションへの脱出を図った。そこへやってきた亮一は、一度は向けた銃をおろし、円盤へと急ぐ彼らをそのままにする。ミステリアンの野望は、もはや潰えたのだ。
 最後の電子砲攻撃を受け、ついに、ドームは崩れ、内部から大爆発を起こし、巨大な爆発雲が空に駆けのぼっていく。あとには、巨大なガラスの溶けた塊のような残骸が残された、
 湖から脱出した円盤は、一機、また一機とベーター号の電子砲の光線攻撃によって消えていった。安達博士は、攻撃を逃れ、宇宙へ帰っていく円盤を見ながら、うめくように呟いた。
「彼らは永遠に宇宙の放浪者です。我々は決して彼らの轍を踏んではならない……」
 地上へ出た譲治、江津子、広子は、夕焼けの空を仰いで声も出ない。空に駆けのぼるひとつの光。それは、国連が打ちあげた監視用の人工衛星だ。「ミステリアンも二度と再び地球に近づくことはできないだろう」という譲治の呟きで映画は終わる。
 この作品は、東宝特撮路線の第2の転機になった作品である。画面の大型化、立体音響化は、スペクタクル活劇としての東宝特撮に大きな活路を見出したといってもいいだろう。

初出 実業之日本社『円谷英二の映像世界』(竹内博、山本眞吾・編)円谷英二主要作品解説 昭和581983)年12月刊行】
*一部表記を変更し、加筆修正しました(管理人)


『池田憲章の 怪獣おたっしゃ俱楽部』 第19回

♪オモシロ心は、ぼくらの心の中の子供たち♪


 毎年、春の楽しみは、劇場版の長編『ドラえもん』を映画館で見ることで、今年も3回ほど映画館へ足を運んだ。巨大ロボットのザンダクロスが湖をスイスイとクロールで泳いだり、バレエを踊ったり巨大ロボットの迫力と同時に、ギャグを盛り込む藤子アニメならではの冗談とシャレっ気に客席を埋めた子供たちと一緒に声をあげて笑ってしまった。
 今年の見どころは、もう一本の併映の立体アニメ『オバケのQ太郎 とびだせ!バケバケ大作戦』で、まぁ、そのよく飛び出ること、映画館の至るところで、家族づれの子供たちが興奮して、「お母さん、電柱が出てる、出てる!」、「ワァッ、スゴ〜イ」、「見て、見てっ!」と、キャラクターが飛び出したり、ゾウの鼻がニュッと突き出てるのに大騒ぎで、こうやって劇場で子供たちが歓声をあげるなんていうのを見たのは、何年ぶりだろう……と感激してしまった。
 あの作品をお話がどうのこうのというアニメ・ファンがいるけど、あれは子供たちにすれば、“劇場だからこそ味わえるイベント”として、ビックリして楽しんでいるわけで、そういう映画としては成功だったと思う。
 たとえが悪いかもしれないが、昔、東映まんがまつりの劇場でやっていた『仮面ライダー』(71/MBS・TBS)の実演ショーで、目を丸くしている子供たちのようなものか。劇場がその子にとっては、この世ならぬ異空間に変じていたのだ。
 この夏、『天空の城ラピュタ』(86/監督:宮崎駿)を見に行って、同じような思いにとらわれた。一番楽しんでいる、小学生から中学生で、映画の画面と一体化し、笑い、息をのみ、映画が終わるとニコニコと劇場を出ていくその子たちを見ていて、こういう映画の見方が最高なのではないか……と、そう思えたのだ。
 実際、子供たちと一緒に見ると、アニメや特撮は、実にいろいろな発見がある。ディズニー映画の『バンビ』(42/監督:デイヴィッド・ハンド)を見ていた時だが、森に猟師(ハンター)が現れ、母親がその気配を察して、バンビを逃がさせようとするシーンがある。画面全体が暗くなり、不安を感じさせる音楽、ザクッ、ザクッと草原を踏むハンターの足、逃げる母親と何も知らぬバンビ……すると、劇場の各所で34歳の子供たちが泣き出したのである。「コワイよ〜」、「ウェ〜ン!」……何かが起こることをその子たちは、気づいてしまったのだ。この映画を最高に味わっているのは、あの子たちだなぁ……と、暗がりの中でビックリしてしまうのである。
 京橋にあったフィルム・センター。研究上映で、昭和初期の『浦島太郎』のアニメが上映されたことがある。何を間違えたのか、子供をつれた家族づれの人が何組か入ってきて、上映が始まった。竜宮城へ行くと、タイやヒラメ、タコは上下カミシモ、頭がタイ、ヒラメ、タコそのもので、その珍妙さに、子供たちは、何かひと言しゃべる度に大爆笑……研究上映を見にきていた大人たちはムッとして、『何だ、こいつらは!?』と怒っているわけだけど、その時思ったのは、『この子たちの反応のほうが正しいんだ』ということだ。しかつめらしく資料として映画を見ている僕も含めた映画ファンのつまらなさに気づかされてしまったのだ。子供たちは、まさに作品を本当に味わっていたのである。自分のことを思い出しても、東映の長編アニメの『西遊記』(60/演出:藪下泰司、手塚治虫、白川大作)、あのラストの悟空と牛魔王の空中決戦シーンの興奮を忘れることは、生涯できないだろう。
 空を飛びながら戦う両者。♪チャチャチャ〜チャララァ♪と、陽気な音楽にのって、闘牛士よろしく雲の上に立つ悟空----カメラは両者をとらえ、悟空と一緒に僕も空を飛んでいた。
 あのリズム、編集、----そして、煮えたぎる火山の溶岩火口の上空で対峙する両者。
 目も眩む体験というのは、あのことであった。自分が消え、スクリーンの中に突入して、僕は映画そのものになっていった。
 映画が終わった時、体の血のたぎりを感じることができたほどで、これが映画なんだと実感することとなった。
 『キングコング対ゴジラ』(62/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)も全く同じで、スクリーン以外のすべてが消えてしまう興奮を味わい、映画館から夢心地で帰ってきた。
 キノコを食べてキノコになってしまう東宝特撮の『マタンゴ』(63/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)では、主人公に後ろから近づいてくるマタンゴの長廻しのシーンに仰天して、『やられちゃう、やられちゃう』と、8歳の僕は「うしろ、アブナーイ!!」と思わず画面に向かって大声で叫んでいた。周りの人はビックリ仰天だったが、叫ばずにはいられなかった----映画と僕の垣根はその時、存在していなかったのだ。だから、20歳になるまで、12年間、キノコを食べる気になれなかった……バカバカしいと思いながら、僕の血液の流れの中に、その時叫んだ戦慄の余韻がしっかりと残っていたからである。フィクションとはいえ、あの時感じた血が逆流する悪寒を覚え続けていたのだ。
 今はビデオが続々と出て、自宅で、友人の家で、『ゴジラ』(54/監督:本多猪四郎)だ、『海底軍艦』(63/監督:本多猪四郎。特技監督:円谷英二)だ、『キングコングの逆襲』(67/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)だ……と、楽しみながら劇場で見るとは、ズイブン違うなぁ……と、発作的にオールナイト上映へ走っていきたくなる自分を時々抑えられなくなる。
 昔、映画の美術スタッフに話を聞いていて、35ミリフィルムが上映されると、一千倍くらいに拡大されるんだ……という話になり、「それを考えたら、手を抜けないよ」という話に思わず納得したものだ。
 映画というのは不思議なもので、TVでやるために作ったTV映画でも、大スクリーンに映すと、映画になってしまう作品が少なくない。『ウルトラQ』(66/TBS)、『ウルトラマン』(66/TBS)、『ウルトラセブン』(67/TBS)、『怪奇大作戦』(68/TBS)は、その典型で、上映会を開いて、大スクリーンに映して、その映像のパワーに改めて驚くことも度々だったのである(第1415話「ウルトラ警備隊西へ 前編 後編」〔監督:満田かずほ、特殊技術:高野宏一〕や第3940話「セブン暗殺計画 前編 後編」〔監督:飯島敏宏、特殊技術:高野宏一〕なんて、あんた、腰抜かしますぜ!!)。特技監督や本編の映画スタッフたちは、真面目に「これはTV作品なんだから、TVサイズを考えて作ってある。だから、TVで見るのが正しいんだよ」とおっしゃるのだが、大スクリーンで映える映像を否定しようがないのである。これが、フィルムの魔力というものなのだろうか。
『ドラえもん』(79/テレビ朝日)や『キン肉マン』(83/NTV)の主題歌が流れ出すと、思わず歌ってしまう子供たち。自然に楽しくなり、彼らは歌っているわけだ。
 実際には声は出さないけど、映画館の暗がりの中で、僕も心の中で歌ってみる。すると、“ドラえもん”が一歩近づいてくるような気がする。映画館は、フィクション世界へ続くステキな“どこでもドア”なのである。

初出 角川書店『月刊ニュータイプ』 昭和611986)年10月号】
*満田監督の名前は、正しくは禾に斉。



『池田憲章の 怪獣おたっしゃ俱楽部』 第8回

究極の怪獣ネーミングは板前の心にも似て……


 鉄腕アトムや鉄人28号、エイトマンを見て育った僕らは、“ロボット”といえば、人間そっくり、あるいは人間の形でメタリック・ボディ、たとえ、人間型でなくて恐竜や昆虫の形をしていても、その体の線は、いかにも工場で作られた美しい曲線と直線で構成された、リベットが打ってあるような、金属ならではのボディ・ラインを持つ、スーパー・メカニックと思い込んでいた。
 だから、『ウルトラQ』(66/TBS)に登場した“ガラモン”というロボット怪獣を見た時の驚きは、昨日のことのように覚えている。
 このガラモンときたら、顔はカサゴのお化けみたいで、目はマツゲも長くパッチリ、鼻ぺちゃ、クチビル厚し、背には一面に針葉樹のようなトゲトゲが生えそろい、手足はまるで骨のようにゴツゴツとして、お尻には、跳ねあがっている針金のようなシッポ……まるでロボットというメカニック・イメージとは、かけ離れていたからだ。
 しかし、歩く時は、その度に、「カシャン、カシャン」と、不思議な金属音の足音をさせ、全身を震わせて、「シャ〜〜ン!!」という耳をつんざくような電波音をたてる演出。
 さすが、宇宙人の作ったロボット怪獣は、地球のロボットとは違うんだなぁ……と、TVの前で11歳の少年は、唖然としてしまったわけだ。
 また、ガラモンという名前も、物語の中で説明しているが、長野県のある地方では、隕石のことを“ガラダマ”と呼んでいる----そのガラダマにのってきた怪物だから、ガラダマ・モンスター、略してガラモン。このネーミングのセンスは、実に、しゃれたスマートな感じを与えてくれた。
 当時、怪獣図鑑を読んでいて、バルタン星人のネーミングも、困りに困って、そのころ、来日が決まっていた歌手のシルビー・バルタンから取った、という話にビックリしたことがある。
 円谷プロのウルトラ怪獣や宇宙人のネーミングは、それまでの東宝や同じころ、放送していた東映やピー・プロの特撮作品と比べて、不思議なしゃれっ気と遊び心があった。今回は、そんなネーミングのお話です。
 9月現在、東京地方では、『ウルトラセブン』(67/TBS)が再放送中で、とても18年前の作品と思えぬできで(あぁ、『セブン暗殺計画』の興奮!)、見る度に驚いてしまうが、その宇宙人たちのネーミングもまたふるっていた。
 怪獣ファンの間では、“いじきた怪獣”といわれる“エレキング”。まだ、小さい幼獣だった時、何と釣人のハリに引っかかって釣られそうになってしまう。こんなノンキな怪獣は、空前絶後だろう。湖に放して成長させていたわけだが、主人のエサだけでは足らず、釣人のハリに引っかかってしまったのだ。それで、いじきた怪獣、と呼ぶわけ。ご主人のピット星人の女の子が、ハリから助けて、「あなたにはまだ大事な任務があるでしょ」と、叱るのもかわいい、これもスタッフの遊び心ですね。
 エレキングを操る“ピット星人”は、天使のような女の子に化けるので、キューピットのピットを取って名づけられた。同じく、自分は地下に隠れて、地球人同士を戦わせようとする宇宙人なので、フランス語の地下鉄の意味、メトロから連想して“メトロン星人”、マックス号という地球防衛軍原子力船が中心となっているので、水を連想して、水の都・ヴェニスで使うゴンドラを縮めてつけた“ゴドラ星人”と、これは宇宙人の作戦からつけたタイプ。
 地球人を狙う残酷な宇宙人なので“クール星人”、冷たい宇宙人というわけ。毛むくじゃらの雪男のような姿なので“ワイルド星人”。
 まるで広告ビラのように薄いエビのような形の宇宙人なので“ビラ星人”、鈴が鳴るような音をさせて人を狂わせる宇宙人なので“ベル星人”----このあたりは、極めてストレート。
 なかなか凝っているのは、植物宇宙人の“ワイアール星人”で、植物なので、当然、葉緑素を持っている。その葉緑素をローマ字で書くと、“YORYOKUSO”となる。その“Y”と“R”をとって、ワイアール星人と名づけたのだ。第27話「サイボーグ作戦」(監督:鈴木俊継、特殊技術:的場徹)に出てくる“ボーグ星人”は、サイボーグから取ったと思いきや、フランスの有名なファッション誌『VOUGE(ボーグ)』から取ったという。だから、ボーグ星人の声は、女性なのだという凝りようだ。
 人の名前から名づけた宇宙人もあって、ギリシア神話の空を飛んだ少年・イカロスから取った“イカルス星人”、ギリシアの劇作家・アイスキュロスを縮めた“アイロス星人”、天文学者のシャプレーから名前をもらった“シャプレー星人”と、その名前の響きと語感だけで、名前をつけられた宇宙人もある。
 圧巻は、物語のテーマから名づけられた例で、その代表格が第42話「ノンマルトの使者」(脚本:金城哲夫、監督:満田かずほ、特殊技術:高野宏一)に登場する“ノンマルト”だ。
 ノンマルトは、地球に人類より前から住んでいた地球の先住民族で、人間に追われて、平和を愛した彼らは、人類と争わずに海へと逃げた。しかし、彼らが住む海底の開発に人類が乗り出したため、種族の生存をかけて、ノンマルトは人類に戦いを挑んでくるのだ。
 この話では、ウルトラセブンであるモロボシ・ダンが「M78星雲では、地球人のことをノンマルトと呼んでいる。地球人とは、ノンマルトのことだ」と、心の中で呟くのが圧巻で、地球人自体も侵略者だったのか----と、僕ら自体の業というか、文明の暴力性、他人を犠牲にする現代人の実像と運命までも描いた『ウルトラセブン』の傑作中の傑作である。
 そのノンマルトという名前だが、脚本家・金城哲夫が名づけたこの名前は、ノン・マルス----つまり、“火星ではない”という意味の言葉を元にしているのだ。
 火星は長く戦いの神として、あがめられ、考えられてきた。つまり、ノン・マルス、戦いの神ではない人々、戦わない民族という意味で、ノンマルトは名づけられていたのだ。
 これほどスマートな、テーマをも内包したネーミングを、僕はほかに知らない。
 金城哲夫という脚本家は、『ウルトラQ』、『ウルトラマン』(66/TBS)、『ウルトラセブン』、『マイティジャック』(68/CX)と、第1期怪獣ブームの中心となって活躍した脚本家だが、惜しくも、昭和511976)年226日、38歳の若さで故郷・沖縄にて他界された。円谷プロ文芸部の主筆として、怪獣や宇宙人のネーミングに、そんなテーマを隠していたのである。
 まさに、隠し味----作品の表にはスマートさとしゃれっ気だけしか出ないわけだが、作品のそんなところまで、心を砕く作家の心にきっと僕たちは気づいていたのだと思う。

初出 角川書店『月刊ニュータイプ』 昭和601985)年11月号】
*満田監督の名前は、正しくは禾に斉。



特撮新世紀の予感に満ちた 1998年日本特撮

1999展望
国内


収穫は『ダイナ』と『ガイア』の充実!!


 1998年夏、日本SF大会は、前年の最優秀SF映像として、『ウルトラマンティガ』に星雲賞を贈った。優れた作品を曇りなき眼で見つめてくれる若きSFファンたちに、特撮ファンとして感無量の思いだ。
 1998年の日本特撮は、『ウルトラマンダイナ』と『ウルトラマンガイア』の充実の一語に尽きる、と思う。
『ウルトラマンダイナ』の最終章3部作の特に残り2話は、アスカの「オレは今、君だけを守りたい!」というリョウへの想いを縦軸に、人としてさまざまな想い、夢を込めた最後の戦いを描いた。ヒビキの、コウダの、ナカジマ、カリヤ、リョウコ、マイ、アスカのセリフに込めたエモーションは、『ティガ』の子供たちがティガとともに、戦う映像イメージに対する新たな解答で、リョウの「君だけを守りたいなんて……正義の味方のセリフじゃないわよ」というセリフにアスカが語る「かもな。でもオレはオレだから……(ガクッとヒザをつくアスカを抱きしめ、頬を寄せるリョウ)……リョウ」(心の琴線を表すピアノのメロディーの美しさよ!)、まっすぐにアスカの瞳を見つめるマイに、「マイ、ダイナなんてカッコいい名前つけてくれてサンキュ。けっこう気に入ってたんだぜ」と、陽気に語りかけるアスカ、「ダイナミックのダイナだよ。ダイナマイトのダイナ……そして、大好きなダイナ」と、マイ、「ありがとな、マイ……」というセリフの美しさ、「カズマ、見てるか、おまえの息子だ!」という地球でアスカを見送る人々の想い……特撮作品は、ドラマが生きた時こそ光り輝くのだと実感させてくれた。
『ウルトラマンガイア』は、GUARDとXIGのメカニック特撮も、もちろん楽しいが、ガイアとアグルのまるでライオン丸とタイガー・ジョーかという熱いドラマを描き、第14話「反宇宙からの挑戦」(監督:根本実樹、特技監督:佐川和夫)、第15話「雨がやんだら」(監督・特技監督:北浦嗣巳)、第16話「アグル誕生」(同前)、第17話「天の影 地の光」(監督・特技監督:村石宏實)、第18話「アグル対ガイア」(同前)の本編と特撮が核融合して発動を開始したドラマティックさにTVの前で、椅子から何度も転げ落ちるうれしさだった。
『ウルトラマンガイア』が手中にしつつあるガイアとアグルに表情さえ感じる特撮ヒーローのドラマティック・スパーク、変身シーンの光がまさに我夢の、藤宮の想いだという光さえ演技させようとしている特撮スタッフの踏み込みの正しさ、そして、石室コマンダーや堤チーフ、梶尾チーム・ライトニング・リーダーの我夢が目撃する戦う大人のプロフェッショナル・マインドの手応え。チーム・ハーキュリーズの吉田リーダー、チーム・マーリンの今井隊員、チーム・シーガルの神山リーダーの落ち着いた、いかにも大人らしいセリフまわしも見事だ。かつて、本多猪四郎監督が語っていた「本当の軍隊の参謀や指揮官らは、フランクでどんな時も気さくに話せる人だ。そうでなければ、いい作戦も浮かばないからね」という言葉を思い出した。わずか1クール13話で作品の全貌が見えてくるなど「ウルトラ」シリーズはじまって以来、初の快走ぶりといっていいんじゃないか!!
 セット手前に平屋+樹木の街並みのセットを建て、マルチ効果のようにウルトラマンVS怪獣の戦いに奥行きを出す撮影設計も、夜間シーンですばらしい広がりを見せはじめており、平成「ガメラ」シリーズが見せた建物ナメの構図をさらに一歩押し進めた革命的なアイデアで、さすがは佐川和夫特技監督だった。『ウルトラマンティガ』(96/TBS)から進めてきた本編と特撮班をひとりの演出家が担当するシステムも村石宏實監督の第10話「ロック・ファイト」、北浦嗣巳監督の第1516話「雨がやんだら」、「アグル誕生」の3本を見た時、手に汗にぎるドラマティックさと軽快なカット・ワークを手中にしていて、TVシリーズを見て、演出家を感じる幸せを満喫することができた。
「ロック・ファイト」など、チーム・ライトニングやチーム・ハーキュリーズ、チーム・クロウのXIG全スカイ・チームが大空へ向かうシーンで、画面奥のエリアルベースから1カットのタテの構図を使って、3チーム別々の角度の飛行ラインで、画面手前に突き抜けていく最高の飛行シーンを見せ、佐橋俊彦作曲の音楽もカッコいいの一語で、この回はビデオですぐ3回も見直して、興奮してしまった。
 あの作品のチーム・クロウの彼女たちや堤チームの「チーム・クロウには、男性のチームではできない女性らしい任務があるはずだ、と考えていた……しかし、そういう時代でもないようだな。どうもオレは古い人間らしい」というセリフをエンディングの中で見せていく軽快さは、重要だと思う。
 あの作品の弾むような我夢の表情やカッティング、音楽、リズム感の中に、何か20年旋回できるような新しいセンスを感じるのだ。
 小中千昭、長谷川圭一、武上純希、太田愛、川上英幸、古悠田健志ほかの脚本スタッフの想いは、本編監督の村石、北浦、原田昌樹、根本実樹という監督陣がドラマの中に昇華し、佐川和夫、高橋敏幸ら特撮スタッフがまさに人としての想いにあふれた肉弾アクションと何年ぶりかという光線技の冴えを見せるエネルギー・アタックを完成させていて、デジタル合成のパワーでここ何年か先行されていた感のある、東映の佛田洋、尾上克郎コンビの「戦隊」シリーズの特撮アクションのビジュアル映像に、まさに追いついたといっていいと思う。
『ウルトラQ』(66/TBS)、『ウルトラマン』(66/TBS)、『ウルトラセブン』(67/TBS)から熱狂して「ウルトラ」シリーズを見てきた世代としては、はっきり書いておきたいのだが、『ウルトラマンガイア』をもう脚本の金城哲夫や上原正三、市川森一を比較ポイントとしてあげて論じるアプローチをやめようじゃないか! 『ウルトラマンガイア』は、新しい何かだ、21世紀より早く特撮TV世界に新世紀を呼ぶ新しいスピリッツを持ったスタッフの生んだオリジナル世界だ。
『ウルトラセブン』や『帰ってきたウルトラマン』(71/TBS)に引き寄せるべきではないと痛感する。
 毎週土曜日、家へ帰ってビデオを見るのが楽しくてしょうがない。かつての少年時代と同じように、『今日は何を見せてくれるか?』というドキドキ感でいっぱいなのだ。

さらに、新たな可能性を求めて!!


 ただ、読者にぜひお話ししたいのは、現場の苦闘だ。年末、北浦嗣巳監督にお話を聞いたのだが、2話を9日間で撮影、9日間で仕上げ作業で、デジタル編集していくわけだ。
 本編と特撮を兼任する演出家の疲労度は、想像するにあまりあり、「1516話よかったっすね」と話しても、「本当!? そんなこと、はじめていわれたよ」と、謙遜されてしまった。今くらいドラマが走りはじめると、特技監督が別人でも、本編監督の熱さが伝染して、特撮がエモーショナルにカット数が増えていくのはいうまでもない。ただごとじゃないプレッシャーと思う。自分が信じるドラマティックさをフィルムに結晶させる手応え、その模索、そして、孤独感と全スタッフを率いる不安感、充実感がその表情に見え隠れした。
 円谷プロの製作スタッフには、ぜひこの撮影現場をバック・アップし、予算的、時間的、人的スケジュールを増強してやってほしい。
 バンダイと各スポンサー、そして、毎日放送にお願いしたいのは、『仮面ライダー』(71/MBS)が2年続けたように、この空前の特撮ヒーロー番組をビジネスマンの高度な視点(今、このスタッフは買いデスよ!)で、さらに利益を生み出すため、踏み込んでほしい。今後、20年間食べられる映像作品のドアが開くのが、『ガイア』だと、あえていい切ってしまいたい。
 XIGが全滅して(メンバーを殺す必要はないです)、全世界のアルケミスターズがGUARDと合流して、新たなNEO-GURARDを結成、キャストの一部を変更して、『ウルトラマンガイアⅡ』とかいって、この世界観とキャラクター集団のさらなるドラマ空間を手中にすれば、『新スタートレック』(87)の成功も夢じゃないと思うのだ。バンダイも一年間一作のバブル・ヒーロー設計を修正してもビジネス的に成立できるという考え方に、一度はなってもいいんじゃないか?
 この先、『ウルトラマンガイア』がどうなるか知らないが、重要な突破口がそこに見えていることを確信する。
 1999年は、日本特撮界にとって、大きな実りの年となるだろう。あの作品を見て、東映の高寺、日笠、小嶋プロデューサーや、佛田洋、尾上克郎特撮コンビがファイトを、特撮魂を燃やさぬわけがない。期待してるぜ!
 円谷映像のドラマティックな演出陣(上野勝仁、高橋巌、清水厚)のオリジナル・アイデアの魅力をなぜTV局やビデオ会社のプロデューサーは、気づかないのか(先日、チラとアイデアを聞かせてもらって腰が抜ける抜群さに仰天した。スゴイんだぜ〜)。ビデオでも絶対売れると思うんだけど、彼らの動向も気になる。まさに、特撮新世紀の予感を感じた一年だった。日本特撮を今こそ、見逃すな!

初出 朝日ソノラマ・宇宙船別冊『宇宙船 The Year Book 19991999年刊行】