円谷英二の映像世界〜『美女と液体人間』

『美女と液体人間』昭和331958)年度作品 87分 カラー 東宝スコープ


『美女と液体人間』(58/監督:本多猪四郎)は、『電送人間』(60/監督:福田純)、『ガス人間第一号』(60/監督:本多猪四郎)と続く、「変身人間」シリーズの第一作である。
 作品の内容は、南方海上で強烈な放射能におかされ、生物のいちばん原始的な形状に戻ってしまった生き物に襲われ、液体化した人間が、生存するために必要な栄養素を補給しようと、かつての同類である人間を次々と襲う。しかし、対決した捜査陣と科学者が協力、ついに、液体人間を倒す、という物語だ。昭和321957)年11月に亡くなった大部屋俳優であった海上日出男のシナリオを原作に、田中友幸プロデュース、『地球防衛軍』(57/監督:本多猪四郎)の木村武(本名・馬淵薫)が脚色、本多猪四郎監督が演出を担当した。東宝特撮路線の基本ポリシーである原水爆批判がストーリーの中を一本通っており、“第五福竜丸”を思わせるエピソードを挿入するなど、異色の怪奇スリラーであった、といえよう。
 以下、ストーリーを詳述しながら、その特撮シーンについて触れていってみよう。

 真っ赤なタイトルバックは、夜の南方海上を漂流する第二竜神丸のミニチュア・ショット。
 小雨降る東京の下町から物語ははじまる。
 雨の中、止まっている車。フロック・コートに中折れ帽を被ったひとりの男が急ぎ足で、その車の後ろにやってくる。すると、ハッと下を向いた男(伊藤久哉)は、恐怖の表情に包まれ、銃を抜き、足もとに向け乱射した。
 ギョッと後ろを振り向く車の中の男(佐藤允)。男は舌打ちをすると、車を走らせた。駆けつける警官。しかし、その現場には、ひとつの鞄と男が身につけていた衣服一切、靴、帽子が残されたのみで、男の姿は、忽然と消え失せていたのである(カメラは、雨水が流れ込む下水口へとパンして映像的伏線をはっていく)。
 鞄の中身は、多量の麻薬であった。そばのビルの一室から盗み出した物らしい。
 “世にも奇怪な事件”として、捜査に乗り出した警察当局は、これを麻薬密売者の仲間割れと断定、犯罪者リストの中から、“金”と名乗る男を逮捕、彼の挙動から行方不明になった男がギャングのひとり“三崎”だと判明した。
 三崎には、キャバレー“ホムラ”の人気歌手で、新井千加子(白川由美)という同棲している美貌の女性がいた。早速、千加子を警視庁に喚問し、取り調べを開始した富永捜査一課長(平田昭彦)は、結局、彼女から何も聞き出すことができなかった。ひとまず釈放して、尾行を主力に背後関係を探る手段に出た。
 と、ある日、“ホムラ”で歌う千加子の前に生物化学を専攻する政田(佐原健二)という青年化学者が現れ、「三崎君のことでぜひお話がしたい」と、申し出た。千加子は、三崎から連絡と思い、物もいわず金を渡そうとするが、政田はその場に張り込んでいた坂田(田島義文)、田口(土屋嘉男)の両刑事にギャングの一味と間違えられて警視庁に連行された。ところが、政田と富永課長は、友人同士とあって両刑事も気落ちする有様であった。
 雨の夜に、人間が溶けるように姿を消したことにある疑念を持つ政田は、三崎が水爆実験の前後、船に乗って南方海上にいたか、数ヶ月、家を留守にしたことがあるかを千加子に尋ね、『人間が実際に溶けたのではないか』という疑念を立証しようとしていたのだ。
 ところが、千加子を狙うもう一団があった。
 三崎の失跡を一味への裏切りと思い、麻薬の行方を追うギャング一味である。そのひとり西山(藤尾純)は、彼女の住むアパート・築地荘へ乗り込み、千加子を暴力で脅迫するが、窓を出たところで、三崎と同じように悲鳴をあげ、銃を撃って失跡してしまったのである(映像では、液体人間は姿を見せず、千加子に目撃させる、という表現方法をとっている)。千加子は、何か液体状の物が西山を包んだ、と証言した……。

 富永の計らいで千加子と会い、彼女が目撃した人間消失の一瞬を聞いた政田は、顔色を変え、富永を無理やり自分が勤務する城東大学病院へ案内するのだった。そこには、原爆症で倒れた船乗りの安吉(重信安広)と堀田船長(瀬良明)がベッドに横たわっていた。
 彼らは、水爆実験当時、南方海上にいて行方不明になっていた第二竜神丸と、ある夜、遭遇した、というのだ。人の姿が船上にはなく、安吉と堀田は、仲間の宗チャン(加藤春哉)、大チャン(大村千吉)、松ッチャン(加藤茂雄)、チョウスケ(中島春雄)と、この漂流船に乗り移ったのである。船内にも人影はない。
 ある船室で人が倒れている----と思いきや、それは人の形のままで倒れている服や靴であった。「びっくりさせらぁ」と、笑う皆。
 船長室に入ってみると、机の前の椅子にやっぱり服と靴がかかっている----まるで人が座っていた後のように。航海日誌を読んでみると、操業中、甲板の人間が突如、姿を消したらしい。堀田は、何かうそ寒くなるものをこの船と航海日誌から感じていた。
「早く船に戻ろう」という堀田や宗チャンだが、大チャンは、服をタンスから選び出し、試着して鏡を見てニヤついていた。
 先に甲板へ出ようとする堀田たち。ダブダブのズボンをはいて、ニヤつく大チャンの足もとに不思議な液体が床を近づこうとしていた。スーッと動いていく液体。
 液体は、大チャンの足もとに着くや、そのズボンの中を上昇しはじめたのだ。苦悶の表情で絶叫する大チャン。
 悲鳴で駆けつける堀田たちは、ゼラチン状のようになり、服の中を崩れ去っていく大チャンを見た。
 そして、チョウスケもやられ、甲板に出ようとした宗チャンの身体にも上から液体がかかり、みるみる身体が不気味なゼラチン状の物質に液化していった。
 からくも船に戻る堀田と安吉。出迎える同僚は、そのふたりの恐怖の様子にただ驚くしかない。全員がその船を見た時、夜の闇の中に浮かぶ第二竜神丸の甲板に、操舵室に、不気味に青光りを発する海坊主のような、まるで幽霊としかいいようのない姿を見た。それは、さながら二十世紀によみがえった幽霊船のようであった。
 タイトル・バックに映っていた船は、このシーンの第二竜神丸だったのだ。

 はじめて映像で見せる人間消失だが、逆転撮影により服の中にしぼんでいく機構を入れた溶けていく描写、服の袖口からあふれ出るゼラチン状の物質、降ってくる液体など、カット割りと仕掛けで液体人間による人間消失を見せた。船の上に現れる液体人間は、合成で描かれ、その青白い光など、思わず幽霊船を実感させるイメージであった。
 日本に慌てて帰還した堀田たちだが、放射線障害で倒れ、城東大学病院に入院していた。
『人間が液体化する……』。とても信じられない様子の富永をともない、病院を出た政田は、別棟にある“真木生物化学教室実験所”で、一匹のガマガエルを円筒型のケースの中に入れ、実験を試みた。多量の放射線を浴びたガマガエルは、やがて、ゼラチン状の半透明の物質になり、不気味に動きはじめた……。
 数日後、第二竜神丸の浮標が永代橋付近で発見された。事態を重視した真木博士(千田是也)は、職員一同を集め、研究を重ねる。政田を研究所に訪ねた千加子は、人が溶けて死んだ事実を公表しない科学者たちに激しく抗議するのだった。
 やがて、真木博士の代理として捜査本部を訪れた政田と千加子は、三崎と西山の消失も竜神丸事件と密接な関係がある、と主張、“液体人間”の仕業だ、と発言した。
 最近、“ホムラ”に不審な男たちが出入りし、ボーイの島崎(桐野洋雄)が連絡を取り、何かを進めているという千加子の情報に、捜査本部は、刑事と武装警官を配置し、“ホムラ”を包囲する。
 岸(三島耕)をはじめ、仲間が次々と逮捕されていくのを見た島崎と内田(佐藤允)は、逃げようと急ぐが、その時、窓から不気味な液体が部屋へと侵入するのを発見した。液体は、何ごとかと見守る島崎や内田、そして、ダンサーのエミー(園田あゆみ)の眼前で、人間の形となり、島崎とエミーに襲いかかった。
 このシーンと、続く廊下での坂田刑事が襲われるシーンが合成で、圧巻ともいうべき液体人間のイメージを作りあげた。坂田刑事が液体化するシーンは、田島義文に似せた人形を作り、合成の中、しぼんでいくところを見せており、乱射する鏡とともに、サスペンスを盛りあげていた。ダンサーがブラジャーとパンティを残し、消えてしまうなどは、まさにブラック・ユーモアである。

 液体人間による坂田刑事襲撃の場面を見た捜査陣は、早速、科学者たちと合同会議を開き、特別火焰放射器による液体人間撲滅作戦の実行を計画した。
 内田は、服だけ残して消えており、液体人間の仕業と考えられたが、実は偽装であった。内田は巧みな変装で政田の使いと偽り、千加子をアパートから連れ出した。内田の偽装に気づいた政田は、アパートから走り去る千加子の乗る車に驚き、後を追う。しかし、素人の悲しさ、内田にまんまとまかれてしまった。
 内田は、三崎と共謀して隠していた麻薬を取り出そうと、千加子を脅して、下水道を進んでいた。捜査陣が付近を包囲したことに気づいた内田は、液体人間にやられたと見せかけるため、千加子の上着を剥ぎ、下水道に流し、追っ手の目をくらまそうとする----
 対策本部の火焰放射部隊、消火部隊の布陣は完了、ついに、攻撃が開始される。マンホールの中の下水道に入った部隊が次々と下水道を炎に包んでいった。
 そのころ、下水の出口から千加子の服が出てきたのを見た政田は、下水道へ入っていき、千加子を助けようとする----
 下水道の中を進む下着姿の千加子、そして、内田。ところが、内田は、頭上にはいあがり、舞い降りた液体人間に包まれ、ドロドロと崩れ去っていった……。
 千加子は、政田に救出された。
 液体人間は、マンホールの中の下水道を逃げまわるが、執拗な火炎攻撃に、悲しくむせぶように動きながら立ち尽くし、炎の中に包まれていくのであった……。
 街は、下水道からあふれ出る炎で、一帯が炎に包まれようとしていた。この周辺一帯の全滅を考えに入れても、液体人間は抹殺せねばならなかったのだ。作画合成も交え、真っ赤に燃える川に包まれた東京が美しい……。
 被るナレーション。
「東京に現れた液体人間は絶滅した。しかし、地球が原水爆の死の灰におおわれ、人類が全滅した時、地球を支配するのは液体人間なのかもしれない……」

 この作品では、円谷特撮は、本編の本多演出のバックアップにまわっており、特撮シーンの数も少なく、本多監督作品の印象がすこぶる強い。
 液体人間という特殊なイメージゆえに、特撮を使ったという感じで、のちの『電送人間』、『ガス人間第一号』、『マタンゴ』(63/監督:本多猪四郎)の先鞭をつけた作品であった。

初出 実業之日本社『円谷英二の映像世界』(竹内博、山本眞吾・編)円谷英二主要作品解説 昭和581983)年12月刊行】