日本特撮 A la carte(1990年夏)

手塚眞監督の新作
妖怪VS亡霊将軍の戦い!!

 東映ビデオの『クライムハンター/怒りの銃弾』(89/監督:大川俊道)の成功で軌道にのった東映ビデオのビデオ用映画であるVシネマは、毎月1本ずつ新作を製作、ビデオ業界にVシネマ旋風がおきている。にっかつなどの他社でもビデオ用オリジナル映画の動きがおきつつあり、ビデオの新しい動きになりつつある。
 そこで、今回はビデオ用映画を中心に、新作特撮について触れてみよう。909月発売をめざし、5月から撮影に入ったのが、ポニーキャニオン、パパドゥ音楽出版共同製作の手塚眞監督作品『妖怪天国/ゴースト・ヒーロー』である。
『妖怪天国』(86/脚本・監督:手塚眞)の姉妹編で、『妖怪百物語』(68/監督:安田公義)や『東海道お化け道中』(69/監督:安田公義・黒田義之)という怪談映画へのオマージュだった前作に比べ、今回の『妖怪天国/ゴースト・ヒーロー』は、なんでもどん欲に取り組んでしまう香港SFXにも似て、現代のハイ・テクビルの中でよみがえった奇怪な亡霊将軍と戦うヒーローとそれに協力するする妖怪たちと、作品タッチも一変。続編を期待する人は、ビックリするに違いない。
 脚本は、『ガンヘッド』(89/監督:原田眞人、特技監督:川北紘一)の原田眞人。撮影は、仙元誠三キャメラマンのチーフを長くつとめた佐光朗キャメラマン、照明は、『ウルトラQザ・ムービー/星の伝説』(90/監督:実相寺昭雄)の特撮照明を担当していた市川元一照明監督、特殊メイクは、前作『妖怪天国』と同じFUN HOUSE(原口智生、松井祐一)があたっている。
 出演は、亡霊と戦う家系の血を持つ主人公・安達に草刈正雄、亡霊将軍に乗り移られるヤリ手の部長に伊武雅刀、安達を助ける妖怪バンドの四人にパッパラー河合、SYOKO、美加里、ラッキィ池田(!!)、CG戦士の開発員に水島かおり、上海太郎(好演!)。謎の盲目の老人・蛇骨斎に天本英世。妖刀をふり、狂気の名演をみせる社長に中山昭二、守衛に三谷昇と、そうそうたる役者陣がそろっている。
 特殊メイクの原口智生氏に話を聞いてみた。
「今回の特殊メイクの造形物は、前回の『妖怪天国』の約5倍の量を作っています。とてもうちだけでは間に合わないので、妖怪バンドのタヌキの“ポン”は、コスモ・プロ、百目の4本の手を持つラッキィ池田の“バグ”を若狭新一さんのモンスターズに発注。CG戦士はマープリングに、敵方の主役である“亡霊将軍”は、品田冬樹さんのいるビルドアップに発注しています。亡霊将軍は、特殊メイク的な部分もあるので、FUN HOUSEで5日間かけてディテール・アップしてあります。
 亡霊将軍へ伊武さんが変身するシーンでは、前からうちの松井祐一が試してみたい、といっていた、伊武さんの顔を約3倍の大きさでダミー・ヘッドを作り、額を破ってカブトの角が出てくる変身イメージを撮っています。こういうディテール・アップをするやり方もある。彫刻をやっていた松井の力でできたメイクだと思います。伊武さんの顔に特殊メイクした亡霊将軍がニヤリと笑うシーンは、表情が出てよかったと思います」
 FUN HOUSEに行くと、背広を着たダミー人形があって、「これは?」と聞くと、中山昭二扮する長壁社長がハイテク・ビル建設の際、地中から出てきた妖刀に触れているうちに、トランス状態になり、重役に斬りかかるシーンで、胴体をナナメに切られるダミー人形という。操作してもらうと、ズズーンとナナメに胴体がふたつになり、床に上半身が落ちていった(コレは、オモロイ!!)。
「ほかにも頭の上半分がたたっ斬られたり、唐竹割りで真ん中にグサッと刺さる頭部とか、3人の重役のやられ方も変えてあります。監督と脚本は、首が飛ぶだけだったんだけど、それひとつじゃつまらないでしょう。胴体のけさがけは前からやりたかったので作ってみたんですよ」
 ほかにも上海太郎の児玉川太郎が出会うろくろっ首はビデオ合成、草刈正雄さんの頭がガバッと開いて、妖怪の首がドバーッと出てくる(このイメージは抜群!)ダミー人形、追われるシーンにはステディカム・キャメラも使い、撮影も工夫している。
 天本英世さんの蛇骨斎は、コンタクト・レンズのみで予定していた特殊メイクをやめ、入れ歯をはずしての熱演となった。
 手塚眞監督のライト・タッチの妖怪アクション・ビデオで、役者陣の演技と特殊メイクに注目してほしい。

新タイプのアクション映像
--Vシネマ—-

『クライムハンター/怒りの銃弾』(89)は、TV『あぶない刑事』(86/NTV)の脚本家であった大川俊道監督が脚本には書きながら、“これはTVのスケジュールでは撮れない”、“これはTVコードではマズイですよ”と週1本放映のTV映画製作のスケジュールや実状で撮れないアクション&銃の攻防戦のアイデアをなんとしても映像にしたいと、ビデオ用ではなく、ともかくクオリティーの高い映像をめざして、企画を持ちあげた作品であった。ビデオとTV放映は完成した後、決まったのである。銃の発砲シーンと各種の銃器を揃えたのは、ビッグショットで、大川俊道監督は、ビッグショットの納富代表と顔面や皮膚弾着を担当したFUN HOUSEの原口智生と相談し抜き、新タイプのアクション映像を作り出した。
 その作り手のこだわりがまさにVシネマの起動力となったのである。
 160分で、製作費8千万円、東映のVシネマは、ガン・アクションとハード・アクションの新作揃いである。主に弾着を扱うFUN HOUSEは、ほとんどの作品に関わっている。原口智生氏は語る。
「『クライムハンター』、『クライムハンター2/裏切りの銃弾』(89/監督:大川俊道)、『ブラック・プリンセス/地獄の天使』(90/監督:田中秀夫)、『狙撃2 THE SHOOTIST』(90/監督:一倉治雄)、『凶悪の紋章』(90/監督:成田裕介)、『ベレッタM92F・凶弾』(90/監督:原隆仁)、『クライムハンター3/皆殺しの銃弾』(90/監督:大川俊道)と銃の着弾メイクと血が吹き出るブラッディー・エフェクト中心です。『凶悪の紋章』では、車にひかれて胴体がふたつにちぎれてしまう特殊メイクとかもやっています。ビッグショットの納富さんとのコンビで続いているシリーズです。今度の『クライムハンター3』では、電話BOXの中の女の子がマシンガンでハチの巣になるシーンがあって、吹き飛ぶガラスに対応する安全な特殊メイクを考えています」
「電話BOXのガラスが吹き飛ぶので、女の子の全身をラバーのスーツで包み、その上に手や顔のメイクを作って、撃たれる彼女が動きながら怪我をしないように考えています。うちの顔面弾着や肌の弾着では、今まで1件の怪我もありません。『さらば愛しき人よ』(87/監督:原田眞人)や『クライムハンター』で、何度も自分の顔でテストしてますから(笑)。火薬も使いますので、そのテストのビデオを役者の皆さんに見てもらって、安全をわかってもらってからやってるんですよ。特殊メイクもメイクの範囲ですから、役者との信頼が第一です。造型の作り物とは、そこが違うセクションですね」
 眼鏡をかけている男の目が銃で撃ち抜かれるシーンでは、眼鏡のツルにエア・シリンダーのアームを仕掛け、眼鏡のレンズを特注し、内側には破片が来ぬよう、プラスチックをかけ、ツルに仕掛けてある血ノリのチューブをエアーと共に出し、眼鏡にビシッとヒビが入って、血ノリがレンズをぬらしてふき出す……ビッグショットの納富喜久男氏自ら眼鏡をかけ、何度もテストしたカットである。『クライムハンター/怒りの銃弾』の1シーンである。監督陣も工藤栄一、西村潔とベテラン勢も入ってきて、若手中心の現場で、ぜひこのシリーズからバジェットの大きい劇場新作の流れを生み、故・松田優作のアクション路線の潮流を日本映画の中に再生してほしいものだ。スケジュールのない現場でのスタッフの苦闘を知る人間としては、このままビデオの中に企画を閉じ込めることなく、このスタッフの奮戦と努力が、劇場のスクリーンへと彼らをステップ・アップさせることを東映ビデオと東映に期待したい。
 Vシネマの成功で追随する他社は、せめて予算が8千万円レベルを超える気力を見せてほしい。せっかくの鉱脈も柳の下のドジョウと安かろう主義では、数年の生命であることは確実だからだ。探偵を主役にしたハードボイルド・タッチの作品やラブ・ストーリーのタッチももっとほしい。オカルト・タッチをからめたバトル・アクション&ミステリーもぜひ企画してみて下さい!

押井守監督の実写作品
『ケルベロスの島』イン!

 去年、劇場用アニメ『機動警察パトレイバー the Movie』(89)で、東京破滅を狙う電子戦を見せてファンを熱狂させた押井守監督が、再び実写映画の撮影に入った。かつて製作した『紅い眼鏡』(87)の姉妹編にあたる『コンバット・コミック』連載のマンガ『犬狼伝説』(原作:押井守、画:藤原カムイ)をイメージ原作にした『ケルベロスの島』(脚本・監督:押井守)がそれだ。製作:バンダイ・メディア事業部で、映画製作:オムニバス・プロモーション。6月台湾の台北から撮影インし、台南へと台湾全土で撮影、7月には香港へと撮影の本拠を移し、香港では実銃を使用してガン・アクションを展開(ドイツ軍の重機MG42も本物が出てくる。ガン・マニア狂気の発砲シーンとなろう!)。銃器の効果のために、外国で撮ろう、という発想がおもしろい。
 主役となるプロテクト・ギアは新デザイン。出渕裕キャラクター・デザイン、造型:品田冬樹(ビルドアップ)の名コンビで、10体を製作。押井監督の“落ちぶれた犬みたいなイメージで”という注文を消化した新プロテクト・ギアである(写真は、次回1030日号で、カラーで存分に見せよう)。軽装タイプ40体〜50体の造型で、造型費だけで2千万円をかける作品である。

 物語は、国外に脱出した首都警第一小隊の都々目紅一(千葉繁)を追う後輩の乾(藤木義勝、180センチの長身の新人で『仮面ライダーブラック』の幹部役も熱演していた)、ケルベロス狩りの特殊部隊を描く作品で、8月撮了、年末公開の予定だ。

初出 朝日ソノラマ『宇宙船』Vol.531990