日本特撮 A la carte(1991年夏)

見逃すな
ソルブレイン!!

 まるで『特捜最前線』(77)というストーリーのハードさでファンを驚かせ続けている『特救指令ソルブレイン』が、6月になって完全3部作の連続ストーリーを完成させた。前作のウインスペクター・チームをゲストに、NATOが開発した自由に誰にも変身できるスパイ・ロボット(堀田眞三というキャスティングが絶品!)が日本に潜入、回路が誤作動してしまった自爆装置を開発者に直してもらおうとしたり、秘密裏に破壊しようとするウインスペクターの非情さ、実はサイボーグだったという家族の写真で見せるロボコップもかくやの情感のたかまり……と、正直TVの前で手に汗握ってしまった。少女から堀田眞三への変身も、細かいカット割り、わずかのラバー処理で実にそれらしく、実は特殊メイクの原口智生氏と見ていて、「これなら特殊メイクはいらないですよ」と感心するばかり。東映特撮、恐ルベシ! 未見の人は、バンダイからオモチャ屋ルートで、この3部作が1本でビデオ化されているので、ぜひ御一見を。特撮ファン必見!!

『満月』と『ゴジラ〜』で
大忙しの大森一樹監督

 9月中旬松竹洋画系で公開される大森一樹脚本・監督の『満月』(原作:原田康子、主演:時任三郎、原田知世、ほか)の試写を見ることができた。
 300年前の江戸時代初期、北海道の松前藩で起こったアイヌ民族の反乱の調査に潜入した津軽藩の武士・杉坂小弥太は、松前藩からの脱出に失敗、2年間をアイヌの村落で隠れ暮らした。コタンの老婆が1年間の期限なら故郷へ戻れると、仲秋の名月の下、コタンの秘法であるまじないが行われるが、何と出現したのは、300年後の現代の北海道。知り合った高校の生物教師・野平まり(原田知世)の家に居候する小弥太だが、いつしかふたりは……というファンタスティック・ラブ・ストーリー。仲秋の名月から光が伸びていく合成は数カットあるが(合成は日本エフェクト・センター)、あまり合成に頼らないラブ・ストーリーのタッチが軽快で、原田知世、時任三郎が伸びやかな演技を繰り広げている。『ゴジラVSキングギドラ』クランク・イン直後の大森一樹監督に取材してみた。
「アメリカ映画の水準を、どこかクリアーしたい気分があって、この映画も『スプラッシュ』みたいな感じを狙った作品です。あまり合成は使う気はなくて、松竹側からも、こんな合成予算少なくていいんですか、と言われましたよ。ラストの月をよぎる城からの脱出シーンとかは狙ってますけどね。ああいう映画らしい開放感は必要ですから。原田君もあのシーンはおもしろかった、と言ってましたね」
 ふたりの演技について。
「小弥太役は、ずいぶん悩んだんですが、時任君はできあがったらぴったりでした。常に背筋を伸ばしていたり、演技ではなく、雰囲気で見せなきゃいけない難しい役をよくがんばってくれたと思う。原田君はどうしても『時をかける少女』のイメージがあるんだけど、新しいキャラクターを作ってくれたと思う。“いや、して”とかキスを求めるシーンもよかったし、ふたりのラブ・ストーリーの気持ちの揺れをしっかり演じてくれました」
 惹かれながら、1年後の別れが約束されているふたり、ファンタスティックな設定がふたりのラブ・ストーリータッチを際立たせてくれる訳で、日本映画には珍しいムードを生み出している。大森監督は、機会があればこういうファンタジーの要素を入れたラブ・ストーリーはこれからもやってみたいと語る。日本映画には、こういう特撮を前面に出さぬやり方のほうが実りが大きいかもしれない。
「映画は夢物語で、現実の中で起こる夢も含めて、現実の苦しさや切なさは、映画で見せるのは、もういいんじゃないか、という気がするんです。まりという娘も祖母と暮らしていて、あれが母親だと生っぽくなってしまう。月を見ておばあちゃんとふたりで月見するシーンも、ラストに撮ったんですけど、モラルとか“そういうことは、はしたないことですよ”と教えてくれるのはおばあちゃんで、こういう構図が物語を支えていく。映画の夢の語り方は、いろいろあると思いますね」
 特撮に頼らないファンタジーの開放感のある作品タッチを見ていただきたい。
 カラー・ページでも詳報を伝えている『ゴジラVSキングギドラ』(1214日東宝系公開)は、520日特撮クランク・イン、618日本編クランク・インで、順調に撮影が進んでいる。大森一樹監督はこう語る。
「前の『ゴジラVSビオランテ』は、はっきり狙った作品ですが、今回はいろいろな要素を入れ込んだ脚本にしてあります。前回の若狭のクライマックスが時間切れの感じがしていたので、今回はクライマックスの新宿都庁のラスト・バトルを最初に撮って、スタッフが疲れないうちにやろう、と川北さんとは話しました。ラッシュを見て、おもしろい仕上がりになっているし、ゴジラと戦う中川安奈にどれだけ感情移入できるか、すべての撮影はこれからです」
 新宿都庁の攻防戦シーンのラッシュは、伊福部昭音楽監督、田中友幸プロデューサーと一緒に見たそうで、音楽はすべて新作で、ラッシュを伊福部昭に見てもらってから作曲するそうで、東宝ファンにとっては、音楽面でも大いに期待できるだろう。
 川北紘一特技監督率いる特撮班は、新宿都庁周辺のゴジラ、メカギドラ攻防シーン、南洋の孤島を舞台にした恐竜・ゴジラザウルスの特撮プール&ジャングルのオープン撮影、福岡の市街地を襲うキングギドラ、札幌のゴジラ・アタックと、第9ステージに『ビオランテ』のような特撮フル・セットを作らず、各シーン、カットごとにセットを作りかえ、短いショットとカメラをクレーン、宙を走るゴンドラ、移動車、天井の照明用の二重から見おろしてと、江口憲一キャメラマンのアクティブな撮影がとても刺激的だ。
 キングギドラと航空自衛隊との空中戦も用意されていて、絵コンテを見せてもらったが、、多彩な視点が気持ちよく、特撮の“目で楽しむ”見せ場が実に多い作品になりそうである。操演スタッフは、ベテラン・松本光司技師の指揮の下、『鳥人戦隊ジェットマン』の操演スタッフも加わり、新しいキングギドラとメカニックの飛行イメージに挑戦している。
 特撮のメイン・スタッフは、江口憲一キャメラマン、斉藤薫照明監督、大沢哲三美術監督の『ガンヘッド』、『ゴジラVSビオランテ』スタッフに、合成撮影の桜井景一キャメラマン(『大空のサムライ』、TV版『日本沈没』)が加わり、夜間シーン中心だった『ビオランテ』の都市シーンとは違うアクティブなゴジラの特撮を作るべく、精力的な撮影が続いている。

初メガホンの原口智生の
『ミカドロイド』

 東宝ビデオのビデオ用映画シネ・パック第1弾として、118日に発売決定となった原口智生脚本・監督の『ミカドロイド』(製作:円谷映像・東宝ビデオ・東北新社)が完成、52日に初号試写が行われた。
 昭和20年の第二次世界大戦末期、本土決戦用に秘密開発された日本軍の人造人間ジンラ計画……。空襲で埋没した研究所の中で、人造人間は生き続けていた。45年の時を経て、東京の地下によみがえる人造人間。ふと地下迷宮に入り込んだ現代の男女ふたりが出会うものは……という、現代が忘れてきた悪夢がよみがえるという異色ホラー作品である。原口監督の指名で、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』の絵コンテ・樋口真嗣が特技監督となり、東宝ビルトのオープンで撮影された東京空襲シーンの迫力(ワイド・レンズで煙のフォルムを変えるという細かさ!)、爆風を受けてミカドロイドの落下傘が開くというミニチュア特撮、デン・フィルムが手描き移動マスクで抜いた合成2カットと、入念に計算しぬいた特撮がドラマを盛りあげ、人間兵器に改造された青年たちのエモーショナルな情感をしっかり描きあげている。原口智生監督にその狙いを聞こう。
「今まで特殊メイクの仕事で知り合ったスタッフと徒党を組んでやりたかった映画です。僕が監督するので、特殊メイクの映画と思う人もいるようですが、それは全くなくて、長年、温めていた企画です。
 操演は亀甲船の根岸さん。岡崎の背から突き出すメカニック・アームはワイヤーワーク、建物の崩しは仕掛け、とオーソドックスな技術で充分おもしろい映像が撮れると確信できました。はやりやスタイルで撮るのではなくて、操演や技師のパートがいて絵が動くという実感があった。
 火薬や弾着効果も、手榴弾の爆発やミニチュアの爆破は太平特殊効果の久米功さん、銃撃戦のエフェクトと弾着はビッグショットの納富喜久男さんと、本来ありえない業界の双璧の方にやってもらい、そのメリハリが画面にいい効果を出していると思います。
 特撮の撮影は、東宝映像美術の桜井景一キャメラマン、照明は東映テレビの矢島信男組で、『仮面ライダーBLACK』、『鳥人戦隊ジェットマン』の林方谷照明監督とぜいたくな組み合わせで、シーン自体は多くないんですが、特撮映画らしいムードを少ないカット数で作りあげてくれました。
 樋口ちゃんとは相性が合いすぎて、今の技術でもおもしろい映像が作れることを実証したかった。だから、ふたりとも、特撮マニア的なショットは全然なくて、地味だけど入れることで本編をいかす特撮カットを狙ったつもりです」
 水野伸一美術監督は、人造人間の地下研究所をまるで『メトロポリス』、『ガス人間第一号』の鉄骨むき出しセットに作り出している(バックに換気用の巨大なプロペラがまわるなど、凝りに凝った本編セットである)。
 撮影、照明は、『ケルベロス/地獄の番犬』の間宮庸介キャメラマン、保坂芳美照明監督で、大半が地下駐車場、地下迷宮というダーク・トーンをクリアーにドラマ化している。
 オール・アフレコの撮影態勢もこういう造型主体の作品では、自然で効果音を極力排したストイックな音響演出が川井憲次作曲のふくらみのある情感のメロディーをいかしている。特撮アクション作品の、ひとつの解答と言える出来である。若い特撮ファンにぜひ見てもらいたい佳作であろう。
 ビデオ用のオリジナル映画は、各社企画が続いているが、忍者アクションものの山田風太郎原作の『くの一忍法帖』の撮影に、東北新社が入っている。製作協力:松竹芸能・京都映画という「必殺」シリーズや、テレビ東京系で絶好調の『鞍馬天狗』のスタッフで、脚本:石川孝人、監督:津島勲と時代劇を撮り続けてきたベテラン・スタッフだけに風太郎忍法帖をどう映像化するか。これはつい期待してしまう。
 女に変身する伊賀忍法“くの一化粧”、子供を腹から腹へ移す信濃忍法“やどかり”、女の体に乗り移る伊賀忍法“日影、月影”、男の体をセックス中にカサカサに精気を吸い取る真田“忍法筒涸らし”……というエロティックな風太郎忍法帖をどこまで映像化できるか----お手並み拝見である。
 カラー・ページで毎号紹介してきた『ゼイラム』(製作:ギャガ・コミュニケーションズ、監督:雨宮慶太)は、撮影を終了して、合成作業に6月下旬入っている。ある意味では、『ミカドロイド』と材料的に似ながら、演出が対極の作品で、『未来忍者』もかくやの合成、光線の嵐という作品に仕上がりそうだ。仕上げが遅れていて、未見なので詳細は控えておきたい。プロップや造型でこのジャンルをどこまでグレード・アップできるか、楽しみな作品である。
 ヒーロー・コミュニケーションズ企画で、バンダイ、丸紅、松竹ほか、台湾、香港の映画会社など、9社の協同出資によるのがスクリーミング・マッド・ジョージ&スティーブ・ワン監督の『ガイバー』で、817日松竹洋画系で公開される。
 宇宙人によって作られた生物兵器こそ人類であった、という原作ストーリーを、アメリカに舞台を移して映像化。マッド・ジョージの特殊メイクは、獣人兵であるゾアノイドをグロテスクに立体化。ユーモラスなギャグを散りばめるあたりが、いかにも両監督の資質だろう。
 ガイバーの逆回転も使用した変身シーンがすばらしいイメージで、ヒーロー・ファンは仰天するであろう。
 ただ、ゾアノイドの戦いとアクションが、あまりにカンフー一辺倒で、東映特撮アクションのスピード感をもう少し導入したほうが、特殊メイクとアクションもいきたのではないだろうか!? リアル版仮面ライダーの改造人間のアクションというのは、特撮ファンにとって長い間の夢であったが、特殊メイク+カンフーだけでは、少し物足りない。この肌触りに、シャープなアクション撮影が組み合わさった時、新しい時代がはじまるのだろう。特撮ファンは、この作品を見て、ぜひ考えてみてほしい。

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.571991