円谷英二の映像世界〜『地球防衛軍』

『地球防衛軍』 昭和321957)年度作品 88分 カラー 東宝スコープ


 昭和321957)年、日本映画界は、ワイド・スクリーン、シネマ・スコープの時代へと突入し、各社ともステージの拡大、新築が相次いだ。東宝も純国産のワイド・スクリーン用のレンズを開発、月1本の割合で新作が製作された。その5番目の作品が、東宝特撮初の東宝スコープ映画『地球防衛軍』(57/監督:本多猪四郎)である。音響面においても、立体音響を東宝で初めて取り入れた画期的な作品であり、日本SF映画史上逸することのできない傑作である。
 巻頭、東宝マークにかぶって伊福部昭による戦闘マーチが流れる。画面にミステリアンの宇宙ステーションが現れて、タイトルのスーパー・インポーズ。宇宙空間をカメラが移動し、飛行する円盤を捉える。地球のアップでタイトルが終わると、ファースト・ショットは、満天の星空である。そのままカメラは下方にパンし、ある村の夏祭りの情景が映し出される。ここから物語は始まる。
 村の若い連中や娘たちが集まって、楽しそうに盆踊りに興じている。東京の天文台に勤める白石亮一(平田昭彦)、渥美譲治(佐原健二)、譲治の恋人で、亮一の妹でもある白石江津子(白川由美)、亮一の恋人・岩本広子(河内桃子)も見物に交じって、のどかなひとときを過ごしていた。「踊ろうか」と、譲治は誘うが、亮一は無言でその場を立ち去る。後を追う譲治は、亮一に広子との婚約解消の理由を問いただした。富士のすそ野のこの村に引きこもるという亮一。譲治が驚いて理由を問いただしても、亮一はただ言葉を濁すだけだった。と、亮一は遠くを見て、身をこわばらせた。
「すまん、先に帰っててくれ!」
 言い残すと、亮一は走り出した。その方角を見ると、空が赤く染まっているではないか。山火事だ。と同時に、そんなところへまたなぜ亮一は? 何をする気なのだ!?
 踊りの群衆も山火事に気づき、会場は騒然となった。村の若い衆3人(大村千吉、加藤春哉、重信安宏)が自転車で火事場へと向かう川向こうの森を、群衆が見つめるのが特撮ショットで、森の炎が川の水面に反映して、ゆらめいているという光景を見せる。
 村の財産である村有林を守ろうと、自転車に乗った件の3人がやってくる。そこへ、亮一が現れ「あの火は危ないんだ。近づかないほうがいい」。しかし、3人は亮一の制止を振り切って燃える山に近づいた。そして、その時になって3人は、山の燃え方がおかしいのに気がついた。森が燃えているというより、木々は枝を残して、根元のほうからものすごい勢いで火を噴いていたのだ。3人は、登ってきた坂を転がるように逃げ出した。だが、炎の勢いは、あっという間に3人を包み込み、退路を断ってしまった。3人のあげる悲鳴もみるみる炎に包まれて消えていった。このシーンは本編の特撮だが、異様な山火事の描写として出色であり、特に、3人が炎に囲まれてからは、圧巻の一語に尽きる。
 亮一は依然として、炎に包まれた森を見つめている。その炎の発色は、赤というより白熱を感じさせ、妙に印象に残る。また、地面が溶けているのか、マグマ状に泡立って燃えており、すさまじい熱のすごさを感じさせる。炎の勢いに、亮一はなすすべもなく見守るだけだった。

 数日後、村にとどまった亮一から、研究レポートである一通の報告書を託されて、譲治は中央天文台へと帰ってきた。亮一の報告書の表紙には、“ミステロイドの研究”という文字が記されていた。
 火星と木星(劇中の台詞では土星)の間にある細かい小惑星の群れは、もともとはひとつの遊星(惑星)だった、というのが亮一の説であった。亮一はその謎の星を“ミステロイド”と名づけたのである。報告書に目を通した天文台長・安達謙治郎博士(志村喬)は、驚いたように呟いた。「これは珍しいことがあるもんだね。あの自尊心の強い男が中途で投げ出しているよ」。
 その時、電話が鳴って、譲治が呼び出された。電話の内容に驚く譲治。白石のいる村で大きな山崩れが起こったというのだ。
 一転、画面は富士のすそ野に広がる村落地帯を映し出す。村が地鳴りをあげて地面の中に吸い込まれていく。畑が崩れ、藁葺きの家がのみ込まれ、樹木が、神社の鳥居が、次々と地面をめくりあげながら沈んでいく。それは、山崩れというより、異様な地盤沈下を見るようである。
 この特撮シーンは、『空の大怪獣ラドン』(56/監督:本多猪四郎)で見せた山岳部の地盤沈下をさらにパワーアップしたものである。
----ラドン』では、それが単なる山でしかなかったが、今回は、家に道路、林、神社と、山間の村落がそのまま立体的に作られている。しかも一気にではなく、次々と地面に吸い込まれるように沈んでいくあたりは、実に効果的である。
 譲治は、その山崩れの調査団の一員として、現地を訪れることになった。現場に向かう車の中で、宮本警部(佐田豊)がただならぬことを言った。「大きな声では言えませんが(この山崩れは)人工的なものかもしれません」。現場で多量の放射能が検出された、というのだ。もし、この異変が人工的なものであるとしたならば、誰が、また、何の目的で……!?
 村は見るも無惨に変貌していた。数日前までこの村にいた譲治にとって、それは信じられぬ光景だった。調査を指揮する防衛隊員(中丸忠雄)によると、まるで電気洗濯機に入れてかき混ぜたようで、村中の配置が狂っているという。発見された鳥居や家は、元の位置から数百メートルも離れた場所にあった。その日、ガイガー・カウンターは放射能に対して、鈍い反応しかみせなかった。
 譲治は、宮本警部や川田巡査(大友伸)に同行してもらい、周囲の調査を開始した。異常現象はすぐに発見された。大量の魚が死に、川面に浮いている。原因を探ろうと川上に行くと、地面が燃えるような熱を持ち出す。この描写は、川田巡査の「何か焦げ臭いですな」というセリフから、ジープのタイヤが煙をあげているショット、そして、川田巡査が地面に手を触れて「あっ、熱いですよ」と、声をあげることで表現される。
 ガイガー・カウンターも強く反応し出した。「あっ、何だ!」、前方を指し示す譲治。道路が通る山の斜面が土埃をあげ始めると、中から異様な怪物(モゲラ)が姿を現した。全身金色に輝くメタリック・ボディ。全身を揺さぶりながら巨大な2本足で前進してくる。電波音を発し、頭部のアンテナがまわる。息をのむ譲治。宮本警部、川田巡査は銃を抜き、後退する。宮本警部が道の脇の割れ目に落ちた。警部を助け出す譲治。ジープの陰に隠れ、発砲する川田巡査。ビクともしない怪物。譲治は、さがるように言うが、川田巡査は発砲を続ける。怪物の目が白く発光するや、その両目から怪光線が発射された。光線を受け、ジープは炎上(ミニチュアではなく、実写に炎を合成)、川田巡査も道連れとなった。怪物は燃えあがるジープ(ミニチュア)を蹴飛ばし、前進を続ける。譲治は宮本警部ともうひとりの巡査を連れ、一目散に逃げ出すのがやっとだった。

 怪物出現の報に、街の警察署では、早速、対策本部が設置される。ここで、譲治に戸川署長(草間璋夫)が「いったい何でしょう? 現場では拳銃でも駄目だと言っていましたが……」と、困惑して聞くシーンがある。登場人物たちが、彼らの世界に乱入してきた怪物に対して、先入観を持っていないのだ。東宝特撮怪獣映画の初期作品に特徴的な感覚である。
 そこへ新たな報告が、対策本部に入った。怪物が、街にほど近い北川発電所に現れたという。出動を要請された陸上防衛隊も続々と到着、対策本部長は、町民に避難命令を発令した。怪物・モゲラは街に近づきつつあった。高圧電線を倒し(と同時に、家の灯りが消える!)、前進を続けるモゲラ。
 避難民は、国鉄の鉄橋を越えた川の向こう岸へと誘導されていく。鉄橋が対策本部のたてた防禦線であった。避難する人々を守って発砲を続ける警官隊。モゲラの怪光線が道を燃えあがらせる。街もモゲラの怪光線に包まれていく。手前に民家があり、その向こう側にモゲラのいる構図の中で、消防車の放水が家やモゲラにかかるシーンは、屋外のオープン・セットで撮影された。民家の屋根が燃える炎でいぶすような煙をあげる。水の飛翔を受け、闇の中に金色に浮かびあがるモゲラの異様な存在感。
 譲治も、彼を訪ねてきていた江津子とともに、避難する途中であった。譲治は、思わず呟く。「これは、白石の調査していたことと何か関係があるのかもしれない」。避難民に叫び続ける防衛隊のアナウンスが響く。「急いで鉄橋を渡って下さい。ここが防禦線です。急いで鉄橋を渡って下さい!」
 譲治たちが避難民に合流するあたりから『地球防衛軍』のメイン・テーマが流れる。防衛隊の機械化部隊が鉄橋の周辺に到着、怪物を迎え撃つべく布陣を敷いた。多連装ロケット砲車、迫撃砲、無反動砲、重機関銃、ライフルを持つ防衛隊の戦闘準備が進んでいく。その時、鉄橋を渡り終えた譲治と江津子は、傍らの山の上空を通過する円盤状の飛行物体を目撃する。鉄橋を渡る避難民が続く中、鉄橋の後方にモゲラがその姿を現した。
 防衛隊の攻撃が始まった。耳をつんざく砲撃の音が山間部にこだまする。モゲラは、両目から怪光線を発射、ロケット砲車を燃えあがらせた。砲撃などではビクともしない。火炎放射器の攻撃も加えられる。本編と特撮の絶妙なコンビネーションがここで展開される。本編の防衛隊員が火炎放射器(本物)を発射し、その炎を右になめるや、特撮の炎を右になめて、画面にモゲラが入ってくる。本編と特撮を同じスピードで右にカメラを動かすことでつなぎ、また、モゲラから炎を左になめ、炎からさらに火炎を発射している防衛隊員へと、特撮→本編への逆のつなぎもみせてくれる。
 また、この攻防戦は、ワイド画面を存分に使った構図によって、新鮮な画面を作り出してもいる。画面右端の鉄橋を避難民が渡っていく中、モゲラが暴れている合成シーンなど、そのいい例である。
 モゲラは、防衛隊の猛攻にもビクともしなかったが、鉄橋にしかけられたダイナマイトが、橋を渡ろうと足をかけたモゲラを鉄橋ごと吹き飛ばした。砕け散った鉄橋とともに、川へと崩れ落ちるモゲラ。さしもの怪物もその動きを止め、その猛威は防がれた。
 怪物の調査が行われ、その数日後、国会でも特別委員会が開かれた。証人席に立った譲治は、爆破した怪物が地球上で発見されたことのない合金で作られたロボットであり、電波で何者かに操縦されていた、という事実を明かし、事件はさらに波紋を投げかけることとなった。

 その夜、中央天文台の安達博士は月面を観測中、月の裏側から謎の物体が飛来するのを発見した。白石亮一が提出していた報告書には、何者かが人工衛星の宇宙ステーションを中継して、月と地球を往復しているとの推論が書かれていた。安達博士は、白石報告書を公表し、ミステリアンの地球侵入の危機を広く世界に訴えた。
 安達博士は調査団の団長となり、白石報告書が地球のミステリアンの円盤基地と指摘していた富士山麓・西湖の再調査に赴いた。
 調査団が現地に到着して、調査を開始しようとした時、湖水を隔てた山陰から土煙をあげながら台地が盛りあがり始めた。息をのむ安達博士や調査団。盛りあがった台地は崩れ始め、その中に球型のドームが徐々に姿を現してくる。ドームは、半球の形になるまで回転を続けると停止し、中から流暢な日本語が流れ始めた。「地球の皆さん、無用な争いは避けようではありませんか。次の5人の人と話し合いをしたいと思います。安達謙治郎……渥美譲治……」
 突然、自分の名前を呼ばれて呆然とする5人の科学者だったが、相手の正体を知るだけでも行くべきだという安達博士の意見で、護衛の防衛隊員を説得、5人でドームへと向かう。ドームへと真っ直ぐに伸びた道を5人が進む合成シーンがすばらしい。ドームの登場シーンも、ドームだけがせり出してくるのではなく、台地ごとせりあがり、回転の力が土をはね飛ばして、その全貌を見せるなど、工夫のあとが見られる。
 5人がドームへ近づくと、壁面の一部が明るく光った。そこに入っていくと、壁は素通しになって、5人は中へと入っていく(見事な合成ショット!)。ドーム内部の廊下は、すべて白色不透明なプラスチックのような光沢で、照明設備がないのに、どこからともなく白い光線が入り込んでいた。
 安達博士ら5人は、ある一室に招ぜられ、多数の幹部を引きつれたミステリアン統領(土屋嘉男)に会見、彼らの正体と地球来訪の真意を伝えられた。
 彼らは、白石亮一が推定した通り、10万年以前に自らの星を原子兵器戦争によって粉砕させた、第5遊星ミステロイドの住人で、破滅寸前に火星に脱出した人々の子孫だった。彼らの要求は、ドームから半径3キロの土地と、種族保存のため地球人の女性との結婚を認めてほしいということだった。そして、結婚相手として5人の女性の引き渡しを要請した。すでに、3人は捕らえられ、残りのふたりは、江津子と広子であった。あの祭りの夜、ミステリアンは、彼女たちの写真を写していたのだった。
 事件の対策本部は防衛庁に移され、ドームから帰った安達博士の報告を中心に、種々の議論が戦わされた。対策委員会の結論は、早急に勝利を得られないにしても、全力をあげて自衛の行動に移るべし、というものであった。ミステリアンと地球防衛軍の戦いは、ここに幕を切って落とされたのだ。

 ミステリアン対地球防衛軍の戦闘は、およそ次のような大きなブロックにわけて描かれた。
1 陸上防衛隊の大砲、戦車隊、地対地ミサイル、航空防衛隊のF86F、F104など、ジェット機編隊などの通常兵器による攻撃。
2 空中軍艦ともいうべきアルファ号、ベーター号による強力なナパーム攻撃。
3 新兵器・マーカライト・ファープを先陣に、ついには、電子砲を装備した第2ベーター号も加わる防衛軍の総攻撃。
 それぞれの間にミステリアンの円盤が都市上空に現れ、「無益な戦いはやめようではありませんか」と、呼びかけたり、譲治や江津子の見ているテレビにミステリアンの仲間になっている亮一から「戦争をやめるように」と通信が入ったり、ミステリアンの円盤に拉致される江津子や広子、ミステリアンがドームの周囲120キロ四方の占領を通告、地球人退去を迫るなど、本編のドラマが挿入されていく。以下、その3つのブロックを詳述して、この次第に盛りあがっていく科学攻防戦の映像イメージに触れていこう。

  1
 富士山麓に集結した防衛隊の攻撃がミステリアン・ドームに向けて開始された。大砲、戦車隊、ロケット砲部隊の攻撃が続く(実写の戦車や大砲、ミニチュアの戦車、大砲、ロケット砲が巧みに挿入される)。ミステリアン・ドームは、激しい弾幕に包まれた。しかし、ドームは白く光り、何の変化もない。
 肉薄前進する戦車隊(ミニチュア)、上空ではジェット機編隊の攻撃も始まった。応戦するミステリアン・ドーム。ドームから照射された雷状の怪光線は、大砲や戦車を次々ととらえ、アメ細工のように溶かしていく。
 この攻撃シーンで印象的なのは、ミステリアン・ドームを攻撃するジェット機からのカメラ・アングルだ。はるか彼方の上空からミステリアン・ドームに迫り、通過するまでを移動撮影で見せる。ドーム上空にたなびく爆煙をカメラが突き抜けていくショットのイメージには目をみはるものがある。
 攻撃はさらに続く。前進する戦車。ミニチュアだけでなく、実物大の戦車の模型が作られ、砲塔上部のハッチから指揮官が顔をのぞかせ、背景を合成して前進、発砲するシーンが作られた。果敢に攻撃する戦車も、ミステリアンの攻撃にとらえられてしまう。戦車は、砂地獄にのみ込まれるように、突如、回転しながら地面に吸い込まれていく。実物大模型でも背景をグルグルさせる次のショットとのつなぎの的確さ、そして、戦車が地面にのまれる瞬間、ミニチュアの戦車の砲塔から指揮官の人形が操演で、脱出しようとジャンプする描写が続く。
 ドームばかりでなく、ミステリアンの円盤も飛来、その光線攻撃にジェット機編隊は、一機、また一機と撃墜させられていく。この攻撃シーンでは、それぞれの光線、ミサイル、大砲、ロケット砲、爆弾、戦車砲と火薬の爆発のフォルムが違えてあり、画面を縦横に爆発が包みながら、なお散漫になるのを防いでいる。
 防衛隊による地球軍の第一次攻撃は失敗に終わった。通常兵器では手も足も出ないのだ。

  2
 この危機に、日本からの要請に応えて国際会議が開かれ、各国の科学者が続々と到着。地球防衛軍司令部が設置された。
 第二次攻撃の主役は、空中軍艦“アルファ号”と“ベーター”号である。後半の総攻撃(第三次)準備中、船体の下方、基地の滑走路に作業中の人間が合成され、このメカニックの巨大さを強調している。その発進シーンは、8686Dが滑走路手前に並ぶ合成シーンで、現行の戦闘機の向こう側にホバー発進するアルファ号を描くという構図だ。空中に浮上したアルファ号は、着陸脚を収容して、後方の主力エンジンを発火、勇躍ミステリアン・ドームへと向かう。ドームの上空に侵入してくるアルファ号、ベーター号。ドーム上空で左右から交叉するアルファ号、ベーター号やアルファ号が画面左奥に現れ、排気煙を残しながら大きく弧を描き、画面中央前方に迫り、再び画面左に向かっていく旋回場面、さらにカットが切り替わると、今度は画面右から奥へと回り込んでいくベーター号と、そのスピード、飛行音、旋回する構図と、円谷映像の結晶の続出である。
 ミステリアンは、ドームから怪光線を照射する一方、円盤にアルファ号、ベーター号を迎え撃たせる。アルファ号は急上昇し、3機編隊の円盤を追撃する。機首の速射砲が火を吹き、その弾幕の中を逃げる円盤群をカメラがパンしながら追いかけていく感覚は、まさに空中撮影のそれである。ミニチュア・セットの空間にもかかわらず、円谷は、その中にダイナミックな通常のカメラ・ワークの発想とセンスを持ち込んでいるのである。
 ベーター号の攻撃が始まる。3000度の高熱を放つ、ナパーム・ミサイルの発射だ。まず、ベーター号の船体のアップを見せ、ミニチュアのミサイル発射。次のショットは、ロングで画面下方にミステリアン・ドームがあり、空中を飛ぶベーター号から作画合成で、光の点として表現されたミサイルがベーター号から次々とドームへと目指して飛ぶ。作画ならではのスピード感と絶妙な軌跡。次の瞬間、ミステリアン・ドームの数倍の高さに噴きあがる白熱の火柱。
 譲治たちのいる監視所は、爆風と、強烈な振動に襲われる。激しい戦闘がドームからはるか彼方のこんな地点にまでおよんでいるのだ。この本編を挿入することで、ドームVSベーター号の激戦が実感できるのだ。攻撃前に閃光防御用のゴーグルをかけたりする人間側の描写などもその効果のひとつである。
 アルファ号に乗る杉本航空指令(小杉義男)は、ベーター号に攻撃続行を命令した。しかし、ドームから発射され、大空をひとなめした怪光線は、空中のベーター号をとらえ、ベーター号は、その場で大爆発を起こして砕け散った。残るアルファ号は、やむなく帰投することになった。

  3
 呆然とドームを見つめる譲治。「3000度の高熱を与えてもビクともしない。いったい、あのドームは何でできているんだろうか」。「やっぱりミステリアンには勝てないんでしょうか……」宮本警部の声が譲治に重くのしかかった。と、彼らふたりのいる谷間に突風が巻き起こった。譲治は、その奥を不審気にのぞき込むのだが……(そこはミステリアン要塞の工事地区からの排気口になっているのだ)。
 そのころ、ミステリアン・ドームは、要塞として地下工事が完了目前であった。すでにミステリアン統領は、後500地球時間で要塞が完成することを亮一に告げていた。「これさえ完成すれば、東日本は我々の意のままだ。」亮一はこの時、ミステリアンの真の目的に初めて気がついたのだ。
 一方、地球防衛軍には、焦りと困惑の色がみなぎっていた。ミステリアンは、要塞完成が近づき、ついに、その野望を明らかにした。ドームを中心とした周囲120キロのミステリアン所有と、その範囲内に立ち入る地球人は実力で排除すると通告してきたのだ。
「こうなったら原水爆の使用しか……」と、呟く川波博士(村上冬樹)に、安達博士は猛反対する。そんなことをしたらミステリアンの二の舞ではないか。そこへ、インメルマン博士から新発明“マーカライト・ファープ”のアイデアが持ち込まれた。それは、直径200メートルの巨大レンズ状で、敵の怪光線に匹敵する熱線を発射するとともに、逆に、敵の光線をそのまま吸収して、送り返すことができる強力な熱線兵器であった。しかし、その有効射程距離は1.5キロで、敵の間近に建設するしかない。防衛軍は対応策を練り、全力で作戦準備にかかった。アルファ号にマーカライト・ファープの原理を応用、怪光線を防ぐことも検討されることになった。
 地球防衛軍本部は、120キロ四方の住民を避難させ、総攻撃の準備に入った。科学戦闘班の電子砲は完成していないが、ここ数日間の円盤の行動から見て、要塞の完成が間近であることは明かであった。電子砲がなくても、マーカライト・ファープで、ダメージを与えることができれば、活路を見出せるかもしれない。電子砲完成が急がれる中、ついに、攻撃の日が決定した。
 譲治は、拉致された江津子たちを救おうとするが、攻撃決定はズラせず、やむなく先日発見したミステリアン要塞の工事地区から、ひとりドームへと向かった。
 地球防衛軍の総攻撃が始まった。巨大なロケット、マーカライト・ジャイロが基地を飛び立っていく。青空をマーカライト・ジャイロがどこまでも上昇していくこのシーンは、奥多摩の吊り橋でマーカライト・ジャイロのミニチュアを吊り、撮影された。特撮の吊り(操演)は、上からピアノ線で吊るため、真上にカメラを向けると、セットの天井が映るので、向けられないという弱点を逆手にとったショットである。
 ミステリアン・ドームの上空には、アルファ号が飛来し、注意をひきつけてミステリアン・ドームの光線を浴びるが、ビクともしない。船体にマーカライト処理を施した、アルファ号の光線吸収は完璧であった。その間に、ブースターを切り離し、ミステリアン・ドームのあるすそ野へと近づくマーカライト・ジャイロ。マーカライト・ジャイロは、空中でカプセルを爆破し、マーカライト・ファープを空中に放出した。巨大なパラボナ・アンテナを傘のように上に向け、真下にロケット噴射しながら垂直降下してくるスーパー・メカニック。4本の脚にはキャタピラがあり、着地するや、パラボナをドームのほうへとあわせていく。地球防衛軍の新兵器、マーカライト・ファープだ。
「第1号機、接敵前進!」
 川波博士の遠隔操作で、マーカライト・ファープは前進を開始した。画面一番手間にマーカライト・ファープの脚部があり、前進するシーンは脚部のみのミニチュアを使用。その向こう側、画面後景中央に、もう一台が降下してくる。計3台のマーカライト・ファープが、並んで攻撃するシーンでは、一台目のマーカライト・ファープは、2メートルほどの大型モデル。奥に降下した2台目は、手前のおおよそ半分、1メートルもないモデルだ。遠近感を逆手にとって、奥行きを生むミニチュア特撮の代表例である。
 マーカライト・ファープから、次々に光線が発射された。中央の青い光源が光るや、そのパラボラ状のカサからエネルギーの噴流のように熱線の束が照射された。ドームは光線を受け、白熱を発し始めた。ドームから発射された怪光線が地面をまるで地走りのように走り、マーカライトを狙うすさまじい映像感覚。飛び交うマーカライトとドームの光線に、ミサイルの攻撃も加わり、マーカライトの青白い熱線が左右から次々とドームに襲いかかっていく。ミステリアンはそれに対抗して、予想外の反撃に出た。西湖の水面に異変が起き、突然、水流が噴きあがった。数百メートルの高さまで噴きあがった水流は、マーカライトの一台に襲いかかり、押し倒す。その濁流は、麓の街まで押し寄せ、街ひとつを完全に押し流してしまった。

 双方の光線の激しい応酬が続くなか、ミステリアン・ドームの中では、人間が慌ただしく移動していく。特撮でドームの中央にあるエレベーターなども見せる。譲治は、機械を見まわっていたミステリアンのひとりを捕まえ、人質はどこにいる、と案内させようとする。そのころ、捕らえられていた女性たちは、ひとりの幹部(黄色)ミステリアンに連れ出されていた。女性たちを見つけられなかった譲治は、ドームの動きを止めようと、管制装置のメカに光線銃を発射した。しかし、連続発射をしているうちに、エネルギーが切れ、駆けつけたミステリアンの兵士たちに捕らえられてしまった。幹部のミステリアンは譲治を受け取り、連行していく。しかし、その行き先は譲治が侵入した場所で、そこには江津子や広子たち、とらわれの女性が全員待っていた。
 広子はこの幹部ミステリアンの声を聞いて、愛する亮一だと気づいた。素顔を見せた亮一は、一緒に逃げよう、という譲治や広子に答えて言った。「間もなく要塞が完成すると、ボタンひとつで東京は灰になってしまう。オレは、ミステリアンに騙されていたんだ!」。亮一は、書き終えた報告書の続きを譲治に託し、すがりつく広子を振り切って、ドームに戻っていく。トンネルの彼方から亮一の声が響いてきた。「高度な科学も、その使用を誤ると悲惨だ。地球は、ミステリアンの悲劇をくり返すな!」。トンネルの向こうで爆発が起こり、譲治は皆を連れて外へと向かった。
 マーカライト・ファープとミステリアン・ドームとの戦いは続いていた。マーカライトの有効時間は75分。後、わずかという時、ようやく完成した電子砲を装備して、2ベーター号は一路、決戦場へと向かい、戦闘空域に突入。マーカライトが後1分で失効するという時、ついに攻撃を開始した。電子砲が発射される。そのパワーを見せるため、それまで緑色のドーム光線や青白いマーカライト光線を見せていたのでは、と思わせるような真っ赤な激流のような光線がドーム全体をおおって、すさまじい光を放った。
 しかし、ドームはまだ倒れない。苦闘の上下動や回転を続けるも、活動を停止しなかった。だが、その内部は、先の譲治による破壊で大きなダメージを受け、応急修理した管制装置を、いままた亮一が光線銃で機能停止に追い込んだため、壊滅状態にあった。駆けつけるミステリアン兵士も光線銃で消してしまう亮一。その心の怒りを表すかのように、彼の握りしめる光線銃からは光線がほとばしり続ける。彼が科学の理想を信じ、夢をかけ、望みをかけたミステリアンは、地球を我がものにしようとする侵略者にすぎなかったのだ。
 外では、マーカライト・ファープと強力な電子砲の攻撃を受け、内では、心臓部を破壊されたドームは、断末魔の状態であった。急激に室温が上昇し、熱に弱いミステリアンは、バタバタと倒れていく……。
 ミステリアン統領は幹部を連れ、円盤で宇宙ステーションへの脱出を図った。そこへやってきた亮一は、一度は向けた銃をおろし、円盤へと急ぐ彼らをそのままにする。ミステリアンの野望は、もはや潰えたのだ。
 最後の電子砲攻撃を受け、ついに、ドームは崩れ、内部から大爆発を起こし、巨大な爆発雲が空に駆けのぼっていく。あとには、巨大なガラスの溶けた塊のような残骸が残された、
 湖から脱出した円盤は、一機、また一機とベーター号の電子砲の光線攻撃によって消えていった。安達博士は、攻撃を逃れ、宇宙へ帰っていく円盤を見ながら、うめくように呟いた。
「彼らは永遠に宇宙の放浪者です。我々は決して彼らの轍を踏んではならない……」
 地上へ出た譲治、江津子、広子は、夕焼けの空を仰いで声も出ない。空に駆けのぼるひとつの光。それは、国連が打ちあげた監視用の人工衛星だ。「ミステリアンも二度と再び地球に近づくことはできないだろう」という譲治の呟きで映画は終わる。
 この作品は、東宝特撮路線の第2の転機になった作品である。画面の大型化、立体音響化は、スペクタクル活劇としての東宝特撮に大きな活路を見出したといってもいいだろう。

初出 実業之日本社『円谷英二の映像世界』(竹内博、山本眞吾・編)円谷英二主要作品解説 昭和581983)年12月刊行】
*一部表記を変更し、加筆修正しました(管理人)