『ウルトラQ』各話解説

1話『ゴメスを倒せ!』

脚本:千束北男 監督:円谷一 特技監督:小泉一
「“ゴジラ”のぬいぐるみを使えるから、それで一本書いてくれ」と、円谷一監督が脚本を依頼し、飯島敏宏監督が千束北男のペン・ネームで書いたのが第1話「ゴメスを倒せ!」だった。怪獣一匹じゃつまらないので、と巨獣を倒すなら小さい動物、例えば、鳥がいい、とアイデアを練り、トンネル工事が大洞窟にぶつかるというストーリーの導入部も抜群だった。ゴメスにはゴジラを演じた中島春雄が入り、フラッシュ光にひるむ生物感やダイナミックな暴れぶりを演じきった。
 怪獣に子供を対応させ、少年や少女の夢と心、その世界を描こうとした作品がいくつもある『ウルトラQ』だが、勇敢なリトラの墓標をたてた、という次郎の心を描くラスト・ナレーションの静かな余韻が印象的だ。

2話『五郎とゴロー』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:有川貞昌
『ウルトラQ』は、オープニングが一編、一編さまざまな工夫を見せて楽しかったが、巨大猿“ゴロー”が画面を超スピードでよぎり、ストップモーションで文字が出てくる演出は、有川貞昌特技監督のアイデアだった。
「当初、テロップだけだったタイトルをこうしたらおもしろくなる、と提案してみた。東宝じゃ、キャメラマンの僕らが言えないし、演出デビューだから、そんなことも考えたんだね」
 円谷一監督と入念な打ち合わせをして、ロープウエーの初登場シーンや五郎から食事をもらうシーンと、撮影や合成も凝りまくった。
 巨大化したゴローは、青年・五郎を世話役に南洋で暮らせる、という物語だが、孤独感に揺れる五郎を描く金城脚本の心情描写も光っていた。

3話『宇宙からの贈りもの』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:川上景司
 金城哲夫脚本、円谷一監督の特撮を駆使する『ウルトラQ』の代表作、それが第3話「宇宙からの贈りもの」であった。
「のどかで平和な歌声を破って、それは地球に到着した。そして、それは我々に何をもたらすのだろうか。これから30分、あなたの眼はあなたの身体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」
という格調高い石坂浩二のナレーションも素晴らしい。
 火星怪獣“ナメゴン”(本編では“火星怪獣”としかいわない!)の川上景司特技監督の演出も冴え、卵の巨大化から誕生、迫る恐怖とサスペンスもお見事。円谷一監督の会話シーンの的確なカット割りも見せ場のひとつだった。

4話『マンモスフラワー』

脚本:金城哲夫、梶田興治 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
『ウルトラQ』は、当初、『アンバランス』というタイトルで、昭和391964)年927日、放送第4話「マンモスフラワー」のお堀で根を見つめるロケ・シーンから撮影がはじまった。『ウルトラQ』の出発点ともいうべき作品であった。
 それまで、日本で怪獣といえば、“ゴジラ”のような恐竜タイプが大半だった。無表情としかいいようのない“マンモスフラワー”の恐怖は、その怪獣パターンを打ち破っていて、ウルトラ怪獣の新しさは、そんな点にもあった。『ゴジラ』(54)や『地球防衛軍』(57)の本多猪四郎監督のチーフ助監督だった梶田興治監督が、太古のマンモスフラワーという金城のアイデアに炭酸ガス固定剤のラストを案出して、見ごたえのある特撮ドラマを作りあげた。

5話『ペギラが来た!』

脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
 この作品は、東宝から出向してきた野長瀬三摩地監督が、『ウルトラQ』ではじめて担当した作品である。
 オール・セットで撮られ、モノクロ作品の中で、南極を見事に再現して、テレビフィルムの可能性を娯楽作品の中で実証した。
 野長瀬監督は、「自分なりに、“ゴジラ”を撮りたい」という姿勢で、この撮影に臨み、全スタッフにその意志を通すため、全カットを自ら絵コンテ化した。監修の円谷英二が自分で特撮カットを追加撮影、『ウルトラQ』のベスト・モンスターの一匹はこうして誕生した。成田亨特殊美術監督の怪獣デザイン、造型作家・高山良策の怪獣造型の成功作で、マブタをカッと開くペギラの表情は、ただ、ただ、圧巻!

6話『育てよ! カメ』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:小泉一
 山田正弘脚本、中川晴之助監督コンビのファンタジー作品。第15話「カネゴンの繭」とともに、『ウルトラQ』の中で、別格ともいうべき異色作品に仕上がった。
 このラスト、太郎(しかも、この主役の名前は本当に“浦島太郎”というのだぜ!)がいくら話しても大人の笑い声と笑う口が画面に被さるようにふくれあがる形になっている。その後の子供たち全員が教科書を立てて、カメを育てている中、夢を体験して(しかもあの乙姫だ、トホホのホ)失った太郎だけは、ひとり物思いにふけっているのも秀逸だった。
 太郎が乗る巨大ガメに翼端灯がついていたり、マッハ3のスピード・メーターがあったりするのも現代っ子の夢らしく楽しい。

7話『SOS富士山』

脚本:金城哲夫、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:的場徹
 富士山噴火説に、富士山の樹海に住む野性に育ったターザン、生きている岩石怪獣“ゴルゴス”……と、ストーリーの道具立ては賑やかで、道路をふさぐ岩石を爆破する作業員に晴乃チック、タックの人気漫才コンビを使ってギャグ・シーンにしたり、特撮も手数が多いのだが、ゴルゴスのぬいぐるみが硬質感に欠け、ゴルゴスの上のタケルも人形にしか見えず、飯島演出も成果をあげられなかった。
 富士山のすそ野は、『ウルトラQ』の前に企画された『WOO』の舞台で、金城哲夫はその蓄積で脚本を構成した気配がある。この作品での苦闘は、飯島監督、的場特技監督の中で熟考され、それぞれパゴスやガラモン、ゴーガの映像としてのちに結晶化した。

8話『甘い蜜の恐怖』

脚本:金城哲夫 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 怪獣映画のおもしろさは、そのラストにどうやって怪獣が倒されるかにかかっている。
 昔から底なし沼や溶鉱炉に落としたり、薬品で倒したり、火事の中に飲み込まれていったり、監督は、皆、さまざまな演出で挑戦した。
 第8話「甘い蜜の恐怖」は、巨大なモグラが攻撃されると、深く潜っていく習性を利用して、地中のマグマ層に突っ込ませて倒す、というアイデアが見事で、金城脚本と梶田監督の演出が出色のどんでん返しを完成させている。
「不気味な雷鳴とともに、ひとりの男がアンバランス・ゾーンに落ちたのです」
というオープニング・ナレーションが示す大人ものの格調高いムードが忘れられない。梶田監督の人間主義の演出は、『Q』の一方の特徴だった。

9話『クモ男爵』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:小泉一
「悪魔の使いとして恐れられている夜のクモにも、人間が変身した、という哀しい物語があります。人を襲うのは、人間に還りたい、という一心だったのかもしれません。あなたの庭先で、夜、クモに出会っても、どうぞ、そっとしてあげておいて下さい……」
(エンディング・ナレーション)
 古老がふと語った夜語りの物語のようで、異様な静けさの中に、クモに託した人の悲しい絶叫が響いている。霧の中にたたずむ洋館に迷い込むパーティー帰りの万城目たち……という夜のムードが出色。テレビフィルムの可能性を見せた金城哲夫脚本、円谷一監督のホラー・ファンタジー作品だ。本編主体の小泉一特技監督の巨大グモの演出も効果的だった。

10話『地底超特急西へ』

脚本:山浦弘靖、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:的場徹
 地底超特急“いなずま号”、その特撮シーンは見事の一語だった。わざとブラして撮影したそのスピード感、本編との合成カットの大胆さ。操縦席のグングンと近づいてくるトンネル内の灯りで表すスピード感のうまさ、切り離された列車の後ろのドアで、唖然のイタチの列車シーンのスゴサ。的場特技監督と高野宏一特撮キャメラマンの力を借りて、全編ギャグタッチの軽快な飯島敏宏演出は、スリルとギャグを巧みに融合させ、息づまるラストまで一気に作品を引っ張っていった。
 タイトルもコンパスがアニメで出て、地底超特急と出て、コンパスがW(WEST)に向くと、“西へ”という文字がブレーキ音とともに、画面にインして止まる凝った作りだった。

11話『バルンガ』

脚本:虎見邦男 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
 野長瀬三摩地監督の『ウルトラQ』のベスト・ワークであり、虎見邦男脚本の息づまるセリフの盛りあがりが素晴らしい傑作。
 虎見邦男は、昭和41929)年826日、東京生まれで、豊玉高校時代は、谷川俊太郎や北川幸比古と同期だった。音楽好きで、第1期風月堂のメンバーであり、早稲田大学露文科に通い、トルコの詩人・ナジメ・ヒクメットの『愛の伝説』を訳したり、小説や脚本を執筆していた。クモ膜下出血で、昭和421967)年327日、37歳で亡くなっている。
 野長瀬監督は、子供の夢のようなどんなエネルギーも吸って、巨大化する怪物の脚本を、社会派の視点も入れて徹底的に改稿、文明の天敵を描くSFドラマとして結晶化させた。

12話『鳥を見た』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:川上景司
 中川晴之助監督がはじめて手がけた『ウルトラQ』で、鳥が巨大化する特撮も見ものだが(鳥かごの影の中でラルゲユウスが巨大化して飛び立っていく連続シーンは、円谷英二特技監督自ら撮影したシーンであった)、中川監督は、鳥と少年の交情に力点をかけ、ロケーション撮影を駆使して、それを描き続けた。
 三郎と鳥の情景は、映像詩(フォト・ジェニー)にも似た美しさを見せ、満たされぬ三郎少年の心は、広がる海と空のように空っぽで、不思議な喪失感の傷みすら感じさせた。
 宮内國郎作曲の情感あふれる音楽が中川演出を支え、ひとりの少年の出会いと別れを描ききった。中川監督、撮影時は34歳。みずみずしい詩情あふれる特撮作品であった。

13話『ガラダマ』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:的場徹
 第13話「ガラダマ」は、一の谷博士を演じる江川宇礼雄が「信州地方では、隕石のことを“ガラダマ”というんですよ」と、語った話をヒントに、隕石から出現するロボット怪獣のアイデアを作りあげた。
 ガラモンは、成田亨デザイン、高山良策造型の『ウルトラQ』怪獣の最高傑作、といえるだろう。その生物的デザインと金属音の足音、全身を振るわす電波音の演出に、「さすが宇宙人が作ると、ロボットもこうなるのか!!」と、見ている子供たちは仰天した。
 的場徹特技監督は、野球の金田正一投手の肩をまわす投球ポーズや喜劇俳優のルーキー新一の身をよじるギャグをガラモンのアクションに導入、出現シーンの映像の工夫が素晴らしい!

14話『東京氷河期』

脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
「ペギラが来た」の続編で、暖かくなり出した南極から北極へ移動しようとするペギラが東京を直撃する。ビル街で暴れまわる巨大怪獣のスペクタクル映像が続出するアクション編。
 野長瀬三摩地監督は、治男少年がペギラの足もと近くを通過するシーンで、足で地面がへこんで少年が落ち込むシーンを撮るため、スダレ状につないだ木の上に雪のセットを置き、下を次々にはずして落ちていく映像を生み出した。360度回転するキャメラの台座も車が空中を飛ぶ車内の芝居シーンで効果をあげた。
 カット割りと合成の大胆さは、野長瀬監督の絵コンテ設計の成果で、川上景司特技監督、高野宏一特撮キャメラマン、合成の中野稔がダイナミックな映像で本編演出を支えていた。

15話『カネゴンの繭』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:的場徹
 山田正弘脚本、中川晴之助監督コンビの第6話「育てよ! カメ」、第12話「鳥を見た」に続く第3作で、『ウルトラQ』中、最高の傑作の一本。
 お金がすべてのひとりの子供がお金亡者の“カネゴン”に変身してしまう寓話で、徹底的に大人の世界を笑いとばしている。子供たちが実に生き生きしており、万城目たち大人の主人公は、ついにひとりとして顔も出さなかった。
 金男の和室の部屋で巨大化しているカネゴンの繭の不気味さを忘れることができない。
 カネゴンのデザインは、中川監督、成田亨デザイナー、的場特技監督のディスカッションの中でエスカレートし、胸のレジスターや口のチャックと、高山良策造型の頂点ともいうべき抜群のキャラクターが誕生した。

16話『ガラモンの逆襲』

脚本:金城哲夫 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 野長瀬三摩地監督は、第11話「バルンガ」、第14話「東京氷河期」、第16話「ガラモンの逆襲」、第24話「ゴーガの像」と、4度、巨大モンスターの東京アタックを描いている。思えば、第4話「マンモスフラワー」も梶田興治監督で、大都市を襲う巨大モンスターでは、TBSの演出陣より東宝出身のふたりが得意なのがいかにもで、おもしろい。
 野長瀬監督は、仲間を見殺しにする宇宙人の非情さを生殖後に役目を終えたオスを食べてしまうメスのカマキリからヒントを得て、昆虫宇宙人のセミ人間を生んだ。役者も中性的な丸山明宏(現・美輪明宏)に似た感じの役者をわざわざ見つけ出す凝りようだった。一体のヌイグルミのガラモンを合成で何体にも見せる特撮が冴え、飛来する隕石群と侵略者SFのムードも満点だった。

17話『1/8計画』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:有川貞昌
 人口問題解決のため、縮小人間都市が作られる「1/8計画」は、揺れる由利子の心情を通して現代の管理社会化への警告を描く、シリーズを代表するSFストーリーだった。
 光学撮影の中野稔によると、「いつも生物が大きくなるだけじゃないか!?」という冗談に、脚本の金城が応えたアイデアが出発点だった、という。八分の一に分割されるオープニング、縮小されていくシーン、万城目の星川航空の机上の巨大セットに目が眩む由利子の小ささの表現と新鋭オプチカル・プリンターを使う合成は、縮小人間都市の非情さをまさに視覚化した。
 佐原健二と西条康彦は、ミニチュア都市を歩く空前の特撮シーンで、円谷一監督と話し合って、重量感の出る演技に気をつけた、という。

18話『虹の卵』

脚本:山田正弘 監督:飯島敏宏 特技監督:有川貞昌
 “ささめ竹の花”と“虹の卵”というポエティックな道具立てとウランを食べる怪獣“パゴス”とウラン燃料というSFタッチがダイナミックに融合したロケーション撮影と特撮の見せ場が多いモンスター・ストーリーである。
 飯島監督、有川特技監督の大胆な合成カットが素晴らしく、パゴスを演じた中島春雄のエネルギッシュな生物感あふれるアクションが怪獣ファンの血を騒がせた。
 由利子を演じる桜井浩子の美しさは、この「虹の卵」と第19話「2020年の挑戦」、第26話「燃えろ 栄光」がベスト3といってもよく、内海正治キャメラマンの撮影の成果であった。
 ピー子たちの演技に、当時の忍者ブームのポーズを取り入れたり、飯島演出も快調だった。

19話『2020年の挑戦』

脚本:金城哲夫、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:有川貞昌
 万城目が途中で消失させられ、一平が秘密を追いながら、由利子にケムール人の魔手が迫り続ける……。『ウルトラQ』中、最高のサスペンスとスリルの連続で、そのSFムードは、第3話「宇宙からの贈りもの」と双璧の観があった。
 成田亨特殊美術監督のデザイン、高山良策のヌイグルミ造型のケムール人は、日本宇宙人史上空前のイメージを生み、電波音に“マタンゴ”の声を流用した笑い声といい、まさにバルタン星人の先駆であった。ケムール人を演じたのは、のちの“ウルトラマン”俳優・古谷敏だ。内海正治キャメラマンの撮影も冴える。
 ラスト、物語が解決したのに、柳谷寛演じる“宇田川警部”が液体に触れ、悲鳴をあげて消失するエンディングが不気味で、才気あふれる飯島敏宏演出の代表作の一本である。

20話『海底原人ラゴン』

原案:大伴昌司 脚本:山浦弘靖、野長瀬三摩地 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 SF映画評論で知られた大伴昌司原案のミニ『日本沈没』(73/監督:森谷司郎、特技監督:中野昭慶)である。
 子供を捜して上陸する母親・ラゴンを軸に、「深い方から浅い方へ転がる」地殻変動の石井博士の学説、沈んでいく島と圧巻ともいうべきドラマ展開が魅力だった。
 野長瀬監督は、海底原人・ラゴンのデザインについて、胸のふくらみや女性らしさを要求して、成田亨、高山良策コンビが、半漁人・ギルマンに匹敵する海底原人の新イメージを作りあげた。
 音楽が流れていると、聞き入っておとなしくなる、というのは監督のアイデアで、石井博士邸の台所にラゴンが現れるショック演出や夜道を歩く光る眼のラゴンのモンスター・イメージが出色であった。

21話『宇宙指令M774

脚本:上原正三 監督:満田かずほ 特技監督:的場徹
「私の名は“ゼミ”。私の名は“ゼミ”。ルパーツ星人です。地球人に警告します。地球に怪獣“ボスタング”が侵入しました。とても危険です」
 人形が由利子に語りかけ、万城目と一平は、セスナで不思議な空間に引き込まれる。
 上原正三、満田かずほ監督の『ウルトラQ』デビュー作で、ウルトラマンの原型のような宇宙平和を守る宇宙人像がおもしろい。
 怪獣・ボスタングは、撮影中、水を吸い込んでどんどん重くなり、「操演で持ちあがらず、難渋した」と、的場監督は回想していた。
 地球を守る宇宙人は指令を果たすと、そのまま地球人に同化した。「あそこにも、あそこにも」というラストが楽しい。隕石がタイプ音とともに題名に変わるスタイル演出が絶品。

22話『変身』

原案:金城哲夫 脚本:北沢杏子 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 民話好きの金城哲夫の原案を松竹脚本部にいた北沢杏子(のちに、性教育問題で、“ワレメちゃん”という言葉を発明したのはこの人だ)が脚本化した制作第2話の初期作品。
 梶田興治監督は、「モルフォ蝶の毒で浩二が巨大化したのではなく、モルフォ蝶が異世界への入り口の象徴な訳です。恋人を山に置き去りにして、モルフォ蝶を追った時、彼は“アンバランス・ゾーン”に落ちていったのです」と、語っていた。「もしもあなたの恋人が“アンバランス・ゾーン”の中に落ちた時、それでもあなたの愛は変わらないといえるでしょうか?」という大人のムードが独特。彼女の心が変わったのなら、浩二に会いに戻らなくてよかったのだ。人間の心の強さと弱さを暖かく描いた好編である。

23話『南海の怒り』

脚本:金城哲夫 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
『ウルトラQ』制作時、円谷プロ文芸部には予算や技術的に無理、と思われる脚本が積まれていた。それを見ていた野長瀬監督が「いつか自分で撮りたいと思っていた南海を舞台にした恋とアドベンチャー」のストーリーが気に入って、自分が撮ろうと言い出したのがこの「南海の怒り」だった。難しいと思われた大ダコの特撮は、東宝の『キングコング対ゴジラ』(62/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)の大ダコのシーンを流用して、的場特技監督のわずかな撮り足しでまとめあげた。
 野長瀬監督は、東宝映画の助監督時代に旧知の俳優・久保明と高橋紀子をキャスティング。ふたりが島に残るラストもさわやかで、人間の上に覆いかぶさる魔神について語る万城目やアニタの会話シーンも見ごたえがあった。

24話『ゴーガの像』

脚本:上原正三 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 悪徳が街にはびこり、人々が良心を失った時、“ゴーガ”がよみがえって、その街を滅ぼすという……国際的密輸団とスパイものタッチが異彩を放つモンスター・ストーリー。
 ゴーガの像が放射線を浴びて、その目から怪光線を放ち(顔面を光線がなめまわして殺す演出が圧巻!)、小さなゴーガがみるみる巨大化していくシークエンスを、丁寧な合成とミニチュア、特撮でまとめあげた。
 バズーカ砲を持ってジープでゴーガに迫っていくクライマックスは、まさに野長瀬監督、的場特技監督、内海正治キャメラマン、高野宏一特撮キャメラマンの新しいモンスター特撮を目指すエネルギーの結晶だった。手数の多い特撮シーンが存分に楽しめる好編。

25話『悪魔ッ子』

原案:熊谷健 脚本:北沢杏子 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 第22話「変身」で“アンバランス・ゾーン”に落ちた恋人同士を描いた北沢杏子・梶田興治コンビは、続く「悪魔ッ子」で、子供の中にすら潜む人間の魔性の部分にスポットを当てた。
 リリーは、首飾りを手に入れるために、親切な珍さんを殺してしまっているし、無邪気だが、さ迷うリリーの魂は、次々に事故を引き起こしていく。リリーが孤独で、遊び相手もいないがゆえに、その反動なのだろうが、平素あまり笑わないリリーが魂だけになると、実に楽しそうになのが、慄然とするテーマをとらえている。
 “アンバランス・ゾーン”、それは人間の心のことだったとは!! 肉体を殺そうと、夜の線路を歩くふたりのリリーの合成シーンに、テレビを見る子供たちは総毛立った。傑作ホラー作品である。

26話『燃えろ 栄光』

脚本:千束北男 監督:満田かずほ 特技監督:的場徹
 シリーズの助監督をはじめからつとめていた満田かずほ監督は、この作品と第21話「宇宙指令M774」の2本セットで演出デビューを果たした。
 飯島敏宏監督が脚本を提供、野長瀬監督は、ピエロ・ショーの観客でエキストラ出演して、若手の監督デビューを祝っていた。
 満田監督は、ワイプひとつでも新しいことをやろうと、光学撮影の中野稔技師と相談し、パンチ型のワイプやカット割りの新しさを狙った。後年の繊細な心情描写を音楽で表現するテクニックもこの2作品でやはり試みていた。
 ジョー役の工藤堅太郎は、満田監督が助監督時代に、自分が監督デビューしたら必ず呼ぶから、と約束した間柄だった。若者の野心と不安を怪物・ピーターを鏡にして描いた作品である。

27話『206便消滅す』

脚本:山浦弘靖、金城哲夫 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 飛行機や列車、船とメカニックを素材にした脚本が多い山浦弘靖のシナリオに、金城哲夫が怪獣の住む異次元ゾーンからの脱出サスペンスをつけ加えた。
 梶田興治監督は、第二次世界大戦中、ゼロ戦のパイロットであり、戦争が終わると、大空に散った、あるいは戦い終わった飛行機と戦士の魂が、空の墓場で敵も味方もなく平和に眠り続ける……という夢の世界のようなイメージからはじまった、という。
 東京上空を飛ぶ時、異次元ゾーンにぶつかるかもしれないので、シート・ベルトをしめて下さい、というナレーションがお見事。
 由利子の万城目への想いが見える作品で、一の谷や由利子のセリフの情感がうれしい。

28話『あけてくれ!』

脚本:小山内美江子 監督:円谷一 特技監督:川上景司
 金城哲夫の脚本の相談にのりながら、なかなか、自分が撮ろう、と言い出さなかった円谷一監督が、シノプシスを見て、「これは自分が撮ろう」と、乗り出したのが、第28話「あけてくれ!」であった。円谷一監督が考える『ウルトラQ』の初期イメージが見えるようでおもしろい。2本セットで撮影するため、急ぎ金城が脚本を書いたのが、第3話「宇宙からの贈りもの」だった。
 のちに『金八先生』(79/TBS)を書く小山内美江子の脚本は、人間蒸発の謎を絡めて、人間らしく生きられる異世界の扉が開く、人間不在の現代社会を映す大人向けの不条理劇であった。
「あけてくれ!」は、本放送では放送されず、再放送ではじめて公開された。『ウルトラQ』の異色作中の力みなぎる異色作だ。

【初出 朝日ソノラマ・ファンタスティックコレクション『空想特撮シリーズ ウルトラQアルバム』(竹内博・編)1997年】
*満田監督の名前は、正しくは禾に斉。