今、夢からさめる宇宙人!! 楽しや、林海象のプロモ映像
この連載でも扱ったことがある『夢みるように眠りたい』(86)を作った林海象監督が、特撮を使ったプロモーション・フィルムを撮影するので、取材がてら遊びにきませんか……と、『夢みるように眠りたい』と『星空のむこうの国』(86/監督:小中和哉)のプロデューサーである一瀬隆重さんから電話でお誘いがあった。
ヴェネチア映画祭やニューヨーク映画祭と、『夢みる----』を持って、精力的に出席していた林監督のお話も聞きたかったし、ふたつ返事でいくことを決めた。
そんなわけで、10月末日、東京の調布にある日活撮影所にやってきたのである。
入り口で聞くと、林監督の組は、奥のほうにある11番ステージで撮影している、という。
ブラブラ歩いていると、どこの撮影所でも同じだが、大道具が道の両脇に立てかけられ、木工の美術スタッフがどこかのセットらしい材木を削りだしている。映画というのは、本当に大工仕事のようなものだ。
フッと見ると、隣の10番ステージでは、日本とアメリカの合作ビデオ特撮のTVシリーズ『PHOTON』の撮影をやっていた。
強大なエネルギーを持つ“フォトン・ストーン”を巡り、宇宙をまたにかけて、正義と悪の戦士が戦うストーリーなのだが、実は、このシリーズ、最初のシノプシス作りで参加していたこともあって、もう20話以上を撮影したという話にビックリ。いや〜、世間というのは狭いモンデス。
11番ステージ----脇のスタッフ用の扉からステージに入ると、高い天井の下、200坪近いステージの中央に、管制センターのようなセットが作られている。
一瀬プロデューサーと林監督にあいさつをして、今回のプロモーション・フィルムのあらましを聞いた。
‘85年のCBSソニー・オーディションで、優秀賞を受賞し、CBSソニーから’87年2月1日にファースト・アルバム『Timeless Garden』でデビューするロック・グループ“千年COMETS”(リード・ボーカル・高鍋千年〔ちとし〕)のプロモーション・フィルムで、デビュー・アルバムの一曲『Lonely Dancer』を中に織り込み、コンサートで上映、あるいは、プロモーションでTVに流したりと、そういう形で使われるフィルムという。
構成と演出、編集が林海象監督で、“誕生”のイメージで、ある惑星に何百年も放置されている管制センター……ホコリがうず高く積もるその中には、もう化石となった象のような顔と皮フを持つ宇宙人の姿があった。
電子双眼鏡(エレクトロ・アイ)を手に、管制パネルの前にうずくまっている、何かを待ち続けていたのか。
雷鳴がなり、閃光がひらめく中、宇宙人の体に異変が起こる……長い眠りから覚める日がついに! 手が震えるように動き出し、双眼鏡が目にささり、体から蒸気が噴き出す。
背中が割れ、羊水の中からメタモルフォーゼして、誕生する新しい生命----それが高鍋千年……噴きあがる水流の中、宇宙人の背から孵化するその姿……という内容である。
撮影は、滝田洋二郎監督と長年コンビを組み、『歌姫魔界へ行く』(80/監督:長嶺高文)など、特撮も得意の志賀葉一キャメラマン、照明は、『ロケーション』(84/監督:森崎東)、『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(85/監督:森崎東)、そして、『夢みるように眠りたい』の長田達也照明監督、美術は、来年春にクランク・インする予定の『悪霊(サイキック)』という黒沢清監督の新作で、オカルトと悪霊の悪夢を存分に見せてくれるはずの丸山裕司美術監督と、劇場映画なみのスタッフである。
象のような不気味な顔の宇宙人は、『ウルトラマンタロウ』(73/TBS)や『ウルトラマンレオ』(74/TBS)の合成作画、『ザ☆ウルトラマン』(79/TBS)の怪獣デザインを担当していたデザイナーの鯨井実さんが特殊造型。元FUN HOUSEのメンバーだった市川英典さんや岡部純也さんなど、ガラパゴスの若手特殊造型のメンバーが手伝いをして、FRPとラテックス型の2メートル近い迫力のある造型となった。
背中から噴き出す蒸気は、フレオン・ガス。双眼鏡の顔に刺さる神経端末は、形状記憶合金で作ってあって、電流を流すと熱で、形が戻ってウネウネと動くという凝りようだ。
朝9時から始まった撮影は、何と翌朝の9時まで、24時間ぶっ通しである。いくつかの休憩は挟むものの、食事が3回あっただけで、エネルギッシュに準備とリハーサル、撮影が続いていく。
「いや〜っ、実写の人はタフですねぇ!」
一緒に撮影を見にいったスタジオ・ぱっくのわたなべぢゅんいちさんもビックリしていた。『戦え!!イクサー1』(85)のモンスター・デザインをやったわたなべさんは、怪獣・特殊メイクのファンで、アニメと違う撮影がおもしろかったらしく、最後まで一晩中つきあって撮影を見ていた。
割れた背から生まれるシーンは、深い水の中から生まれてくるイメージで、実は、前日、プールの上に橋げたを組み、水面の上に宇宙人の割れた背を固定し、高鍋さんを3メートル潜らせ、水中から浮かびあがってくる彼を背の割れ目越しに上からカメラで撮影する、という方法をとった。
「これが、うまくいかずに、高鍋くんが出口に出れずに、ゴチンとまわりにぶつかってしまうんだ。浮かぶうちに動くんだね、体が」
こういう林監督のイメージは、実にイマジネイティブでおもしろい。
最後の撮影カットは、背の割れ目を上から下に向けて固定し、割れ目にビニールをはり、そこに水を貯め、高鍋さんの顔を水に漬かせて、歌いながら顔でビニールを破る。それを下から真上にカメラを向け、前にガラス板を置いて落ちる水を防ぎ、撮影するというカットで、カッパを着けた監督、キャメラマンがガラスの下で見あげ、背の羊水を突き破るというすさまじい映像に挑んだ。
最終カットが終わって、巻き起こった拍手の気持ちがとても快かった。頭にゼラチンを塗り、生まれたばかりのイメージで何時間も耐え、水濡れになった高鍋さんの熱演も忘れられない。結局、昼の1時から翌朝の9時まで、撮影におつき合いさせてもらったわけだ。
モノクロ、35ミリで撮影され、仕上がりは3分間。光と影が生み出すモノクロ映像の魅力は、完成フィルムを見たが、林監督らしい夢幻的で、新しい世界を生み出していた。
この作品は’87年1月2日〜15日、東京の池袋文芸坐ル・ピリエで、再公開される『夢みるように眠りたい』と併映される。ぜひ、このパワフルな映像に出会ってみて下サイ!
【初出 角川書店『月刊ニュータイプ』 昭和62(1987)年1月号】