血湧き肉躍る特撮とドラマの結婚 それが「ウルトラ」シリーズの魅力だ

怪獣評論家
池田憲章

『ウルトラQ』(66)が始まるまでの日本の子供向けSFテレビには、大別してふたつのジャンルが確立されていた。『スーパーマン』(52)の影響で生まれた『月光仮面』(58)や『遊星王子』(58)、『ナショナルキッド』(60)などのSFヒーローの実写ヒーロー活躍ものと、『鉄腕アトム』(63)、『鉄人28号』(63)、『エイトマン』(63)を御三家とするSFアニメのふたつである。
 そこに『ウルトラQ』は、特撮を駆使したドラマSFともいうべきジャンルを築いたのだ。この方向は、『ウルトラマン』(66)、『ウルトラセブン』(67)へも受け継がれ、これらの番組は、ヒーロー活劇の要素を組み入れながらも、特撮とドラマという2点に力を注ぐことによって、単なるヒーロー活劇とは、一線を画してきたのである。
 そして、『怪奇大作戦』(68)を得て、特撮ドラマSFは、ついにその地位を不動のものとする。ここで日本SFテレビは、実写ヒーロー活劇、SFアニメ、特撮ドラマSFの三つどもえの展開を始めるに至ったのだ。
『ウルトラQ』から『怪奇大作戦』までの番組を並べてみると、これら特撮ドラマSFのジャンルを確立したスタッフの才能と努力が並々ならぬことがよくわかる。

★『ウルトラQ』(昭和4112日〜73日)
 読み切りのSF短編集の性格を持つシリーズで、現代を舞台に、東京上空の四次元ゾーンに落ち込む超音速旅客機(『206便消滅す』)、東京に出現する古代の吸血植物(『マンモスフラワー』)、人生に絶望した人を別世界へと運ぶ異次元列車(『あけてくれ!』)、お金のことばかり考えている子供が変身したコイン怪獣・カネゴン(『カネゴンの繭』)、時を超えて出現する怪鳥・ラルゲユウスと少年の友情(『鳥を見た』)等々、現在でも十分魅力あふれるストーリーに満ち、ゴジラやラドンといったイメージしかなかった日本の怪獣ドラマの面目を一新した。
 モノクロの画面ながら、合成を多用する特撮イメージも新鮮で、特撮と物語の有機的なつながりは、特撮テレビの新時代への幕開けであった。

★『ウルトラマン』(昭和41717日〜昭和4249日)
 前作『ウルトラQ』に、“ウルトラマン”という巨大ヒーローと科学特捜隊という新要素を加えたシリーズで、カラー化、活劇化の傾向が入り、ウルトラマンと戦う怪獣というキャラクター自体が前作以上に作品の中で強く打ち出されている。
 身長40メートルの巨大な宇宙人が地球の平和を守るため、地球人・ハヤタと一心同体になり、危機となるや、元の宇宙人に変身するという特撮イメージは、その変身シーンやスペシウム光線などと共に見る子供たちを圧倒した。バルタン星人、アントラー、レッドキング、ゴモラと個性的でパワフルな怪獣がこのシリーズで最大の魅力だ。

★『ウルトラセブン』(昭和42101日〜昭和4398日)
 前作の『ウルトラマン』をよりSF的にパワーアップしたシリーズで、宇宙人の侵略と戦うM78星雲人・ウルトラセブンと地球防衛軍の精鋭・ウルトラ警備隊の活躍を描いている。
 ドラマも『ウルトラマン』に比べ、よりハードになり、青春もののムードに始まって、痛烈な社会風刺、壮絶な人間のドラマも続出した。地球防衛軍という全地球的な設定を脚本と演出、特撮の工夫でかろうじて使い切った、世界でも希有な快作である。冬木透のしゃれた音楽も印象的だ。

★『怪奇大作戦』(昭和43915日〜昭和4439日)
 あらゆる科学犯罪や難事件に、科学捜査で挑む“SRI(科学捜査研究所)”の活躍を描く犯罪科学ドラマ。『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』という特撮巨大ヒーローから円谷プロが大きく製作方針を転じたストーリーだった。特撮を駆使した新しい人間ドラマの創出だった。

『怪奇大作戦』は、人間たちによる人間社会のアンバランス・ゾーンを扱った物語だ。ここにはもう怪獣も宇宙人もいない。いるのは人間だけだ。人間の心が生み悲しいまでに人間的な物語が語り続けられた。
 犯罪、それは人間の欲望が、悪意が、怒りが、狂気が、弱さが、悲しさが、憎しみが生み出すものである。それをより的確に結晶させるために、SFと特撮が使われていた。特撮と人間ドラマの密度という点で、円谷プロのドラマ作品の頂点ともいうべき作品だ。
 これらの作品群を支えたのが、脚本の金城哲夫、山田正弘、上原正三、佐々木守、市川森一、石堂淑朗等々、それにTBS畑の演出家、円谷一、中川晴之助、飯島敏宏、実相寺昭雄、樋口祐三、東宝畑の梶田興治、野長瀬三摩地、長野卓、円谷プロの満田かずほ、鈴木俊継らのスタッフだった。
 彼らは、子供向けドラマとはいえ決して人間のドラマをおろそかにはしなかった。ある意味では、特撮の映像イメージと人間ドラマのドラマイメージが、これほど両者共にパワーを持って展開された作品は、ほかになかった、と言ってよい。
 特撮テレビにだって、やはり人間のドラマが大切なんだ、一本の映画なんだ、と改めて痛感させられたものである。

初出「月刊angle主催「ウルトラフェスティバルVol.2」パンフレット(1983719日、四谷公会堂)】
*満田監督の名前は正しくは禾に斉