「大魔神」シリーズの特撮の秘密

ブルーバック合成
 フランスのジュリアン・デュビビエ監督の『巨人ゴーレム』に原案を得た『大魔神』だが、日本古来の伝説や民話も、その物語の中に織り込まれた。山全体が御神体となっている場所が日本には多い。そこで、大きな武神像で、魔神を封じ込めてある“魔の山”を設定した。
 付近の住人は、苦難が迫った時、きっとこの山の武神が救ってくれる、という言い伝えを信じていた。下克上の戦国時代、民衆が野望を持つ領主に虐げられた時、清らかな乙女の祈りに応えて魔神が武神像に乗り移って動き出す……。「大魔神」のシリーズは、この第1作目のイメージを出発点として、“怒れる大魔神”という日本映画に類例のないファンタジー作品となっていった。
 そして、このシリーズのスペクタクル性、ムードを支えたのが“特撮シーン”である。「大魔神」シリーズの特撮は、大別すると4種類にわけることができる。
1 ブルーバッキング合成システム
2 マットアート合成
3 ミニチュア撮影
4 アニメ合成
 以下、各技術ごとに詳述してみよう。

1 ブルーバッキングシステム
『大魔神』の特撮の中で、大魔神と人間のリアルな合成シーンは、最大のみせ場であった。その合成シーンを支えていたのが、ブルーバッキングシステム、と言われる合成システムだ。どんな方法か説明してみよう。
 11メートル×4.6メートルの透過式ブルースクリーン、そのバックには沃素電球が190個並べられ、均等にムラなくブルースクリーンを光らせている。そのブルースクリーンの前で、手前に合成する役者に演技させ、フィルムに収める。それでできたAネガからフィルムの青感層を洗い、人物がベタとなったオスマスク(A1)、人物は透明でほかがベタのメスマスク(A2)の2種類のマスクを作る。そのオスマスク(A1)で、合成する画面(B)のネガの一部を白く抜き、メスマスク(A2)で押さえながら、Aの人物を白い画面に焼き込んで、合成シーンを完成させるのである。
 手前にセットが自由に建てられる容易さ、画面の明るさ、合成の接合部のきれいさで、出色とも言える合成シーンが生まれていった。
 大魔神と人間との大きさの対比は、このブルーバック合成の賜物であった。

2 マットアート合成(絵合成)
「大魔神」シリーズは、随所に絵合成のマットアート合成を使用した。第1作の磔台の上のふたりに迫る大魔神の合成シーンは、空が赤黒く光っているため、空ごと城壁と磔台上のふたりを絵で描いて、その絵合成の上にブルーバック合成の大魔神を重ねているのだ。下を城兵が逃げ回っているために、動きのあるアクティブな絵合成となった。マットアートを描くのは、『釈迦』のマットアートも担当した渡辺善夫技師。筆とエアーブラシによって、実にリアルなマットアートを描き、作品のスケール感を広げていた。

3 ミニチュア撮影と特殊造型
 大魔神の縫いぐるみは、まず1メートルの原型を京都清水坂の人形彫刻家・岡本庄三(新制作協会会員)が武神像と魔神像とを作り、それを高山良策が人間が入れる縫いぐるみと4.5メートルの実物大の大魔神に特殊造型した。高山良策のバランスとメリハリのある造型が大魔神を、まさに立体化させたのである。『大魔神』は、人間の2.5倍の魔神が出現するため、ミニチュア・セットは、すべて2.5分の1のセットが作られた。瓦や柱、樹木まですべて2.5分の1である。2.5倍の4.5メートルの実物大の大魔神も本編セット中に置き、ミニチュア撮影との抜群のコンビネーションを生んだ。空気感を出すため、ミニチュア撮影では、液化したパラフィンを熱した鉄管に吹きつけて作る霧状の流動パラフィンとイモ粉を扇風機で飛ばし、体の周りに渦巻く風で、キャラクターのイメージを明確にした。本編セットの図面をそのまま2.5分の1サイズに縮めて作ったセットは、ミニチュアとは思えぬリアルな雰囲気をセット空間の中に作り出した。

4 アニメ合成
 第1作の冒頭の崖の上で遠吠えする狼----あれはアニメで描かれた狼だ。狼谷から出てきた大魔神は、怪光となって処刑場に飛来する。あの怪光もアニメ合成である。特撮班は、この魔神出現の前兆の怪光や嵐から撮影をして、大魔神出現の違和感を解消していた。魔神が崩れるシーンのヒビ割れは、『釈迦』のアニメ合成も担当したPプロの鷺巣富雄が京都まで出向き、撮影したものである。
 ほかにも、「大魔神」シリーズは、本編セットでも大がかりなセットを組み、『大魔神怒る』の神の島のセットは、420坪のA2ステージに、縦22メートル、横30メートルの広大な大きさで、フル・セット化された。鉄板2千枚、丸太5百本、伊豆から運んだ火山岩トラック10数台分で建てられたものだ。水を引き込めるステージの特性も発揮され、実物大魔神と同じセンスの賜物だ。いくつもの技術を組み合わせたスペクタクルな映像と人間の芝居部分(本編)との合成、カット・ワークもうまく、それが出色のファンタジー映画を生み出した。

【初出 大映・パイオニアLDC『大魔神全集』LD-BOX解説書 1990年】