怪獣物とスパイ物合体
人間ドラマ充実の一本
『キングコングの逆襲』(67)は、『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(65/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)と並んで、本多猪四郎監督、円谷英二特技監督が新しい怪獣映画のリアリズムを再生しようとして、取り組んだ怪獣娯楽映画の佳作であった。
従来、「ゴジラ」物では、50m級だった身長を20〜30m級に小さくし、ミニチュア・セットも精巧で大きな物を作り、極力、人間の見ている“視点”を撮影で強調したり、合成も多用、怪獣自体も建物を壊すことや暴れるばかりでなく、夜行性の食肉獣として設定し、人間を食料として見て、襲いかかってきたり(バラゴン、ガイラ、ゴロザウルス)、怪獣が手で人間を掴んだり、身近に迫る恐怖として、怪獣の生物らしさをちゃんと描き、異様なリアリティを感じさせた。
この3本の最大の特徴は、本編と特撮のコンビネーションのよさで、「ゴジラ」物が明るい陽光の下、暴れまわるパターンが多かったのに対して、夜景の中でみせ場を次々と作り出し、闇の中から襲いかかってくる“20m大の野獣”という独特のムードも濃厚であった。
本多監督も新たな演出のピークに入っていた時期のため、そのペシミスティックな物語の視点、ドキュメンタリー的な対怪獣作戦の理詰めな作戦の快感、各キャラクターに託した人間性の部分と非情さの部分、クールな演出タッチと、本編の人間ドラマが充実して、子供向け一辺倒になるかと思われていた東宝怪獣映画の中で、まだまだやれるのだ、と特撮ファンを喜ばせた。
今回扱う『キングコングの逆襲』は、さらに当時ヒットしていた「007」シリーズやスパイ物の要素を取り入れた作品で、アジアの小国スパイ工作員“マダム・ピラニア(浜美枝)”、北極に眠る強力な放射性物質“エレメントX”を掘り出し、スポンサーであるピラニアの小国を核兵器保有国にさせようと暗躍するマッド・サイエンティスト“ドクター・フー(天本英世)”が登場、怪獣映画とスパイ物を合体させるという荒唐無稽な素材を、のりにのった演出で、見ごたえもたっぷりに描いた、まさに力作だった。
こんなキャラクターは、描き方次第では、マンガになってしまうわけだが、ピラニアをファッショナブルで理知的なクール・ビューティーとして浜美枝に演じさせ、ドクター・フーを黒を基調としたダンディーな国籍不明の怪科学者として作り上げ、天本英世自体が円熟の時期だったため、この老け役を眼光鋭く演じ、東宝キャラクター中、悪役中の悪役として、最高の存在感を感じさせるキャラクターとなったのだ。
メカニコングばかりではない、『キングコングの逆襲』の魅力が今回の主題である。
ドクター・フーの野望と
その手先メカニコング
ドクター・フーは、北極圏のある地点で強力な放射性物質であるエレメントXの鉱脈を発見した。この鉱脈さえ掘り起こせば、エネルギー源として使うことも、核兵器を作ることさえ可能なのだ。しかし、残念なことに、ドクター・フーの資金に限りがあった。エレメントXの採掘は、その強力な放射能から身を守るためにも、莫大な資金がかかるのだ。そこで、ドクター・フーは、スポンサーを捜すのである。やがて、見つかったスポンサーは、アジアの小国であった。国土は小さく、金はありあまっているが、軍事力もほとんどない……その某国がフーとコンタクトを取ってきたのだ。フーにとって、その国がどこであろうとどうでもよかった。小国が有数の核兵器保有国になるのも愉快じゃないか……自分はエレメントXを掘り出す資金さえあればいいのだ。放射能を防ぐため、フーが作ったメカニズム、それは国連のカール・ネルソンが研究していた巨大な猿・キングコングのデータから作り出した“メカニコング”であった。
人工頭脳で作業を記憶したロボットに採掘させれば、放射能も大丈夫だ。某国からは目付役として、スパイ工作員のマダム・ピラニアが派遣されてきた。
その目の前で作動を停止するメカニコング。エレメントXの周囲を取り巻く強力な磁気で、人工頭脳の回路がやられてしまったのだ。
スポンサーとして、フーの失敗をなじるピラニア。フーはそこで、ある代案を思いつくのだ。本物のキングコングを使うことを!!
フーの心情デフォルメ
無表情なメカニコング
コングをモンド島から北極へ運び、催眠装置で操ろうとするドクター・フー。だが、エレメントXの強い発光で、催眠は醒めてしまう。そこで、コングがいうことをきくネルソンやスーザン、野村の3人を拉致し、コングに命令させようとするのだ。
コングが東京へ逃げ、輸送船でコングを収容するため、東京湾からメカニコングをドクター・フーは発進させるのである。
ピラニアは、東京で事件を起こしては、自分の国の正体がばれるかもしれない、と反対する----しかし、もうフーは、ピラニアの国など、どうでもよくなっているという演出。コングさえ手に入れば、エレメントXは、確実に自分の物になる。別にピラニアの国でなくても、世界中の国がノドから手が出るほどほしがるはずだ!!
ドクター・フーは、ピラニアを得意の絶頂で裏切り、ついにはスーザンたちを逃がしたピラニアを殺してしまうのである。
この卑屈で、ズルく、冷酷なドクター・フーを、しかし、ダンディーさを失わずに演じる天本の演技は、世界の裏面で暗躍してきたドクター・フーの野望と生き様を見せ、圧巻の一語なのだ(前半の『私もドクター・フーだ』といいながら、ピラニアの機嫌をいつも取ろうとするその表情が実にこのキャラの内面の弱さも表しているのだが)。
メカニコング無表情さ、それはドクター・フーの非人間性のデフォルメなのだ。
こんなメカ演出の楽しさを教えてくれたスパイSF風の怪獣映画の快作なのだ。【初出『月刊スターログ』No.78 1985年4月号/日本特撮秘史----国産SF映画復興のために SFX GRAPHIC ALBUM 29】