『妖怪ハンター ヒルコ』解説

SFXが本編に溶けこむ新路線のホラー映画

 新鋭・塚本晋也監督が撮りあげた『妖怪ハンターHIRUKO』は、個々の特撮のひとつひとつよりも、人間が演じる本編と特撮パートの両方がダイナミックに融合する正攻法な映画の作り方にまず感心した。
 使っている特撮も、モンスターのヒルコを描く特殊メイク、ダミー(人形)を使うメカニカル、人形アニメーション、不気味な夕焼け空や古墳の位置を示すマットアート合成、ハイビジョン合成、多彩な光を使う合成とバラエティに富むのだが、繰り返すがそれを短いカットでつなぎあわせてカットをシーンへとレベル・アップする演出の編集テクニックが見事なムードを作り出している。
 若手の有望な人形アニメ作家である小杉和文による人形アニメーションも、人形アニメの撮影ユニットを東宝映像美術の特殊撮影スタッフ(撮影はTV版『日本沈没』も手がけた桜井景一キャメラマンを使うというゼイタクな配置だった)で固めたことで、本編との照明、美術のタッチが違和感なく、人形アニメーションのレベルを倍化した。東宝特撮映画『連合艦隊』、『(新作)ゴジラ』の中野昭慶特技監督の下で特撮助監督をつとめ、最近は、博覧会映像の特撮を手がけていた浅田英一監督がSFXスーパーバイザーを担当。ヒルコが潜む地下迷宮の奈落や天井の池からさしこむソフトな斜光、不気味さを予感させる血が流れたようなマットアートと学校全域と古墳を1カットで見せる“映画ならではの、目で見てわかる”マットアートなど、本編と連動する特撮を生み出していた。日本特撮というと、東京をフル・セットミニチュア化するミニチュア特撮を思う人も多いだろうが、こういう合成主体のスタンスもあるのである。
 富山県にロケーションした自然の情景が全編の映像に力を与えていて、夏休みの中学校の一夜に巻き起こる惨劇という脚本が、日本には珍しいリアリティのあるモダン・ホラーのタッチを作り出した。
 中川信夫監督の『地獄』や山本迪夫監督の『呪いの館 血を吸う眼』、『血を吸う薔薇』と日本の怪奇映画の秀作を思い返しても、ローカルな地方町やひなびた山間地帯が物語のムードを支えているわけで、『妖怪ハンター』も人里離れた舞台ならではのおもしろさなのである。
 塚本晋也監督は、自然の情景はゆるやかに、モンスターがらみや地下迷宮は短いカットの積み重ねと緩急自在の演出を見せ、1時間半の長さを約890カットで撮りあげている。
 500カット前後がほとんどという日本映画にあって、このリズムの自在さが見る観客を飽きさせないのである。
 見ていて感心したのは、夜間シーンのシャープな撮影である。全編6割近くは、夜間シーンなのだが、暗部をつぶさず、各キャラクターの表情をクリアーに映像で見せ、特殊メイク部分は暗部を逆利用して、ダミーと特殊メイクをつないで見せた。岸本正広撮影監督と小中健二郎照明監督の映像で主張するモダン・ホラーの味わいをとっぷりと味わってほしい。
 塚本監督がデビュー作の『鉄男』で見せていたスピード感あふれる移動主観撮影も、ヒルコの獲物に襲いかかる主観シーンで、さらにドラマティックな味わいを生んでいた。
 セディックと堤康二プロデューサーにお願いしたいのは、この作品を1本で終わらせることなく、「妖怪ハンター」シリーズとして、日本のホラー映画に新路線を生んでほしいことだ。
 諸星大二郎の原作では、最近作には鬼と童詩をからめた傑作や竜宮伝説の圧倒的なイメージと現代を揺さぶるフォークロアのモダン・ホラーが多数あり、映像化することによって2倍にも3倍にもなる。“稗田礼二郎の第一の事件簿”ともいうべき本作品を見ると、妖怪ハンターとして怪奇現象を追う黒衣の背広に身を包むクールな沢田研二の稗田礼二郎を見たくなるではないか。特撮でこれだけ見せ場の多い作品も久しぶりであった。

初出『妖怪ハンター ヒルコ』(松竹富士配給)劇場用パンフレット 1991