日本特撮も、やっとにぎやかになりそう! (1989年夏)


もっとロボット特撮が
見たくなる
『ガンヘッド』


『帝都物語』(88/監督:実相寺昭雄)以来、日本映画に特撮、SF映画のジャンルが少しずつだが再生してきた。

 そこで、このコーナーでは、新作特撮映画の情報を中心に新作の製作レポートをしていきたいと思う。日本特撮のファンに喜んでいただけるページが目標である。
 722日公開なので、この文章が載る『宇宙船』が出ているころは、もう公開中なのだが、東宝・サンライズ共同製作の『ガンヘッド』(89/監督:原田眞人、特技監督:川北紘一)。
 1707カット中、500カット以上が特撮シーンで、オプチカル・カットも100カット近い仕上がりとなった。ガンヘッドが戦車モードになってからの撮影が冴え、特撮パートの江口憲一撮影監督、斉藤薫照明監督の狙ったクリアーで透明感のある映像が見せ場を作り出した。ガンヘッドとキャメラが並走、走ってくるガンヘッドにキャメラが迫ったり、ガンヘッドが頭上を通過したり……と移動車を多用した律動感のある撮影が緊迫感を盛りあげている。鋼鉄(スチール)色の地味な色味のガンヘッドが重量感を見せつつ、はっきりと印象に残るのは、照明のうまさである。斉藤薫照明監督は、特撮が初めてだそうだが、ディテールを浮かばせる細かい照明演出を駆使して、タワー内をディテール・アップしてくれた。
 オプチカルもやはり光線兵器が出てくると、東宝特撮はしまる。光線の芯が強く、まわりにフレアが出るエアロ・ロボットの荷電粒子砲もパワフルでよかった。ワイプもコンピュータの回路を思わせる新パターンで、こういう工夫はうれしい。イマジカのマットアート合成も及第点で、6カット中、飛行機と火花を合成したカイロン・タワーとニムたちが登る壁面の箇所が効果的だった。この技術は、アーティストの育成と共にいろいろな作品に多用して、技術力のレベルをぜひあげていってほしい。
 サンライズのロボット・アニメで蓄積したイメージが特撮に昇華されていて、もっとロボット特撮を見たくなった。もう少し動きやすいデザインの主役ロボットなら、格闘戦を内包したアクションを前面に出せるのではないか。現代の都市を舞台にしたロボット戦もぜひ企画を検討してもらいたいものだ。
 川北紘一特技監督率いる特撮スタッフは、7月現在、いよいよかねてから噂のあった『ゴジラⅡ』(仮題)の準備に正式に入った。大森一樹監督と組むゴジラがいかなる映像になるか。『ガンヘッド』で見せたアクティブな特撮をぜひ期待したいものだ。

林海象監督の二作目
『二十世紀少年読本』

『夢みるように眠りたい』(86)で衝撃的デビューをした林海象監督の二本目の劇場映画『二十世紀少年読本』(製作:CBSソニー、協力:映像探偵社)も完成。11月上旬公開の予定だ。
 この作品は、『夢みる—--』と並ぶ林海象監督の“二十世紀三部作”の一本で、昭和30年代らしい時代を背景に、サーカスの兄弟を主人公にしたファンタスティック作品。モノクロで、今回は無声ではなく、サウンド作品。ミュージカルに近い音楽演出がおもしろく、日本映画ファンの度肝を抜くだろう。今回は、オール・アフレコの吟味された音作りも味わってほしい。これは、現在の日本映画がほとんど同時録音で、林監督はそこに疑問を感じたのだ。演技がどんなによくても、雑音が入ったり、録音がミスると撮影をリテイク、映画にとっては、1が映像で、2が音のはずなのに……という部分で林監督は、今回、演技に全力をかけてもらうために、オール・アフレコ中心の体制を作ったのである。大賛成だ!!
 長田勇市撮影監督、長田達也照明監督、ベテラン・木村威夫美術監督の『夢みる----』スタッフが林海象を支えた。
 ノスタルジックな物語ではあるが(ファンタジーではない)、兄弟愛、人間への想いが物語にあふれ、日本でもこういうオリジナル・ストーリーが成立することをぜひ若い映画ファンに知ってもらいたい。デン・フィルム・エフェクトがモノクロの映像の中、心象風景のキー・ワードとなる三日月やファンタスティックな夜明けシーンと、6カットの合成を担当している。静かだが、実にエモーショナルな合成であった。サーカスの象を『恐竜探検隊ボーンフリー』(76/NET)や『ザ・ウルトラマン』(79/TBS)の鯨井実が特殊造型、スペシャル・メーキャップの原口智生が腹話術の人形を造型した----こういう特殊造型の使い方もあるのだ。1時間50分の長さで、特撮ファンを越えて、あらゆる人におすすめしたい映画である。

一瀬隆重監督の大奮戦に
期待しよう

 7月上旬撮影終了に向け、急ピッチで進んでいるのがエクゼ製作の『帝都大戦』(監督:一瀬隆重、9月中旬東宝系公開)。言わずと知れた『帝都物語』の続編である。今回は、第二次大戦末期、ルーズベルト大統領を呪殺しようとする秘密作戦と日本破壊をめざす魔人・加藤保憲(嶋田久作)の暗躍を描く。カドカワ・ノベルズでいえば、第11巻の物語。スペシャル・メークにハリウッドからスクリーミング・マッド・ジョージを招き(嶋田久作そっくりな3人の子供が出る怪シーンもある)、香港のスタントマン・チームを使い、合成をあまり使わぬ、フィジカル・エフェクト中心の画面作りを狙って撮影中である。合成は、『スウィートホーム』(89/監督:黒沢清)の白組と『ガンヘッド』を手がけたイマジカが担当して、要所、要所をディテール・アップする計画だ。
 出てくるだけで見せ場になってしまう嶋田久作が今回は何をやってくれるか----劇場映画初演出の一瀬隆重監督(『ウルトラQ/闇が来る!』が懐かしい!!)の奮戦を御覧じよ。
 ビート・たけし率いる北野アソシエーションがビート・たけし監督作品に続き、特撮をかなり使う作品『星をつぐ者』(監督は、にっかつ映画の『処女のはらわた』、『美女のはらわた』で知られる小水一男)を撮影中で、これも7月中旬アップする予定。特撮をコダイ・グループの大木淳吉、合成をデン・フィルム・エフェクト、スペシャル・メークを原口智生が担当。ソニーPCLの新しい合成機器を使う予定だそうで、おもしろい変身シーンになりそうだ。公開はまだ未定だそうだが、次号で撮影レポートをお伝えしよう。
 最後に、ビデオの特撮情報をひとつ。「地球防衛少女イコちゃん」シリーズの河崎実監督が漫画家・江口寿史原作のビデオ・アニメ『なんとかなるでショ!!』(角川書店/バンダイ製作、年末発売予定)の実写パート3本を担当。品田冬樹造型の怪獣(う〜む、なんかに似てるぞ!!)を使う特撮で、原作者まで出演。撮影は617日、東宝ビルトで行われた。「イヤーッ、おもしろいっスヨ!!」といつもの調子の河崎監督。ほかに美少女の出るエロティック・エピソードも担当、オムニバス・ギャグ・アニメ(制作は、なんとあのマッドハウス)もぐんとパワーアップである。河崎監督はフジTV系列の『花王名人劇場』でも演出デビュー、ノリにノッている最中だけに、仕上がりも期待が持てそうだ!

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.491989