『星空のむこうの国』メイキング

「SFXには使われたくない」
自分のイメージ通りにSFX映像を作り出し
愛すべき16m/m映画となった小中和哉監督作品


 物語は、星空をバックに眼をうるませてこちらを見つめる少女の映像からはじまる。
『また、同じ夢だ……また、あの知らない女の子が僕のことを見ている……でもどうしてあんなに哀しそうな顔をしているんだろう……』と、つぶやく主人公のモノローグ。
『星空のむこうの国』(86)というタイトル(繊細なピアノのメロディが美しい)。
 目を開ける昭雄----
 高校生の昭雄は、一週間前の交通事故でかすり傷を負って以来、いつも同じ夢を見た。星空をバックに哀しそうに彼を見つめる美少女の夢だ。ところが、昭雄は、彼女を全く知らない。
 やがて、昭雄は、現実そっくりのパラレル・ワールドの世界へとはじき飛ばされる。そこは、一週間前の交通事故で、昭雄が死んだ世界だった。
 夢の少女は、死んだ昭雄の恋人・理沙であった。理沙は、死んだ昭雄とシリウス流星群を見にいく約束をしていた。重い病気であまり余命が残っていない理沙----彼女の想いが昭雄を呼んだのか!? 昭雄は、事情を知った親友・尾崎の力を借りて、約束を果たそうと理紗を病院からつれ出した。満天の星空を流れるシリウス流星群を海岸で見つめるふたり----理紗と昭雄の運命は!?
 前回、紹介した『星空のむこうの国』(製作:文芸坐+パラレル・ワールド)のストーリーだが、メイキングをわかりやすくするため、ほとんどくり返してしまった。ご了承ください。
 今回は、この『星空のむこうの国』のメイキングを中心に、フィルム・クリエイターのイメージがどう画面に定着していくかを見てみよう。
『星空のむこうの国』の22歳の小中和哉監督の話もできるだけ織り込んでいくつもりだ。
 この『星空のむこうの国』は、全620カットの映画だが(絵コンテでは、690カットあった。もちろん、絵コンテは小中監督自身による)、特撮以上に、入念な画面設計によるドラマ部分がおもしろく、「会話シーンが多いので、単調にならないよう、構図と撮影に工夫した」と、小中監督はいうのだが、すばらしい成果を見せた。
 上の絵コンテを見ると、昭雄と尾崎の電話シーンのカット割り、シリウス流星群を見るクライマックス・シーンがおわかりいただけるだろうか。特に、流星群を見るシーンでは、上から2コマ目の「キレイ!」といって、振り向く理紗の後、同じ振り向く動作を3回オーバーラップでつなぎ、さらに、それを見る昭雄の驚き(ズームすることで、昭雄の心に近づく)。次の理紗のアップと星空バックからの理紗の顔への移動車でのアップ(このカットの移動は、星空を動かさぬため、理紗のほうを移動車でカメラに近づけている)。この理紗は、ファースト・ショット夢の理紗と同じ構図で、テーマ的に対称する。そして、流星を見ながら、星に願いをかける理紗。ここは、ふたりの肩ごしに流れる星が見える構図と海岸の全景シーン、ふたりのバストアップの3ポジションをくり返しているだけで、カメラはふたりの気持ちをしっかりととらえていく……。
 奇をてらうカット割りでなく、いかにキャラクターの心情をつかまえようとする撮り方がわかるだろう。
 流れ作業ではなく、手作りで生まれる画面作りがここにある。この作品ほど、会話シーンに工夫を凝らした撮影を見せた作品は珍しいのではないか。そして、アクション・シーンになると、さらにおもしろくなるのだ。

イメージにあわせた
映画機材作りから

自転車によるカーチェイス
異様なオーバーラップ
まわり込みと、多彩な映像

「特殊機材の河村豊さんとよく話すんですが、日本映画って移動効果にしろ、特撮にしろ、まず機材があって、それができることから考えていくみたいなところがあるでしょう。本来はそうではなくて、まず最初にイメージがあって、それが従来の機材で撮れないものだったら、機材を作るというところからはじめないとだめだと思うんです。むこう(外国)の特撮なんか、そのショット専用のカメラを作るところからやっちゃうでしょ」
 小中監督はこういうのだが、事実、実にさまざまな映画機材がこの『星空のむこうの国』の撮影のために作られた。16ミリ用のオプチカル・プリンター、ミニ・クレーン、大クレーン、車のバンパーにカメラを固定して取りつける装置……しかも、そのひとつひとつが狙っている画面のイメージを生むために必要だったものばかりなのだ。
 例えば、途中、昭雄が自転車で理紗を無理やり乗せ、走り去る自動車を追いかけるカーチェイス・シーンがある。昭雄の自転車の前後で、低ポジションで全力でこぐ昭雄を撮る追跡シーン。あるいは、昭雄の自転車の主観シーンがあって、低ポジションで道路をなめ、長回しで坂を降りるシーンは、まるで自分が自転車になって車を追いかけているような迫力を生んでいた。
 車のバンパーにカメラを取りつけていたわけで、このカーチェイス・シーンは見ごたえも満点だった。マンホールのふたを取り、カメラを中に入れ、車が上を通過するシーンも出てくる。
 なぜ自転車にしたのかという質問に、小中監督は、こう答えてくれた。「走ってでは嘘だし、バイクではつまらない。がんばって体力で、自分の足で女の子を取り返してほしかった。宮崎駿さんの『未来少年コナン』(78)みたいにね」
 ロケを道路が広く、見通しのきく成城学園でやったのも成功の原因だと思う。
 昭雄がパラレル・ワールドへ飛ばされる前兆になる少女のついていたマリが昭雄の体をつき抜けるシーンは、ミニ・クレーンにモーターをつけ、カメラを移動できるようにして、ミニ・クレーンを横にして、昭雄がいるシーンといないシーンをモーション・コントロールでカメラを2回同じ動きでくり返し、この異様なオーバーラップ・シーンを完成させた。
 昭雄と理紗を星空バックで回転させ、まわり込みシーンを撮ろうとして考えたのだが、左上のイラストの仕掛けだ。星空カーテンは、1m×5mの星空ホリゾントを10mのカーテンレールにつけたもの。さらに、このカットは、理紗のアップから昭雄こみのサイズまでトラックバックしてから回転をはじめるというコンテ(イメージ)であったため、回転台は移動車の上に乗せられ、カメラとホリゾントの間を移動する。回転と同時に星空も動かしていくわけで、このタイミングと照明の調整は大変だったという。16ミリとあなどれぬ多彩な映像イメージがこの作品の魅力なのだ。

初出『月刊スターログ』No.89 1986年3月号/日本特撮秘史----国産SF映画復興のために SFX GRAPHIC ALBUM 40】