日本特撮 A la carte(1991年秋)

日本映画界にも久々に見応え
のある特撮作品がそろった!

 81日、特撮クランク・アップ、816日、本編クランク・アップ、916日、0号試写で進行していた東宝映画の『ゴジラVSキングギドラ』(脚本・監督:大森一樹、特技監督:川北紘一、1214日公開)が完成した。929日には、東京国際映画祭で招待参加上映されたので、一足早く見たファンもいるだろう。
 合成の手数がこれだけかかっている特撮映画は久しぶりで、本編(人間の芝居部分)のモニターCG、光線銃ほかの合成約70カット、フロントプロジェクション合成17カット、ブルーバック合成10カット、特撮シーンのアニメ合成、マットアート、本編と合成は、実に200カットを超え、全300カット強の合成カットが続出する。キングギドラが初登場した『三大怪獣地球最大の決戦』(64、監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)の時、3つの口から光線を吐くギドラのアニメ合成の光線原画は、部屋の隅に積んでおいたら、作業終了時、2メートルの高さに達した、という話を聞いたことがあるが、キングギドラの光線はそれほどエスカレートしやすいのだ。光線の合成は、日本エフェクト・センターが担当、アニメの原画は、ライトハウスが描きあげている。
『ゴジラVSビオランテ』(89、監督:大森一樹、特技監督:川北紘一)時に実現した70㎜フィルムに合成を完成させ、自由にその中でパン移動できる東京現像所の70㎜合成も、今回、富士のすそ野に着陸したマザー円盤と自衛隊(自衛隊の装甲車からパンアップすると、マザーが見えてくる。芦ノ湖のビオランテよりも空気感のある距離感がうまく圧巻の名シーンとなった)の2カット、超科学センター前の小型円盤“KIDS”の全3カットで使用。すばらしい効果をあげている。
 本編で円盤内の光線銃の撃ち合いシーンは、東京現像所に川北紘一特技監督、合成撮影の桜井景一キャメラマンが乗り込み、川北監督自らコマ単位で編集、エフェクトを指示していて光線銃に不思議な味わいをつけ加えた。合成出身の川北監督ならではのエピソードだろう。
 過去に、未来に、ラゴス島にベーリング海、福岡、札幌、十勝原野に、新宿新都庁と、次々に舞台が移っていく脚本も、いったいどうなることかと思っていたのだが、作曲の伊福部昭音楽監督がプロフェッショナルな効果音楽で、1シーン、1シーンをエモーショナルにグレード・アップ、トップの円盤シーンをオープニング・タイトルと規定して、ダイナミックなアップ・テンポの曲想で見せ、頭5分をきっちり盛りあげて、見ていてこれは期待させてくれました。
 キングギドラ誕生シーンの話は、三枝未希や動物学者の真崎教授が説明するのだが、これは未来人のウィルソンたちが、「フッフフ、あれが放射能でギドラに変身するバイオ・プログラミングされた生物だとは気がつかなかったと見える」とか、言ったほうが自然だったのでは……。理屈をつけるのもいいんですが、あまり理屈落ちになると、大怪獣のパワーが減退してしまいますから。
 札幌をゴジラが襲うナイト・シーンは、今回、唯一のゴジラ夜間シーンで、札幌時計台の鐘の音が鳴る中、ラゴス島の恐竜の音楽モチーフをバックに、ゴジラが迫り、『〜ビオランテ』時にほとんど見せ場のなかったメーサー・タンクのアップ用の大型モデルを存分に見せて、ゴジラの都市アタックの新イメージに取り組んでいる。地下街の天井をゴジラが踏み抜いたり、北海道の牧場をゴジラが進み、手前を放牧されている牛が逃げたりと、ゴジラの情景を描くシークエンスと合成に今まで東宝特撮にはなかった新イメージを狙っていて、この特撮スタッフの果敢な画面作りを大きく支持しておきたい。
 特撮の江口憲一キャメラマンは、移動車、クレーン、宙を走るゴンドラによるギドラ主観、天井の照明を吊る荷重からビル爆破を見おろしたり、手持ちのカメラで移動車に乗ったり、と躍動感の撮影を繰り広げ、2カメラ、3カメラは当たり前で、久しぶりに怪獣の激闘シーンを撮りあげた。オープンのギドラの光線のエフェクトが1カットあれば……と、ぜいたくに思ってしまいました。
 円盤関係はすべて合成で、さぞや本編班はやりにくかったと思う。大道具で昇降口くらいは、製作側が作れる予算を配分するべきだろう。大道具の円盤の足部にいる主人公たちとか、小型円盤は小さかっただけに、それだけで本編のパワーがあがったのに!
 予算は公称14億円だが、宣伝費、間接費込みで実質製作費は、約7億円である。よくぞこの予算でやったものだと思う。東宝の製作、興業サイドは、せめて10億円を保持して、このジャンルを育ててほしい。この作品は、本来、正月作品の中で、もっともわかりやすい娯楽作品指向であり、かなりのヒットを見込めると思うのだが、新作『ゴジラ』以来、『ゴジラVSビオランテ』、『ゴジラVSキングギドラ』と、予算が縮小している現実が、実は、このジャンルをもうひとつ飛躍させない最大の原因なのだ。
 つくづく思うのは、やはり、怪獣が私たちの住む街(日常)に乱入して暴れまくる映画は、おもしろい、という事実だ。その特撮スペクタクルと合成シーンの数々に溜飲をさげるファン、目を皿のようにして見つめる子どもが何人もいるだろう。私は劇場で、もちろん10数回は見ます。東京のどこかの劇場でお会いしましょう。
 東宝は、『ゴジラVSキングギドラ』の前にもう1本、特撮映画が公開される。1116日公開の『超少女REIKO』(脚本・監督:大河原孝夫、主演:観月ありさ)である。
 ある高校に続発する怪奇現象。生徒会長の緒方(大沢健)を中心に6人のESP研究会を結成、祖母から霊能力を引きついでいる九藤玲子(観月ありさ)もその仲間になり、怪奇現象を起こす女子高生の亡霊と対決する。果たして、次第にパワーをあげる亡霊にREIKOたちは立ち迎えるのか……。
 第13回城戸賞(87)を受賞した脚本を黒澤明、岡本喜八監督の助監督出身の作者自身の大河原孝夫監督が初演出。人気アイドルである観月ありさの周りを小泉今日子、佐藤浩市、菅井きん、佐藤B作、筒井道隆のベテラン勢が固めている。サイキック・バトルの視覚効果を『ヒルコ/妖怪ハンター』(91、監督:塚本晋也)の浅田英一、特殊メイクを織田一清が手がけて、約100カットの特撮シーンが展開される。アイドル青春映画は、東宝お得意のジャンルだが、ホラー、オカルト・タッチをどう溶けこませるか。日本映画が取り込んでこなかったジャンルだけに、期待したい新作映画である。
 もう『宇宙船』読者にはおなじみの雨宮慶太監督の劇場用新作『ゼイラム』(製作:ギャガ・コミュニケーション)も1214日、新宿シネパトスほかで、公開決定となった。 予想にたがわぬシャープな合成とガン・エフェクト、アクション、アイデアのおもしろさで、私の周りの「戦隊」シリーズのファンは、『こんな作品が見たかった!!』と、大絶賛である。オプチカル・ワークに独特のタッチが出ていて、ゼイラムの奇怪なムードとラストへ盛りあげていくクライマックスのバトル演出がアクション作品のおもしろさを満喫させてくれる。ストーリーをゼイラムVSバウンティ・ハンター+巻き込まれるノン気な電気工ふたりとシンプルにしいて、個々の武器(架空世界のゾーンや銃、光線で捕獲するセーブガン、まるでカプセル怪獣のリリパット)のディテールを厚く多彩なアイデアで見せていく工夫が光っている。ドラマ的な線の細さがどうしても気になってしまうのだが、それが雨宮監督の狙いの香りもあり、手に汗握る特撮アクションを撮り終えて、彼が次にどんな作品に挑むのかを待ちたい。この作品は、劇場で見なくては特撮ファンとは言えない、ぜひ、劇場で見ていただきたい。

ビデオ各社の野心作

 ビデオ用のVシネマもブームを過ぎて、かえって1本、1本の企画を練りあげた野心的なシリーズが増えてきている。特撮ファンは、これから楽しめる作品が続出しそうである。
 東宝ビデオのシネ・パック第1弾の118日発売、レンタル開始の原口智生脚本・監督作品『ミカドロイド』(製作:円谷映像・東宝ビデオ・東北新社)のビデオを見ることができた。
 16ミリ試写、35ミリ試写も見たのだが、映像のシャープさとフィルムの粒状、音響設計のステレオ効果を使い切った繊細な音響演出は、ビデオが一番よく、音のよさでいかに作品がグレード・アップするかを実感した。昭和151940)年の東京オリンピックを目指して青春の想いを燃やしていた3人の青年は、軍の人造人間改造計画にリストアップされ、改造されてしまう。その人造人間が現代の東京の地下によみがえり……原口監督は、その3人に対比して、ごく平凡な現代のふたりの男女の青年を事件に巻き込ませる。エモーショナルな哀しみと非情のアクションが交錯する。特撮作品は、片方でこういう現実の裏に隠された“もうひとつの日本”を見せる演出法がある。『ミカドロイド』が見せようとしたのは、人間を殺し、隣で人間がいつ死んでもおかしくない45年前の現実である。私たちの社会は、私たちの心は、本当にそこから変わったのだろうか。私たちの心はひょっとしたら、もっと冷酷に……と、さまざまな想いが浮かびあがる。録音スタッフが用意したロボット調のミカドロイドの足音、作動音、それを原口監督が捨てたのは、ミカドロイドが人間だからだ。人を殺しながら、彼が鉄のヨロイの中で泣いたとしてもそれはひと言も聞こえない。その心は泣いているはずだというセンスにこの作品に惹かれてしまうのである。
 実相寺昭雄監督総監修のビデオ・シリーズ『実相寺昭雄の不思議館』も来年4月からバンダイより発売が決定、そのワンエピソード『受胎告知』(脚本:実相寺昭雄)を演出中の実相寺昭雄監督を撮影現場へ訪ねた。
「今、現場から企画が出てもそれがいろいろな意見でだんだん(方向が)スライドしていく。そのへんが金は出すけど口も出すという形になってきた。それに対して、現場のスタッフから出てくる企画を予算は少ないけれど、全スタッフで支えて映像にしたらどうなるのか。監修しても、筋にしても、テンポにしても、なるべく修正しないようにしている。各自の個性がおもしろい効果を出している。もう10本が完成しているけど、我々を取り巻く不思議をいろいろな形で映像化したい。今撮ってる僕の脚本でも宇宙人は出てくるんだけど、宇宙人が不思議じゃなくて、これだけ日常生活の中で知らない人が訪ねてきたり、電話だけで物が買えたり、どこか人間に対してマヒしている。そこの不思議さを出したい。怪奇的な作品ばかりじゃないんです」
 31セットにして、ひとまず12話を製作。コダイ・グループの実相寺組スタッフが全面参加。高い技術力で個性あふれる世界を広げていく。52本は作りたい、と笑う実相寺監督とコダイ(株)の製作レポートを毎号取りあげていくので、乞うご期待!
 東北新社ギャラクシーワン製作、キングレコード1021日発売の『くノ一忍法帖』(監督:津島勝)は、予想以上に忍者アクションも盛りあがり、エロティックな原作の山田風太郎「忍法帖」のタッチもビデオ合成で撮りあげている。製作協力の「必殺」シリーズ、『鬼平犯科帖』の京都映画は、11月松竹系公開の『必殺!5 黄金の血』(監督:舛田利雄)を現在撮影中だが(料亭の山本陽子演じるオカミが相場で大金をつかみ、政治家へワイロを贈り……と、大阪の女相場師をモデルに舛田利雄監督が「必殺」世界を送り出す。東映正月映画の『江戸城大乱!』も同監督が正統派の殺陣を繰り広げ、この2本はかなりおもしろうそうだ)、正攻法のスタッフとJACがうまく組むとこんな効果が出るという佳作、これは、ぜひシリーズとして、風太郎「忍法帖」のビデオ世界を広げてほしい。
『二十世紀少年読本』、『フィガロ・ストーリー』と日本映画のカラを破ろうと、新作を作り続けている林海象監督は、今、新しい企画でアジア各国を飛びまわっている。
 アジア6ヶ国の監督が連作する多国籍ムービー『アジアン・ビート』製作のためで、日本、台湾、シンガポール、タイ、マレーシア、香港の若手監督がそれぞれの国を舞台に共通のTOKIOという青年主人公を使って連作しよう、という企画である。すべてフィルムで完成、各国では劇場公開して、ビデオでも発売するのだが、映画を超えるビデオ作品の新路線である。
 企画・原案・エクゼクティブ・プロデューサーとして参加している林海象から各国の監督に出された条件は、次の4つであった。
1「日本人でありながら日本人になじまない青年・TOKIOを主人公として登場させること」
2TOKIOには草薙という女ボスがいて、暗黒街にくわしい彼女からの依頼でアジア各国の調査やトラブルの解消にあたり、事件に巻き込まれ、その報酬で生計をたてていく」
3TOKIOは「過去にマリアという少女に恋したことがあり、今でも失った彼女の行方を捜している」
4「以上の3点だけの設定をバックに、あとは自由に、あまり日本にとらわれることなく、それぞれのTOKIOのドラマを作りあげてほしい」
 この条件さえクリアすれば、あとは自由で、ミステリーあり、ラブ・ロマンス、本物の軍隊まで動員するアクションと多彩なミステリー作品群が誕生する。
 日本編『アイ・ラブ・ニッポン』(監督:天願大介)は、日本へ潜入したフィリッピンの少女・バナナが持つ秘密書類を追う右翼集団との追跡戦の中で、日本の“もうひとつの顔”が浮かびあがってくる。異色のミステリー作品で、佐野史郎、十軒寺梅幹、鰐淵晴子という林海象作品おなじみの役者陣の怪演が見モノ。925日より創美企画からビデオ発売。以下、11月から各作品が発売されていく。

【初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.581991秋】