キッチュ爆発!! 日本の怪談映画祭に注目せよ!

 東京の渋谷で、毎年、秋に開催される“東京ファンタスティック映画祭”も第4回を迎え、今年も『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(87/監督:チン・シウトン)、『ヒドゥン』(87/監督:ジャック・ショルダー)、『ビートルジュース』(88/監督:ティム・バートン)と、見ごたえのある新作があり、SF映画、特撮ファン注目のイベントとなっている。
 どっこい、渋谷ばかりがファンタスティックじゃないのよ……というのが、横浜西口名画座(相鉄横浜駅改札前)で、この8811月から894月まで繰り広げられる“イタリアン・ファンタスティック・フィルムコレクション パート1。ランベルト・バーヴァとその仲間たち”と日本の特撮、SF、怪獣、怪談映画大集合の“ジャパニーズ・ファンタスティック・フィルムコレクション(仮題)”なのである。
 先行してはじまるのは、イタリア作品のほうで、121日〜3日『キャロルは真夜中に殺される』(86)、128日〜10日『暗闇の殺意』(83)、1215日〜17日『デモンズ2』(86)、1222日〜24日『オグル』(88)、1229日〜31日『アンティル・ディス』(88)と、年内は、ランベルト・バーヴァ監督のスプラッタ・ホラー作品を上映。『アンティル・ディス』はその中でも、不倫の末に夫を殺害して埋めてしまった妻と間男に復讐すべく地獄からよみがえった夫の復讐を描くスプラッタ・ホラーで、『デモンズ』で知られるハーヴァの総決算ともいうべき最新作だ。来年度には、ダリオ・アルジェントと並ぶイタリア・ホラーの雄ルチオ・フルチ監督の『ザ・サイキック』(77)、『サンゲリア(完全版)』(79)、『地獄の門』(80)や80年代の新作ホラーを上映する予定だ。詳しくは『ぴあ』や『シティロード』など、情報誌を参考にして下さい。
 ファン必見なのは、来年1月から開始される日本作品のオールナイト連続プログラムで、東宝の「ゴジラ」シリーズやSF映画、『白夫人の妖恋』(56/監督:豊田四郎、特技監督:円谷英二)や『大盗賊』(63/監督:谷口千吉、特技監督:円谷英二)のファンタジー映画から、新東宝の『亡霊怪猫屋敷』(58)、『憲兵と幽霊』(58)、『東海道四谷怪談』(59)、『地獄』(60)と、中川信夫監督ほかの怪談映画も勢揃い、大映の『虹男』(監督:牛原虚彦、音楽:伊福部昭の怪奇犯罪作品。円谷英二の特撮もあるぞ)や珍しい怪談作品、松竹の『吸血髑髏船』(68/監督:松野宏軌)、東映の『怪談せむし男』(65/監督:佐藤肇)、『黄金バット』(66/佐藤肇)……と揃えも揃えたり、もう幻に近い大蔵映画の『生首痴情事件』(67/監督:小川欽也)、『怪談バラバラ幽霊』(68/監督:小川欽也、扉ページに載せたやつ)や怪談映画も見つけて上映する、という凝りようである(大蔵映画の作品は、ネガもなく、これが最後の上映と思われる)。まだ、日程が決まっていないのが残念だが、ぜひ情報誌で確認して行ってほしい。
 上映作品の選定で、企画に参加したのが『帝都物語』(監督:実相寺昭雄)や『妖怪天国』(監督:手塚眞)、『異人たちの夏』(監督:大林宣彦)と、スペシャル・メイクで日本映画に活躍中の原口智生さんだ。今回の見どころを語ってもらおう。
「滅多に映画館で見られない日本のファンタスティック映画を特撮や怪談だけに限らず、ホラーを中心に集めました。日本の映画が何でも企画し、作れた時代の作品ばかりです。その映画的な豊かさと楽しさを思い切り堪能してほしいと思ってます。大映の『虹男』や東映の怪談もの、大蔵映画の作品は、この企画のために倉庫から探し出してもらった映画で、10年近く関東ではやっていない作品ばかりです。プリントも破損しているし、ネガさえ残っていない作品もありますし、これがフィルムで見られるラスト・チャンスという作品もあります。ぜひ見てほしいです」
----その作品たちの魅力は何ですか?
「昔は、新東宝の映画が持ってる、どこかいかがわしいイメージにひかれたんですが、よく見ると、一本、一本がシックで、企画も大胆だし、映画らしいムードにあふれている。中川信夫の作品なんか、ダリオ・アルジェントやルチオ・フルチにも通じる艶やかさがあって、遜色を感じないんです。日本の怪談映画や怪奇映画は、技術的にも今の目から見たってあなどれないですよ。特殊メイクの目で見ても、優れた技術が多いですね。こういう作品を見て、日本映画の企画の幅を広げたいんです。原作がなくても、怪談、そして、ホラーというだけで、さまざまな内容の作品を作っています。イタリアやアメリカの今の作品も同じですよ。中川信夫の『女吸血鬼』(59)なんて、天知茂の演じている吸血鬼は、天草四郎の子孫で、満月の光を浴びると、吸血鬼になってしまう破天荒さ、ああいう作り手のイメージの広げ方にひかれるんですね。特殊メイクだけじゃない、役者の演技で見せるドラマティックな怪奇ストーリーの魅力もぜひ見直してほしいんです」
 原口智生さんは、今、ビデオ用にスペシャル・メイクをふんだんに使った現代を舞台にした怪奇スリラー作品を準備中で、自ら脚本、監督を手がける予定という。スプラッタ一辺倒ではない、情感があふれる中川信夫のラインを再生しようとする映像企画だ。
 日本ファンタスティック映画の精髄をここに結集する891月〜4月の横浜西口名画座のイベントにご注目あれ!

初出 徳間書店『SFadventure』1989年1月号〜今月のチューザー】