円谷プロ作品の合成シーンと光線技

合成、光線技、そのひとつひとつにこだわるスタッフの工夫を見よ!
円谷プロ特撮の結晶!! 合成シーンと光線技が光り続ける!!

『ウルトラQ』(66/TBS)、『ウルトラマン』(66/TBS)、『ウルトラセブン』(67/TBS)と、円谷プロ作品は、特撮テレビ・シリーズの合成シーンと光線技を新イメージで、文字通り一新させていった。
 思い出すだけで、数々の名シーンが浮かんでくる。『ウルトラQ』の、洞窟の中で迫るゴメスに放たれるフラッシュ光、火星怪獣・ナメゴンの人間を硬化させる怪光線に海岸の岩場を追われ続ける万城目の息づまる合成シーン、氷山の向こうに現れるペギラの屈指の出現合成シーン、8分の1サイズに縮小されていく由利子、ケムール人の操る液体に触れてネガ状に光って消えていく人間、『ウルトラマン』のバルタン星人が分身する合成シーン、電気を吸って姿を現すネロンガ、ホテルの窓をのぞき込むラゴンのサスペンス、バルタン星人を真っ二つにするウルトラマンの八つ裂き光輪、電波タッチがうれしいウルトラマンのテレポート・シーン……こうやって書いていったら、これだけで文章が終わってしまう。
 怪獣や特撮を印象づける名シーンばかりで、いかに合成シーンがビジュアル・インパクトに満ちていたかがわかるだろう。
 合成演出を担当した中野稔技師に、そのメイキングを明かしてもらおう。
「TBSの裏にあったTBS映画社の技術部に最新合成機のオプチカル・プリンターがあって、週に2日、月曜日、水曜日の午前10時から12時までの計4時間しか作業に使えなかった。それで、円谷プロにある1ヘッドのオプチカル・プリンターでマスクや素材をしっかり作っておいて、9時半から微調整とテストをしながら、どんどん仕上げていった。翌週のテストもラストにやって、また1週間素材作り、4ヘッドのハーフミラーに結像させる合成機で調整が大変だったんだけど、いろいろなイメージを作ってみた。『ウルトラQ』の時は、東宝のオプチカル・プリンターも使えたんだけど、演出的にもいろいろな工夫をしている」
 光線が命中して爆発するシーンもそのまま当てずに、5コマ前に当ててインターバルをおいて爆発させている。エネルギーのメリハリが必要なのだ。そのタイミングも1コマ単位の編集を駆使して工夫していた。
「ウルトラマンのスペシウム光線は、撃った光線がフレーム・アウト(画面から出る)するのは、光線に目がいくから短い5コマから6コマでいい、受ける怪獣のカットに光線が入ってくるフレーム・インのタイミングは8コマから半秒で入ってきて怪獣に当たって大爆発。1コマでも間違えると、気持ちいい光線にならない。光線をパンして命中させるシーンは、パンする時に、光線の角度を変えて当てている。セブンのワイアール星人を倒す光線がそうですね」
『ウルトラマン』の初期エピソードであるミロガンダと戦う科学特捜隊の撃つスーパーガンの光線は、レーザー光線状の直線であった。ところが、銃の先端から発射される光線のパースをあわせるのが難しく、二筋の光線が稲妻状に走っていくシリーズのスーパーガンの光線フォルムがバルタン星人やネロンガとの戦いの中で決まっていった。スパイダーショットの帯状のエネルギー光線も同じ工夫の賜物であった。
『ウルトラQ』の第3話「宇宙からの贈りもの」に登場する火星怪獣・ナメゴンの両目から発射される光線は、円谷一監督からの注文があった。中野技師はこう語る。
「人間を石に変えるような光線なので、新しいイメージが欲しい。目から精子のようにビビュッと飛んで欲しい。そんな感じで作ってくれって言うんだ。困っちゃってね。オタマジャクシみたいな光線を作ってみたんだけど、おもしろい感じになった」
 光線にはいろいろな注文が続出した。
「ウルトラマンの八つ裂き光輪なんて、飯島敏宏監督が『中野、今度のバルタンはスペシウム光線が効かない。光線を手裏剣にして投げて真っ二つだ。ノコギリみたいな刃が欲しいな!』と言うんで、じゃ、まわすのかなとどれくらいのスピードでませばいいか、いろいろやってみた。グビラがドリルで引っかけたり、バリヤーでバリンと割れたり、いろいろな形を作った。
 飯島敏宏監督の四次元怪獣・ブルトンは、全く動かない怪獣なんで、合成でいろいろな能力を見せてる。光線も普通だとつまらないんで、リング状のシャボン玉みたいな光線にしてみるか、と描いてみると、なかなか同じサイズの丸が描けないわけ。そこで、若いスタッフにハンコ屋へ行かせて、文字を削ってもらって外枠の○だけのハンコを作らせて、それをパコパコ押して丸い光線を作ったりした。あの回は特撮の高野さんも苦労してたよね(笑)」
 飯島監督のバルタン星人の合成イメージは、スタッフ内でも評判が高く、ベテランの野長瀬三摩地監督がオーバー・ラップでもここまでやれるんだよ、とホラー・タッチでまとめあげたのが、三面怪人・ダダが登場する、第28話「人間標本56」であった。まるで幽霊のように両手を前にして、「ダッダ〜」と呟くダダの映像イメージは、子供心に強烈なインパクトを見せてくれた。
 スタッフひとり、ひとりのアイデア、工夫が宇宙人、怪獣の個性を生み出していったのだ。『ウルトラセブン』の制作第1話「湖のひみつ」、制作第2話「緑の恐怖」で、モロボシ・ダンは、透視能力を見せるエスパー・シーンで、目全体が発光するイメージをエスパー好きの野長瀬監督が作り出した。それを見た円谷英二社長、円谷一監督が「気持ち悪い感じなので、キラッと星が光るようにしよう」と注文、放送第1話「姿なき挑戦者」では、両目にチカッとアニメ合成の光が作画され、透視能力を表現していた。
 今日の『ウルトラマンティガ』(96/TBS)以降の光線技もデジタル合成だけではない生っぽい円谷テイストのパワフルさ、味わいにこだわっている、と現在の合成スタッフは語る。
 日本の特撮の怪獣やヒーロー、ロボットは、数多くの光線技を見せてくれる。その多彩なフォルム、パワフルな能力、イメージは、日本特撮の独壇場だ。円谷プロの合成がその世界を切り開いたのだ!

初出 角川書店『円谷 THE COMPLETE 円谷プロ/円谷映像 作品集成』コラム 2001年】

特撮の神様 円谷英二と円谷プロダクション

円谷英二は、映画の大スクリーンに特撮の夢を描いてみせた。
若いスタッフの熱意とアイデアがさらに特撮をいかしていく。
円谷プロは、英二のもうひとつの大きな夢の王国となっていった!

 円谷英二は、東宝の特技監督として、『ゴジラ』(監督:本多猪四郎)昭和291954)年や『地球防衛軍』(監督:本多猪四郎)昭和321957)年、『日本誕生』(監督:稲垣浩)昭和341959)年、『キングコング対ゴジラ』(監督:本多猪四郎)昭和371962)年と、数々の特撮映画、SF映画、スペクタクル映画、戦争映画、怪獣映画の特撮シーンを演出してきた。
 昭和291954)年の『ゴジラ』から、昭和451970)年125日に68歳で亡くなるまで、16年しか経っていないのか、とそのやり遂げた作品の数々の特撮シーンを思い返すと、円谷英二という映像作家のイメージ力と魅力にひきつけられてしまう。
 思えば、昭和121937)年に、東宝の特殊技術課の初代課長に就任して以来、システム的にも、人材的にも未熟だった日本の特殊撮影の方法論、発想法、設計、スタッフ・ワーク、機材作りを一から編み直し、技術的なチャレンジをし続けてきたのである。それは実は、キャメラマン時代からで、自作の木製クレーンを作って、クレーン撮影を試みたり、巷の夜のロケ撮影をステージに白ホリゾントを張り、スモークと照明で効果を出してセットで撮影したり、ひとりふた役の撮影効果を考案したり、スクリーン・プロセスの試作と、撮影の表現を広げ、効果をあげるため、特殊撮影の手法にも果敢にチャレンジしていた。その極致が昭和101935)年の『かぐや姫』の撮影で、京の都を進む牛車を表現するため、牛のミニチュアをコマ撮り用に16個動きを変えて制作し、牛車の前に一コマ撮りでつけ替え、京のミニチュアの中を牛車が進んでいくシーンを立体アニメーションで撮影してみせた。アメリカ映画の『キングコング』(33/監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック)に感心して、参考用に一本のフィルムを焼いてもらい、一コマ、一コマ、その技法を研究して、そのやり方を分析していた成果だった。こんなキャメラマンはちょっといないんじゃないか。同年の『百万人の合唱』(35/監督:冨岡敦雄)では、陽気な音楽映画のため、鉄製のクレーンを制作して、クレーン撮影を多用し、試作したオプチカル・プリンターによるマスク合成やワイプを使い、軽快な画面を生み出していた。

 円谷英二には、ニガイ経験があった。
 戦後、東宝を離れて、大映京都撮影所の『透明人間現わる』(49/監督:安達伸生)の特殊撮影を手がけた時、特殊映画技術研究所(円谷研究所)の円谷英二、国分正一、有川貞昌の撮影メンバーで撮影したのだが、照明、美術、技術、映像スタッフとは初顔あわせであり、多量の手描きマスクを作り、透明人間の効果を狙いながら、スケジュール消化も精度も悪く、狙った効果をあげられなかった。撮影クルーだけではどうにもならない。撮影所の中で全システムを機能させなければ、科学技術としての特殊撮影は、レベル・アップできない、と痛感したのである。
 翌・昭和251950)年に、東宝撮影所の中に円谷研究所を設置して、昭和291954)年まで、東宝作品の全てのタイトル部分、予告編の下請け作業を行い、作品を手がけながらスタッフ編成を整えて、昭和281953)年の『太平洋の鷲』(監督:本多猪四郎)、そして、『ゴジラ』へとたどり着くのである。
 カラー化、ワイドスクリーン化、立体音響化と、レベル・アップする映像技術に、円谷英二特技監督は、特殊技術のレベルをあげて応え続けた。昭和341959)年の『日本誕生』(監督:稲垣浩)では、バーサタイル・プロセスの合成機を制作、これは、フィルムを横走りさせるビスタビジョン・タイプの合成機で、35㎜フィルム二コマ分を一コマとして使用、70㎜サイズで合成を行い、35㎜へと縮小して画面の精度をあげる70㎜合成システムだった。フィルムがなかなか安定せず、実際には、34カットしか使用できず、従来の35㎜のオプチカル・プリンターの合成や生合成が多かったとのことだが、新しい技術へのチャレンジは、円谷終生の考え方であった。
「将来は電子科学を応用した特殊技術の方法も発見され、その利用によって、映画がさらに前進する可能性も十分に考えられてよいと思う。だから、映画の特殊技術の可能性を100パーセント発揮するのは、むしろこれからだと考えている」(『藝術新潮』596月号)
 これは、昭和341959)年に円谷英二が書いた文章だが、デジタル特撮の可能性を円谷が夢想していたのか、と感無量になってしまう。

 東宝の特殊技術陣を育てあげた円谷英二が、さらに、企画、脚本、演出、撮影、美術と、特撮をいかす全パートを一から作ってみたら、と考えたのが、昭和381963)年に設立した“円谷プロダクション”であった。
 円谷英二は、昭和381963)年、円谷プロダクションを設立(当初の社名は“円谷特技プロダクション”。昭和431968)年126日に現在の社名“円谷プロダクション”に改名)、特撮スタッフだけではない企画、脚本、撮影、照明、美術、デザイン、合成、特撮クルーが『特撮をいかすアイデアを考えていく』、まったく新しい形態の映画プロダクションの誕生であった。
 昭和381963)年、日活映画の市川崑監督作品『太平洋ひとりぼっち』で、海洋特撮シーンをまず手がけ、フジテレビの特撮ヒーローもの『WOO』を企画するが、これはNG。TBSドラマ『UNBALANCE』が動き出し、やがて、正式に『ウルトラQ』と、タイトルが決定、TVドラマの枠を越えた特撮とSFタッチのドラマ、怪獣イメージで、円谷プロダクションは、TVシリーズの中に大きな可能性を見せていった。合成シーンを重視するのが円谷プロダクションの特質で、最新合成機である“オックスベリー1900”をTBSに納入してもらい、昭和411966)年の『ウルトラマン』、昭和421967)年の『ウルトラセブン』と、カラー映像の中に、時に東宝特撮でもできない大胆で、精緻な合成設計を見せ、長年、映画スクリーンで、東宝の特撮に慣れ親しんでいた少年ファンに衝撃を与えた。『ウルトラQ』、『ウルトラマン』を11歳から12歳で見たショックは、今でも忘れない。新しい特撮の時代がはじまったことをTV作品の合成で実感したのだ。バルタン星人の分身の術やウルトラマンのスペシウム光線に八つ裂き光輪、ウルトラセブンの変身シーンとそのビジュアル・インパクトに仰天したものであった。『マイティジャック』(68/フジテレビ)や『怪奇大作戦』(68/TBS)のタイトル・シーンのカッコよさ、合成の切り口がこのプロダクションのスマートさを実証していた。脚本の中心となる文芸部の脚本家・金城哲夫は、『ウルトラマン』制作時27歳、高野宏一特技監督は31歳、合成の中野稔は27歳、特撮キャメラマンの佐川和夫は27歳と、現場スタッフも若手中心だった。円谷一、飯島敏宏、実相寺昭雄というTBSのディレクター陣も30歳前後で、この若い感性の生み出すアイデアが特撮シーンの面目をまさに一新していったのだ。
 特撮の持つ映像イメージを異端視せず、企画のエネルギーとして、ドラマを活性化させる新しいエレメントとして、おもしろい映像素材として考え、自在に取り組んでいける若い世代の映画人を育てたい、という発想さえ、そこには感じられた。

『ウルトラQ』や『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『怪奇大作戦』という作品を見た時のショックを思い返すと、そのSF的なストーリーのアイデアの冴え、練りあげられたセリフとドラマの手ごたえ、それが抜群の特撮シーンの映像イメージと必ずリンクしていて、ドラマチックさで支える特撮イメージの印象は強烈であった。
 ゴジラやラドン、モスラと、映画で見慣れていた怪獣も、単なる原水爆実験の影響で出現、あるいは、太古の怪獣であったものが、その出現理由にさまざまなテーマ、ストーリーがあり、こういうSFストーリーや哀しみのファンタジーのムードさえ出せるのか、と作品の広がりに魅了された。
 特撮映画のストーリーは、円谷プロ作品によって、何倍にも広がった感があった。SFストーリー&ドラマチックさとビジュアル・イメージの特撮シーンの画面を設計できたことが、このプロダクションの切り開いた大きな魅力だった。
『ウルトラQ』は、円谷プロがはじめて手がけたTVシリーズだったため、円谷英二は、全話のあがってくる特撮シーンを自ら粗編集して、特撮をドラマとリンクさせる編集技法、テクニックを円谷プロの若手スタッフに実作の中で教えていった。「鳥を見た」や「ペギラが来た!」では、川上景司特撮監督があげてくる特撮カットに満足できず、自分で特撮シーンを指揮して演出まで手がけた。合成の中野稔技師に聞いたことがあるのだが、「ペギラが来た!」で、野長瀬三摩地監督が描いた絵コンテ通りの構図で撮りあがってくるペギラのカットが円谷英二は満足できず、「構図だけ絵コンテをなぞってもダメなんだ。このカットの求めているサスペンス、ドラマを映像にしなきゃダメじゃないか」と、再撮影したという。野長瀬監督と編集は火花を散らせ、どんどんカットが短くなり、ラストのクライマックスをサスペンスフルに完成させた。中野技師は合成シーンも「円谷(おやじ)さんが驚くカットを作りたかった」と、怪獣からズームバックしてくると、見ている人間がいる合成カットを立案、円谷英二に「これは無理だ。できるなら俺が東宝でやっている」と言われるが、ズームの揺れる映像の中心を常に画面の同位置にして合成、そのカットを完成させた。『ウルトラセブン』のセブンの変身シーンもダンの顔からズームバックさせながら、セブンへとバーッと変身していく……モーション・コントロール・カメラのない時代、ズームバック合成は至難だったのだが、画面の動きを分析して、見事に一画面にマッチングさせていた。『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』のドラマ部分の撮影監督は、東宝から内海正治、鈴木斌、福沢康道、逢沢譲、永井仙吉と、劇場映画のキャメラマンに撮影してもらっていたが、特撮班は、高野宏一、佐川和夫、鈴木清、稲垣涌三、中堀正夫と、若手スタッフにチャレンジさせ、35mmの映画サイズのフィルムを使う映画作りのノウハウを身につけさせていった。大岡新一キャメラマンもそうだが、円谷プロ出身のキャメラマンが映画界でいかに多彩な仕事をしているか、『ウルトラマンティガ』(96/MBS)のドラマ部分の倉持武弘、特撮班の高橋義仁両キャメラマン(大岡キャメラマンのもとで、ふたりとも特撮をこなしていた)が『ウルトラマンダイナ』(97/MBS)、『ウルトラマンガイア』(98/MBS)と、3年間手がけることで、いかに撮影監督として力量をあげていったか言うまでもないだろう。

 円谷英二は、昭和451970)年125日に亡くなり、円谷プロの仕事は、息子の円谷一社長(昭和451970)年〜昭和481973)年)、円谷皐社長(昭和481973)年〜平成71995)年)に引きつがれ、多くの特撮作品とヒーロー、キャラクターを生んできた。
 現在、円谷プロは、皐社長の長男である円谷一夫社長に託され、21世紀の新しい特撮TVと特撮ビジュアルを模索するチャレンジである『ウルトラマンコスモス』のTVシリーズと映画の新作制作に乗り出している。
 今年は、円谷英二生誕100年にあたり、円谷プロの膨大な作品群とそのリスト、作品解説、そして、英二の三男の円谷社長が率いる円谷映像が作ってきたTVシリーズやビデオ作品の全貌を俯瞰するリストと解説を結集して、円谷英二が夢見て、その志と夢、才能を自らの仕事として手がけてきた映像スタッフの成果を一冊の本としてまとめたのが本書である。ビデオやDVD、BS、CS放送で見る際の参考にぜひ使ってほしい。日本のSFTV、特撮TVの巨大な大陸の全貌が見えてくることだろう。
(文中敬称略)

初出 角川書店『円谷 THE COMPLETE 円谷プロ/円谷映像 作品集成』序章 2001年】

ウルトラマンの世界/ウルトラマン総論

ウルトラマンの世界


『ウルトラマン』は、昭和411966)年717日から、翌昭和421967)年49日まで、約8ヶ月間、『ウルトラQ』の後番組としてTBS系で放映された円谷プロの空想特撮ドラマである。
 前作の『ウルトラQ』が色濃くSFドラマを指向していたのに比べ、怪獣路線、カラー化、巨大ヒーロー性の要素が混入された空想特撮シリーズが、この新シリーズの特色であった。
 “宇宙の悪魔”ともいうべき凶悪な宇宙怪獣・ベムラーを宇宙の墓場に護送中、M78星雲の宇宙警備隊員は、ベムラーに逃亡され、逃げるベムラーを追い地球へとやってきた。その追跡の途中、宇宙人は誤って空中をパトロールしていた国際科学警察機構の科学特捜隊員・ハヤタの乗ったジェット機に衝突し、ハヤタの命を奪ってしまった。
 宇宙人は自分の不注意を詫び、自分の命をハヤタに託し、彼とともに一心同体となって、地球に留まることを決意した。
 湖に隠れていたベムラーを倒し、“ウルトラマン”と名づけられた宇宙人は、ハヤタとともに生き、地球の平和を乱す怪獣や宇宙人が現れるや、M78星雲人の姿に戻り、敢然と戦うのである……。
『ウルトラマン』とは、こういう物語である。毎回、原則として、読み切りの形をとり、一回に一怪獣か、一宇宙人の登場を扱っている。変化に富んだストーリーとともに、登場する怪獣や宇宙人のユニークなデザイン、形態、能力、登場の仕方のおもしろさは、『ウルトラマン』の大きな魅力であった。ストーリーと華麗なカラー特撮、その二本柱が『ウルトラマン』の魅力でもあり、大きな柱でもあった。
『ウルトラマン』は、その内容的にいえば、以下の3つに分類することができる。

1 怪獣もの
 内容的には、SFともいうべきなのだが、あまりに怪獣(あるいは特撮)が魅力的で、作品を見終わった後、怪獣の個性的なイメージが強く残る作品。『ウルトラマン』の怪獣は、『ウルトラQ』の怪獣に比べ、全体としてもキャラクターがより明確になっている。
例、第3話『科特隊出撃せよ』
8話『怪獣無法地帯』
25話『怪彗星ツイフォン』
2627話『怪獣殿下』ほか。

2 宇宙人もの
 怪獣と違い、知的な生命体である宇宙人の地球侵略を扱った作品。これは総論で後述するが、『ウルトラマン』の宇宙人は、人間とは極めて異質なもの、という不思議な性質があり、「ウルトラ」シリーズの中でも特異な位置を占めている。バルタン星人などは、1の怪獣もののような性質も持っているが、ともかくも、宇宙人ものとは、一線を画している。
例、第2話『侵略者を撃て』
18話『遊星から来た兄弟』
28話『人間標本56
33話『禁じられた言葉』ほか。

3 ファンタジーもの
 怪獣や宇宙人、怪奇現象が登場することは登場するが、作品を支える独特の視点のために、いわゆる、“怪獣もの”とは、明確に異なる作品として仕上がっている。脚本:佐々木守、監督:実相寺昭雄作品や、脚本:金城哲夫、監督:樋口祐三作品のヒドラやウーの話がいい例。
例、第15話『恐怖の宇宙線』
20話『恐怖のルート87
23話『故郷は地球』
35話『怪獣墓場』ほか。

 考えてみれば、この3つの方向は、原型が『ウルトラQ』にあり、『ウルトラセブン』にも受け継がれた円谷プロ作品の独特の方向でもあったのである。
 一本、一本のストーリーを重視しつつ、全体をひとつの話として、『ウルトラマン』とはどのような世界であったか、どのように盛りあがっていったか、それを考えながら、この一冊を構成した。
 もちろん、ストーリーばかりではなく、この世界を彩る科学特捜隊や怪獣、宇宙人、特撮シーンにも誌面をさき、目で見る『ウルトラマン』の世界が再現できうるべく考えた。

『ウルトラQ』の登場まで、日本のSFテレビは、“スーパーマン”に影響を受けた“月光仮面”型スーパーヒーローものと『鉄腕アトム』(63/CX)と『鉄人28号』(63/CX)からはじまったSFアニメの双璧で形作られていた。そこに、『ウルトラQ』から特撮ドラマSFの傾向が加わり、昭和40年代前半、日本SFテレビは、三つどもえの展開を続けるのである。
『ウルトラマン』は、その流れの中で、ドラマSFとスーパーヒーローSFの両方の流れが渾然と一体になった円谷プロ独自の新方向であった。
 巨大ヒーローもののパイオニアであると同時に、『ウルトラマン』は、本格テレビSFと娯楽テレビ作品の合体を目指した円谷プロ作品のひとつの流れだったのである。
 果たして、それが成功したのか、どうか……それを判断するのは、視聴者のあなたであろう。
 全体像としての『ウルトラマン』が理解していただければ、幸いである。


ウルトラマン総論 


『ウルトラマン』は、昭和411966)年717日から、『ウルトラQ』の後番組として、その放映を開始した。以降、数度の中断があるものの、10年以上にわたって継続した「ウルトラ」シリーズの事実上の確立、第一歩であった。
 この稿では、その『ウルトラマン』とは一体、何であったかを少し考えてみようと思っている。
     ※     ※     ※
 今回、この本を作るために、『ウルトラマン』を全体にわたって、何度も見たのだが、何度見ても、渾然とさまざまな要素が一体化している、という印象は、ついに変わらなかった。
『ウルトラマン』は、それが魅力ともいえるし、それが作品世界の完成度を妨げていた原因なのかもしれないが、ともかく、『ウルトラマン』は、さまざまな方向にその世界をのばそうとしていた、草創期らしい円谷プロの意気込みがこもった作品ではあった。
 その見どころともいうべき、いくつかのポイントを書き出してみよう。

1 40メートルの宇宙人が怪獣と組み討ち、エネルギー光線など、さまざまな秘術を尽くして戦う、という目もくらむイメージ(君は、東京の街並みを見て、『あッ、ここにウルトラマンが立っていて、バルタンやネロンガと戦ったらなァ!』と、実感を込めて思い、目がくらみそうになったことはないか!?)。

2 人間が瞬時で40メートルの巨人に変身する、というイメージのパワー(この12で『ウルトラマン』の世界が理詰めなSFではなく、目で見るSF----視覚イメージSF----ともいうべき何かであることは明白だ)。

3 『ウルトラQ』の優れていた部分を継承し、さらに、活劇としてパワーアップできないか、という発想がある。カラー化がその端的な例だが、ウルトラマンさえ出なければ、『ウルトラQ』といっても少しもおかしくない、第10話『謎の恐竜基地』、第20話『恐怖のルート87』、第30話『まぼろしの雪山』などの作品もシリーズの中で続出し、活劇性の強かったシリーズの中で、不思議な余韻を後に残した。

4 制作者(スタッフ)たちが自分の描こうとしている作品の狙いをよく承知しており、互いに刺激し合って作品を作っていたということ。全体のアウト・ラインをおさえる金城哲夫、その対極に立つ佐々木守、一作、一作を違うイメージで脚本化した山田正弘、藤川桂介などの脚本家ばかりではなく、本編の演出陣が、個性あふれる演出を繰り広げ(演出ばかりではなく、飯島敏宏監督は千束北男、野長瀬三摩地監督は南川竜、樋口祐三監督は海堂太郎、とペンネームを使い、脚本作りにも健筆をふるった)、作品のバラエティーに富んだイメージを確立した。

5 そのバラエティーに富んだストーリーのおもしろさとその魅力(これこそ、この作品の本当の魅力だ!)。数ある怪獣TV番組だが、『ウルトラマン』ほど、バラエティーのあるストーリーを持つ作品は珍しい。特撮や、その怪獣、宇宙人のデザイン、造形的な魅力はいうまでもあるまい……。

 などなど、いくら書いてもキリがない。以下、少しずつ後述するとして、『ウルトラマン』の物語へ入っていくことにしよう。

その宇宙人像
『ウルトラマン』を見ていて、『おもしろい!』と思うことは、『ウルトラマン』の持つ宇宙人像が極めてユニークだという点である。
『人間とは異質』という一線が明確に引かれているのだ。
 円盤の中に20億もの同胞をミクロ化(!)して、宇宙を放浪していたバルタン星人は、その概念の中に、“生命”にあたる言葉を持っておらず、どのような生態システムで生きているのか、はなはだ謎であること。宇宙のあらゆる文明を滅ぼすことが彼の仕事であり、そのために自分は生まれてきたのだ、と語る。おそらく、ウルトラマンの対極に立つ宇宙破壊工作員ともいうべきザラブ星人(宇宙中に何万ものザラブ星人が派遣されていると考えれば、このイメージはとても楽しい)。3つの顔(!)を持ち、何の目的をもって、人間を標本化するのか、ついに、作品の中でも少しも明らかにされない宇宙生物ダダ。武力征服ではなく、人間の心に挑戦するためにやってきたメフィラス星人。「ゼットン、ゼットン……」とだけ、言い残して死んでしまう謎のゼットン星人……などなど。『ウルトラマン』に登場する宇宙人は、自分の目的を明確に語る『ウルトラセブン』の宇宙人たちと比べれば、いかに異色かがわかるであろう。
 主人公のウルトラマンこと、M78星雲人にしてからが、空を飛ぶ時は赤い球体になる(!)こともあり、“生命”を自在に移植し、人間に乗り移ることもできれば、空も飛び、手からは自在にエネルギー光線を出す……など、目もくらむばかりのイメージで、とても“人間的”と呼べるような知的生命体ではない。
 いや、ウルトラマンの心は、人間以上に“人間的”だという意見もあろうが、それこそ作者たちの狙い、というべきであって、“ウルトラマン”の宇宙人像は、基本的に地球人ではないのだから、本質的に異質なハズだという極めてノーマルな部分から出発していると思われる(『宇宙生物だ……怪物だ』というダダのイメージがもっとも端的か。『人間には理解できない』=怪物という図式が、“ウルトラマン”の宇宙人を支えていたのだ)。
 この発想を広げていけば、極点に『ウルトラQ』のバルンガや外国SF映画の『エイリアン』(79/監督:リドリー・スコット)が現れてくるわけで、『ウルトラマン』の宇宙人は、原点ともいうべき、円谷プロ宇宙人像の出発点でもあったのである。
 そして、この“人間とは異質”という部分が、やがて、最終回において、重要な意味をおびてくる……この発想は、『ウルトラマン』の根本のテーマにまでつながっていくのだ。

その物語世界
 映画とテレビシリーズの一番の違いは何だろう、とあなたはお考えになったことがあるだろうか?
 ひとつの物語世界として完結している映画、ひとつの設定と主人公たちを使ったいくつもの物語で、物語世界が形作られるテレビシリーズ、両者の最大の違いは、この部分ではないだろうか。
 テレビシリーズは回数があるがゆえに、テーマの重層化が可能、という不思議な性質を持っているのだ。ひとつのテーマを何回にもわけて描くこともできれば、アンチ・テーゼのようなテーマを打ち出し、メイン・テーマに厚みを加えることさえ可能なのだ。
 円谷プロの第一期の核ともいうべき作品群(『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『怪奇大作戦』)を筆者が強く推したいのも、このテレビシリーズでの長所を円谷プロの作品に携わったスタッフたちがよく心得ていて、何とか作品の中で表現しようとしているからなのだ。

『ウルトラマン』のメイン・テーマは、第一話と最終回に集約されているが、そのメイン・テーマと対をなすアンチ・テーゼともいうべき作品が『ウルトラマン』には約3本ある。
23話『故郷は地球』(脚本:佐々木守、監督:実相寺昭雄)
35話『怪獣墓場』(脚本:佐々木守、監督:実相寺昭雄)
37話『小さな英雄』(脚本:金城哲夫、監督:満田穧)
3本である。
 地球を狙う宇宙怪獣だと思っていた怪物が、実は、変身した人間の姿であり、某国の宇宙政策の犠牲になった宇宙船パイロットであったとわかる『故郷は地球』。復讐に狂う彼は、世界平和会議を成功させる名目で、一匹の宇宙怪獣として始末される、というストーリーを通して、この物語は科特隊とウルトラマンの戦う正義とは、一体、何なのか、ということに激しい疑問を投げかけていた……。
 また、『怪獣墓場』では、怪獣に託して、異質な者、はみだされてしまった者を受け入れない我々の社会を、マンガチックな表現の中で、絶望的に近いまなざしで訴えかけており、ラストのナレーションや作品の随所にふりまかれたアキコのセリフは、作品に異様な余韻を残していた----。守られ、保護されるうちに、人間としての生きるプライドを失うイデを通して生きることとは何かが語られる、『小さな英雄』----いずれも『ウルトラマン』の設定が根本的に内在させていた問題点を扱っており、『ウルトラマン』のテーマの再検討ともいうべき作品群であった。
 構成上のミスや、怪獣の眠る宇宙の怪獣墓場、怪獣酋長、超能力で怪獣復活……などなど、“傑作”と呼ぶにはいささか迷わざるをえないが、キャラクターの性格表現やアンチ・テーゼという点で、この3作は『ウルトラマン』の中で特筆すべきだし、この3作が果たしている安全弁の役割を大きく評価しておきたい。
『故郷は地球』、『怪獣墓場』、『小さな英雄』の3本がなければ、『ウルトラマン』のテーマがあのレベルまで到達できたかどうか、筆者には大きな疑問なのである……。

 科学特捜隊という愛すべき5人のキャラクターについても少し触れておきたい。
 日本の実写SF番組で、このような科学パトロール隊が作品の中で、縦横に活躍するのはこの作品がはじめてである。光線銃、制服、ジェット機、基地、潜水艇ほか、近代科学のさまざまな兵器を身につけたパトロール隊とは、世界のSFテレビの中でも、あの完成度を持つ作品となると、なかなかないのではないか!?
 その未来的なイメージが作品の大きな力となっており(これは微妙な点なのだが、ムラマツ、ハヤタ、イデなどの主人公たちが片仮名というそれだけのことで『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』は、不思議な未来感がある。あなたは“キリヤマ”というのが、どういう漢字で書くかなどと考えたことがあるだろうか?)、現実世界を舞台にしていながら、21世紀的なイメージが作品の根底に流れていたのである。
 キャラクターの5人も仕事に厳しく鬼隊長の面も持つムラマツ隊長(キャップ)、エリートで二枚目な主人公・ハヤタ隊員、新兵器開発ほか、科学面で抜群の力を発揮するギャグ・メーカー・イデ隊員、豪放磊落、射撃の名手・アラシ隊員、紅一点のフジ・アキコ隊員など、典型的な5人の主人公たちだが、役者の好演と脚本、演出の工夫が、ただのギャグ・メーカーや鬼隊長、紅一点に終わらせていなかった点は、大いに評価されてよい。
 例えば、イデをもっともギャグ・メーカーとして活躍させた飯島敏宏監督作品でも、第5話『ミロガンダの秘密』で、前半、イデとアラシをギャグとして徹底的にチャカしていたのに、ラストにアラシが自らの責任としてグリーン・モンスに立ち向かうと……。
 ムラマツがアラシを止めようとするハヤタ、イデを制止する。
ハヤタ「しかし、アラシは責任感の強い男ですからね」
イデ「(心配そうに)自分の責任だと思ってるんだ」
 こういう時の、各キャラクターは圧巻としかいいようがない。各作品で至るところに、スタッフのキャラクターの肉づけへの熱意を感じることができた。
 アラシに至っては、明らかに欠陥人間で、
「俺は怪獣を見ると、ムラムラ闘志が湧くんだよ」
という第36話『射つな!アラシ』でのセリフなど、寒々とした感触もあり、シリーズ中、何度もあったイデとの対立は、この両キャラクターを明確に私たちに印象づけた(『故郷は地球』、第30話『まぼろしの雪山』などを参照して下さい)。
 アット・ホームの感さえある科特隊は、深い信頼と人間性で結びついた人間集団の感があり、のちの『ウルトラセブン』の地球防衛軍という巨大な組織と比べると、いい意味で、好対照といえるのではないか。

その最終回
 テレビシリーズがひとつの物語であることは、筆者も知っていた。しかし、それが子供番組の中で、衝撃ともいうべき実感を持って感じたことは、この『ウルトラマン』が最初であった。
 最終回、正攻法の侵略ものとして幕を開けた物語は、終わりに近づくにつれて、驚くべき展開を見せはじめた……第一回に物語がつながりはじめたのだ!!
 最終回のゾフィとマンの会話がはじまった時、おぼろげながら、それが第一回のマンとハヤタの会話につながっていることを感じはじめた……そして、聞くにつれて、ウルトラマンは、地球の平和を守るためではなく、ハヤタを生かし続けるために地球にい続けたとしか考えられなくなってきた----ウルトラマンは、ハヤタのことしかいわない!
ゾフィ「ウルトラマン、目を開け……私は、M78星雲の宇宙警備隊員ゾフィだ。さぁ、私と一緒に光の国へ帰ろう、ウルトラマン」
ウルトラマン「ゾフィ、私の身体は私だけのものではない。私が帰ったら、ひとりの地球人が死んでしまうのだ」
ゾフィ「ウルトラマン、お前はもう十分地球のために尽くしたのだ。地球人は許してくれるだろう」
ウルトラマン「ハヤタは立派な人間だ。犠牲にはできない。私は地球に残る」
ゾフィ「地球の平和は、人間の手でつかみ取ることに価値があるのだ。ウルトラマン、いつまでも地球にいてはいかん!」
ウルトラマン「ゾフィ、それならば、私の命をハヤタにあげて、地球を去りたい……」
ゾフィ「(驚いて)お前は死んでもいいのか!?
ウルトラマン「かまわない。私はもう二万年も生きたのだ。地球人の命は非常に短い。それに、ハヤタはまだ若い。彼を犠牲にはできない」
ゾフィ「ウルトラマン、そんなに地球人が好きになったのか……よし、私は命をふたつ持ってきた。そのひとつをハヤタにやろう」
ウルトラマン「ありがとう、ゾフィ……」
 かくて、ウルトラマンの地球での驚くべき物語は終わり、ウルトラマンは地球を去っていく。
 科学特捜隊隊長・ムラマツの----人類の----
「地球の平和は我々、科学特捜隊の手で守り抜いていこう!」
という力強い言葉を背に……。
 二万年も生きた宇宙人・ウルトラマン、彼の心の中が大幅に地球人と違っているのは当然だろう。身長や能力以前に異質なものとして彼は考えられていた気配がある。
 その彼が、地球人を好きになる----友情を感じるようになる----というところが、『ウルトラマン』のテーマだったのではあるまいか。
 作者たち(スタッフ)は、限りなく広い宇宙を見まわした時、異質なものの間でも、心の底からの交流が可能なのだということを----そして、人間同士であるならばいうまでもないということを----ひとつの希望、願望としてこの作品に描いたのである。
 筆者は夢見ることがある。この『ウルトラマン』の世界の人間の子孫が宇宙へ飛び出し、M78星雲のウルトラマンと遠い未来に再会する。すると、ウルトラマンはこう語るのだ。
「私は、何百年も昔、君たちの星で暮らしたことがある。友よ、私は君たちがくるのを待っていたのだ!」
 ウルトラマン、それは希望に満ちた人類の夢の象徴ではないだろうか!

『ウルトラマン』、それはスーパー・ヒーローものとはいえ、子供向け作品とはいえ、各種のテーマを描くことができるし、全編をひとつの物語として作ることだって可能なのだ、ということを教えてくれた作品であった。
 血湧き肉躍る『ウルトラマン』……それは私たちが昭和41年に手に入れた日本テレビSFの新しい突破口であり、現在に至っても内部に可能性を秘めている----「空想特撮」シリーズの代表作である。

【初出 朝日ソノラマ・ファンタスティックコレクションNo.20『特撮ヒーローのすばらしき世界 ウルトラマン フィルム・ストーリー・ブック』1980年】

『ウルトラQ』各話解説

1話『ゴメスを倒せ!』

脚本:千束北男 監督:円谷一 特技監督:小泉一
「“ゴジラ”のぬいぐるみを使えるから、それで一本書いてくれ」と、円谷一監督が脚本を依頼し、飯島敏宏監督が千束北男のペン・ネームで書いたのが第1話「ゴメスを倒せ!」だった。怪獣一匹じゃつまらないので、と巨獣を倒すなら小さい動物、例えば、鳥がいい、とアイデアを練り、トンネル工事が大洞窟にぶつかるというストーリーの導入部も抜群だった。ゴメスにはゴジラを演じた中島春雄が入り、フラッシュ光にひるむ生物感やダイナミックな暴れぶりを演じきった。
 怪獣に子供を対応させ、少年や少女の夢と心、その世界を描こうとした作品がいくつもある『ウルトラQ』だが、勇敢なリトラの墓標をたてた、という次郎の心を描くラスト・ナレーションの静かな余韻が印象的だ。

2話『五郎とゴロー』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:有川貞昌
『ウルトラQ』は、オープニングが一編、一編さまざまな工夫を見せて楽しかったが、巨大猿“ゴロー”が画面を超スピードでよぎり、ストップモーションで文字が出てくる演出は、有川貞昌特技監督のアイデアだった。
「当初、テロップだけだったタイトルをこうしたらおもしろくなる、と提案してみた。東宝じゃ、キャメラマンの僕らが言えないし、演出デビューだから、そんなことも考えたんだね」
 円谷一監督と入念な打ち合わせをして、ロープウエーの初登場シーンや五郎から食事をもらうシーンと、撮影や合成も凝りまくった。
 巨大化したゴローは、青年・五郎を世話役に南洋で暮らせる、という物語だが、孤独感に揺れる五郎を描く金城脚本の心情描写も光っていた。

3話『宇宙からの贈りもの』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:川上景司
 金城哲夫脚本、円谷一監督の特撮を駆使する『ウルトラQ』の代表作、それが第3話「宇宙からの贈りもの」であった。
「のどかで平和な歌声を破って、それは地球に到着した。そして、それは我々に何をもたらすのだろうか。これから30分、あなたの眼はあなたの身体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」
という格調高い石坂浩二のナレーションも素晴らしい。
 火星怪獣“ナメゴン”(本編では“火星怪獣”としかいわない!)の川上景司特技監督の演出も冴え、卵の巨大化から誕生、迫る恐怖とサスペンスもお見事。円谷一監督の会話シーンの的確なカット割りも見せ場のひとつだった。

4話『マンモスフラワー』

脚本:金城哲夫、梶田興治 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
『ウルトラQ』は、当初、『アンバランス』というタイトルで、昭和391964)年927日、放送第4話「マンモスフラワー」のお堀で根を見つめるロケ・シーンから撮影がはじまった。『ウルトラQ』の出発点ともいうべき作品であった。
 それまで、日本で怪獣といえば、“ゴジラ”のような恐竜タイプが大半だった。無表情としかいいようのない“マンモスフラワー”の恐怖は、その怪獣パターンを打ち破っていて、ウルトラ怪獣の新しさは、そんな点にもあった。『ゴジラ』(54)や『地球防衛軍』(57)の本多猪四郎監督のチーフ助監督だった梶田興治監督が、太古のマンモスフラワーという金城のアイデアに炭酸ガス固定剤のラストを案出して、見ごたえのある特撮ドラマを作りあげた。

5話『ペギラが来た!』

脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
 この作品は、東宝から出向してきた野長瀬三摩地監督が、『ウルトラQ』ではじめて担当した作品である。
 オール・セットで撮られ、モノクロ作品の中で、南極を見事に再現して、テレビフィルムの可能性を娯楽作品の中で実証した。
 野長瀬監督は、「自分なりに、“ゴジラ”を撮りたい」という姿勢で、この撮影に臨み、全スタッフにその意志を通すため、全カットを自ら絵コンテ化した。監修の円谷英二が自分で特撮カットを追加撮影、『ウルトラQ』のベスト・モンスターの一匹はこうして誕生した。成田亨特殊美術監督の怪獣デザイン、造型作家・高山良策の怪獣造型の成功作で、マブタをカッと開くペギラの表情は、ただ、ただ、圧巻!

6話『育てよ! カメ』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:小泉一
 山田正弘脚本、中川晴之助監督コンビのファンタジー作品。第15話「カネゴンの繭」とともに、『ウルトラQ』の中で、別格ともいうべき異色作品に仕上がった。
 このラスト、太郎(しかも、この主役の名前は本当に“浦島太郎”というのだぜ!)がいくら話しても大人の笑い声と笑う口が画面に被さるようにふくれあがる形になっている。その後の子供たち全員が教科書を立てて、カメを育てている中、夢を体験して(しかもあの乙姫だ、トホホのホ)失った太郎だけは、ひとり物思いにふけっているのも秀逸だった。
 太郎が乗る巨大ガメに翼端灯がついていたり、マッハ3のスピード・メーターがあったりするのも現代っ子の夢らしく楽しい。

7話『SOS富士山』

脚本:金城哲夫、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:的場徹
 富士山噴火説に、富士山の樹海に住む野性に育ったターザン、生きている岩石怪獣“ゴルゴス”……と、ストーリーの道具立ては賑やかで、道路をふさぐ岩石を爆破する作業員に晴乃チック、タックの人気漫才コンビを使ってギャグ・シーンにしたり、特撮も手数が多いのだが、ゴルゴスのぬいぐるみが硬質感に欠け、ゴルゴスの上のタケルも人形にしか見えず、飯島演出も成果をあげられなかった。
 富士山のすそ野は、『ウルトラQ』の前に企画された『WOO』の舞台で、金城哲夫はその蓄積で脚本を構成した気配がある。この作品での苦闘は、飯島監督、的場特技監督の中で熟考され、それぞれパゴスやガラモン、ゴーガの映像としてのちに結晶化した。

8話『甘い蜜の恐怖』

脚本:金城哲夫 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 怪獣映画のおもしろさは、そのラストにどうやって怪獣が倒されるかにかかっている。
 昔から底なし沼や溶鉱炉に落としたり、薬品で倒したり、火事の中に飲み込まれていったり、監督は、皆、さまざまな演出で挑戦した。
 第8話「甘い蜜の恐怖」は、巨大なモグラが攻撃されると、深く潜っていく習性を利用して、地中のマグマ層に突っ込ませて倒す、というアイデアが見事で、金城脚本と梶田監督の演出が出色のどんでん返しを完成させている。
「不気味な雷鳴とともに、ひとりの男がアンバランス・ゾーンに落ちたのです」
というオープニング・ナレーションが示す大人ものの格調高いムードが忘れられない。梶田監督の人間主義の演出は、『Q』の一方の特徴だった。

9話『クモ男爵』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:小泉一
「悪魔の使いとして恐れられている夜のクモにも、人間が変身した、という哀しい物語があります。人を襲うのは、人間に還りたい、という一心だったのかもしれません。あなたの庭先で、夜、クモに出会っても、どうぞ、そっとしてあげておいて下さい……」
(エンディング・ナレーション)
 古老がふと語った夜語りの物語のようで、異様な静けさの中に、クモに託した人の悲しい絶叫が響いている。霧の中にたたずむ洋館に迷い込むパーティー帰りの万城目たち……という夜のムードが出色。テレビフィルムの可能性を見せた金城哲夫脚本、円谷一監督のホラー・ファンタジー作品だ。本編主体の小泉一特技監督の巨大グモの演出も効果的だった。

10話『地底超特急西へ』

脚本:山浦弘靖、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:的場徹
 地底超特急“いなずま号”、その特撮シーンは見事の一語だった。わざとブラして撮影したそのスピード感、本編との合成カットの大胆さ。操縦席のグングンと近づいてくるトンネル内の灯りで表すスピード感のうまさ、切り離された列車の後ろのドアで、唖然のイタチの列車シーンのスゴサ。的場特技監督と高野宏一特撮キャメラマンの力を借りて、全編ギャグタッチの軽快な飯島敏宏演出は、スリルとギャグを巧みに融合させ、息づまるラストまで一気に作品を引っ張っていった。
 タイトルもコンパスがアニメで出て、地底超特急と出て、コンパスがW(WEST)に向くと、“西へ”という文字がブレーキ音とともに、画面にインして止まる凝った作りだった。

11話『バルンガ』

脚本:虎見邦男 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
 野長瀬三摩地監督の『ウルトラQ』のベスト・ワークであり、虎見邦男脚本の息づまるセリフの盛りあがりが素晴らしい傑作。
 虎見邦男は、昭和41929)年826日、東京生まれで、豊玉高校時代は、谷川俊太郎や北川幸比古と同期だった。音楽好きで、第1期風月堂のメンバーであり、早稲田大学露文科に通い、トルコの詩人・ナジメ・ヒクメットの『愛の伝説』を訳したり、小説や脚本を執筆していた。クモ膜下出血で、昭和421967)年327日、37歳で亡くなっている。
 野長瀬監督は、子供の夢のようなどんなエネルギーも吸って、巨大化する怪物の脚本を、社会派の視点も入れて徹底的に改稿、文明の天敵を描くSFドラマとして結晶化させた。

12話『鳥を見た』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:川上景司
 中川晴之助監督がはじめて手がけた『ウルトラQ』で、鳥が巨大化する特撮も見ものだが(鳥かごの影の中でラルゲユウスが巨大化して飛び立っていく連続シーンは、円谷英二特技監督自ら撮影したシーンであった)、中川監督は、鳥と少年の交情に力点をかけ、ロケーション撮影を駆使して、それを描き続けた。
 三郎と鳥の情景は、映像詩(フォト・ジェニー)にも似た美しさを見せ、満たされぬ三郎少年の心は、広がる海と空のように空っぽで、不思議な喪失感の傷みすら感じさせた。
 宮内國郎作曲の情感あふれる音楽が中川演出を支え、ひとりの少年の出会いと別れを描ききった。中川監督、撮影時は34歳。みずみずしい詩情あふれる特撮作品であった。

13話『ガラダマ』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:的場徹
 第13話「ガラダマ」は、一の谷博士を演じる江川宇礼雄が「信州地方では、隕石のことを“ガラダマ”というんですよ」と、語った話をヒントに、隕石から出現するロボット怪獣のアイデアを作りあげた。
 ガラモンは、成田亨デザイン、高山良策造型の『ウルトラQ』怪獣の最高傑作、といえるだろう。その生物的デザインと金属音の足音、全身を振るわす電波音の演出に、「さすが宇宙人が作ると、ロボットもこうなるのか!!」と、見ている子供たちは仰天した。
 的場徹特技監督は、野球の金田正一投手の肩をまわす投球ポーズや喜劇俳優のルーキー新一の身をよじるギャグをガラモンのアクションに導入、出現シーンの映像の工夫が素晴らしい!

14話『東京氷河期』

脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
「ペギラが来た」の続編で、暖かくなり出した南極から北極へ移動しようとするペギラが東京を直撃する。ビル街で暴れまわる巨大怪獣のスペクタクル映像が続出するアクション編。
 野長瀬三摩地監督は、治男少年がペギラの足もと近くを通過するシーンで、足で地面がへこんで少年が落ち込むシーンを撮るため、スダレ状につないだ木の上に雪のセットを置き、下を次々にはずして落ちていく映像を生み出した。360度回転するキャメラの台座も車が空中を飛ぶ車内の芝居シーンで効果をあげた。
 カット割りと合成の大胆さは、野長瀬監督の絵コンテ設計の成果で、川上景司特技監督、高野宏一特撮キャメラマン、合成の中野稔がダイナミックな映像で本編演出を支えていた。

15話『カネゴンの繭』

脚本:山田正弘 監督:中川晴之助 特技監督:的場徹
 山田正弘脚本、中川晴之助監督コンビの第6話「育てよ! カメ」、第12話「鳥を見た」に続く第3作で、『ウルトラQ』中、最高の傑作の一本。
 お金がすべてのひとりの子供がお金亡者の“カネゴン”に変身してしまう寓話で、徹底的に大人の世界を笑いとばしている。子供たちが実に生き生きしており、万城目たち大人の主人公は、ついにひとりとして顔も出さなかった。
 金男の和室の部屋で巨大化しているカネゴンの繭の不気味さを忘れることができない。
 カネゴンのデザインは、中川監督、成田亨デザイナー、的場特技監督のディスカッションの中でエスカレートし、胸のレジスターや口のチャックと、高山良策造型の頂点ともいうべき抜群のキャラクターが誕生した。

16話『ガラモンの逆襲』

脚本:金城哲夫 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 野長瀬三摩地監督は、第11話「バルンガ」、第14話「東京氷河期」、第16話「ガラモンの逆襲」、第24話「ゴーガの像」と、4度、巨大モンスターの東京アタックを描いている。思えば、第4話「マンモスフラワー」も梶田興治監督で、大都市を襲う巨大モンスターでは、TBSの演出陣より東宝出身のふたりが得意なのがいかにもで、おもしろい。
 野長瀬監督は、仲間を見殺しにする宇宙人の非情さを生殖後に役目を終えたオスを食べてしまうメスのカマキリからヒントを得て、昆虫宇宙人のセミ人間を生んだ。役者も中性的な丸山明宏(現・美輪明宏)に似た感じの役者をわざわざ見つけ出す凝りようだった。一体のヌイグルミのガラモンを合成で何体にも見せる特撮が冴え、飛来する隕石群と侵略者SFのムードも満点だった。

17話『1/8計画』

脚本:金城哲夫 監督:円谷一 特技監督:有川貞昌
 人口問題解決のため、縮小人間都市が作られる「1/8計画」は、揺れる由利子の心情を通して現代の管理社会化への警告を描く、シリーズを代表するSFストーリーだった。
 光学撮影の中野稔によると、「いつも生物が大きくなるだけじゃないか!?」という冗談に、脚本の金城が応えたアイデアが出発点だった、という。八分の一に分割されるオープニング、縮小されていくシーン、万城目の星川航空の机上の巨大セットに目が眩む由利子の小ささの表現と新鋭オプチカル・プリンターを使う合成は、縮小人間都市の非情さをまさに視覚化した。
 佐原健二と西条康彦は、ミニチュア都市を歩く空前の特撮シーンで、円谷一監督と話し合って、重量感の出る演技に気をつけた、という。

18話『虹の卵』

脚本:山田正弘 監督:飯島敏宏 特技監督:有川貞昌
 “ささめ竹の花”と“虹の卵”というポエティックな道具立てとウランを食べる怪獣“パゴス”とウラン燃料というSFタッチがダイナミックに融合したロケーション撮影と特撮の見せ場が多いモンスター・ストーリーである。
 飯島監督、有川特技監督の大胆な合成カットが素晴らしく、パゴスを演じた中島春雄のエネルギッシュな生物感あふれるアクションが怪獣ファンの血を騒がせた。
 由利子を演じる桜井浩子の美しさは、この「虹の卵」と第19話「2020年の挑戦」、第26話「燃えろ 栄光」がベスト3といってもよく、内海正治キャメラマンの撮影の成果であった。
 ピー子たちの演技に、当時の忍者ブームのポーズを取り入れたり、飯島演出も快調だった。

19話『2020年の挑戦』

脚本:金城哲夫、千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:有川貞昌
 万城目が途中で消失させられ、一平が秘密を追いながら、由利子にケムール人の魔手が迫り続ける……。『ウルトラQ』中、最高のサスペンスとスリルの連続で、そのSFムードは、第3話「宇宙からの贈りもの」と双璧の観があった。
 成田亨特殊美術監督のデザイン、高山良策のヌイグルミ造型のケムール人は、日本宇宙人史上空前のイメージを生み、電波音に“マタンゴ”の声を流用した笑い声といい、まさにバルタン星人の先駆であった。ケムール人を演じたのは、のちの“ウルトラマン”俳優・古谷敏だ。内海正治キャメラマンの撮影も冴える。
 ラスト、物語が解決したのに、柳谷寛演じる“宇田川警部”が液体に触れ、悲鳴をあげて消失するエンディングが不気味で、才気あふれる飯島敏宏演出の代表作の一本である。

20話『海底原人ラゴン』

原案:大伴昌司 脚本:山浦弘靖、野長瀬三摩地 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 SF映画評論で知られた大伴昌司原案のミニ『日本沈没』(73/監督:森谷司郎、特技監督:中野昭慶)である。
 子供を捜して上陸する母親・ラゴンを軸に、「深い方から浅い方へ転がる」地殻変動の石井博士の学説、沈んでいく島と圧巻ともいうべきドラマ展開が魅力だった。
 野長瀬監督は、海底原人・ラゴンのデザインについて、胸のふくらみや女性らしさを要求して、成田亨、高山良策コンビが、半漁人・ギルマンに匹敵する海底原人の新イメージを作りあげた。
 音楽が流れていると、聞き入っておとなしくなる、というのは監督のアイデアで、石井博士邸の台所にラゴンが現れるショック演出や夜道を歩く光る眼のラゴンのモンスター・イメージが出色であった。

21話『宇宙指令M774

脚本:上原正三 監督:満田かずほ 特技監督:的場徹
「私の名は“ゼミ”。私の名は“ゼミ”。ルパーツ星人です。地球人に警告します。地球に怪獣“ボスタング”が侵入しました。とても危険です」
 人形が由利子に語りかけ、万城目と一平は、セスナで不思議な空間に引き込まれる。
 上原正三、満田かずほ監督の『ウルトラQ』デビュー作で、ウルトラマンの原型のような宇宙平和を守る宇宙人像がおもしろい。
 怪獣・ボスタングは、撮影中、水を吸い込んでどんどん重くなり、「操演で持ちあがらず、難渋した」と、的場監督は回想していた。
 地球を守る宇宙人は指令を果たすと、そのまま地球人に同化した。「あそこにも、あそこにも」というラストが楽しい。隕石がタイプ音とともに題名に変わるスタイル演出が絶品。

22話『変身』

原案:金城哲夫 脚本:北沢杏子 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 民話好きの金城哲夫の原案を松竹脚本部にいた北沢杏子(のちに、性教育問題で、“ワレメちゃん”という言葉を発明したのはこの人だ)が脚本化した制作第2話の初期作品。
 梶田興治監督は、「モルフォ蝶の毒で浩二が巨大化したのではなく、モルフォ蝶が異世界への入り口の象徴な訳です。恋人を山に置き去りにして、モルフォ蝶を追った時、彼は“アンバランス・ゾーン”に落ちていったのです」と、語っていた。「もしもあなたの恋人が“アンバランス・ゾーン”の中に落ちた時、それでもあなたの愛は変わらないといえるでしょうか?」という大人のムードが独特。彼女の心が変わったのなら、浩二に会いに戻らなくてよかったのだ。人間の心の強さと弱さを暖かく描いた好編である。

23話『南海の怒り』

脚本:金城哲夫 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
『ウルトラQ』制作時、円谷プロ文芸部には予算や技術的に無理、と思われる脚本が積まれていた。それを見ていた野長瀬監督が「いつか自分で撮りたいと思っていた南海を舞台にした恋とアドベンチャー」のストーリーが気に入って、自分が撮ろうと言い出したのがこの「南海の怒り」だった。難しいと思われた大ダコの特撮は、東宝の『キングコング対ゴジラ』(62/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)の大ダコのシーンを流用して、的場特技監督のわずかな撮り足しでまとめあげた。
 野長瀬監督は、東宝映画の助監督時代に旧知の俳優・久保明と高橋紀子をキャスティング。ふたりが島に残るラストもさわやかで、人間の上に覆いかぶさる魔神について語る万城目やアニタの会話シーンも見ごたえがあった。

24話『ゴーガの像』

脚本:上原正三 監督:野長瀬三摩地 特技監督:的場徹
 悪徳が街にはびこり、人々が良心を失った時、“ゴーガ”がよみがえって、その街を滅ぼすという……国際的密輸団とスパイものタッチが異彩を放つモンスター・ストーリー。
 ゴーガの像が放射線を浴びて、その目から怪光線を放ち(顔面を光線がなめまわして殺す演出が圧巻!)、小さなゴーガがみるみる巨大化していくシークエンスを、丁寧な合成とミニチュア、特撮でまとめあげた。
 バズーカ砲を持ってジープでゴーガに迫っていくクライマックスは、まさに野長瀬監督、的場特技監督、内海正治キャメラマン、高野宏一特撮キャメラマンの新しいモンスター特撮を目指すエネルギーの結晶だった。手数の多い特撮シーンが存分に楽しめる好編。

25話『悪魔ッ子』

原案:熊谷健 脚本:北沢杏子 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 第22話「変身」で“アンバランス・ゾーン”に落ちた恋人同士を描いた北沢杏子・梶田興治コンビは、続く「悪魔ッ子」で、子供の中にすら潜む人間の魔性の部分にスポットを当てた。
 リリーは、首飾りを手に入れるために、親切な珍さんを殺してしまっているし、無邪気だが、さ迷うリリーの魂は、次々に事故を引き起こしていく。リリーが孤独で、遊び相手もいないがゆえに、その反動なのだろうが、平素あまり笑わないリリーが魂だけになると、実に楽しそうになのが、慄然とするテーマをとらえている。
 “アンバランス・ゾーン”、それは人間の心のことだったとは!! 肉体を殺そうと、夜の線路を歩くふたりのリリーの合成シーンに、テレビを見る子供たちは総毛立った。傑作ホラー作品である。

26話『燃えろ 栄光』

脚本:千束北男 監督:満田かずほ 特技監督:的場徹
 シリーズの助監督をはじめからつとめていた満田かずほ監督は、この作品と第21話「宇宙指令M774」の2本セットで演出デビューを果たした。
 飯島敏宏監督が脚本を提供、野長瀬監督は、ピエロ・ショーの観客でエキストラ出演して、若手の監督デビューを祝っていた。
 満田監督は、ワイプひとつでも新しいことをやろうと、光学撮影の中野稔技師と相談し、パンチ型のワイプやカット割りの新しさを狙った。後年の繊細な心情描写を音楽で表現するテクニックもこの2作品でやはり試みていた。
 ジョー役の工藤堅太郎は、満田監督が助監督時代に、自分が監督デビューしたら必ず呼ぶから、と約束した間柄だった。若者の野心と不安を怪物・ピーターを鏡にして描いた作品である。

27話『206便消滅す』

脚本:山浦弘靖、金城哲夫 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
 飛行機や列車、船とメカニックを素材にした脚本が多い山浦弘靖のシナリオに、金城哲夫が怪獣の住む異次元ゾーンからの脱出サスペンスをつけ加えた。
 梶田興治監督は、第二次世界大戦中、ゼロ戦のパイロットであり、戦争が終わると、大空に散った、あるいは戦い終わった飛行機と戦士の魂が、空の墓場で敵も味方もなく平和に眠り続ける……という夢の世界のようなイメージからはじまった、という。
 東京上空を飛ぶ時、異次元ゾーンにぶつかるかもしれないので、シート・ベルトをしめて下さい、というナレーションがお見事。
 由利子の万城目への想いが見える作品で、一の谷や由利子のセリフの情感がうれしい。

28話『あけてくれ!』

脚本:小山内美江子 監督:円谷一 特技監督:川上景司
 金城哲夫の脚本の相談にのりながら、なかなか、自分が撮ろう、と言い出さなかった円谷一監督が、シノプシスを見て、「これは自分が撮ろう」と、乗り出したのが、第28話「あけてくれ!」であった。円谷一監督が考える『ウルトラQ』の初期イメージが見えるようでおもしろい。2本セットで撮影するため、急ぎ金城が脚本を書いたのが、第3話「宇宙からの贈りもの」だった。
 のちに『金八先生』(79/TBS)を書く小山内美江子の脚本は、人間蒸発の謎を絡めて、人間らしく生きられる異世界の扉が開く、人間不在の現代社会を映す大人向けの不条理劇であった。
「あけてくれ!」は、本放送では放送されず、再放送ではじめて公開された。『ウルトラQ』の異色作中の力みなぎる異色作だ。

【初出 朝日ソノラマ・ファンタスティックコレクション『空想特撮シリーズ ウルトラQアルバム』(竹内博・編)1997年】
*満田監督の名前は、正しくは禾に斉。

『帰ってきたウルトラマン』 ドラマ論

 この原稿を書くため、友人たちから借りだしたビデオを、何度も見るうちに、心の中に“青春という名のウルトラマン”という言葉がくり返し浮かんできた。あるいは、“人間らしさに揺れるウルトラマン”と、いい直してもいい。それは、例えば平凡な作品、第3話「恐怖の怪獣魔境」(脚本:上原正三、監督:筧正典、特殊技術:高野宏一)などにも、簡単に見つけられるほど、前半の作品の随所に登場しているのだ。
 主人公の郷は、休暇で坂田家を訪れていた。霧吹山に怪獣がいるかどうか、上野隊員と感情的につまらぬ対立をした後であった。坂田健(岸田森)と流星号2世の設計を検討する郷。その時、郷の耳に霧吹山の怪獣の声が聞こえてきた!!
ナレーション「そのころ、加藤隊長は、単身霧吹山へ登っていた。霧吹山の怪獣をめぐって、対立する郷とほかの隊員たちのわだかりをなくすため、自分の目で確かめたかったのだ……」
 うわの空の郷に、
「今日はもうヤメた」
と呟く坂田。次郎は、唖然の郷に、
「兄ちゃん、楽しみにしてたんだよ。明日は郷さんがくるって」
と、ささやいた。
 作業を続けよう、という郷だが、そこへギターのコードを教えて、とアキが笑顔で現れた。
 そこで、郷に呟く岸田森の名セリフ。
坂田「お前は疲れてんだよ。こいつの顔はこんなチンチクリンだが、怪獣を見てるよりは気がやすまるぞ(笑)」
アキ「チンチクリンなんてヒドイワ(プイッと横を向き)、これでも横顔にはチョイと自信があるんですからね(一同笑)」
 いかにも下町っ子というアキの陽気さ、続けて広場でアキにギターを教える郷、わずかな時間でも郷が自分といてくれる嬉しさと、郷とアキ、坂田兄弟の描写は、きわめて印象的であった。
 かつて、ウルトラマンであったハヤタは、物語の中で、その内面をほとんどあかしたことがなく、セブンであるダンにしても、物語を負う心情を吐露しながら、彼の青年としての心情をあまり出すことがなかった(『超兵器R1号』や『盗まれたウルトラ・アイ』、『ノンマルトの使者』、最終回などは別。しかし、それとてかなりストーリー・ラインにのった心情告白だったと思う)。
 それに比べれば、郷秀樹というキャラクターは。きわめて生々しい人間で、おごりもすれば、悩んだり、怒りもするし、ウルトラマンと合体した能力は別として、ごく平凡な青年像を生み出した(これも、『あしたのジョー』や『巨人の星』など、スポーツ根性ものや青春映画のムードがひとつの時代を作っていたためだろう)。
 第6話「決戦!怪獣対マット」(脚本:上原正三、監督:富田義治、特殊技術:高野宏一)でも、アキが重傷を負い、退避命令が出ても移動できない----その退避命令がスパイナーを使うためと聞いた時の郷の驚き!
郷「スパイナー!? 皆を避難させたのはスパイナーを使うためなんですか!?
加藤「強く反対はしたんだが……」
郷「あんなものを使えば、東京は一体!?
(スパイナーは、小型水爆級の威力があるのだ!)
 坂田は、次郎だけでも連れてってくれ、と呟き、自分は残るという。行きたくない、と叫ぶ次郎。重傷のアキの目からひとつぶの涙が。
郷「(真剣に)MATの使命は、人々の自由を守り、それを脅かす者と命をかけて戦う。隊長、そのためにMATはあるんじゃなかったんですか!?
加藤「(決意はついた)私と一緒にきてくれ。ともにMATの誇りを守り、任務を遂行しよう!」
 かくして、人間の誇りを守り、MATは最後の決戦をグドン、ツインテールに挑むわけだが、この郷にウルトラマンの影すら感じられない。『帰ってきたウルトラマン』の人間描写は、時々、キラ星のように名シーンを生み出すのだ。この面では、サータンの出る第19話「宇宙から来た透明大怪獣」(脚本:上原正三、監督:鍛冶昇、特殊技術:佐川和夫)が傑作。次郎との信頼を守るため、全力をふりしぼる郷、そして、ウルトラマンに変身しながら、まるで郷そのもののマインド・パワーの爆発。そのVサインをかかげ、主題歌のBGMの中、決して負けられない勝負に挑むウルトラマンの戦いは、人間ドラマを絡め“圧巻”の一語であった。
『帰ってきたウルトラマン』は、怪獣ドラマとしても、グドンやツインテール、シーゴラス、シーモンス、テロチルス、ベムスター、サータン、ビーコン、モグネズン、プルーマ、キングマイマイと、いくたの名キャラクターを生み出した。
 MATの対怪獣戦も、ほかの「ウルトラ」シリーズにはあまり見られない、作戦の数々で、その怪獣の生態、能力、特徴、弱点をつくその攻撃は、このシリーズならではの、不思議なリアリティをMATに与えていた。これほど、作戦をたてて、理詰めに攻撃する科学集団はなかったと思う。
 映像的には、実写と特撮が素晴らしい合成を見せ、グドン、ツインテールの夕焼けの情景、シーモンスたちの洪水や竜巻の超スケール特撮、テロチルスの『ウルトラQ』(66/TBS)的イメージ、ベムスターやビーコン対MATの空中戦、キングマイマイの出色な自然描写、プリズ魔の光学撮影を駆使した光の乱舞、第33話「怪獣使いと少年」(脚本:上原正三、監督:東篠昭平、特殊技術:大木淳)のグレイをベースにした色彩設計と、その映像センスでは、第1期の「ウルトラ」と拮抗するレベルまで達した。
『帰ってきたウルトラマン』は、視覚的なおもしろさ、ストーリー的な魅力、キャラクターの人間ドラマに満ちた佳作や好編が多数あるシリーズなのだ。
 後半の宇宙人話がややワンパターンで、造形的に魅力のあるデザインの宇宙人、怪獣が少ない、組織内の不毛な対立、MATの個性の弱さ、終盤の坂田健(岸田森)、アキ(榊原るみ)の暗殺話に見える異様なハードさへの傾斜などなど、評価がわかれるのも無理はないかな、と思う。
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』のように全体をひとつのストーリーとして考えるのではなく、『帰ってきたウルトラマン』は、個々のストーリーを味わったほうがよさそうだ----ドラマ的なグレードは、きわめて高いシリーズだったと今は思うのである。

●私の選んだベストエピソード5
(順不同)グドン、ツインテールの第5話「二大怪獣 東京を襲撃」&第6話「決戦!怪獣対マット」。シーゴラス、シーモンスの第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」&第14話「二大怪獣の恐怖 東京大竜巻」、人間ドラマで光る“サータン”の第19話「宇宙から来た透明大怪獣」、まさに寓話の“ヤメタランス”の第48話「地球頂きます!」、目もくらむ特撮イメージの“プリズ魔”の第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」が好きな作品です。

【初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.191984年8月号 第2期ウルトラシリーズ再評価「帰ってきたウルトラマン」