SPFX HOT news(1989年秋)

この秋の特撮の話題はどうしても“ゴジラ”が中心になってしまう


ゴジラの登場シーン
息をのむ仕上がり

 8月から川北紘一特技監督率いる特撮先行で撮影に入った、東宝の『ゴジラVSビオランテ』(1215日公開、監督:大森一樹、特技監督:川北紘一)は、御殿場の三原山オープンの爆発シーン、昼間は、特撮大プールでゴジラVS自衛隊、スーパーXⅡの攻防戦シーン、日が傾いてからは第8ステージで芦ノ湖のセットでのビオランテ、ビオランテVSゴジラ、夜は、第10ステージの外に作ったオープンのミニチュア・セットで夜景ビル街シーンと89月、精力的に特撮シーンの撮影が進んだ。
 ヘリコプターをラジコンで飛ばしたり、プールのシーンでは火柱が吹きあがる爆発用の特殊装置と特撮に新しい味を出そうと、川北組の奮戦は続いている。
 夜景シーンが中心だった84年の『ゴジラ』(監督:橋本幸治、特技監督:中野昭慶)に比べて、昼間あり、水中シーンあり、霧の夕方、夜に、嵐と、『ゴジラVSビオランテ』ではさまざまな情景を出し、そのためにオープンセット撮影を縦横に駆使している。
 ゴジラの着ぐるみは、特集ページの写真を見てもらいたいが、キンゴジと初代ゴジラを二で割ったようなボディ・ラインで、白目の少ない黒眼がチャッチ・ライトにキラッ、キラッと光り、生物のタッチを色濃く出すキャラクターとなった。ゴジラファンにとっては、久々に満足すべきゴジラであろう。
 先日、芦ノ湖のビオランテ対ゴジラの攻防戦シーンのラッシュの一部を川北特技監督に見せてもらったのだが、空にクロスする探照灯、ビオランテの異様な触手攻撃、ゴジラの唸るしっぽに、メリハリをつけて放たれる放射能火炎と短いカット・ワークとゴジラの情感があふれ、息をのむ仕上がりであった。『ガンヘッド』(89/監督:原田眞人)で見せたダイナミックなキャメラ・ワークは、今回も健在で、江口憲一撮影監督、斉藤薫照明監督のディテールを浮かびあがらせる手腕は、さらにパワーアップして描かれていく。特撮班自ら大阪へ出向いて、撮影してきた大阪城ホールやビジネス街の合成シーンも1シーン、1シーン、カメラの中にフィルムのあたりをオープンで燃える炎の前に立つゴジラを撮りあげていった。
 10月に入ってからは、第2ステージに建てられた大阪のビジネス街での攻防戦、そして、第8ステージ500坪いっぱいに作られる若狭でのゴジラVS自衛隊の総力戦、ビオランテとの決戦シーンが撮影される予定である。
「ともかく、合成シーンが多いので頭が痛い。ゴジラのカッコよさとパワーを映像で存分に見せますよ」
と、川北特技監督は頼もしい。
 大森一樹監督の本編シーンも、ふんだんに自衛隊シーンがあり、芦ノ湖、大阪、御殿場とロケにも多人数のエキストラを使い、若い大森監督の見たゴジラの新しいタッチが次々と登場している。
 川北特技監督は、光線の合成も何種類ものイメージを考えているそうで、久々に娯楽性の高い怪獣映画が誕生しそうだ。特撮ファンに自信を持って勧められる新作である。1216日、劇場でぜひ御覧いただきたい。

完全娯楽作品
『ZIPANG』

 この11月中旬にシネマライズ渋谷で先行ロードショーされる『二十世紀少年読本』の林海象監督は、9月から新作劇場映画の撮影に入った。EXE製作、東宝で来年1月中旬に公開されるファンタスティック時代劇『ZIPANG』である。もう4年も前から彼があたためていた企画で、時代は戦国から江戸時代へ移ろうかという過渡期。七本の刀を自在に使い、悪には強く、弱い者にはやさしく、女にはめっぽう弱い快男士の武士・地獄極楽丸(髙嶋政宏)が主人公で、太古からもうひとつの日本として君臨してきた黄金の国“ジパング”の謎を追う服部半蔵率いる忍者軍団との大攻防戦となる。いずこからか現れるジパングの屈強の剣士四天王、さらに、無敵の王(平幹二朗)、女王の秘密とは……と、全編剣戟シーンとチャンバラの連続となる。合成をデン・フィルム・エフェクトが担当。『夢みるように眠りたい』、『二十世紀少年読本』に続いて林監督とは、3本目の木村威夫美術監督。木村氏は、10月現在、調布の大映スタジオで、ラストのクライマックスの攻防戦の舞台になるジパングの神殿を建設中。
「“黄金の国”といっても、連中にとって金は空気みたいな物。神殿も廃墟というか、らん熟の果てにたどりついた文明という崩れた、どこか溶けたようなイメージで考えてます。不死身の王も衣装がボロボロで、どこか歪んだ文明というか退廃のタッチを出したい。そこを時々サーッとカメラ前に金粉が散るとかね。仕掛けを入れ込んだおもしろいセットを作ろうと思っています」
と、木村氏は語ってくれた。
 910月は、沖縄から関東を中心にロケ撮影の連続で、10月中旬からセット撮影に入る。
 忍者軍団の殺陣も奇想天外(見てのお楽しみ!!)で、林監督自ら“チャンバラのおもしろさを全編に見せる”と語る娯楽作品だけに完成が待ち遠しい。撮影を特撮も軽快にこなす田村正毅キャメラマンが担当しているのも、特撮ファンには心強い限りだ。東宝の正月第2弾の作品である。
 学研・丹波企画の共同製作でヒットした『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』(89/監督:石田照)の続編が、9月から撮影中である。『丹波哲郎の大霊界2 死んだらおどろいた!!』(監督:服部光則)というタイトルにまず驚くが、妻殺しの濡れ衣を着せられて死刑になった主人公が死んでみたら、霊界の素晴らしさに驚き、真犯人にかえって感謝しに現世へ出てくると、真犯人にはウラミを言ってるように見え、彼は自殺、地獄へ落ちた彼を救おうとする主人公……と、丹波哲郎ならではの超ストーリーが展開。実相寺昭雄の助監督を長くつとめた服部光則監督が丹波のイメージ世界をどうさばきますか。コダイ・グループの池谷仙克美術監督が霊界のイメージを前作以上に繰り広げる。映画というより、丹波のイメージ・フィルムだが、ストーリーが前作よりある分、悪夢的な広がりもあり、唖然とする画面が楽しみである。松竹系で、これも1月に公開される予定である。

 いとうせいこう原作、市川準監督の『ノーライフキング』、小中和哉氏の兄である小中千秋脚本・音楽、若狭新一特殊メイク、石井てるよし監督のニュー・センチュチュリー・プロデュース製作の『TARO!』(桃太郎をイメージした中学生を主人公にするファンタスティック・ロック・アドベンチャー、10月完成予定)、相米慎二監督が幽霊の女の子をからめて描くラブ・コメディー『東京上空いらっしゃいませ』(ディレクターズ・カンパニー製作、来春公開予定)と特撮を使うSFタッチの作品は続々と待機中である。公開が決定次第、内容をもう少し詳しく触れてみたい。

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.501989