特撮研究家・映像評論家の池田憲章による日本特撮映画に関する論考、解説記事、作品評などを再録していくブログです。文中の作品名・会社名・個人名・役職・公開予定日等は発表当時のものです。明らかな誤植等の修正以外は原文のままとしました。PC、タブレット、スマートフォンに対応していますので、ブラウザにブックマークしてお読み下さい。
特撮マインドについて
『キングコング対ゴジラ』(62)は、映画館で38回みることができた特撮映画だが(2回リバイバル公開しているためで、3回目の公開時は高校生の時だが、本編と特撮のカット数を確認、検証するため、一週間劇場へ通い続けたものだ)、今、ビデオでみても、その度に、円谷英二特技監督、本多猪四郎監督のイメージ力、プロフェッショナルな演出に驚いてしまう。『こんなカットがあったのか!?』と、毎回、必ず思ってしまうのは、カットのつなぎがあまりにもナチュラルで、“映像快感”ともいうべき、リズム感が全編に満ち満ちているので、何度みても、そのビジュアルをみるたびに、私たちの心をその映像のパワーが揺さぶるからだ。これは、“映像の魔力”としかいいようがない。
北極基地に迫り、海上に上半身を出して、近づいてくるゴジラ。海岸で迎え撃つ戦車部隊(このアニメで描く砲撃の迫力は見事だ!)。上陸するや、わずかなアオリ映像で画面をよぎり、地上をにらみつけるゴジラの構図のうまさ。そして、両足を踏ん張って、力感あふれて振り向くゴジラの生命感みなぎるアクション映像。----例え、ゴジラ映画すべてが燃えてしまって、あの5秒しか映像が残らなくても、ゴジラとは何なのかをあのショットは語り尽くしている。このショットは、もう100回以上繰り返しみ続けているが、理性の限りを尽くしてみつめても、役者の中島春雄が中に入っている着ぐるみとは、どうしても信じられない。まさに、巨大モンスター・ゴジラの結晶ともいうべきベスト・ショットであった―---特撮マインドを揺さぶる映像が満載で、本当にエキサイティングな東宝特撮映画の代表作の1本である。
今回は、SFマインドと同じように、特撮ファンの心を揺さぶる特撮マインドについて、少し文章を書いてみたい。
「特撮マインドって何ですか?」
と、つぶやくあなたの顔が目に浮かぶが、SFでいう“センス・オブ・ワンダー”と同じように、特撮のエキサイティングさを成立させている特撮カットの生命力(アクティブ・パワー)の根源で、これなくして魅力的な特撮カットは、なかなか誕生しない、と思われるものだ。
具体例を出したほうがわかりやすいだろう。
『スター・ウォーズ』(77/監督:ジョージ・ルーカス)でいえば、ミレニアム・ファルコンが帝国軍のタイ・ファイター部隊に追いつかれ、音楽も軽快にハン・ソロとルークが光線銃台座で迎撃するドッグ・ファイト。『2001年宇宙の旅』(68/監督:スタンリー・キューブリック)で、宇宙船エアリーズ号が宇宙ステーションと回転を同期させて入港していく、まさに、ワルツのメロディーにのって、宇宙での軽やかな舞いを思わせる宇宙シーンのカメラ・ワーク。古典的傑作『キング・コング』(33/監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック)で、生贄にするため、石柱に縛りつけられたヒロインの前の森が割れて、キングコングが出現して、ヒロインが悲鳴をあげるワンダー映像。レイ・ハリーハウゼン特撮の『アルゴ探検隊の大冒険』(63/監督:ドン・チャフィ)で、青銅の巨人・タロスが台座の上で動き出すシーンのショック。魔術師がドラゴンの歯を地面にまき、呪文を唱えるや、地中から楯と剣を持ったガイコツ戦士が何人も現れ、ジャキッと剣を構え、歩き出し(またここのバーナード・ハーマンの音楽の絶品なことといったら、アンタ、シビれますぜ!)、叫び声をあげて走り出していく剣戟シーン。
『地球防衛軍』(57/監督:本多猪四郎、特技監督;円谷英二)の群衆と共に逃げていく佐原健二と白川由美、迫りくるモゲラを迎え撃つ防衛隊の伊福部昭作曲のエフェクト音楽も胸躍る攻防シーン。空中軍艦“アルファー号”と“ベーター号”がミステリアン・ドーム上空に左右から接近して、地上攻撃していく(地上で監視している佐原健二たちの監視所まで爆風が押し寄せ、慌てて避難する本多演出のサスペンスのうまさよ!)、目も眩む特撮空間の広がり……などと、書き続けていったら、100本、200本はザラに書けてしまうだろう。
特撮映画だけが特撮マインドを持つのか、といったら、そうではなくて、例えば、アニメやコミックでも特撮マインド、としかいいようのないシーンがあって、映画『ドラえもん のび太と竜の騎士』(87/監督:芝山努)で、スネ夫が地底の中で出会う2足歩行の恐竜が砂煙をあげて、大群で走っていくのを目撃するワンダー・シーン(まさに、あの映像は、『ジュラシック・パーク』(93/監督:スティーヴン・スピルバーグ)の5年以上前の先取りだった)、『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』(83/監督:芝山努)で、海底の果てしなく続く大地を海底オープン・バギーで全速走行していく胸のすくチェイス・シーンの壮快感……熱狂的な映画ファンである藤子・F・不二雄さんのビジュアル・イメージは、特撮以上に迫力と詩情、映像美が満ち満ちていた。
もう、亡くなって10近く経つ特撮&アニメ&美少女についての文章の達人、故・富沢雅彦さんがいつもいっていた、
「映画『夜叉ヶ池』(79/監督:篠田正浩)で板東玉三郎が演じていた役は、特撮以上に特撮マインドにあふれていた。あれは、本当にすごい」
というセンスをふと思い出した。
昔、
「特撮の魅力って何ですか?」
と、漫画家のかがみあきら君にいわれて、
「そうだなぁ……目で味わうSFかな」
と、答えたことがあるのだが、もうひとつうまくいえてない感じである。特撮シーンを活性化させる特撮マインドって何なのだろう。私たちを『ハッ!』とさせ、『これを、これをみたかったんだ!!』と感激させ、私たちを魅了してやまない特撮シーンのパワーの源は何なのだろう。
思い続け、考え続け、20数年が経った。わからないから、今日も特撮をみる。そして、明日も、明後日も、特撮をみ続けるに違いない。20数年前よりは、3歩ばかりその秘密に近づけたような気がする。それを頼りに、明日からまた、世界の特撮映像を追って、散策を続けていきたい、と思う。
(1996年11月3日、『ゴジラ』公開日に記)
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