セリフから映像へのアプローチ

『ウルトラQ』を
めぐる、僕の
こだわり

 よく人に、
「何で、そんな古いTVの『ウルトラQ』のことなんか書くの?」
 と、聞かれることがある。その理由は、簡単。何も残っていないからである----怪獣の写真は見られる怪獣図鑑を除いては。それで、どうして困るのか----『ウルトラQ』の魅力は、そんな怪獣たちだけではないからである。
 例えば、ナレーション。『ウルトラQ』は、一本、一本が独立したシチュエーションを持っていたため、導入部分が実によく工夫されている。
 突然、東京国際空港が凍りはじめる。空港は今、謎の冷凍ゾーンに包まれつつあった。
ナレーション「一万年に一度、地球には異常な低温の年がめぐってくる、といわれています。真夏の暑いある日、突然、雪が降りはじめたら、一体、何の前触れでしょう。今日は真夏におとずれた寒い寒い冬のお話です」(第14話『東京氷河期』より)
 深夜のハイウェィでまた、車がガードレールから飛び出した----続出する事故。それは、目の前をよぎる白い影のようなものをよけようとした結果であった。続く事故車の映像。
ナレーション「皆さん、これは映画の撮影のために作られた事故ではありません。我々の日常生活の中の今、起こりつつあるバランスの崩れたある瞬間なのです。これから30分、あなたの眼は、あなたの身体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」(第25話『悪魔ッ子』より)
 小学校5年生だった僕は、このナレーションで、正直、ぶっとんでしまった。子供向け番組で、当時(そして、おそらく今も)、これほど格調のあるセリフを駆使する番組はなかったからだ。特撮も使った異常現象の導入部、不気味なテーマ音楽、毎回、工夫をこらしたタイトルバック、それに石坂浩二のナレーション、そして、登場するさまざまな怪獣や奇現象!! まさに30分間、僕の眼は、僕の身体を離れて、この不思議な時間の中に引き込まれてしまったのである。これは、僕にとってSFのニオイを意識した最初の出来事であった。
 ナレーションばかりでなく、『ウルトラQ』のセリフは、当時の子供向け番組の常識を超えたものであった。どんなかというと。
 あらゆるエネルギーを吸収し、東京上空に浮かぶ宇宙生命“バルンガ”。東京の動力は、すべて停止していた。万城目と由利子は、バルンガを見つめる奈良丸博士を発見する。
由利子「あなたはあの怪物について何かご存知なのでは?」
奈良丸「怪物!? バルンガは怪物ではない。神の警告だ」
万城目「神ですって!?
奈良丸「君は洪水に竹槍で向かうのかね? バルンガは自然現象だ。文明の天敵というべきか……こんな静かな朝はまたとなかったじゃないか。このきちがいじみた都会も休息を欲している。ぐっすり眠って反省すべきこともあろう」(第11話『バルンガ』より)
 万城目と一平は、1/8計画都市へ由利子を捜しにやってきた。彼女をつれていって、一の谷に元へ戻してもらおうというのだ。1/8になった由利子を発見した万城目との会話。
万城目「(やさしく)由利ちゃん、迎えにきたんだ。さあ、一緒に帰るんだ。さあ、早く帰るんだ」
 由利子は、差し出された万城目の手を見てギョッとなる。もう私は、淳ちゃんたちとは違う実感が。その声は、泣き声まじりだ。
由利子「帰ってちょうだい。私はもうあなたたちとは違う人間になってしまったのよ。もういいの、会いたくないから早く帰ってちょうだい」
万城目「バカなことを言うんじゃない。帰って一の谷博士に相談するんだ。さあ、早く僕の腕につかまって」
由利子「いいの、あたしはこのままここの住人になるわ。(無理に笑う)さみしくなんてないわ。皆、親切にしてくれるし、とってもいい人たちばっかりなの。心配いらないわ。だから、ふたりだけで帰ってちょうだい」
万城目「由利ちゃん……」
由利子「帰って!」
万城目「何を言うんだ」
由利子「例え、あたしの身体が小さくなっても喜んで迎えてくれると思って、死ぬ思いで出かけて行ったのに、皆、ひどいわ、ひどいわ」(第17話『1/8計画』より)
 子供向けというより、まるで子供を意識しないセリフの数々で、その“人間のドラマ”の充実に、今見ても魅せられてしまうのである。
 俳優も、東宝系とTBS系の俳優が大量に出演しており、そのドラマを支えていた。『ウルトラQ』以前の特撮TVは、独立プロや低予算のため、俳優もどうしてもスケールが小さくなりがちであった。毎回のように東宝の普段、劇場映画に出ている俳優がゲストで登場する『ウルトラQ』の演技面での充実は、実に、重要であったと思う。
 さらに、そのドラマを支えたのが脚本と演出である。脚本の金城哲夫、山田正弘、北沢杏子、山浦弘靖、上原正三、監督の円谷一、梶田興治、中川晴之助、飯島敏宏、野長瀬三摩地、満田穧(正しくは禾に斉)というスタッフが、真剣に“人間ドラマ”と“SF特撮”に取り組んだ証なのだと思う。このスタッフも、金城哲夫27歳、飯島敏宏33歳、山田正弘34歳、円谷一34歳、野長瀬三摩地41歳、梶田興治42歳という若さであった----『ウルトラQ』は、このスタッフの若さと努力の結果なのであった。
 その物語、セリフ、特撮、演出の数々が“怪獣の写真”だけを残して、時間に飲み込まれようとしている----だから、こんな文章を書いたり、本を作るわけである。
『ウルトラQ』について考える時、あともうひとつ思い浮かんでくるのは、外国TV映画の二本、『ミステリー・ゾーン』〔原題『The Twilight Zone』〕(59)、『アウター・リミッツ』(63)のこと。ともに、日本では昭和351960)年、391964)年から放映された作品だが、これが実に元祖『ウルトラQ』のイメージなのである。脚本家の金城哲夫がこの両作品に影響を受けているのは確実。ナレーションでは、『ミステリー・ゾーン』の影響を濃厚に受けているし、『アウター・リミッツ』からも、宇宙人が電送され、念力で暴れる話が「2020年の挑戦」(第19話)の元ネタになってるし、ジム・ダンフォースが人形アニメを担当したアリ型の宇宙囚人が登場する話が『ウルトラセブン』(67)の「宇宙囚人303」(第7話)の基本アイデアであったのだと思う。
『ミステリー・ゾーン』は、人間ドラマの面で傑出したTVシリーズだったが、『アウター・リミッツ』は、怪獣や宇宙人が続出したシリーズであり、巨大怪獣でないものの、その特撮と合成の使い方、本編の処理、大胆なSFストーリーと、『ウルトラQ』にその面で与えた影響が大きかったと思う。この両作品の研究なくして、『ウルトラQ』の研究は完成しないと思う如何である。
 初放映の際、『ウルトラQ』を見ながら、『ミステリー・ゾーン』や『アウター・リミッツ』とは別なものとして見ていた。ドラマの充実や寓話としてのSFが魅力の『ミステリー・ゾーン』、特撮を駆使した等身大モンスターが続出する娯楽SFの『アウター・リミッツ』、巨大怪獣という日本ならではの特撮を縦横に取り組んだ特撮SF『ウルトラQ』----三者三様の魅力であった。
 僕は、最初に見たその直感を信じてるし、今、見ても三者は三者なりの魅力とおもしろさを持っている。怪獣の魅力だけでなく(怪獣の魅力は言うまでもない。ガラモン、ペギラ、カネゴン、ゴメス、パゴス、バルンガ、ジュラン----こんなバラエティな怪獣は怪獣番組中、空前絶後だ)、そのドラマの魅力、テーマの魅力、ディテールの魅力について、ぜひ見てほしい。

 完全シナリオ集なり、セリフを完全採録したフィルムストーリー集ができないものか。それができるまで、『ウルトラQ』に多分こだわり続けると思う。

【初出『東京おとなクラブ』創刊第3号 1983