日本特撮 A la carte(1991年冬)

目がはなせない
ビデオムービーの新作

 東映ビデオのVシネマを先陣にして、にっかつビデオ、パック・イン・ビデオ、ジャパン・ホーム・ビデオ、大映ビデオ、バンダイ、東宝ビデオ、と各社がビデオ用新作ムービーの企画に乗り出している。ガン・アクションとバイオレンスの二本柱が中心のアクション路線だが、そればかりでは2年もしないうちに、ユーザーに飽きられてしまうだろう。
 サイキック&オカルティズムの新路線をぜひ検討すべきで、予算枠と制作日数の拡大も含めて、新ジャンルの模索と実践がプロデューサーの腕の見せどころとなろう。オカルティズムは、特殊メイクだけでは成立できず、本編の芝居部分と脚本の構築で特撮を支えていく正攻法の作劇を熟考してほしい。今年の新企画のいくつかを見ると、そのチャレンジが始まっており、特撮ファンにとって目の離せない1年になりそうだ。
『星空のむこうの国』(86)、『四月怪談』(88)と、日常とファンタスティックなストーリーを合体させて見せた小中和哉監督がビデオ用新作ムービーを完成。ジャパン・ホーム・ビデオから91426日に発売される『ラッキー・スカイ・ダイアモンド(LSD)2/ドラッグレス』(税抜14110円)がそれで、脚本は『邪願霊』(88/監督:石井てるよし)、『ウルトラマンG』(90)、『TARO!』(91/監督:石井てるよし)を手がけた実兄・小中千昭のオリジナル脚本。
 東京の各地で、次々と若い女性が変死する。その影に“アンフィニ・ソサエティー”という自己開発セミナーが浮かび、人間の体内にある麻薬と結合する媒介物質“エンドルフィン”を合成、ドラッグ現象を誘発させる謎の儀式が浮かびあがっていく。TVレポーターの清水圭一(加藤基伸)がそのセミナーを追うが……というドキュメンタリー・タッチのドラマで、意図的にビデオ撮影で作品設計を行い、異様なリアルをドラマの中に作り出した大力作である。
 小中和哉監督はこう語る。
「“映画の縮小再生産”という今のビデオ用映画の流れに対立する、ビデオだからこそ成立する作品が狙いです。そのために全編ビデオ撮影で、CCDキャメラという親指大のビデオ・キャメラやS-VHS、8ミリビデオと、隠し撮り風にも撮影してます。ビデオ撮影は、ドラマに向かないという人もいますが、兄が脚本を書いた『邪願霊』のラインを一歩進めて、ドキュメンタリーのタッチの中にドラマの可能性を広げていく。前から兄と考えていたストーリーを使っています。ラストのトリップ・シーンは、ビデオ機材ならではの手法で、CGも使ってますし、僕の作品では8ミリの「青カビ」シリーズの実験的なスタイルに似通っているかもしれませんね。アクション路線以外の、現実にリンクするホラー・ストーリーの味が出せたらいいんですが……」
『TARO!』<ようやく913月東映洋画系で『ハッピーエンドの物語』(監督:栃原広昭)と併映で公開が決定した。中頃までのストーリーの広がりが快調!>で、新興宗教の宗教ブームのタッチを見せた小中千昭脚本は、チャネリングやストレス発散の精神解放セミナーの異様なブームを取り込み、現在にリンクするSFタッチの日常に潜むダーク・ゾーンをかいま見せる。人間が体内に持つ麻薬とジョイントするブイになる物質“エンドルフィン”というアイデアの冴え(似たような物は実在する。麻薬が体内に入ると、麻薬とつながるソケットが生まれ、麻薬がなくなっても、ソケットが麻薬を求める----それが禁断症状といわれているのだ)、ビデオ映像がハンデにならない作劇とダイアローグ、日本のSF映像は、こういうタッチを消化しぬいたところから始まると思う。
『星空のむこうの国』、『四月怪談』の対極の作品だが、ビデオ撮影でも『妖怪天国』(86/監督:手塚眞)の志賀葉一キャメラマンの的確な映像が硬質なドラマを支えていく。ステディ・カム、手持ちカメラ、CCDカメラと撮影方法も実験的な作品である。『世にも奇妙な物語』(90/CX)やホラー映画ファンにもぜひ見てもらいたい作品である。
 対して、ふんだんに特撮とガン・エフェクト、特殊メイク、ハイ・ビジョン合成とサイキック・アクションの新作映画として製作されたのが、バンダイ、円谷映像共同製作の『超高層ハンティング』(原作:夢枕獏、監督:服部光則)。撮影は、『テラ戦士ΨBOY』(85/監督:石山昭信)、『プルシアンブルーの肖像』(86/監督:多賀英典)、『ウルトラQ ザ・ムービー』(90/監督:実相寺昭雄)の特撮撮影の大岡新一キャメラマン。
 1980年代に、突如、現れた亜人類“アナザー”。念波を武器に人類の中に紛れ込んで暗躍するアナザーに対抗すべく誕生した超能力集団“サイコシスト”。果たして、アナザーの正体とは何なのか……。操演を『帝都物語』(88/監督:実相寺昭雄)、『ウルトラマンG』(90)の亀甲船<『帰ってきたウルトラマン』(71/TBS)の操演・小笠原亀氏を中心にした特殊効果の会社>が手がけ、ガン・エフェクトのビッグ・ショットと共に、ハイビジョン合成とも連動してハイパー・サイキック・アクションに挑む。914月以降に松竹洋画系で公開予定で、12月現在合成シーンの仕上げを精力的にこなしている。
 1215日に完成したのが、バンダイ、フジテレビ共同製作の押井守監督作品の劇場映画『ストレイ・ドッグ/ケルベロスの島』(913月、松竹洋画系公開)。『紅い眼鏡』(87)の前章にあたる姉妹編ともいうべき映画で、台湾と香港ロケで手中にしたロケーション映像が、組織を脱走して追われる主人公・都々目紅一(千葉繁)と乾(藤木義勝)の袋小路ともいうべきラスト・ステージのムナしさと華を表し、川井憲次作曲のアコースティックな音楽がむせび泣くようなメロディーを刻みつける。
 劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』(89)よりも、『御先祖様万々歳!』(89)に近い、ダイアローグのジャム・セッションが続出、セリフを信じないがゆえに、セリフを機関銃のように放ち続けるダイアローグ演出が押井守世界を浮かびあがらせる。『うる星やつら』(81/CX)や劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』と対になる。押井守監督世界で、この万華鏡のようにくるくる変わるダイアローグの視点の交錯が現代の私たちを浮かびあがらせる手法が実にユニーク。実相寺昭雄監督もそうだが、なかなか観客の思うようには踊ってくれません。ファンたるもの、ついていくにはどうかは、惚れ込み方ひとつであろう。ただ、このフィルムに満ちた空虚な哀しみは、やはり、映画館で体験してほしい。
『ハリマオ』(89/監督:和田勉)を製作した西武資本のセディックが諸星大二郎の原作で描く『ヒルコ/妖怪ハンター』(91/監督:塚本晋也、主演:沢田研二)は、ファン大望の映画化で、“ジュリー”こと沢田研二が稗田礼二郎をいかに演じるか、期待されよう。『鉄男』(89)で衝撃的デビューとなった塚本晋也監督は、スーパー1616ミリと35ミリを併用、ハイビジョン撮影も使って、古代神話に隠された恐るべき秘密に迫る。特殊メイクも若手アーティストを集め、一家言を持つ監督だけに、3月の公開が楽しみ。イザナギ、イザナミの息子蛭子あたりのストーリーが中心になるようで、画面は見てのお楽しみといっておこう。松竹富士配給。

いよいよスタート
原口智生の『ミカドロイド』

 2年前から特殊メイクのアーティストであるFUN HOUSEの原口智生があたためていたビデオ企画が9117日から25日間の撮影予定でクランク・インする。タイトルは、『ミカドロイド』(脚本・監督:原口智生)。第二次世界大戦中、本土決戦用に準備されていた人造人間計画……その亡霊が45年の時を超えて、東京の地下によみがえった……。
 原口智生は、『帝都物語』から『妖怪天国』(86/監督:手塚眞)、『ウルトラQ ザ・ムービー』、Vシネマ『クライム・ハンター 怒りの銃弾』(89/監督:大川俊道)などの特殊メイクを担当してきたが、海外の映画際に何回か参加して、ゾンビ物や吸血鬼といった古典的モンスターが作り方ひとつで、今でも通用していることに我が意を得て、正攻法に日本で怪奇映画、ゾンビ物を作ってみたいと考え続け、ゾンビ物からフランケンシュタイン人造人間とキャラクターを煮詰めて完成させてものだ。製作は、円谷映像、東北新社、東宝ビデオの三社だ。
 撮影は、『紅い眼鏡』、『ストレイ・ドッグ/ケルベロスの島』の間宮庸介キャメラマン、美術監督は、『ウルトラQ ザ・ムービー』の水野伸一美術監督、原口氏の依頼で、『帝都物語』、『ウルトラQ ザ・ムービー』の絵コンテ、樋口真嗣が特撮監督を担当、ロー・バジェットの中、斬新なカット・ワークによるミニチュア、合成シーンにチャレンジする。
 物語の大半は、地下に広がる旧軍の地下洞と秘密研究所で、その迷路のようなセットをフル・セットで大映のスタジオに制作、その中でラビリンスのような広がりと奥行き、そして、日常の裏に潜む“私たちが忘れてきた悪夢”をどうクリアーに映像化できるか。原口&樋口両氏による絵コンテを見せてもらったが、シンプルにしてストレート。若手スタッフのこだわりがどう映像化できるか、916月発売予定だが、いずれ詳しく撮影報告しよう。
 林海象監督の新作は、日産自動車提供、ヘラルド・エース製作の『月の人』(脚本・監督:林海象)で、日米仏合作映画『フィガロ・ストーリー』、オムニバスの三パートの一編。
 現代の東京を舞台に、満たされぬ思いを持つひとりの少女が街を放浪するスケッチ風のイメージと、彼女のマンションの窓から飛来してくる月の人とのラブ・ストーリーというファンタスティック・ムービー。
 撮影・長田勇市、照明・長田達也、美術監督・木村威夫の『夢みるように眠りたい』(86)、『二十世紀少年読本』(89)と同じスタッフが林海象監督とショート・ストーリーの切れ味をめざす。
 長田勇市キャメラマンは、現代の実景シーンに意欲的なロケーション撮影を繰り返し、ノスタルジック一辺倒といわれる林作品への批判を迎え撃つかまえである。121日からクランク・イン、1229日クランク・アップ、911月中に完成予定。公開は、916月ころ洋画系で行われる予定だ。ほかの2パート部分も含めて公開前に、12月末撮影を取材に行くので、取りあげたい。
 金子修介監督の『咬みつきたいドラキュラより愛をこめて』(915月東宝系公開)の初号試写を11月下旬に見ることができた。
 コメディーというより、ドラキュラ物のバスティーシュともいうべき良質のユーモアが散りばめられ、全編飽きることなく楽しめた佳作であった。金子監督は、どうしてもマニアなので、この種の題材はパロディーになってしまうのでは、と危惧していたが、抑制された演出と川上皓市キャメラマンの流麗なキャメラ・ワーク、量感とふくらみのある音楽が全編にホラー・コメディーの気品を生んだ。
 緒形拳の吸血鬼ぶりは、ブロンドの髪の毛のバージョンは『?』という感じだったが、怪力、そして、飛行シーン、鏡に映らないイメージとドラキュラのパワーをセリフではなく、映像ですべてクリアーしてみせたことで映画自体をグレード・アップ。
 今年はさらに、6月東宝洋画系公開の新作映画と連投する金子修介監督だが、こういうタイプのアベレージ・ヒッターは珍しく、2本に1本は軽快なタッチで古くからのファンも楽しませてほしい。特撮や特殊メイクも本編によく消化されているのも大きな収穫であった。
 東宝映画の91年ラインナップに、大森一樹脚本、監督の『ゴジラ対キングギドラ』(特技監督:川北紘一)が発表された。今年の夏、クランク・インの予定だが、ストーリーはまだまだこれから煮詰める第一稿段階である。キングギドラはいいが、操演スタッフでクリアーできるのか、新しいモーション・コントロールのような撮影で描くのか……すべてはこれからである。怪獣映画は、人間とその街に乱入してくる巨大モンスターをダイナミックに融合させる映画の中の映画である。本来、成立しない人間と巨大モンスターのドラマを映画空間だけが現実化できる。だから、私たちは、特撮映画や怪獣映画にひかれるのだ。すでに、亡びたジャンルというタワケた(それなら映画そのものも亡びているのだ)意見もあるが、力あふれる映像は常識をくつがえす。あきらめてはいられないのだ!
(文中敬称略)

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.551991