アイドル映画の仮面を被りながら

的確に特殊メイクを使い
爆笑奇想天外映画になった
『ザ・サムライ』


『うる星やつら』実写版といった
スーパー・アクション・コメディー

『時をかける少女』(83/監督:大林宣彦)のヒット以来、オプチカル合成やスペシャル・メイクなどの特撮をダイナミックに盛り込んだアイドル映画&軽いタッチのSF映画は、不振の日本映画界の新しい突破口になった感もあり、『愛情物語』(84/監督:角川春樹)、『星くず兄弟の伝説』(85/監督:手塚眞)、『CHECKERS IN TAN TAN たぬき』(85/監督:川島透)、『みんなあげちゃう』(85/監督:金子修介)、『テラ戦士ΨBOY』(85/監督:石山昭信)、『星空のむこうの国』(85/監督:小中和哉)、『グリーンレクイエム』(85/監督:今関あきよし)……と力作が続き、日本特撮の新しい可能性、方向性をその中で存分に見せてくれた。
 最近思うのは、日本のSF&特撮映画を再生させるには、『さよならジュピター』(84/総監督:小松左京、監督:橋本幸治、特技監督:川北紘一)や新作『ゴジラ』(84/監督:橋本幸治、特技監督:中野昭慶)』という特撮を中心とする大作の特撮映画だけではなく、特撮を劇の効果的手段として、一部に的確に使う『時をかける少女』のような映画の両輪が揃って、初めて可能になるのでは……ということだ。
 そうやって映画的なグレードの高い作品を1本、1本作っていくしか打開する方法はない、と思うのである。
 アイドル映画に特撮をうまく使うと、どれだけおもしろくなるか----最新作でそれを実証してくれたのが、コミック的表現に特撮を駆使した『ザ・サムライ』(鈴木則文監督・製作作品)である。この421日に、東映ビデオからビデオも発売されるので、そのガイドもかね、この軽快な特撮コメディーについて触れてみよう。
 原作は、『週刊ヤングジャンプ』(集英社刊)に現在も連載中の春日光広の人気マンガ。
 内容はというと……嵐山高校3年A組の17歳の血祭武士(中村繁之)は、剣豪の荒木叉右衛門を崇拝し、日本刀を腰に袴姿で登校する、正義感に燃える超アナクロのサムライ高校生である。
 彼は女性の裸を見ると、鼻血を出して失神するという女性アレルギーの弱点、失態を犯すと、すぐ切腹しようとする奇癖、ホッペタを両脇に伸ばしたり、マブタにハシを入れて伸ばす特技を持つまことに困った主人公。その武士が、嵐山高校を舞台に、肌もあらわなセクシー麻矢を用心棒にする番長たちや銀行ギャングと戦ったり、学校のマドンナ・敦子(松本典子)をめぐり、日本有数の財閥南藩コンツェルンの孫で、長い留学からVTOL機・ハリヤーで帰ってきた転校生・南藩都来(大沢樹生)の科学力と恋のライバル戦……と、まるで『うる星やつら』の実写版というスーパー・アクション・コメディーなのだ。実物大のハリヤーから3m大の茶運び人形とスーパーメカも続出する!

特殊メイク+メカニカルはFUN HOUSE
鈴木監督の具体的なイメージにあわせて
3種類のメイクを制作。ビデオで確認を!

スタッフのノリとそのイメージの
楽しさで見るタイプの映画なのだ

 今年の1月号で触れた通り、『ザ・ザムライ』の特殊メイクを担当したのは、『星くず兄弟の伝説』で、約40種類の特殊メイクを制作した原口智生さん代表の特殊メイクのアーティスト工房“FUN HOUSE”であった。
 今回は、原口さんは特殊メイク全体の監修にまわり、実際に特殊メイクの制作にあたったのは、メカニカルな仕掛けが得意の市川英典さんである。
 市川さんは、およそ3つの特殊メイクを制作した。1割りバシをマブタに突っ込んで、グーンとマブタを伸ばす特殊メイク、2口を両脇にビローンと広げる特殊メイク、3鼻の両方の穴から鼻血が飛び出てくるのを正面からとらえる特殊メイクの3つである。
 原口さんは、鈴木監督の狙いと制作姿勢をこう語ってくれた。
「鈴木監督は、やっぱり鼻血が出るとか、口が広がるとか、マブタが伸びるのは、一応、『ザ・サムライ』というマンガの原作を映画にしている以上、最低限そういう絵がないといけないというそういう部分で要求されたんです。
 非常に具体的な指示で、とてもやりやすい仕事になりました」
 具体的なテクニックについても、少し詳しく聞いてみよう。原口さんの話は続く。
「マブタに割りバシを突っ込んでビローッと伸ばしながら、首が前に出てくるシーンは、ダミーヘッドで、マブタは別パーツで作って中に入っているのを引っぱり出すようにしています。そのマブタの素材なんですが、『狼男アメリカン』(81/監督:ジョン・ランディス)では、“ウレタン・イラストマー724”という伸びのある素材を使ったという話があって、その素材も考えに入れて市川が選んだのが、スムースワンという“スムーザン・ラバー”といわれている素材です。これは、もともと遺跡や石仏の型取りに使う素材なんですけどね。なぜ、ダミーヘッドにしているかというと、マンガの中のそのシーンを見ると、首も前に出て、顔も目もデフォルメされているためで、それで市川は、首を前に出して、目玉も突き出る仕掛けにしたわけです。原作のイメージを考慮して、彼の設計でそうしたんです。
 口を横に広げるイメージは、それと違って、トム・サビーニがすでにやっていて、本に載ってるのを鈴木監督が知っていて、『これだ! これでいこう』という話で、そのイメージで作りました。香港映画の『ヤング・イリュージョン』という映画です。この映画のために、監督も勉強してたんですね。口を開けた形で、中の本物の歯は黒く塗って、上に平面的な歯をはりつけてあります。それを横に引っ張っているわけで、そう難しいメイクではありません。
 難しかったのは、鼻血を出すシーンでした。今まで真横の位置で、鼻の横にパイプをつけてごまかしていた。それをちゃんと鼻の穴から血を出したいという監督の注文で、上に皮フを1枚はって、ビニールチューブを鼻の穴に通して、注射器を押して鼻の穴から血を飛び出させるというイメージでした。ところが、この鼻のアプライアンスの素材が底をついて、スペアが作れなくて、肌のきわの処理もうまくいかなかったんです……ただ、実際の画面では、鈴木監督が最終的にハサミを入れて、タイミングと編集のうまさで、メイクと肌のつなぎがずいぶんわからなくなっています。現像の焼きを強くしたりと、気を遣って、ずいぶん助けてもらいました。
 今回、思い知った部分は、タイミングとか、つなぎとか、ちゃんと監督が料理すると、自分たちがマズかったかと思うシーンでも、生かしてもらえるということです。鈴木監督は、特殊メイクといってもどんどん意見を出してくれましたし、この仕事は、大変ノレてやれた仕事でした。またこんな仕事がしたいですね」
『ザ・サムライ』という映画は、原口智生さんがいうように、技術で見るタイプの映画ではなく、スタッフのノリとそのイメージの楽しさで見るタイプの映画なのだと思う。
 例えば、途中、突如、登場する菅原文太演じる謎の人物は、主人公を追いつめるヤクザ者を一掃して霧の中に消えていく……後に残された背広のネームを主人公が見ると“荒木又右衛門”(これじゃ、『空飛ぶモンティ・パイソン』(69)だよ!!)、学園祭で主人公が作ろうとする自主映画『からくり童子・欲情地獄変』に登場する3mの茶運び人形のスーパー・イメージ、鉄人28号みたいな木製のリモコンで操縦するからくり童子というお遊び精神……どこかに『オレたちひょうきん族』(81)の“タケチャンマン”に似た、オフザケを全力で映像化しようという、現代をターゲットにする映画屋根性が見えて、楽しい限りなのだ。正直、鈴木則文監督といえば、「トラック野郎」シリーズで知られる東映京都撮影所育ちのベテラン監督だが、時代劇シーンの異常なこりようや特撮感覚など、その飛びように驚かされた。ぜひ、ビデオでこの快作に出会ってくだサイ。

初出『月刊スターログ』No.91 1986年5月号/日本特撮秘史----国産SF映画復興のために SFX GRAPHIC ALBUM 42】