日本特撮 A la carte(1992年冬)

ゴジラの大ヒットにこれから
の東宝特撮に期待しよう

 1214日に公開された『ゴジラVSキングギドラ』(脚本・監督:大森一樹、特技監督:川北紘一)は、1415日共にほとんどの劇場が満席で、最終的には20億円の興収になるのでは、という大ヒットとなった。東宝は93年正月映画として、シリーズ第19作にあたる『ゴジラVSモスラ』を決定しており(劇場で特報フィルムを見て驚いた人も多いだろう)、スタッフの苦闘とガンバリを知る人間のひとりとして、この次回作へとつながる大ヒットを喜びたい。
 カラー・ページでも合成シーンの秘密と題して、メイキングについて少し触れたが、川北紘一特技監督に特撮の狙いをインタビューしたので、それを紹介してみたい。
「円谷さんが撮った昔のキングギドラをすべて見直してみて、実はギドラがそんなに飛んでないのに気がついた。それにギドラのアップがない、このふたつは、今回、絶対やってみよう、と思っていた。なぜ飛んでいないのかといえば、やはり、操演が難しかったんだろうと思う----それは今回、思い知ったから(笑)。だから、福岡のシーンでは、街の上空をヘリコプターで飛んで、江口(憲一キャメラマン)とギドラになりきって、あそこを壊そう、ここを壊そうと空中撮影して、そこに影を入れたり、ギドラを合成したりして、実景も特撮班で撮ってみた。群衆シーンも運動会ばかりじゃ寂しいから、実景の逃げてるシーンにギドラをどんどん合成して、あとはスケール・アップした25分の1のミニチュア・セットで破壊シーンを撮れば成立できるだろう、と思っていた。福岡は、基本的に実景にギドラを合成して、空中からギドラが街を破壊していくというテーマを決めて撮影した。逆に、新宿では、セット中心で実景は使わない……そういう設計は、はっきり決めたほうがいいんだよ」
 例えば、『ゴジラVSビオランテ』では、大阪ツイン・タワー周辺の攻防戦シーンは、地面が見えたら1番ステージに建てたセットで、地面が見えなかったらすべてオープン撮影で、と決めて撮影設計がなされていた。ツイン・タワーを崩すシーンもオープン撮影である。オープン撮影はライティングも透明感のあるシャープさを生めるし、火や煙の散り方もセットとはまるで違う----では、なぜ今回の新宿周辺のはセットなのか、それは、
「ギドラが飛ぶので、操演の苦労が並大抵じゃない。クレーンですべてやる訳にはいかないので、ステージのセットでやろうと決めていた」
と、川北監督は語る。
『ゴジラVSビオランテ』では、2カメラだったのを、今回は、3カメラの態勢をしいたという。江口憲一撮影監督、合成撮影の桜井景一キャメラマン、Bカメラの大根田俊充キャメラマンの3人である。
「もともと俺はカットが多いんだけど、今回も3カメラをまわし続けた。江口がメインで、桜井はギドラの顔のアップを、大根田さんはクレーンに乗って俯瞰ショットを狙った。新都庁舎のところで、ギドラが落ちてきてゴジラにのしかかるところは、その3カメラで狙った。あのシーンは、ステージじゃ6メートルぐらいしかない、それを何百メートルの落下感を出すため、その3カメラの映像を繰り返し見せることで、時間空間を伸ばして大きさを出した。カメラのポジションも、毎回4人で話し合って、自在にアングルを固定化せず、自由に撮ることで、意外性のある映像を今回はかなり意識してやってみた」
 札幌のゴジラとメーサー・タンク部隊の攻防戦シーンでは、パン撮影でメーサー・タンクの光線を追って見せるという撮影も見せている。
「あのカットは、Bカメラの大根田さんが撮ったんだけど、メーサー・タンクから発射される光線をパンして、ゴジラにパンすると、ババババッと火花散るというカットだった。でも、光線はもちろんないし、うまくゴジラが映った時、ババババッと火薬の弾着があうかどうか、何たってハイ・スピード撮影で、それがノーマル・スピードに戻ったタイミングを狙って撮影するんだから難しい。でも、ああいうメーサー・タンクが出す光線をパンして、ゴジラにあたってババババッと火花が散るという1カットがカッコいい訳で、大変だった札幌のシーンもああいう撮影がひきしめていると思う」
 カラー・ページでも触れたが、今回は、さらにフロント・プロジェクション合成で、特撮と本編を融合させるカット割りに挑戦している。
「ゴジラが画面に向かって光線を吐くカットを今回、撮ってるけど、あれは大森さんのほうから、土屋嘉男さんのカラミのシーンもあるけど、“客観の光線ばかりじゃなくて、主観の光線も作ってみましょう”と、最初に提案があって、光線も芝居させてみるか、とやってみたカット。こういう意図はとても大事なことだ。ゴジラの見た主観、ギドラの見た主観を狙ったのも同じで、ああいうカットを連続させることで、特撮と本編が連動してくる。だから、土屋嘉男さんとゴジラが見つめ合うシーンも、フロント・プロジェクションで放射能火炎を合成したゴジラを合成して、そのあと、土屋さんが放射能火炎に飲み込まれて、包まれる合成を加えるという3段階の合成にしてある。ああいう風にしないと、光線に土屋さんが包まれないんで気持ちよくないからね(笑)」
 929日に東京国際映画祭で上映された『ゴジラVSキングギドラ』だが、川北組の作業は1020日まで、約3週間続いていた。フィルムに映ってしまっているギドラや飛行機、円盤のワイヤーや合成のマスクズレを直すリテイク作業を続けていたのである。川北特技監督はこう語る。
「公開までまだ時間もあったし、ビデオやLDになった時のことを考えるとやはり直したかったからね。ワイヤー消しの合成やマスクズレの直しは、約40カットくらいかな。俺は、前にも『大空のサムライ』や『零戦燃ゆ』でもやってたんだけどね。その時、思ったのは、特撮だとワイヤーが見えてしまうと、そのカットがどんなによくてもNGにして捨ててた。でも、仕上げの時間さえあれば、消す技術はあるんだし、ワイヤーを消すことで、いいカットをNGから救う手だってあるはずだということ。『ターミネーター2』のヘリに飛び乗るバイクも後で吊ってるワイヤーを消してる訳だし、これからはそういう発想も必要だと思う。今回は公開まで、完成から2ヶ月あったという仕上げの時間は本当によかったと思う」
 ラゴス島の恐竜のシークエンスでは、オープン撮影で川北特技監督自ら沖縄で買い込んできた建材ネットで葉ごしのランダムな照明を当てて、南海のジャングルの味に挑んでみた。こういう美術、照明の工夫は、いつか大きな実を結ぶだろう。
 準備中の『ゴジラVSモスラ』は、まだまだこれからの段階だが、川北特技監督にはこういう案があった。
「今回のゴジラは、実は首と肩が一緒になっていて、飛ぶ怪獣と戦うには、あまり首を自在に上へ曲げることができなかった。メカニカルなマペットのゴジラで、それはカバーしたんだけど、次回作のモスラでは、首と肩のところに二段階に曲がる着ぐるみを新たに作ることで、もっとアクティブに着ぐるみでも出せる動きやすさをゴジラのほうにも考えてみたい。フロント・プロジェクション合成や70㎜フィルムを使う合成、ブルーバック合成、アニメ合成と、今回いろいろなチャレンジもできたし、また、その成果を踏まえて。見ているだけでもおもしろい特撮を考えていきたい。いろいろやれるんだという実感はありますよ(笑)」
 思えば、日本映画は娯楽映画のジャンル・ムービーを次々と失ってきた。残っているジャンル・ムービーは、東映の現代やくざもの、松竹の山田洋次監督の寅さんを中心とした人情喜劇もの、東宝の「ゴジラ」シリーズの3本しかない。
 かつて、映画が“娯楽の王者”と言われたのは、そこに数々のエンターテインメントのジャンル・ムービーが結集していたからである。
 ラブ・ストーリーのアイドル青春映画、悲恋を主題に観客の涙をしぼった純愛映画、血湧き肉躍るアクション映画、スケール感たっぷりの戦争映画、さまざまなタイプの時代劇、夏の名物だった怪奇・怪談映画、楽しいミュージカル、愉快なコメディー映画、見ていて笑いながらふと身につまされる人情喜劇、エロティックでいつつ時に人間性をえぐるロマンポルノ、男と女のタギリを見せる任侠・ヤクザ映画、子供が大好きなアニメーション映画、破壊スペクタクルが見せ場の特撮映画……その中にあって、東宝の「ゴジラ」シリーズや怪獣映画は、映画だけが表現できる巨大怪獣が私たちの住む街に乱入して、痛快に暴れまくるスーパー・イメージを見せ続けてくれた娯楽映画中の娯楽映画であった。
 これは確信を持って言いたいのだが、日本映画を本当に復興させるためには、小津安二郎でも、溝口健二でも、黒澤明でもなく、そういう名匠、巨匠もジャンル・ムービーの頂点を突き抜ける形で、“人間の映画”として作品を成立させている事実に気がつくべきものと思う。ジャンル・ムービーの力を取り戻さなければ、観客を呼び込むことはできないのだ。
 1215日、東京・新宿コマ東宝で、満席で立ち見の中にまじって、『ゴジラVSキングギドラ』のクライマックスの伊福部音楽のコンサート会場かと見まがう映像と音楽の交感にシビレながら思ったのは、“これは映画だ!!”という実感であった。帰って行く親子連れの何とも顔に赤みがさした小学生たちの興奮----それは紛れもなく25年前の私たち第1期怪獣ファンと同じだと思う。ジャンル・ムービー再生をかけて製作を続ける東宝特撮に大きく期待してしまうのである。

東京大地震のイベント映画

 成城の東宝砧スタジオの近くにある東宝ビルト・スタジオでは、11月下旬から現在の東京を地震が襲うスペクタクル特撮『太陽が裂ける日』(仮題)の撮影が入っている。
 消防庁がスポンサーで、923月に立川市に開館する防災センターで上映するために15分間の長さに15千万円をかけたイベント用ムービーである。20分の1サイズの大型ミニチュアをオープンの野外セットで組み、撮影していく大がかりなもので、気になるスタッフは、絵コンテ・監督は、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー』の絵コンテを担当、『ミカドロイド』の特撮監督だった樋口真嗣がつとめ、本編と特撮両方の演出を手がけている。広がりのある美術は、『ガンヘッド』、『ゴジラVSビオランテ』、『ゴジラVSキングギドラ』のマープリング所属の大澤哲三美術監督が手がけ、20分の1という大サイズで、細やかな窓ガラス割れから、電柱ナメや建物の壊しにさまざまな工夫を見せている。撮影は『プルシアンブルーの肖像』の特撮パートの大岡新一撮影監督と石渡均キャメラマンで、陽光あふれる昼間の大都会を襲う恐怖の地震の映像に現代の味わいを加味しようと精力的に撮影が続いている。今回は、何と特殊美術の助手は、ご存知原口智生で、『スターウルフ』以来という特美の小物や電柱、自動車と元々美術出身だった腕を本編と特撮の両方へ見せている。操演は、『帝都物語』、『ウルトラQザ・ムービー』の亀甲船の根岸泉で、建物の砕け散る窓ガラスやはがれる壁面、走っていく地割れと人間がからまないエフェクト特撮から人間がらみの操演と凝ったエフェクトを繰り広げている。製作は、国際放映とシネ・セル。
 クランク・アップは1228日で、12月に合成、仕上げを完了して、3月防災センターの開館と共に上映の予定である。上映の詳しい日程は次号でお知らせしたいと思う。
 東宝の川北紘一組も1112月は、イベント用の博覧会映像を撮影していたが、おもしろい映像があれば、その都度紹介していきたいと思う。
 樋口真嗣監督にとっては、特撮に惹かれた最初が中野昭慶特技監督の『日本沈没』である、とかつて語っていたが、待ちに待っていた素材であり、合成、ナメの構図による広がり、本編と特撮連動と、いかなる映像に仕上げてくれるか、1日に昼間のシーンだけなため、13カットと入念な準備と設計による撮影が続いている。絵コンテをいくつかお見せして完成シーンは、次回、カラー・ページでお見せしたいと思う。
 ビデオ用映画のVシネマにも、ようやく特撮ものの企画が出始めている。
 バンダイ、東映の共同製作によるのが『真・仮面ライダー/序章』(原作:石ノ森章太郎、脚本:宮下準一、小野寺丈、スーパーヴァイザー:雨宮慶太、特技監督:矢島信男、監督:辻理、924月発売)、『大予言/復活の巨神』(脚本:江連卓、監督:小林義明、特撮監督:矢島信男、キャラクターデザイン:雨宮慶太、925月発売)の2本。
『仮面ライダー』のほうは、ファンが夢にまで見たリアル版の改造人間イメージをしっかりと作ってみよう、という製作意図で、真の仮面ライダー像を見せられるか。
 巨大コングロマリットが仕かけた分子的外科手術のバイオテクノロジーとサイバネティックスが生んだサイボーグ兵士計画、敢然とその人類への野望の前に立ちはだかる風祭真(石川功久)。
 まさに、ヤング・アダルトへ向けて放たれた『仮面ライダー』で、石ノ森章太郎らしい“青春ものの苦悩”もしっかりと描かれている。マニアックなファン層を狙うのも大切だが、ビジュアル的な宣伝の部分で、ロンリー・ヒーローのカッコよさとスゴ味のような(かつての松田優作の『遊戯』シリーズのように)大人っぽいビジュアルと宣伝をぜひ販売のバンダイには考えてもらいたい。思えば、『仮面ライダー』も20周年で、熱烈なファンがしっかりとライダーを中心に東映変身ヒーローへの熱い想いを書く時期にきたのだろう。
『大予言/復活の巨神』は、オリジナルの物語で、UFOや地球を壊滅させるパワーを持つ大巨神とどこまで特撮のイメージが広げられるか、完成シーンを見るのが楽しみである。
 ジェリー・アンダーソンの写真集は、ほぼ7割の編集を完了。3月下旬には刊行できそうだ。日本初公開写真満載なので、乞うご期待!!

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.591992