『帰ってきたウルトラマン』 ドラマ論

 この原稿を書くため、友人たちから借りだしたビデオを、何度も見るうちに、心の中に“青春という名のウルトラマン”という言葉がくり返し浮かんできた。あるいは、“人間らしさに揺れるウルトラマン”と、いい直してもいい。それは、例えば平凡な作品、第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)などにも、簡単に見つけられるほど、前半の作品の随所に登場しているのだ。
 主人公の郷は、休暇で坂田家を訪れていた。霧吹山に怪獣がいるかどうか、上野隊員と感情的につまらぬ対立をした後であった。坂田健(岸田森)と流星号2世の設計を検討する郷。その時、郷の耳に霧吹山の怪獣の声が聞こえてきた!!
ナレーション「そのころ、加藤隊長は、単身霧吹山へ登っていた。霧吹山の怪獣をめぐって、対立する郷とほかの隊員たちのわだかりをなくすため、自分の目で確かめたかったのだ……」
 うわの空の郷に、
「今日はもうヤメた」
と呟く坂田。次郎は、唖然の郷に、
「兄ちゃん、楽しみにしてたんだよ。明日は郷さんがくるって」
と、ささやいた。
 作業を続けよう、という郷だが、そこへギターのコードを教えて、とアキが笑顔で現れた。
 そこで、郷に呟く岸田森の名セリフ。
坂田「お前は疲れてんだよ。こいつの顔はこんなチンチクリンだが、怪獣を見てるよりは気がやすまるぞ(笑)」
アキ「チンチクリンなんてヒドイワ(プイッと横を向き)、これでも横顔にはチョイと自信があるんですからね(一同笑)」
 いかにも下町っ子というアキの陽気さ、続けて広場でアキにギターを教える郷、わずかな時間でも郷が自分といてくれる嬉しさと、郷とアキ、坂田兄弟の描写は、きわめて印象的であった。
 かつて、ウルトラマンであったハヤタは、物語の中で、その内面をほとんどあかしたことがなく、セブンであるダンにしても、物語を負う心情を吐露しながら、彼の青年としての心情をあまり出すことがなかった(『超兵器R1号』や『盗まれたウルトラ・アイ』、『ノンマルトの使者』、最終回などは別。しかし、それとてかなりストーリー・ラインにのった心情告白だったと思う)。
 それに比べれば、郷秀樹というキャラクターは。きわめて生々しい人間で、おごりもすれば、悩んだり、怒りもするし、ウルトラマンと合体した能力は別として、ごく平凡な青年像を生み出した(これも、『あしたのジョー』や『巨人の星』など、スポーツ根性ものや青春映画のムードがひとつの時代を作っていたためだろう)。
 第6話「決戦!怪獣対マット」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)でも、アキが重傷を負い、退避命令が出ても移動できない----その退避命令がスパイナーを使うためと聞いた時の郷の驚き!
郷「スパイナー!? 皆を避難させたのはスパイナーを使うためなんですか!?
加藤「強く反対はしたんだが……」
郷「あんなものを使えば、東京は一体!?
(スパイナーは、小型水爆級の威力があるのだ!)
 坂田は、次郎だけでも連れてってくれ、と呟き、自分は残るという。行きたくない、と叫ぶ次郎。重傷のアキの目からひとつぶの涙が。
郷「(真剣に)MATの使命は、人々の自由を守り、それを脅かす者と命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか!?
加藤「(決意はついた)私と一緒にきてくれ。ともにMATの誇りを守り、任務を遂行しよう!」
 かくして、人間の誇りを守り、MATは最後の決戦をグドン、ツインテールに挑むわけだが、この郷にウルトラマンの影すら感じられない。『帰ってきたウルトラマン』の人間描写は、時々、キラ星のように名シーンを生み出すのだ。この面では、サータンの出る第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(脚本:上原正三、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)が傑作。次郎との信頼を守るため、全力をふりしぼる郷、そして、ウルトラマンに変身しながら、まるで郷そのもののマインド・パワーの爆発。そのVサインをかかげ、主題歌のBGMの中、決して負けられない勝負に挑むウルトラマンの戦いは、人間ドラマを絡め“圧巻”の一語であった。
『帰ってきたウルトラマン』は、怪獣ドラマとしても、グドンやツインテール、シーゴラス、シーモンス、テロチルス、ベムスター、サータン、ビーコン、モグネズン、プルーマ、キングマイマイと、いくたの名キャラクターを生み出した。
 MATの対怪獣戦も、ほかの「ウルトラ」シリーズにはあまり見られない、作戦の数々で、その怪獣の生態、能力、特徴、弱点をつくその攻撃は、このシリーズならではの、不思議なリアリティをMATに与えていた。これほど、作戦をたてて、理詰めに攻撃する科学集団はなかったと思う。
 映像的には、実写と特撮が素晴らしい合成を見せ、グドン、ツインテールの夕焼けの情景、シーモンスたちの洪水や竜巻の超スケール特撮、テロチルスの『ウルトラQ』(66/TBS)的イメージ、ベムスターやビーコン対MATの空中戦、キングマイマイの出色な自然描写、プリズ魔の光学撮影を駆使した光の乱舞、第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東篠昭平、特殊技術:大木淳)のグレイをベースにした色彩設計と、その映像センスでは、第1期の「ウルトラ」と拮抗するレベルまで達した。
『帰ってきたウルトラマン』は、視覚的なおもしろさ、ストーリー的な魅力、キャラクターの人間ドラマに満ちた佳作や好編が多数あるシリーズなのだ。
 後半の宇宙人話がややワンパターンで、造形的に魅力のあるデザインの宇宙人、怪獣が少ない、組織内の不毛な対立、MATの個性の弱さ、終盤の坂田健(岸田森)、アキ(榊原るみ)の暗殺話に見える異様なハードさへの傾斜などなど、評価がわかれるのも無理はないかな、と思う。
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』のように全体をひとつのストーリーとして考えるのではなく、『帰ってきたウルトラマン』は、個々のストーリーを味わったほうがよさそうだ----ドラマ的なグレードは、きわめて高いシリーズだったと今は思うのである。

●私の選んだベストエピソード5
(順不同)グドン、ツインテールの第5話「二大怪獣 東京を襲撃」&第6話「決戦!怪獣対マット」。シーゴラス、シーモンスの第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」&第14話「二大怪獣の恐怖 東京大竜巻」、人間ドラマで光る“サータン”の第19話「宇宙から来た透明大怪獣」、まさに寓話の“ヤメタランス”の第48話「地球頂きます!」、目もくらむ特撮イメージの“プリズ魔”の第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」が好きな作品です。

【初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.191984年8月号 第2期ウルトラシリーズ再評価「帰ってきたウルトラマン」