円谷プロ作品の合成シーンと光線技

合成、光線技、そのひとつひとつにこだわるスタッフの工夫を見よ!
円谷プロ特撮の結晶!! 合成シーンと光線技が光り続ける!!

『ウルトラQ』(66/TBS)、『ウルトラマン』(66/TBS)、『ウルトラセブン』(67/TBS)と、円谷プロ作品は、特撮テレビ・シリーズの合成シーンと光線技を新イメージで、文字通り一新させていった。
 思い出すだけで、数々の名シーンが浮かんでくる。『ウルトラQ』の、洞窟の中で迫るゴメスに放たれるフラッシュ光、火星怪獣・ナメゴンの人間を硬化させる怪光線に海岸の岩場を追われ続ける万城目の息づまる合成シーン、氷山の向こうに現れるペギラの屈指の出現合成シーン、8分の1サイズに縮小されていく由利子、ケムール人の操る液体に触れてネガ状に光って消えていく人間、『ウルトラマン』のバルタン星人が分身する合成シーン、電気を吸って姿を現すネロンガ、ホテルの窓をのぞき込むラゴンのサスペンス、バルタン星人を真っ二つにするウルトラマンの八つ裂き光輪、電波タッチがうれしいウルトラマンのテレポート・シーン……こうやって書いていったら、これだけで文章が終わってしまう。
 怪獣や特撮を印象づける名シーンばかりで、いかに合成シーンがビジュアル・インパクトに満ちていたかがわかるだろう。
 合成演出を担当した中野稔技師に、そのメイキングを明かしてもらおう。
「TBSの裏にあったTBS映画社の技術部に最新合成機のオプチカル・プリンターがあって、週に2日、月曜日、水曜日の午前10時から12時までの計4時間しか作業に使えなかった。それで、円谷プロにある1ヘッドのオプチカル・プリンターでマスクや素材をしっかり作っておいて、9時半から微調整とテストをしながら、どんどん仕上げていった。翌週のテストもラストにやって、また1週間素材作り、4ヘッドのハーフミラーに結像させる合成機で調整が大変だったんだけど、いろいろなイメージを作ってみた。『ウルトラQ』の時は、東宝のオプチカル・プリンターも使えたんだけど、演出的にもいろいろな工夫をしている」
 光線が命中して爆発するシーンもそのまま当てずに、5コマ前に当ててインターバルをおいて爆発させている。エネルギーのメリハリが必要なのだ。そのタイミングも1コマ単位の編集を駆使して工夫していた。
「ウルトラマンのスペシウム光線は、撃った光線がフレーム・アウト(画面から出る)するのは、光線に目がいくから短い5コマから6コマでいい、受ける怪獣のカットに光線が入ってくるフレーム・インのタイミングは8コマから半秒で入ってきて怪獣に当たって大爆発。1コマでも間違えると、気持ちいい光線にならない。光線をパンして命中させるシーンは、パンする時に、光線の角度を変えて当てている。セブンのワイアール星人を倒す光線がそうですね」
『ウルトラマン』の初期エピソードであるミロガンダと戦う科学特捜隊の撃つスーパーガンの光線は、レーザー光線状の直線であった。ところが、銃の先端から発射される光線のパースをあわせるのが難しく、二筋の光線が稲妻状に走っていくシリーズのスーパーガンの光線フォルムがバルタン星人やネロンガとの戦いの中で決まっていった。スパイダーショットの帯状のエネルギー光線も同じ工夫の賜物であった。
『ウルトラQ』の第3話「宇宙からの贈りもの」に登場する火星怪獣・ナメゴンの両目から発射される光線は、円谷一監督からの注文があった。中野技師はこう語る。
「人間を石に変えるような光線なので、新しいイメージが欲しい。目から精子のようにビビュッと飛んで欲しい。そんな感じで作ってくれって言うんだ。困っちゃってね。オタマジャクシみたいな光線を作ってみたんだけど、おもしろい感じになった」
 光線にはいろいろな注文が続出した。
「ウルトラマンの八つ裂き光輪なんて、飯島敏宏監督が『中野、今度のバルタンはスペシウム光線が効かない。光線を手裏剣にして投げて真っ二つだ。ノコギリみたいな刃が欲しいな!』と言うんで、じゃ、まわすのかなとどれくらいのスピードでませばいいか、いろいろやってみた。グビラがドリルで引っかけたり、バリヤーでバリンと割れたり、いろいろな形を作った。
 飯島敏宏監督の四次元怪獣・ブルトンは、全く動かない怪獣なんで、合成でいろいろな能力を見せてる。光線も普通だとつまらないんで、リング状のシャボン玉みたいな光線にしてみるか、と描いてみると、なかなか同じサイズの丸が描けないわけ。そこで、若いスタッフにハンコ屋へ行かせて、文字を削ってもらって外枠の○だけのハンコを作らせて、それをパコパコ押して丸い光線を作ったりした。あの回は特撮の高野さんも苦労してたよね(笑)」
 飯島監督のバルタン星人の合成イメージは、スタッフ内でも評判が高く、ベテランの野長瀬三摩地監督がオーバー・ラップでもここまでやれるんだよ、とホラー・タッチでまとめあげたのが、三面怪人・ダダが登場する、第28話「人間標本56」であった。まるで幽霊のように両手を前にして、「ダッダ〜」と呟くダダの映像イメージは、子供心に強烈なインパクトを見せてくれた。
 スタッフひとり、ひとりのアイデア、工夫が宇宙人、怪獣の個性を生み出していったのだ。『ウルトラセブン』の制作第1話「湖のひみつ」、制作第2話「緑の恐怖」で、モロボシ・ダンは、透視能力を見せるエスパー・シーンで、目全体が発光するイメージをエスパー好きの野長瀬監督が作り出した。それを見た円谷英二社長、円谷一監督が「気持ち悪い感じなので、キラッと星が光るようにしよう」と注文、放送第1話「姿なき挑戦者」では、両目にチカッとアニメ合成の光が作画され、透視能力を表現していた。
 今日の『ウルトラマンティガ』(96/TBS)以降の光線技もデジタル合成だけではない生っぽい円谷テイストのパワフルさ、味わいにこだわっている、と現在の合成スタッフは語る。
 日本の特撮の怪獣やヒーロー、ロボットは、数多くの光線技を見せてくれる。その多彩なフォルム、パワフルな能力、イメージは、日本特撮の独壇場だ。円谷プロの合成がその世界を切り開いたのだ!

初出 角川書店『円谷 THE COMPLETE 円谷プロ/円谷映像 作品集成』コラム 2001年】